西郷隆盛は明治維新に命をかけた政治家である。その清廉潔白な姿勢は、今日に至っても忘れ去られることはない。西郷は新しい社会の到来のため、粉骨砕身の慌しい日々を送ったが、そのかたわら漢詩を詠んだ。その数は確認されているだけで200首を超える。波乱万丈の生涯は、この漢詩のなかに書き残されている。忠誠、詠史、憂愁といわれる詩で自らの心情を吐露し、人間のあるべき姿を詠んでいる。同時に温泉や遊猟などの慰みで心をいやし、自然を詠むことで維新のさなかにあった身の慰めを求めた。
客舎雨を聴く
一陣の狂風雷雨の声
甲兵来り撃って相驚くに似たり
愁城暗に築く天涯の客
客魂倐ち摧けて分外に清し
天涯の客とは遠くからやってきた旅人、自分自身を指している。愁城は愁いの城で、旅人の心が愁いのなかにあるという意味である。この驚くような雷雨が、その愁いを吹き飛ばして安らかで清々しい心境に至ったことを詠んでいる。
西郷のころの雷雨はこんな効用もあったようだが、この2週間九州、四国、近畿を襲った大雨はその域をはるかに超えてしまっている。愁城にこもることを許さず緩んだ地盤は土砂崩れを起こし、人々の愁いは深まるばかりだ。
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