とある地域(ちいき)で、人が突然(とつぜん)いなくなる事件(じけん)が続いていた。警察(けいさつ)は事件に関連性(かんれんせい)はないとして、進んで捜査(そうさ)をすることはなかった。しかし、一人の記者(きしゃ)が地道(じみち)に取材(しゅざい)を始めていた。
記者は一人の人物(じんぶつ)に目をつけた。その人物は、失踪(しっそう)した人たちと何らかの接点(せってん)があった。記者はその人物に取材を申(もう)し込(こ)んだ。その人物は、<一人でなら>という注文(ちゅうもん)をつけた。
約束(やくそく)の場所(ばしょ)は閑静(かんせい)な住宅地(じゅうたくち)。どうやら自宅(じたく)のようだ。家の中に入った記者は驚(おどろ)いた。そこはまるで引っ越ししたあとのように、家財道具(かざいどうぐ)など何も置かれていなかった。通された部屋(へや)にだけ小さなテーブルと椅子(いす)が置かれていた。それと、なぜか姿見(すがたみ)が――。
進められた椅子に座(すわ)ると、ちょうど姿見に相手(あいて)の姿が映(うつ)って見えた。記者は切り出した。
「あなたの周(まわ)りで何人も人間(にんげん)が消(き)えています。そのことについて何か思い当たることは?」
相手は無表情(むひょうじょう)に答(こた)えた。「そうなんですか…。それは、知りませんでした」
「知らない? そんなはずはないでしょ。あなたが拉致(らち)したんじゃないんですか?」
相手は何も答えず、記者を睨(にら)みつけた。記者は身(み)を守(まも)るために言った。
「私に何かあったら、今まで取材したことが記事(きじ)になりますよ。手は打(う)ってあるんです」
相手が握(にぎ)った左手を広げると、そこにはUSBがあった。それを見た記者は目を丸(まる)くした。それは編集長(へんしゅうちょう)に渡(わた)しておいたものだった。記者は思わず、「どうして…それを…」
何の前触(まえぶ)れもなく、記者の身体(からだ)が姿見に勢(いきお)いよく吸(す)い込まれていった。
<つぶやき>こ、これは異星人(いせいじん)の侵略(しんりゃく)でしょうか? 消えた人たちはいったいどこへ…。
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