風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

中国における報道の自由

2020-12-12 20:33:15 | 時事放談
 共同通信によると、習近平国家主席は、2016年2月の国内報道関係者との会合で、西側メディアについて、イデオロギー的偏見に基づき中国の政治体制を攻撃しており、絶対的な「報道の自由」などというものは誤りだと激しく罵ったそうだ。なるほど、よく分かるが、あらためて驚かされる。具体的には、その会合で、西側メディアは、(1)他国のマイナス面、(2)スキャンダルや暴力、(3)針小棒大なニュース、ばかり報じている、と批判したそうだ。時事・AFPによると、昨日、ブルームバーグに勤務する中国人女性が、国家安全保障を危険にさらした疑いで中国当局に拘束されたそうだ。中国外務省は、「現在法に従って捜査、訴追を行っている」と言うが、中国では、外国の報道機関で中国人が記者として働くことが禁止しており、助手としての勤務は認めている、とは知らなった。
 確かにスキャンダラスな事件を針小棒大に報じるのは、自由な、と言うよりは、コマーシャリズムに毒された自由社会のメディアにとって、良し悪しは別にして、当然の行動である。他国のマイナス面ということでは、自らと異質であればあるほど取り沙汰すであろう(笑)。そして、西側の自由・民主主義社会にあっては、そのような報道は当たり前のこととして受け止め、対峙、否、マネージしなければならない。そこが、自由・民主主義社会の、短期的には不安定な、しかし長期的には安定した揺るぎない社会である所以のものと言えるだろう。そうじゃない、中国のような権威主義的な社会では、当然、そのような報道のあり方が許せないのは容易に想像できるし、同情する(笑)。
 中国は、日本国政府との会合でも、日本のメディア報道を政府が規制すべきだとぬけぬけと表明したことがあったと記憶する。以前からこのブログでも述べていることだが、中国と西側・自由主義社会との間に横たわる、所謂「認知のズレ」である。
 たとえば、南京「大」虐殺について、いつのまにか「大」まで付いてしまって(笑)、今ではその被害者総数30万人とも言われるが、もとは極東国際軍事裁判の過程で、唐突に(広島と長崎の原爆被害者総数に匹敵する)20万人の殺害があったとする証言が飛び出したことに端を発する。当時、南京には欧米の従軍記者がいて、そのような大規模な殺戮は報じられなかったにも関わらず、である。そもそも、城壁で囲まれた南京のような街を「大」虐殺するといった発想は、日本人にはい。日本には、中国やヨーロッパと違って、城壁で囲まれた街がないからだ。概ね単一民族とされる日本では、そこまで防御しなければならないほどの異民族の興亡を経験したことがないからだ。つまり、南京大虐殺は、中国人の認知の範囲内の、そしてヨーロッパ人には理解されやすいかも知れない、「妄想」の影響を受けているのではないか、ということだ。別にこれは私のオリジナリティではなく、かつて、ある学者さんの論文を読んで、なるほどと賛同したものだ。
 もう一つは、このブログでも紹介したことがある島田洋一教授のコラムにあったもので、ウィリアム・バーンズ元国務副長官の回顧録によれば、オバマ政権末期、米中戦略安保対話で、人民解放軍を含む中国共産党の組織的なサイバー産業スパイ活動を取り上げ、具体的な証拠を示しつつ、即座にやめるよう求めたところ、約7時間に及ぶ押し問答となって、結局、中国側は頑として証拠の認知を拒んで、バーンズ氏はその背後に「より広い意味の認知のズレ」を強く感じた、というものだ。そこで明らかになったのは、アメリカは、国家安全保障のためのスパイ行為と経済的優位を得るためのスパイ行為を峻別し、前者はプロの情報機関同士の日常業務であって、言わば「やられた方が悪い」と言うべき世界だが、後者は堅気に手を出す行為であって許されないとの立場だったのに対し、中国は、政治的であろうが経済的であろうが、政府とはあらゆる手段を用いて優位を築いていくもの、政府や党は法律外の存在、すなわちアウトローであって、その行動を縛る道徳やルールなどない世界だということだ。端的に言えば、中国とは、作為的なのかそうじゃないのかよく分からないが、公式には話が通じないのである。
 昨今の米中「新」冷戦は、1980年代後半の日米貿易摩擦に似て、アメリカのGDPの6割を超える競合国を牽制するという意味では似ているが、当時の日本と今の中国とでは、アメリカの認知レベルとの差があり過ぎることがネックになる。これは日本(概ね自由・民主主義)と中国(権威主義)の統治のありように起因する。
 アメリカで中国に対する脅威認識は、超党派で唯一纏まることが出来るテーマだと、冗談のように言われていて、トランプ大統領の功績は、そこで明確な姿勢を示したことにあると言われるが、新たに政権を担うとされるバイデン氏がどう対処されるのか、息子さんが中国と深く付き合っていると言われるだけに、注視されるところだ。余談ながら、トランプ氏は予測不可能と言われながら、ある意味で分かり易さがあったのに対し、バイデン氏は予測可能と言われながら、どうも信用し切れないところがあって、私は心穏やかになれない(笑)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする