みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0090「ご先祖様」

2017-10-25 19:11:36 | ブログ短編

 それは突然(とつぜん)のことだった。朝食の後片付(あとかたづ)けを終えて振(ふ)り返ったとき、その人はそこにいたのだ。じっと芳恵(よしえ)を見つめて…。その顔は、間違(まちが)いなく不機嫌(ふきげん)だった。
「だれ……ですか?」芳恵はやっとのことで言葉(ことば)を発(はっ)した。
「誰(だれ)って、あんたの先祖(せんぞ)だよ」四十(しじゅう)がらみの、着古(きふる)した和服姿(わふくすがた)の女は言った。
「まったく、なってないよ、あんたの段取(だんど)りの悪(わる)さは。誰に教(おそ)わったんだい?」
「あの…」芳恵は、もう唖然(あぜん)とするばかり。
「ずっと上から見てたけどさ。もう、我慢(がまん)できなくて出て来ちゃったよ」
「で、出て来たって? それは、どういう…」
「いいかい。これからみっちり仕込(しこ)んでやるから。しっかり覚(おぼ)えなよ」
「あの、でも…、あたし、これから仕事(しごと)に…」
「なに言ってんだい。子育(こそだ)てもまともにできないで、何が仕事だ」
「でも、行かないと…」芳恵は声を震(ふる)わせながら、「家のローンだってあるし…」
「旦那(だんな)の稼(かせ)ぎでやっていけないようじゃ、どうしようもないねぇ。わしが、主婦(しゅふ)の神髄(しんずい)をたたき込んでやるか」女は芳恵の腕(うで)をつかんで、「逃(に)げ出そうとしても、無駄(むだ)だからね」
 その日から、芳恵のつらく、厳(きび)しい主婦修業(しゅぎょう)が始まったのである。
<つぶやき>便利(べんり)な生活(せいかつ)に慣(な)れてしまうと、ついつい楽をしたくなる。気をつけたいです。
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