暑い夏は、散歩もままならないが、朝早い時間がゴールデンタイムだ。トンボや鳥たちも暑い時間を避けて、朝の時間に飛び回っている。公園で立ちつくす木の姿をみるのも楽しみのひとつになった。枝が他の枝と微妙な間隔をとって、光を浴びようと伸びていく最終形が丸い樹勢となる。カエデは気温が低いだけでなく、雨が少ないと赤くなるのだろうか。公園で秋を感じる時だ。柿に青い実がたくさん生った。実が熟するまで、渋柿になって自己保存する。木々にも生き延びるための知恵がある。西脇順三郎の詩の一節
百姓家の庭に鳳仙花が咲いていた
二人は子供の時を憶って
『ほうせんかを知らない人間はいないでしょうね』とささやいてみた
なにしろ近頃はほうせんかの花の文明が滅亡に近づいていることを二人は嘆いた
さほど珍しくもない鳳仙花をみることを、詩人は単純に楽しんでいる。トンボが飛ぶ姿も、鳥が鳴きかわす声も、朝にはありふれた日常だが、歩きながら見聞きすることがわけもなく楽しい。歩くうちに汗がにじんでくるが、それもまた夏の朝の楽しみだ。娘がきて歩いてポイントを貯めるポイ活のことを話していた。どんな動機にせよ、歩けば気になる花があり、香りの高い草木があふれている。人間ははるか昔から、見なれた自然のなかに生きる知恵を見つけてきた。