平成23年度は,小学校の新学習指導要領の全面実施の年である。
さて,原発事故問題は未だ予断を許さない状況であることを踏まえて,
新学習指導要領解説において,原子力がどのように取り扱うこととされているかを
社会科と理科について検証してみた。
まず,社会科は以下の通りである。
小学校学習指導要領解説 社会編
火力発電所や原子力発電所においては環境に配慮していることや安全性の確保に努めていることについて取り上げることも考えられる。
高等学校学習指導要領解説 公民編 政治・経済
環境負荷を最小限にとどめ,持続可能な社会を構築するためには,省資源・省エネルギーの推進,原子力の活用,太陽光や風力などの新エネルギーの利用など,様々な方策を検討する必要があることを理解させる。
中学校については,「原子力」という言葉は見当たらないが,小学校と高等学校の政治・経済で扱うことになっている。小学校においては,原子力は「環境に配慮」して,「安全性の確保」に努められているものであるという位置づけである。原子力発電の危険性については,触れる余地のない記述である。高等学校においても,環境負荷という観点から,原子力の活用は推進されるべきものとされている。今回の事故を踏まえると,このまま取り扱うことは非常に難しいし,このまま取り扱うべきではないように思われる。
次に理科についてみてみよう。
中学校学習指導要領解説 理科編
原子力発電ではウランなどの核燃料からエネルギーを取り出していること,核燃料は放射線を出していることや放射線は自然界にも存在すること,放射線は透過性などをもち,医療や製造業などで利用されていることなどにも触れる。
高等学校学習指導要領解説 理科編 物理基礎
原子力については,関連して,α線,β線,γ線,中性子線などの放射線の特徴と利用,線量の単位など,放射線及び原子力の利用とその安全性の問題にも触れる。その際,放射線がその性質に応じて,医療,工業,農業などで利用されていることに触れることが考えられる。
電力の総消費量と水力,火力,原子力,太陽光などの各発電量の時間的な推移の調査を行い,それぞれの発電の仕組みや特性との関連から効率的な電力の利用について探究させることや,霧箱や放射線測定器を用いて放射線の観察,測定を行い,放射線の利用や安全性の問題について探究させることなどが考えられる。
小学校については,「原子力」という言葉は見当たらないが,中学校と高等学校で扱っている。中学校では,核燃料が放射線を出していることはしっかり扱っているが,「放射線」とは自然界にも存在し,医療や製造業などでも利用される役に立つものという位置づけであり,あまり危険なものであるという印象は受けない文章である。高等学校の物理基礎でやっと放射線の性質及びその「安全性の問題」に触れることになっている。しかし,気になるのは,ここでも,「危険性」ではなく,「安全性」である。
今回の原発事故を踏まえて,文部科学省は早急にこの学習指導要領解説の文言を再検討すべきであろう。もし,このまま何の修正もないとすれば,公的な「解説」なのであるから,このまま学校現場で教えなさいよという意味にとれてしまう。このコンセプトで原子力を扱うのは,今となっては,いくらなんでも無理であろう。
【追記】
この記事を書いた後,日本原子力学会から,「新学習指導要領に基づく高等学校教科書のエネルギー関連記述に関する提言」と「新学習指導要領に基づく小中学校教科書のエネルギー関連記述に関する提言」が出されていることがわかった。この提言が考慮されたかどうかはわからないが,これらの提言も,今日の視座で読むと誠に興味深い。http://www.aesj.or.jp/information/session.htmlからたどっていけば見られる。
さて,原発事故問題は未だ予断を許さない状況であることを踏まえて,
新学習指導要領解説において,原子力がどのように取り扱うこととされているかを
社会科と理科について検証してみた。
まず,社会科は以下の通りである。
小学校学習指導要領解説 社会編
火力発電所や原子力発電所においては環境に配慮していることや安全性の確保に努めていることについて取り上げることも考えられる。
高等学校学習指導要領解説 公民編 政治・経済
環境負荷を最小限にとどめ,持続可能な社会を構築するためには,省資源・省エネルギーの推進,原子力の活用,太陽光や風力などの新エネルギーの利用など,様々な方策を検討する必要があることを理解させる。
中学校については,「原子力」という言葉は見当たらないが,小学校と高等学校の政治・経済で扱うことになっている。小学校においては,原子力は「環境に配慮」して,「安全性の確保」に努められているものであるという位置づけである。原子力発電の危険性については,触れる余地のない記述である。高等学校においても,環境負荷という観点から,原子力の活用は推進されるべきものとされている。今回の事故を踏まえると,このまま取り扱うことは非常に難しいし,このまま取り扱うべきではないように思われる。
次に理科についてみてみよう。
中学校学習指導要領解説 理科編
原子力発電ではウランなどの核燃料からエネルギーを取り出していること,核燃料は放射線を出していることや放射線は自然界にも存在すること,放射線は透過性などをもち,医療や製造業などで利用されていることなどにも触れる。
高等学校学習指導要領解説 理科編 物理基礎
原子力については,関連して,α線,β線,γ線,中性子線などの放射線の特徴と利用,線量の単位など,放射線及び原子力の利用とその安全性の問題にも触れる。その際,放射線がその性質に応じて,医療,工業,農業などで利用されていることに触れることが考えられる。
電力の総消費量と水力,火力,原子力,太陽光などの各発電量の時間的な推移の調査を行い,それぞれの発電の仕組みや特性との関連から効率的な電力の利用について探究させることや,霧箱や放射線測定器を用いて放射線の観察,測定を行い,放射線の利用や安全性の問題について探究させることなどが考えられる。
小学校については,「原子力」という言葉は見当たらないが,中学校と高等学校で扱っている。中学校では,核燃料が放射線を出していることはしっかり扱っているが,「放射線」とは自然界にも存在し,医療や製造業などでも利用される役に立つものという位置づけであり,あまり危険なものであるという印象は受けない文章である。高等学校の物理基礎でやっと放射線の性質及びその「安全性の問題」に触れることになっている。しかし,気になるのは,ここでも,「危険性」ではなく,「安全性」である。
今回の原発事故を踏まえて,文部科学省は早急にこの学習指導要領解説の文言を再検討すべきであろう。もし,このまま何の修正もないとすれば,公的な「解説」なのであるから,このまま学校現場で教えなさいよという意味にとれてしまう。このコンセプトで原子力を扱うのは,今となっては,いくらなんでも無理であろう。
【追記】
この記事を書いた後,日本原子力学会から,「新学習指導要領に基づく高等学校教科書のエネルギー関連記述に関する提言」と「新学習指導要領に基づく小中学校教科書のエネルギー関連記述に関する提言」が出されていることがわかった。この提言が考慮されたかどうかはわからないが,これらの提言も,今日の視座で読むと誠に興味深い。http://www.aesj.or.jp/information/session.htmlからたどっていけば見られる。