一昨日の日経朝刊に、シリコンバレーにあるパロアルト研究所CEO(スティーブ・フーバー氏)のインタビュー記事が出ていました。
情報機器の主役は、パソコンからスマートフォンやタブレットに代わり、更に3~6年後には腕時計型などウェアラブル端末が普及するとか、パソコンの時代には、ハードやソフトなど製品毎に製造メーカーが分担する形が効率的だったが、顧客にどんな体験をもたらすかが問われるようになり、ハード・ソフト一体の(もっと言うとハード・ソフトにとらわれない?)アップルが躍進したように、一時の成功者は後れをとり、再編に至るパターンが繰り返される、といったような、いわば当たり前の話から、ビッグ・データの影響は?と問われて、センサー搭載が進み、全てのモノが情報通信インフラの一部になる(「モノのインターネット」と呼ばれる環境)とか、コンピュータだけでなく現実世界から大量のデータが発生するため、自分の車が今どこにあるのかネットで調べるなど、情報に加えモノもググる(検索する)時代になる、などといった、なるほど捉え方がユニークで面白い形容だと思える話もあって、なかなか興味深いのですが、スティーブ・ジョッブズ氏が亡くなって2年になり、イノベーションの停滞はないか?と問われて、彼は驚くべきイノベーター(改革者)だが、その彼もシリコンバレーという生態系の産物であり、生態系からは絶えずイノベーターが誕生しており、革新ペースは落ちていない、と、「生態系」という譬えをしたところが印象的でした。
多かれ少なかれ街や地域社会も一種の「生態系」を成すと考えられますが、それが特徴的であり、しかも他に比べて突出(outstanding)していることが重要で、パロアルト研究所CEOが単に「生態系」と呼んだ中には、特徴的で突出した、といった意味合いを当然のように込めているものと思います。
かつて、「現代の二都物語」(初版1995年、新訳2009年、ディケンズではなくて、アナリ―・サクセニアンというカリフォルニア大学バークレー校教授の著作)で、1970年代に、汎用コンピュータより小型で部門コンピュータとも呼ばれたミニ・コンピュータを製造するDEC(ディジタル)やWangやDG(データゼネラル)などの企業を輩出し一世を風靡したマサチューセッツ州ボストンのルート128沿いの地域が、1980年代にパソコンが勃興するとともに廃れていき、新たに西海岸のシリコンバレーが脚光を浴びたことから、両地域の産業集積の違いを比較・分析し、経済地理学の一つの事例として論じられたことがありました。ルート128が、高度に垂直統合され、相互に閉鎖的ないくつかの企業から成り立っていたのに対し、シリコンバレーは、水平分業の企業群(クラスター)が集積し、これらが、西海岸という風土に似て、非公式でオープンなネットワークで繋がれ、開放的で流動性の高い労働市場を形成し、知識やノウハウが地域内で動き、言わば共有されるのが強みとなっている、というような話でした。
パロアルト研究所のCEOが生態系と形容したのは、まさにこうした特徴的で突出した地域特性のことで、レベルは違いますが、中国の沿海地域も、大小さまざまの部品産業が集積することによって生産・流通システムが確立し、人件費が多少高騰しても、世界の工場としての優位性がなかなか揺らぐことがないのは、こうしたクラスターによる強みのお陰だと言えるでしょう。
今や都市間のグローバルな競争が取り沙汰される時代で、益々、この著作の内容は産業政策として有益な内容をもつせいか、せいぜい2千円弱の初版(大前研一さん翻訳)は、一時期、中古本で1万円の値をつけて驚かされたことがありました。それほどの人気があってこそ新訳が出て、値崩れを起こしましたが、今またアマゾンでは、新訳の中古本の最低価格が5,472円、コレクター商品に至っては19,250円の値をつけて、再び驚かされます。20年近く前の著作ですが、今、思い返しても、実に現代的な意義があり、トヨタが企業レベルでカイゼンを血肉化したように、地域レベルでイノベーションを生態系として実現できるのか? 日本のアベノミクスで、果たしてこうした産業政策が活かされるか? 国民性や風土とも絡んでなかなか興味深いテーマです。
情報機器の主役は、パソコンからスマートフォンやタブレットに代わり、更に3~6年後には腕時計型などウェアラブル端末が普及するとか、パソコンの時代には、ハードやソフトなど製品毎に製造メーカーが分担する形が効率的だったが、顧客にどんな体験をもたらすかが問われるようになり、ハード・ソフト一体の(もっと言うとハード・ソフトにとらわれない?)アップルが躍進したように、一時の成功者は後れをとり、再編に至るパターンが繰り返される、といったような、いわば当たり前の話から、ビッグ・データの影響は?と問われて、センサー搭載が進み、全てのモノが情報通信インフラの一部になる(「モノのインターネット」と呼ばれる環境)とか、コンピュータだけでなく現実世界から大量のデータが発生するため、自分の車が今どこにあるのかネットで調べるなど、情報に加えモノもググる(検索する)時代になる、などといった、なるほど捉え方がユニークで面白い形容だと思える話もあって、なかなか興味深いのですが、スティーブ・ジョッブズ氏が亡くなって2年になり、イノベーションの停滞はないか?と問われて、彼は驚くべきイノベーター(改革者)だが、その彼もシリコンバレーという生態系の産物であり、生態系からは絶えずイノベーターが誕生しており、革新ペースは落ちていない、と、「生態系」という譬えをしたところが印象的でした。
多かれ少なかれ街や地域社会も一種の「生態系」を成すと考えられますが、それが特徴的であり、しかも他に比べて突出(outstanding)していることが重要で、パロアルト研究所CEOが単に「生態系」と呼んだ中には、特徴的で突出した、といった意味合いを当然のように込めているものと思います。
かつて、「現代の二都物語」(初版1995年、新訳2009年、ディケンズではなくて、アナリ―・サクセニアンというカリフォルニア大学バークレー校教授の著作)で、1970年代に、汎用コンピュータより小型で部門コンピュータとも呼ばれたミニ・コンピュータを製造するDEC(ディジタル)やWangやDG(データゼネラル)などの企業を輩出し一世を風靡したマサチューセッツ州ボストンのルート128沿いの地域が、1980年代にパソコンが勃興するとともに廃れていき、新たに西海岸のシリコンバレーが脚光を浴びたことから、両地域の産業集積の違いを比較・分析し、経済地理学の一つの事例として論じられたことがありました。ルート128が、高度に垂直統合され、相互に閉鎖的ないくつかの企業から成り立っていたのに対し、シリコンバレーは、水平分業の企業群(クラスター)が集積し、これらが、西海岸という風土に似て、非公式でオープンなネットワークで繋がれ、開放的で流動性の高い労働市場を形成し、知識やノウハウが地域内で動き、言わば共有されるのが強みとなっている、というような話でした。
パロアルト研究所のCEOが生態系と形容したのは、まさにこうした特徴的で突出した地域特性のことで、レベルは違いますが、中国の沿海地域も、大小さまざまの部品産業が集積することによって生産・流通システムが確立し、人件費が多少高騰しても、世界の工場としての優位性がなかなか揺らぐことがないのは、こうしたクラスターによる強みのお陰だと言えるでしょう。
今や都市間のグローバルな競争が取り沙汰される時代で、益々、この著作の内容は産業政策として有益な内容をもつせいか、せいぜい2千円弱の初版(大前研一さん翻訳)は、一時期、中古本で1万円の値をつけて驚かされたことがありました。それほどの人気があってこそ新訳が出て、値崩れを起こしましたが、今またアマゾンでは、新訳の中古本の最低価格が5,472円、コレクター商品に至っては19,250円の値をつけて、再び驚かされます。20年近く前の著作ですが、今、思い返しても、実に現代的な意義があり、トヨタが企業レベルでカイゼンを血肉化したように、地域レベルでイノベーションを生態系として実現できるのか? 日本のアベノミクスで、果たしてこうした産業政策が活かされるか? 国民性や風土とも絡んでなかなか興味深いテーマです。