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文部科学省「設置計画履行状況等調査の結果等について」への疑問:大学でBe動詞を教えること その他

2014-03-09 | 教育
 文部科学省が,平成25年度の「設置計画履行状況等調査の結果等について」を2月に発表した。報道発表もあったので,ご存知の方も多いと思う。マスコミやネットの反応も本質をついているとは思われないものが多いので,この問題について論じてみたい。
 この調査は,文部科学省HPに公開されている資料によると,「文部科学省令及び告示に基づき,大学の設置認可時等における留意事項及び授業科目の開設状況,教員組織の整備状況,その他の設置計画の履行状況について,各大学からの報告を求め,書面,面接又は実地により調査を行い,各大学の教育水準の維持・向上及びその主体的な改善・充実に資することを目的」としたものだそうだ。このなかで,ある大学について,「入学者の状況について、受験者のほとんどが合格していることや、必修科目として配置している「イングリッシュスキルズ(基礎)」については、Be動詞や文の種類(単文から複文)から仮定法までの内容とせざるを得ない状況と推察すると、入学者選抜機能が働いているとは考えられないため、アドミッションポリシーに沿って適切な入試を行うこと。」「「イングリッシュスキルズ(基礎)」については、大学教育にふさわしい水準となるよう内容を修正し、必要に応じ正課教育外での補習教育を整備すること。」という意見が留意事項として記載されている。その一方,特定の大学だけではなく,一般的な留意事項として「各大学は、様々な工夫の下で入学定員の充足に向けた取組を行っているが、当初計画時にニーズ調査や競合分析を行わず、入学定員を根拠なく設定したことから、学部学科等が開設して以来、入学定員の未充足が続いている大学も見られた。このため、各大学においては、学生や社会からのニーズを踏まえ、今後の入学定員の充足に向けた具体的な取組が求められる。」としている。
 この文言をお読みになった方は,すぐにお気づきだと思うが,大きく2点の問題点がある。
 ひとつは,入学者定員を充足することを求めながら,入学者選抜機能を機能させよという指摘の矛盾である。入学者定員を充足することを重視すれば,入学者選抜機能は働かない。入学者選抜機能を重視すれば,入学者定員を充足できない。このジレンマをかかえているのは,もはや大学だけではなく,高校もそうであろう。その原因は,高校の場合は少子化という社会の変化に定員数の削減が追い付いていないことによるものである。しかし,大学の場合は,18歳人口が減少することが統計的にも明らかであるにもかかわらず,そして,その状況を学校基本調査等でもっとも把握していながら,設置認可緩和政策を継続し大学数を大幅に増やした文部科学省にその原因がある。にもかかわらず,大学を新設した法人が「入学定員を根拠なく設定」したとする。入学定員を適正根拠に基づいて指導するのは,設置認可の前に文部科学省がやるべきことであろう。責任を転嫁している好例である。
 ふたつめは,大学で行われている英語授業についての指摘についてである。大学の授業において,上記Be動詞等の基礎文法を扱うことがどうして不適切と言えるのか。Be動詞の扱い方一つとっても,同じ基礎文法の配列に従って扱うとしても,中学校レベルの扱い方と大学レベルの扱い方が可能であることは,英語を勉強している者ならすぐに分かるであろう。ネット上では,Be動詞などは初歩という認識が多くみられるがとんでもないことである。Be動詞の機能については,欧米の文法書を見てもかなりの紙幅がさいてある。あるいは,言語学的観点あるいは論理学的観点からその機能(例えばcopulaとしての用法と西欧語一般における関連)を見ても,英語学史上からその機能を見ても,どれだけ奥深いものであるか,さらに純粋に英語用法ということからみても,例えば,You're being stupid.等という用法は高校でも十分に扱われていないであろう。そのような大学レベルのことが一切扱われていないと,どうして調査担当者は断じることができたのであろうか。シラバス等の書面上からはシラバスの書き方によってはおそらく伺えないであろうし,授業担当者に面談をして明らかにしたのか,それとも授業を実地に見学して明らかにしたのか(それにしても15回すべて見なければわからないだろう),この指摘ははなはだ不可解に感じられるのである。この指摘を受けて,当該大学ではHP上に英語授業に関する説明文書を公開しているが,それは大学授業の内容として首肯できるものであった。
 また,もし入学者のレベルを中学校英語を十分に理解し運用できるレベルに設定するとしたら,現在の大学入学者比率はどの程度になると,文部科学省は推定しているのであろうか。18歳人口のうちの半数にはとてもとどかないであろうことは中学高等学校の教員であれば自明のことであろう。しかるに大学入学者は5割を超えている。文部科学省はさらに高等教育拡充の方向性をも志向しているのである。もしかしたら,当該大学の教員は,この問題の解決のために誠実に取り組もうとした結果,このような指摘を受けたのかもしれない。たかだか「補習教育」程度のことで,実力回復ができるはずがないのである。それを本気でやれば中高6年分の時間がかかる。どこでその時間を捻出するのか。
 文部科学省が本気でこの指摘をしたのであれば,小中学校における留年,高校における留年・退学を奨励すべきであろう。そして,大学数を激減させるかもしくは大学でも留年・退学を大量に出してよい,実力のないものは卒業させるなと布告すべきである。
 文部科学行政は,自らの責任の所在を明らかにすべきであろう。


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1 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
夜のピクニック (ただの主婦)
2014-03-22 04:22:13
<また,もし入学者のレベルを中学校英語を十分に理解し運用できるレベルに設定するとしたら,現在の大学入学者比率はどの程度になると,文部科学省は推定しているのであろうか。18歳人口のうちの半数にはとてもとどかないであろうことは中学高等学校の教員であれば自明のことであろう。しかるに大学入学者は5割を超えている。文部科学省はさらに高等教育拡充の方向性をも志向しているのである>
そもそも、この状況を作ったのが文部科学省なんですが、それは今文部科学省でお仕事している上級公務員さんじゃないんですよね。もうすでに退職しちゃってる人たちがしたことだから、分からないのも無理はないかも。かくして失われた10年の世代さんたちは知恵も知識もなく人生を進むのか・・・ま、一部エリート教育を施された方々がどうにかしてくれるんでしょ。もう私その時生きてないから、どうでもいいや。
こんばんは。お久しぶりです。相変わらず、憎まれ口叩いてすいません、ただの主婦です。
本当は子供たちの将来がとても心配です。でも、もうなるようにしかならないし。
madographosさんが変わらず、教育界に疑問を投げかけていらっしゃる姿勢には脱帽です。きっとインターネットが世界を変えてくれる。そんな希望は持っています、私。
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