講座名が「東アジアのなかの北海道」、そして主催が北大大学院法学部である。私の中に多少とも構えたところがあったのだが、案ずることはなかった。市民向けに平易な言葉で、易しく講義してくれる講座のようである。
※ 公開講座が開催されている北大法学部の建物です。
7月26日(木)に続いて8月2日(木)「中国から見た北海道」と題して北大メディア・コミュニケーション研究院の野澤俊敬教授の講義を受講した。
野澤氏は現在北大の北京オフィスの所長も兼任され、月の1/3は北京に滞在されているそうだ。
講座は中国と北海道の歴史的な関わりと、氏の専門である映像を通して中国人が抱く北海道のイメージについて話された。
中国と北海道は、江戸時代から中国の沿海州の山丹人とアイヌとの間で交易があったということだ。山丹交易と呼ばれているものだ。その山丹交易で特徴的なことは北海道の海鼠(なまこ)が中国人には珍重されたということだ。海鼠は中国料理の花形材料として現在も北海道の海鼠は中国では高級品として人気があるらしい。
また近年では北海道農事試験場で水稲栽培を研究していた原正市氏が1982年から21年間にわたり中国で水稲栽培を指導し、原氏の手法による水稲栽培が中国の水稲栽培面積の50%以上に普及していることは私たちにはあまり知られていないことである。
原氏は中国農業界においては相当な著名人であるということだ。
さて野澤氏の専門である映像を通して、中国人が北海道に抱くイメージである。
中国人に対して圧倒的な影響力をもったのは2008年公開の中国映画『非誠勿擾 日本名:「狙った恋の落とし方」』である。この映画は道東の各地を舞台にしたラブコメディーである。道東の美しい風景、北海道の海鮮グルメ、北海道人のおおらかさが中国人の間に北海道ブームを巻き起こしたという。事実、この後中国人観光客が北海道にドッと押し寄せる現象が生じた。
この映画については私も観ることができ、その感想をアップしているので興味のある方はこちらをクリック ⇒ ください。
しかし、野澤氏は中国人が北海道に憧憬の念を抱くのには、それ以前からその下地があったと指摘する。それはそれ以前から中国人が接していた北海道に関する映像がたくさんあるというのだ。野澤氏はそのキーパーソンは俳優高倉健だという。1978年に中国で公開された高倉健主演の映画『君よ憤怒の河を渡れ』は中国人に熱狂的に支持されたという。それは中国において外国映画が解禁された直後という背景もあった。この映画のロケ地は日高、浦河町である。
その他、高倉健主演で中国で公開された映画には次のようなものがある。( )内は北海道でのロケ地です。
◇『遥かなる山の呼び声』(根釧原野、中標津)1981年中国公開 ◇『海峡』(函館)1983年公開 ◇『居酒屋兆治』(函館、札幌)1984年公開 ◇『幸せの黄色いハンカチ』(夕張、網走、帯広、新得)1985年公開
野澤氏はこのように高倉健映画が北海道に憧憬を抱く中国人を醸成する下地を作ったのではないかと指摘する。氏は高倉健映画以外にも中国人に影響を与えたと思われる映像を紹介してくれたが、紙幅の関係上割愛する。
そして野澤氏も指摘する。こうした状況をビジネスチャンスと捉えるべきだと…。
氏が紹介してくれた興味深い資料に、中国国内のウェブサイトで見たアンケート結果を紹介している。
東日本震災前の2011年1月に中国国内で行った「日本で最も興味ある観光地は?」とのアンケートで北海道は富士山、東京を抑えてトップに選ばれていたそうだ。
また、震災後の原発放射能漏れの影響が懸念される中、今年に入って行った「あなたが日本に旅行に行くとして、行きたい場所はどこか?」というアンケートでも、京都、大阪、沖縄などを抑えて北海道がトップだったという。
震災前も、震災後も北海道は中国人にとって変わらぬ憧れの地であるらしい。
私たち自身は北海道の魅力にあまり気付いていないようだが、もっともっと足元の素晴らしい資源を見つめ直すべきと資料は語っているようだ…。