アマゾンの密林(みつりん)。鈴木(すずき)がここに来ることになった発端(ほったん)は、インターネットに流れていた噂(うわさ)。<アマゾンの奥地(おくち)には、どんな怪我(けが)でも治(なお)してしまう絆創膏(ばんそうこう)がある>
ことの真相(しんそう)は分からないが、もしそれが本当(ほんとう)なら会社に大きな利益(りえき)をもたらすだろう。これだけの大仕事を任(まか)せられるのは、日本のサラリーマン、鈴木良夫(よしお)しかいなかった。
――彼はやっとの思いで、小さな村にたどり着いた。そこで彼が目にしたのは、誰(だれ)もが絆創膏をつけていることだ。彼は村人(むらびと)をつかまえて話を聞こうとした。もちろん、彼は現地(げんち)の言葉(ことば)など分からない。身(み)ぶりや手ぶり、物真似(ものまね)まで使って意思疎通(いしそつう)を図(はか)った。その甲斐(かい)あってか、村人は彼を一軒(いっけん)の小屋(こや)へ案内(あんない)した。
小屋の中に入って、彼は驚(おどろ)いた。そこにいたのは、紛(まぎ)れもない日本人の青年(せいねん)だった。
「こんなところでスーツ姿(すがた)を見られるなんて」青年はひとなつっこく笑(わら)った。
「スーツは日本のサラリーマンの正装(せいそう)ですから」鈴木は胸(むね)をはって言った。「ところで、どうしてあなたはこんなところにいるんですか?」
「僕ですか。僕は絆創膏を売り歩いてるんです。世界中まわりましたけど、ここの人たち、僕の絆創膏を気に入っちゃって。これを貼(は)ってると悪霊(あくりょう)が逃(に)げて行くんだそうです」
「それじゃ、この絆創膏は日本で手に入るんですか?」
「もちろんです。あっ、じゃあ、僕の名刺(めいし)を渡(わた)しときますね」
<つぶやき>日本のサラリーマンはすごいんですね。どこへでも行っちゃうんですから。
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