神崎(かんざき)つくねの帰りを待たずに二人は帰ることにした。月島(つきしま)しずくは歩きながら、
「ねぇ、楽しかったね。初音(はつね)も試(ため)してみればよかったのに」
川相(かわい)初音は呆(あき)れた顔をして、「何を言ってるのよ。あの装置(そうち)がどういうものか分かってないの? あの人、装置が故障(こしょう)したって騒(さわ)いでたけど…。あなた、何かしたでしょ?」
「私は、何も…。ただ横(よこ)になってただけよ。ねぇ、お腹(なか)すかない? 何か食べに行こう」
「あのね…。はっきり言っておくけど、あたし、あなたとは――」
しずくは、いきなり初音の腕(うで)をつかむと歩き出した。そして、
「いいの、いいの。ねぇ、どっか美味(おい)しいお店(みせ)、知らないの?」
「分かったわよ。じゃあ、安(やす)いところで、よかったら――」
――二人は定食屋(ていしょくや)に入った。ここは、水木涼(みずきりょう)と食べに来たことがあった。実(じつ)は、柊(ひいらぎ)あずみが涼と双子(ふたご)の姉妹(しまい)を連(つ)れて来たお店だ。店内(てんない)に入ると、お客(きゃく)はまばらだった。二人は、その中に涼がいるのを見つけた。彼女の前には後輩(こうはい)の日野(ひの)あまりが座(すわ)っている。二人は同じテーブルにつくと、初音はからかうように涼に言った。
「もう仲良(なかよ)くなっちゃったの? いいぞ、涼ちゃん。やればできるじゃん」
初音はあまりに向かって、「あたし、川相初音。で、こっちが月島しずく。よろしくねぇ」
あまりは、〈しずく〉と聞いて身体(からだ)をこわばらせた。そして、能力(ちから)を使うときの仕種(しぐさ)をしようと、手を胸(むね)の前にもっていった。
<つぶやき>この定食屋、安くてまあまあ美味しいみたいよ。彼女たちの行きつけです。
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