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私の札幌生活も17年目を迎えました。これまでのスタイルを維持しつつ原点回帰も試み、さらなるバージョンアップを目ざします。

吉村昭著「赤い人」、「光る壁画」、「高熱隧道」を読む

2022-03-15 16:01:10 | 本・感想

 「赤い人」…、明治時代の監獄の過酷な状況は目を塞ぎたくなる思いだった。「光る壁画」…、日本のモノづくりに賭ける原点のようなものを見ることができた…。「高熱隧道」…、摂氏165度という高熱の中ではたして作業ができるのか?!過酷なまでの掘削作業を思うだけでも鳥肌が立つ思いだった…。

 その後も「吉村昭」熱は続いている。ただ私の興味関心は四方八方に拡散しているためもあり、以前ほど集中できていないきらいはあるが吉村本を今も徐々に読み進めている。ここまで読了することができた三冊の長編について簡単に感想を書き連ねてみたいと思う。

        

 まずで「赤い人」ある。この本はブログを通じて交流のあるしろまめ氏より「ぜひ読むべきだ」との推薦をいただいた本である。ところが私の馴染みの古本店BOOK○○では見当たらなかったので図書館から借りて読んだ。

 物語は樺戸監獄(現在の月形刑務所)の成り立ちから、そこに収容された囚人たちの様子を描写したものである。監獄ものとしては以前に「破獄」という白鳥由栄という4度の脱獄を繰り返した実在のモデルを物語化したもを読んでいた。白鳥と刑務官(あるいは地元警察署)との知恵の限りを尽くした攻防は 非常に興味深いものだったので本作にも期待したのだが…。ところがこちらは刑務官側の視点に立ったり、受刑者の視点に立ったりと、あるいは隣接の空知監獄に移ったりと、どうも読んでいる方の腰が落ち着かないような感じがしてしまった。著者は未開だった北海道の開発のための礎となった受刑者や監獄関係者を描き、明治時代の監獄が果たした全体像を描きたかったのかもしれないが、やや焦点が拡散してしまったきらいがあったと私は思ったのだが…。

        

 続いて「光る壁画」である。物語は戦後まもなく、世界に先駆けて胃カメラの実用化に取り組んだ東大の医師とカメラメーカーの社員の実話にフィクションを加えた小説である。「光る壁画」という題名は、胃カメラの先端に取り付けられたライトが胃壁を映し出した場面を象徴的に表したものと考えられる。私などからいえばミクロの世界(?)の話で、私の中ではなかなか映像化しづらいところがあった。しかし、吉村はそうした困難も克服して丁寧に私たちにその偉業を伝えてくれた。

        

 この三冊の中で私の読み心(こんな言葉ある?)を最も熱くさせてくれたのは「高熱隧道」である。黒部渓谷の発電所というと「黒四ダム」の建設の困難さ記憶に残るが、この「高熱隧道」の話は黒部第三発電所建設を巡る話で昭和11年から15年にかけての話である。黒部峡谷が人を寄せ付けないほどの峻険な峡谷であることは「黒四ダム」の実話で良く知られたところであるが、この黒部第三発電所建設を巡る話は建設機械も十分ではない昭和初期の話である。

 ほとんどを手作業に頼る中、隧道を掘り進むにつれて岩盤からは高熱が噴出し、作業員は火傷の危険を背負いながら掘り進むという過酷なものであった。そこには作業員の命を軽んずるような作業現場だった。さらに冬期間は作業現場と麓とは連絡が断たれるという状況の中、平地では考えられないような事故も発生するなど現代においては即時工事停止が命じられるほどの悪環境の中でも工事は進められた。そうした様子を吉村は冷徹な目で克明に描写し続けた。

 視点が工事現場の責任者から見たものであるが、はたして工事作業員の目から見たものだとどのような描写になるのだろうか?それはともかく、読んでいる私までもが身体が熱くなってしまうほど、迫真に満ちた描写は迫力十分であった。

 三冊を横に並べて感想を綴ったために、やや辛口の感想になつてしまったきらいがあるが、吉村作品の魅力が損なわれたわけではない。私は今も吉村作品を読み続けている。飽きやすい性格の私であるが、きっとこれからも吉村作品の魅力からは逃れられないだろう。