風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

アジア再び(2)機内にて続

2015-10-11 22:13:03 | たまに文学・歴史・芸術も
 今回の出張で移動に時間がかかることは分かっていたので、機内では不貞寝を決め込み、シンガポール~メルボルン間では昼間からアルコールをたっぷり仕込んで、子守唄代わりに映画を観始めたところ、つい惹き込まれて最後まで観切ってしまった。
 「駆込み女と駆出し男」という、今年5月に封切られた邦画だ(余談だが、最近、機内の食事は日本食を好むと昨日書いたが、映画も日本語が面倒臭くなくていい)。駆込み寺というテーマ性から、登場人物はワケありで、その人生模様が映画に深みを与えるのだが、さすがに井上ひさし氏の時代小説「東慶寺花だより」が原作とあって、実に面白い。さらに配役も素晴らしい。主演の大泉洋は、とぼけた味が売りだが、その笑いにはペーソスがあって心和ませる。寺に駆込む女性で、じょご役の戸田恵梨香は街娘の役を好演し、お吟役の満島ひかりには凄みがある。井上ひさし氏のセリフ回しの長さも感じさせないテンポの良さと、時に静寂があり、さらに映像が美しく仕上がって、是非、劇場で見たかったと思う。143分という長さを感じさせなかったが、さすがに機内で座り続けて10時間を越えるとお尻は痛い。
 観終わって、あらためてタイトルもお茶らけて見えるが秀逸と思った。以前、宣伝のPV等を見ると、如何にもドタバタ喜劇に思われたものだが、必ずしもそうではない。「夫側からの離縁状交付にのみ限定されていた江戸時代の離婚制度において」(Wikipedia、以下同)、縁切寺では「夫との離縁を望む妻が駆け込み、寺は夫に内済離縁(示談)を薦め、調停がうまく行かない場合は妻は寺入りとなり足掛け3年(実質満2年)経つと寺法にて離婚が成立する」という。実際のところ、「1866年(慶応2年)東慶寺では月に4件弱の駆込が行われ」、「大部分は寺の調停で内諾離婚になり寺入りせずに済」み、「寺入りする女は年に数件」だったという。この映画では、そんな寺入りする数少ないややこしい事案が取り上げられるわけだが、登場する女性たちは、勿論、無数の泣き寝入りする女性もいたであろう時代背景の中で、憐れむべき存在とは必ずしも捉えられず、苦悩を抱えつつも逞しく、そして美しい。主人公の信次郎は、女たちの聞き取り調査を行う御用宿・柏屋に居候する戯作者志望の医者見習いで、弱気の彼を奮い立たせるのも、やはり女性である。映画からも、そして原作者・井上ひさし氏からも、女性に対する暖かい眼差しを感じるのである。
コメント (2)
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