部屋で生活できるように、電気・ガス・水道を通してもらった。ガス給湯器が心配だったが、「大丈夫ですよ」と点検に来た人が言う。最後にタブレットを出して、「ここに署名をしてください」と示す。ヨタヨタの文字になってしまい、上手く書けない。
「けっこうですよ。高校生の息子は、ペンの字は下手くそなのに、タブレットでは上手く書きます。そういう時代になってしまったんです」と教えてくれた。授業もリモートで行われていて、午後10時までに宿題を先生のところに送らないといけないみたいだ。
以前、先輩からそんな時代とは逆行した話を聞いた。先輩が部下の女性と車で走っていた時、ラブホテルの看板が見えた。何気なく見ていたつもりだったのに女性から、「行きたいんですか?」と質問され、「いや、別に」と言葉を濁した。
すると彼女は、「男の人って、どうして女の人の裸を見たがるんですか?」と言われ、さらに戸惑ってしまう。「どうしてかは分からないけど、男には見たい本能があるんじゃーないかな」と答える。彼女は、「目と耳は2つ、鼻と口は1つ、おっぱいは2つ、みんな同じですよ」と笑う。
そして彼女は、「私の胸、小さいですよ。それでも見たいんですか?」と聞く。先輩は大きく頷いて、「ああ、見たい」と答えた。彼女は、「じゃー、見せてあげます。さっき通り過ぎたホテルへ行きましょう」とニッコリして言う。
「それで、どうしたんですか?」と、私は先輩を問い詰めた。しかし、「ああ、想像に任せるよ」とはぐらかされた。先輩たちの時代は、出会い系サイトは無いし、現在のようにタブレットを使いこなすことのない、男と女の素朴な「愛」があった。
村山由佳さんの『花酔ひ』は、女の側から男と女の「愛」「快楽」を捉えた作品だ。未だに高校時代の初恋の人の夢を見る、中学からの友だちに読ませてやりたい小説である。彼がどんな感想を語るか楽しみだ。