昨日、この夏一番の夕焼けを見た。美しいというよりは荘厳な感じを受ける。暑い日の残照が空の浮かぶ雲を染め上げ、空を支配する。太陽の圧倒的な力を感じるときだ。冬の日であっても、夕日が人を感動させる。夏目漱石の小説『門』から。「冬の日は短い空を赤裸々に横切って大人しく西へ落ちた。落ちる時、低い雲を黄に赤に竈の火の色に染めて行った。」それにしても暑い一日であった。あと何日、こんなに暑い日が続くのだろうか。
中野鈴子という詩人がいた。1906年、福井県の丸岡町に生まれた。かの中野重治の妹として。数少ない女流詩人。プロレタリア文学運動で活躍した。
「なんと美しい夕焼けだろう」という詩の一節を読んでみる。
なんと美しい夕焼けだろう
ひとりの影もない 風もない
平野の果てに遠く国境の山がつづいている
夕焼けは燃えている
赤くあかね色に
あのように美しく
わたしは人に逢いたい
逢っても言うことができないのに
わたしは何も告げられないのに
新しいこころざしのなかで
わたしはその人を見た
わたしはおどろいて立ちどまった
わたしは聞いた
ひとすじの水が
せせらぎのようにわたしの胸に音をたてて流れるのを
もはやしずかなねむりは来なかった