こちらは前日レポしたようなフィクションではなく、難民映画らしく(?)ドキュメンタリーである。レバノンの難民キャンプで生まれ育った一人の女性の起業の経緯を追ったものである。聡明で、情熱的な彼女の姿からは自身の不幸を嘆くだけではなく、そこから脱しようとする逞しさを見る思いだった。
9月30日(日)の「UNHCR難民映画祭2018」の2本目の映画は「ソフラ ~夢をキッチンカーにのせて~」だった。(その前に「君たちを忘れない ~チョ・ウソンのイラクレポート」という小編も上映されたが)
映画は、マリアムという30代(?)のレバノンの難民キャンプで生まれ育った独身女性が、自分の運命に立ち向かうべくケータリングビジネスを起業し、その先にキッチンカーでの事業展開を夢見て奔走する様子を追いかけたものである。
難民たちにとっての課題の一つが、働き口がないということがある。特に女性たちには狭き門のようだ。そうした女性たちの働き口を確保するために、マリアムは女性の特技を生かせる料理をケータリングする会社を興す。マリアムのリーダーシップ、メンバーの努力によってケータリングサービスは軌道に乗った。
マリアムの次の夢は、キッチンカーで販路を拡大することにあった。ところが、彼女らが難民であること、行政の整備が整っていないことなどから、なかなかキッチンカーの認可が下りないのだ。マリアムは粘り強い。何度もくじけそうになりながらも、けっして諦めることなく、何度も何度も挑み続ける。それは仲間たちの働き口を確保し、それを拡充したいという彼女の夢があるからだ。
固かった壁も、彼女の強い意志の前では崩れ去り、ついにキッチンカーがレバノンの首都ベイルート(?)の中心街に登場し、市民から大歓迎される。
彼女はこうしたキッチンカーをこれから何台も作り、女性たちの働く場を拡充したいと語るのだった。
難民というと、家財も働く場も失われ、ただ支援を待つだけといった印象が強い。事実、難民のほとんどの人たちはいまだにそうした境遇にあるようだが…。
ところが、そうした中にマリアムのように自らの境遇から脱しようとする動きが出てきていることをこのドキュメンタリーは伝えてくれた。
イスラムの難民女性というと、ヒジャブを被り家庭の中に埋没し、自らの境遇を嘆くだけという印象が強い。
しかし、ヒジャブの奥に強い意志を秘し、マリアムのように逞しく生きようとする女性が存在することをこのドキュメンタリーは教えてくれた。彼女のようなポジティブな思考の持ち主が、きっと難民問題を克服する端緒となることを願いたい。
※ マリアムが起ち上げたケータリングサービスの会社で働く難民の女性たち。
なお、「ソフラ」という題名は、マリアムが起ち上げたケータリングサービスの会社名とのことだが、その由来については残念ながら分からない。