ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

イタリア料理チェーン店「サイゼリヤ」創業者の正垣泰彦さんの講演を聞いた続きの話です

2013年10月02日 | 汗をかく実務者
 イタリア料理の大手レストランチェーン店「サイゼリヤ」の創業者で代表取締役会長を務める正垣泰彦(しょうがきやすひこ)さんの講演を拝聴した話の続きです。

 1967年に、正垣さんは東京理科大学に在学中に、洋食レストラン「サイゼリヤ」を始めます。このレストランはあまり人気がなく、一時は営業時間を深夜まで延ばして、最終電車から降りて来たお客まで狙った集客を行います。その後、お客同士の店内での喧嘩のとばっちりで、火事になり、お店が焼失して困り果てます。

 再建費用を何とか捻出し、再出発した洋食レストランも不振を極め、イタリアにレストラン視察に行ったことから、現在の料理哲学の「シンプルな調理で毎日でも飽きずに食べられる料理を“おいしい料理”と考える」になり、トマトやオリーブオイルなどの健康維持に役立つ素材を用いるイタリア料理を出すお店にします。

 ところが、それでもお客が集まらず、正垣さんは思い切って30%低価格化を実施します。それでも、お客がそれほど増えなかったので70%の低価格化に踏み切ります。これが当たって、お客が店の入り口に長蛇の列をつくります。

 現在でも、定番メニューのミラノ風ドリアの価格を299円と低価格のままです。



 ミラノ風ドリアは人気メニューなので、お客に安く提供していることは有名です。

 この低価格化戦術が当たって、お客が絶えないために、店舗を増やす拡大路線を採ります。1977年12月に、千葉県市川市に第3号店として市川北口店を開店し、多店舗化に着手したのが成長の始まりです。この辺は、低価格なイタリア料理が売り物の「サイゼリヤ」の知られた成長物語です。しかし、一般に70%低価格化はお店の採算を考えると、かなり厳しい選択です。どうやって利益を確保したのかは、講演では触れませんでした。

 講演の話で一番感心したのは、後継者づくりの話です。「企業を成長させるためには、息子を次期社長に選んではならない」とはっきりいいます。「創業者が成長させた企業を受け継ぐ二代目社長の役割は、安定成長させる構造改革をすることだ」として、優秀な人物のスカウトに乗りだしたそうです。

 「創業期、成長期を行う20年から30年経つと、新しい企業経営のやり方を持ち込む構造改革ができる人物がリーダーとして必要になる」と、正垣さんは解説します。講演の際には、ある大手企業の社長に頼み込んで「御社の将来の社長候補を我が社に下さい」と、頭を下げたそうです。この辺の具体的な詳しい経緯は、講演では話されませんでしたが、「サイゼリヤ」のWebサイトで企業概要をみると、現在の代表取締役社長をお務めの堀埜一成さんのことだとわかります。

 堀埜さんは2000年(平成12年)4月に味の素から移籍し、サイゼリヤに入社します。そして数々の部長職を経由して、2009年(平成21年)4月に代表取締役社長に就任します。堀埜さんは京都大学大学院農学研究科を修了したある種のエリートです。

 正垣さんはレストランチェーン店はある種の“水商売”であり、その経営を“産業化”して、従業員に給料をしっかり払える企業体質にすることが、企業拡大の礎(いしずえ)になると説明します。

 正垣さんは、1997年にサイゼリヤの本社を埼玉県吉川市に移転させます。ここに吉川工場を新設したことがきっかけです。今回の講演では、事業利益を生み出す工場による食材加工の話はしませんでした。他の機会に、サイゼリアは低価格路線を維持するために、工場による食材加工を強化し、“産業化”していると話ています。この産業化の構造改革を推し進める役目を、現社長の堀埜さんが果たしたのだと想像しています。

 正垣さんの講演の話の中で、いい話だなと感じたのは、サイゼリアではグラスワインを一杯100円で提供していることです。



 お店の近くの、ご年配の方々がサイゼリアに来て、一杯100円のワインを飲んで四方山話(よもやまばなし)をする場になってほしいそうです。イタリア各地にあるバール(Bar)のイメージです。出店している地域の方々が談笑する場になってほしいそうです。