風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

横綱という地位の不思議

2012-11-27 01:30:11 | スポーツ・芸能好き
 大相撲九州場所は、横綱・白鵬が順当に14勝を挙げ、九州場所6連覇となる4場所ぶり23度目の優勝を飾って幕を閉じました。九州場所で、5日間以上、大入りとなったのは、実に1997年以来15年振りだそうで、興行としてもまずまずの成功だったかのように報じられています。これは終盤の13日目が祝日だったほか、16場所ぶりに東西の横綱が揃ったことが寄与したと言われます。ところが、新横綱お披露目場所の初日に満員御礼が出なかったのは、日本相撲協会に正式な記録が残る1985年以降で初めてのことだそうで、決して相撲人気が回復しているわけではなさそうです。
 こうした言わば角界の停滞を象徴するのが、精彩を欠いて9勝に終わった新横綱・日馬富士の不甲斐なさでした。新横綱として5連敗を喫したのは、横綱が番付に載った1890年5月以降で史上初めての失態とされ、新横綱の10勝未満は、8勝7敗だった87年九州場所の大乃国以来25年振りのことだそうです。また、横綱としての5連敗も、99年秋の3代目若乃花以来13年振りで、一場所のワーストタイとなりました。
 早速、場所後の横綱審議委員会(横審)では、人間国宝で歌舞伎役者の沢村田之助委員こそ「初の横綱場所で、小さい体なのでしょうがない」とかばったそうですが、鶴田卓彦委員長は「二桁勝てないようでは横綱の資格がない。自覚を持ってほしい」と厳しく指摘し、「(昇進が)早かったのかもという気持ちもある。横綱に推薦したわれわれの責任かもしれない。期待に応えてくれなくて残念」とまで述べました。横審の内規では、成績不振の横綱に対し「激励、注意、引退勧告」が出来ると定められており、来場所も同様の成績だった場合の対応を問われた委員長はそれでも「次は頑張ってくれると期待している」とお茶を濁しましたが、今度は沢村委員の方が「横綱が一桁だったら、もう引退ですよ」と厳しい口調で奮起を促したと伝えられます。
 この横審の存在こそ、大相撲にユニークなもので、大相撲がスポーツや格闘技ではない所以のものだと思います。スポーツや格闘技であれば、今場所は調子が悪くても来場所に頑張ればいい、の一言で済む話ですが、そうならないのは、大相撲は「興行」するという言葉からも分かる通り芸能の一つだからであり、それ故に、その頂点に君臨するチャンピオンたる横綱には、単に勝てば良いだけでなく、勝ちっぷりが問題にされ、更には品格まで問われる役割を与えられているから、とは、以前にもブログに書きました。もともと「1950年1月場所、3日目までに、東冨士、照國、羽黒山の三横綱が途中休場したため横綱の格下げが論議され」たことをきっかけとし、「横綱の権威を保つためにも、横綱免許の家元である吉田司家ではなく、相撲に造詣が深い有識者によって横綱を推薦してもらう」(いずれも、Wikipediaから)ために設立された横審の、内規による横綱推薦基準には、「大関で2場所連続優勝した力士を推薦することを原則」とし、「2場所連続優勝に準ずる好成績を上げた力士を推薦することが出来る」ともしつつ、何よりも基準の第一に「品格、力量が抜群であること」を謳い、いずれも出席委員の3分の2以上の多数決によって決議すると定めているほどです。
 素人目ながら、日馬富士はそんな横綱の器ではない、せいぜい大関だと、場所中の5連敗の前からと言わず、場所前、横綱に推挙された時から、家族にぼやき続けてきました。今さらながらなので、大きな声では言えませんが(でも、しっかり書いていますが^^)。今場所、立ち会いで足が滑る場面があり、怪我をしているのではないかと見られたこともありましたが、それにしても幕内最軽量の133キロの体格のせいばかりでなく、負けっぷりも、とても横綱のものとは言えませんでした。粗製濫造されている大関の中では、稀勢の里が一人気を吐いて二桁の10勝を挙げましたが、当然のことながら大関にしては物足りないレベルであり、いわんや鶴竜と、かど番を脱した琴欧洲は9勝、琴奨菊に至っては8勝止まりと、今場所と言わず全体的にレベルが低い中で、2場所連続全勝優勝と「文句なし」の成績で昇進した日馬富士の「文句なし」には、疑問符がつかざるを得ません。一つには、日馬富士自身、その直前の夏場所では千秋楽でようやく勝ち越しが決まるほど安定感に欠けていましたし、二つには、強豪ひしめく中でこそ、二場所連続優勝というのはハードルが高く、横綱推挙の要件としての妥当性はそれなりに担保されると考えられますが、今のように白鵬だけが突出して、粗製濫造の大関陣が星の潰し合いをしているような状況では、たとえ二場所連続全勝優勝などという、かつては考えられなかったような快挙も、価値半減と言わず、価値四分の一減以下で、横綱推挙の要件と言うよりも、単に白鵬に二場所続けて勝つだけの意味しかないようなものだからです。
 などと、素人が勝手なことを言いますが、小学生の頃からかれこれ40年近く大相撲を見続けて、人並みに大相撲を愛すればこそ。今年の新弟子数(通算)は56人と、昨年の60人を下回り、年6場所制が定着した1958年以降で最少となったそうで、大相撲の凋落には歯止めがかからず、目を覆いたくなるばかりです。こうなっては、日馬富士には、横綱の名に相応しい活躍を期待したいですし、是非、奮起して欲しい。さもなければ、形ばかりの横綱や大関の駒を並べて「らしく」振舞うのではなく、その名に相応しい実力を兼ね備えられるよう、Jリーグや、Jリーグを見習うプロ野球のように、裾野を広げる地道な取り組みを行うような、抜本的な立て直しが望まれます。


(参考)言い尽くせないことは、過去ブログをご参照。
  「把瑠都の活躍の陰に」(2012年1月25日) http://blog.goo.ne.jp/mitakawind/d/20120125
  「角界の大器晩成」(2011年12月2日) http://blog.goo.ne.jp/mitakawind/d/20111202
  「昔ながらのお相撲さん・魁皇」(2011年7月24日) http://blog.goo.ne.jp/mitakawind/d/20110724
  「土俵際」(2011年2月7日) http://blog.goo.ne.jp/mitakawind/d/20110207
  「朝青龍引退」(2010年2月5日) http://blog.goo.ne.jp/mitakawind/d/20100205
  「大相撲2」(2009年12月1日) http://blog.goo.ne.jp/mitakawind/d/20091201
  「大相撲」(2009年11月29日) http://blog.goo.ne.jp/mitakawind/d/20091129
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