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私の札幌生活も17年目を迎えました。これまでのスタイルを維持しつつ原点回帰も試み、さらなるバージョンアップを目ざします。

山崎豊子著「二つの祖国」

2020-01-19 19:28:46 | 本・感想

 天羽賢治(あもうけんじ)は、日系二世としてロスアンゼルスの邦字紙に勤める新聞記者だった。そこに太平洋戦争が勃発し、日系二世の人たちは塗炭の苦しみを味わうことになる。天羽は日本とアメリカの二つの祖国の狭間にあって苦悩し、翻弄されることになる…。

    

 書評は努めて避けると述べながら話題に事欠くことになり、しかたなく最近読了した「二つの祖国」について若干の感想を綴ることにする。

 昨年末、私は「山崎豊子に嵌った」と題して「沈まぬ太陽」「華麗なる一族」、「大地の子」、「不毛地帯」、「白い巨塔」と次々と読破したことを投稿した(12月26日付https://blog.goo.ne.jp/maruo5278/d/20191226

 その後、またまた「ブック○○」に出向き、「二つの祖国」(全4冊)を買い求めようとした。ところが全てが揃ったものが見つからなかった。私は市内の3店舗を回ったのだが4冊全てを揃えることができなかった。そこで初めて図書館を利用することにした。そしてお正月の間「二つの祖国」を読みふけっていたのだった。

 「二つの祖国」もこれまで読了した他作と同様にスケールの大きな作品だった。

 太平洋戦争が勃発すると天羽たち日系二世の人たちは敵性外国人として残らず環境の厳しい収容所に入れられてしまう。天羽は幼いころから大学に至るまで父親の故郷の鹿児島で育てられたことから日本語に堪能だという理由から収容所の通訳、そして苦悩しながらも自ら希望して米軍の通訳へと変遷を辿る。その中においても絶えず、日系として差別されながらも彼なりに誠心誠意アメリカのために、アメリカ軍のために尽くしたが、内心は鬱々たるものを秘めていた。その間、天羽の弟正は開戦時に日本にいたことから日本軍に、末弟の勇は両親や天羽の反対を押し切ってアメリカ軍に従軍することになった。末弟の勇は戦死、次男の正は戦場で天羽と対峙するという運命を辿る。(そのさい、天羽は心ならず正を誤射してしまうが正は死亡することなく捕虜となる)

 やがて終戦を迎え、天羽は東京裁判の通訳としての任務が待っていた。天羽はあくまで米軍の通訳であったが、連合国側の論理で進められる東京裁判に対して鬱々とした日々を送るのだった…。

 物語はここに書ききれるほど簡単ではなく、複雑に、遠大に、そのスケールの大きさで進行するが、史実を折り曲げることなく忠実に再現しながら、そこに山崎豊子が創造したフィクションが挿入されていく。

 これ以上のストーリーの紹介は避けよう。ただ、やりきれないのはこれまでの山崎の著書同様に物語はけっしてハッピーエンドで終わらなかったということだ。それは何を意味するのだろうか?軽々に結論付けることはできないが、私なりに考えると、壮大なスケールで描かれる山崎の世界においては、個人の感情とか思いがないがしろにされながらも、目に見えぬ大きな力で動いているということを示唆しているのだろうか?そしてハッピーエンドに終わらせないことによって、物語を読者の深いところに沈殿させたいという思いがあるのだろうか?

 ともかく山崎豊子氏の著書は魅力を秘めている。私は次の作品「運命の人」(全4冊)をすでに手元に置いている。