風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

中国の認知のズレ

2020-05-23 22:07:44 | 時事放談
 前回、香港の話が出たついでに・・・中国で二ヶ月半遅れで始まった全人代で、香港版「国家安全法」導入に関する審議が行われ、イギリス・オーストラリア・カナダの外相が共同声明の形で、「一国二制度の原則を明らかに損なう」ことになると主張し、深い懸念を表明した(時事)。ウィグルでの人権侵害を非難すれば内政干渉だと言われかねないが、こと香港に関する限り条約があり、イギリスには口を挟む権利がある。
 またそのイギリスは、「Project Defend」なるものを発動し、コロナ禍でクローズアップされた必要不可欠な医療用品のほか、食料品以外の必需品の調達で特定の国(勿論、中国をイメージしているであろう)に依存しないよう供給網を多様化する計画だと報じられた(ロイター)。アメリカに続くもので、EUを離脱したイギリスはアメリカと歩調を合わせているやに見えるが、日本でも生産拠点の国内回帰に補助金をつけることが報じられ、中国の産業団体等から問合わせが相次いだと言われる、中国にとってはアキレス腱とも言える問題だ。
 ことほど左様に、自由・民主主義国とは相容れない中国の在り様が、これまでもそうだったが、コロナ禍という未曽有の危機の中で、様々なところで綻びを見せ始めているように見える。こうした中国の在り様の根源的な問題に関して、島田洋一教授が、ウィリアム・バーンズ元国務副長官の回顧録『裏交渉』(未邦訳)の興味深い一節を紹介されていた。

(前略) オバマ政権の末期、米側代表として米中「戦略安保対話」に臨んだバーンズは、人民解放軍を含む中共の組織的な「サイバー産業スパイ」活動を取り上げ、「具体的な証拠」を示しつつ、即座にやめるよう求めた。結果は、約7時間に及ぶ押し問答となったという。中共側は頑として証拠の認知を拒んだが、バーンズはその背後に「より広い意味の認知のズレ」を強く感じたという。米側は、「国家安全保障のためのスパイ行為と経済的優位を得るためのスパイ行為」を峻別し、前者はプロの情報機関同士の「日常業務」であり「やられた方が悪い」と言うべき世界だが、後者は「堅気に手を出す」行為であって許されないとの立場を強調した。ところが中共側の口ぶりには、「政治的であろうが経済的であろうが、政府とはあらゆる手段を用いて優位を築いていくもの」との姿勢がありありと窺えた。独裁政権の感覚では、「政府」と「民間」の区別などないし、政府や党は法律外の存在、すなわちアウトローであって、その行動を縛る道徳やルールなどないのである。したがって中共から見れば、外国の組織や個人は政府、民間を問わず、すべてスパイ行為の対象となる。また中国の組織や個人は、政府、民間を問わず、すべて国家情報活動の先兵として動かねばならない。サイバー分野以外でも、たとえば尖閣諸島を日本から奪取する作戦において、中国海軍と「漁船」は密接に連携してきた。両者の間に明確な線はなく、「海上民兵」が乗る「漁船」は軍の別動隊以外の何者でもない。(後略)

 長い引用となったが、これまでにも体制の違いとして論じられて来たところ、認知の問題とされたことに、私は思わずはたと膝を打った(笑)。本来、市場の自由競争に委ねられる資本主義が、中国にあっては国家資本主義と言われる所以であり、アメリカにとって、これは「unfair」として、彼らの重要な価値観に抵触する問題に違いない。根源的であり、中国共産党の統治が続く限り埋めることは出来そうにない、致命的な問題だ。
 中国人と個人ベースで会話する分には気にしなくて良いのだろうが、中国の公人と会話するときには留意しなければならない重要なポイントだろう。日本の外務省はその道のプロとしても、日本の政治家は果たして大丈夫か、ちょっと気になるところだ(苦笑)。
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