[1月2日10:15.天候:晴 魔界王国アルカディア 王都アルカディアシティ南部・南端村郊外 稲荷神社]
威吹:「いや、申し訳ないね。うちの弟子が……」
坂吹:「…………」
威吹の横で不貞腐れるような感じで正座する坂吹の姿があった。
ギャグマンガであれば、頭にでっかいタンコブが出ていたことだろう。
威吹に引っ叩かれた痕である。
稲生:「いやー、ビックリしたよ。なに?坂吹君、そんなに強くなったんだ?」
威吹:「こやつが、『狐火を遠くへ放つ技が成し遂げられたら凄い』というものだから、研究を任せてみたのだが……」
妖狐にとって狐火の妖術は基本中の基本である。
南光坊天海僧正の伝説にもある。
駿府において病気に倒れた天海僧正を江戸から名医が向かったが、箱根の峠で夜を迎え、遭難しかけた。
そこへ大勢の妖狐達が現れ、それぞれが狐火を出して道を照らし、医者を無事に峠の向こうまで誘導したのだという。
稲生:「とんだ『高射砲』が出来上がったわけだ」
坂吹:「昨夜は巨竜が上空を飛んでいました。きっと威吹先生に仇なさんとした輩の偵察ではないかと思い……」
マリア:「それ、私達なんだけど?」
稲生:「敵が朧車に乗って現れるなんて、逆にお笑いだよ」
威吹:「だよなぁ。いや、ゴメンゴメン。ボクはついてっきり、坂吹が狐火の練習をしていると思っていたんだ」
稲生:「いや、もういいよ。……はい、これが新年の挨拶」
稲生は魔道師のローブの中から日本酒の一升瓶を取り出した。
威吹:「おおっ、かたじけない!……歳暮に牛の肉までもらっておきながら、何の返しもできず、申し訳ない」
マリア:「狐火のお返しはもらったけどな」
稲生:「マリアさん!」
マリア:「それより、勇太がこれだけ足を運んだんだ。勇太と使い魔の契約をする気は無いか?」
稲生:「あ、そういえばそんな話もありましたね」
マリア:「忘れてたの?」
稲生:「あ、いや、ハハハ……」
坂吹:「ただの人間が相手なら、先生ほどの御方がと反対するところですが、稲生さんだったらいいと思いますよ」
威吹:「ふーむ……。もうしばらく、考えさせてくれ」
稲生:「よろしく頼むよ。使い魔といっても、難しいことをしてもらおうなんて話じゃない。昔みたいな関係でいいんだ」
威吹:「つまり、キミを敵から守る為の護衛か」
稲生:「そんなところ」
稲生は大きく頷いた。
[同日11:00.天候:晴 環状線内回り電車(モハ40系)内→1番街駅→魔王城]
〔「まもなく1番街、1番街です。お出口は、右側です。中央線、地下鉄線、軌道線はお乗り換えです。この電車は、デビル・ピーターズ・バーグまで急行運転を行います」〕
焦げ茶色に塗装された電車がホームに入線する。
マリア:「積もる話もあっただろうに、もう帰るの?」
稲生:「威吹も家族持ちですからね。あんまりお邪魔はできませんよ」
マリア:「なるほど」
鉄道博物館における静態保存でしか見られないモハ40系が、魔界では現役。
かつては急行電車用にモハ80系などもいたのだが、環状線のダイヤはいい加減(ダイヤが乱れると回復運転の為に各駅停車が急行に変わる、ニューヨーク地下鉄方式)なので、使い勝手が悪いのだろう。
〔1番街〜、1番街〜。中央線は3番線と4番線、地下鉄線は地下ホーム、軌道線は駅の外です。5番線は環状線内回り、急行電車です。デビル・ピーターズ・バーグまで急行です」〕
山手線で言えば東京駅から池袋駅まで快速運転しようというもの。
停車駅は京浜東北線よりも少なく、上野東京ライン並みである。
沿線の利権によって停車駅がころころ変わるJRとは違うのだ(特に御徒町駅)。
稲生達は電車を降りた。
因みに1番線と2番線は、貨物ホームである。
冥界鉄道公社からやってくる貨物列車がアルカディアシティへの物資を運搬にやってくるのだが、中には人間界では『幽霊電車』と呼ばれる列車もやってくることがある。
稲生が乗った埼京線の最終電車も、そのうちの1つだ。
冥界鉄道公社からの片乗り入れの為、魔界高速電鉄が乗り入れすることはないが、多くは当駅折り返し回送となる為、誤乗客は元の世界に帰ることができず、めでたくこの国の住民となるわけである。
稲生達のような魔道師のように、魔法で行き来ができない限りは無理である。
或いはイリーナみたいな大魔道師がその地位(これも利権かな)を発揮して、回送列車に特別に乗せてもらうということも可能。
マリア:「急ごう。そろそろ師匠が起きちゃうよ」
稲生:「分かるんですか?」
マリア:「長いことあの人の弟子やってるから、何となくね」
稲生:「予知能力じゃないのかな?」
2人は駅の外に出た。
駅の放送で軌道線は駅の外と言っていたが、要は路面電車のターミナルがそこだということ。
先述したように、魔界では自動車交通が全く無い。
その為、人間界では駅の外がバスターミナルになっているのがセオリーだが、ここでは路面電車のターミナルになっている。
もちろん辻馬車(タクシー)の乗り場は別にある。
魔王城に戻る。
ここでの入場はとても厳格なものであるが、魔道師(特に宮廷魔導師を輩出しているダンテ一門)はほぼフリーパス。
但し、見習はマスターと共に入退場しなければならない。
その為、稲生はマリアを伴っていたわけである。
イリーナ:「おや、戻って来たのかい?」
稲生:「はい。ただいま戻りました」
イリーナ:「威吹君、使い魔の契約してくれるといいねぇ」
稲生:「は、はい!」
マリア:(見てたのか?)
イリーナ:「皆、続々と人間界に引き上げているわ。私達も帰りましょう」
稲生:「はい」
荷物をまとめ、出発の準備をする。
イリーナ:「それじゃ帰りましょうか」
稲生:「先生。総理に挨拶とかしなくていいんですか?」
イリーナ:「ああ見えて、あの人も忙しい人だからね」
横田:「クフフフフフ……。横田です。先日の新年会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります」
稲生:「うわっ、出たっ!」
イリーナ:「お忙しい幹事長さんには挨拶は無理だから、それよりはヒマな理事さんに挨拶しておくわね」
横田:「はい、この不肖横田。しかと御挨拶賜りましてございます。クフフフフフ……」
イリーナ:「じゃ、帰りましょうか」
マリアは相変わらず不快な顔をしていた。
横田:「あ、マリアンナさん。そろそろ私のパンティーコレクションに、あなたの使用済みパンティーも……」
マリア:「キモ!」
威吹:「いや、申し訳ないね。うちの弟子が……」
坂吹:「…………」
威吹の横で不貞腐れるような感じで正座する坂吹の姿があった。
ギャグマンガであれば、頭にでっかいタンコブが出ていたことだろう。
威吹に引っ叩かれた痕である。
稲生:「いやー、ビックリしたよ。なに?坂吹君、そんなに強くなったんだ?」
威吹:「こやつが、『狐火を遠くへ放つ技が成し遂げられたら凄い』というものだから、研究を任せてみたのだが……」
妖狐にとって狐火の妖術は基本中の基本である。
南光坊天海僧正の伝説にもある。
駿府において病気に倒れた天海僧正を江戸から名医が向かったが、箱根の峠で夜を迎え、遭難しかけた。
そこへ大勢の妖狐達が現れ、それぞれが狐火を出して道を照らし、医者を無事に峠の向こうまで誘導したのだという。
稲生:「とんだ『高射砲』が出来上がったわけだ」
坂吹:「昨夜は巨竜が上空を飛んでいました。きっと威吹先生に仇なさんとした輩の偵察ではないかと思い……」
マリア:「それ、私達なんだけど?」
稲生:「敵が朧車に乗って現れるなんて、逆にお笑いだよ」
威吹:「だよなぁ。いや、ゴメンゴメン。ボクはついてっきり、坂吹が狐火の練習をしていると思っていたんだ」
稲生:「いや、もういいよ。……はい、これが新年の挨拶」
稲生は魔道師のローブの中から日本酒の一升瓶を取り出した。
威吹:「おおっ、かたじけない!……歳暮に牛の肉までもらっておきながら、何の返しもできず、申し訳ない」
マリア:「狐火のお返しはもらったけどな」
稲生:「マリアさん!」
マリア:「それより、勇太がこれだけ足を運んだんだ。勇太と使い魔の契約をする気は無いか?」
稲生:「あ、そういえばそんな話もありましたね」
マリア:「忘れてたの?」
稲生:「あ、いや、ハハハ……」
坂吹:「ただの人間が相手なら、先生ほどの御方がと反対するところですが、稲生さんだったらいいと思いますよ」
威吹:「ふーむ……。もうしばらく、考えさせてくれ」
稲生:「よろしく頼むよ。使い魔といっても、難しいことをしてもらおうなんて話じゃない。昔みたいな関係でいいんだ」
威吹:「つまり、キミを敵から守る為の護衛か」
稲生:「そんなところ」
稲生は大きく頷いた。
[同日11:00.天候:晴 環状線内回り電車(モハ40系)内→1番街駅→魔王城]
〔「まもなく1番街、1番街です。お出口は、右側です。中央線、地下鉄線、軌道線はお乗り換えです。この電車は、デビル・ピーターズ・バーグまで急行運転を行います」〕
焦げ茶色に塗装された電車がホームに入線する。
マリア:「積もる話もあっただろうに、もう帰るの?」
稲生:「威吹も家族持ちですからね。あんまりお邪魔はできませんよ」
マリア:「なるほど」
鉄道博物館における静態保存でしか見られないモハ40系が、魔界では現役。
かつては急行電車用にモハ80系などもいたのだが、環状線のダイヤはいい加減(ダイヤが乱れると回復運転の為に各駅停車が急行に変わる、ニューヨーク地下鉄方式)なので、使い勝手が悪いのだろう。
〔1番街〜、1番街〜。中央線は3番線と4番線、地下鉄線は地下ホーム、軌道線は駅の外です。5番線は環状線内回り、急行電車です。デビル・ピーターズ・バーグまで急行です」〕
山手線で言えば東京駅から池袋駅まで快速運転しようというもの。
停車駅は京浜東北線よりも少なく、上野東京ライン並みである。
沿線の利権によって停車駅がころころ変わるJRとは違うのだ(特に御徒町駅)。
稲生達は電車を降りた。
因みに1番線と2番線は、貨物ホームである。
冥界鉄道公社からやってくる貨物列車がアルカディアシティへの物資を運搬にやってくるのだが、中には人間界では『幽霊電車』と呼ばれる列車もやってくることがある。
稲生が乗った埼京線の最終電車も、そのうちの1つだ。
冥界鉄道公社からの片乗り入れの為、魔界高速電鉄が乗り入れすることはないが、多くは当駅折り返し回送となる為、誤乗客は元の世界に帰ることができず、めでたくこの国の住民となるわけである。
稲生達のような魔道師のように、魔法で行き来ができない限りは無理である。
或いはイリーナみたいな大魔道師がその地位(これも利権かな)を発揮して、回送列車に特別に乗せてもらうということも可能。
マリア:「急ごう。そろそろ師匠が起きちゃうよ」
稲生:「分かるんですか?」
マリア:「長いことあの人の弟子やってるから、何となくね」
稲生:「予知能力じゃないのかな?」
2人は駅の外に出た。
駅の放送で軌道線は駅の外と言っていたが、要は路面電車のターミナルがそこだということ。
先述したように、魔界では自動車交通が全く無い。
その為、人間界では駅の外がバスターミナルになっているのがセオリーだが、ここでは路面電車のターミナルになっている。
もちろん辻馬車(タクシー)の乗り場は別にある。
魔王城に戻る。
ここでの入場はとても厳格なものであるが、魔道師(特に宮廷魔導師を輩出しているダンテ一門)はほぼフリーパス。
但し、見習はマスターと共に入退場しなければならない。
その為、稲生はマリアを伴っていたわけである。
イリーナ:「おや、戻って来たのかい?」
稲生:「はい。ただいま戻りました」
イリーナ:「威吹君、使い魔の契約してくれるといいねぇ」
稲生:「は、はい!」
マリア:(見てたのか?)
イリーナ:「皆、続々と人間界に引き上げているわ。私達も帰りましょう」
稲生:「はい」
荷物をまとめ、出発の準備をする。
イリーナ:「それじゃ帰りましょうか」
稲生:「先生。総理に挨拶とかしなくていいんですか?」
イリーナ:「ああ見えて、あの人も忙しい人だからね」
横田:「クフフフフフ……。横田です。先日の新年会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります」
稲生:「うわっ、出たっ!」
イリーナ:「お忙しい幹事長さんには挨拶は無理だから、それよりはヒマな理事さんに挨拶しておくわね」
横田:「はい、この不肖横田。しかと御挨拶賜りましてございます。クフフフフフ……」
イリーナ:「じゃ、帰りましょうか」
マリアは相変わらず不快な顔をしていた。
横田:「あ、マリアンナさん。そろそろ私のパンティーコレクションに、あなたの使用済みパンティーも……」
マリア:「キモ!」