報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「新年の挨拶」

2019-01-14 10:14:41 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月2日10:15.天候:晴 魔界王国アルカディア 王都アルカディアシティ南部・南端村郊外 稲荷神社]

 威吹:「いや、申し訳ないね。うちの弟子が……」
 坂吹:「…………」

 威吹の横で不貞腐れるような感じで正座する坂吹の姿があった。
 ギャグマンガであれば、頭にでっかいタンコブが出ていたことだろう。
 威吹に引っ叩かれた痕である。

 稲生:「いやー、ビックリしたよ。なに?坂吹君、そんなに強くなったんだ?」
 威吹:「こやつが、『狐火を遠くへ放つ技が成し遂げられたら凄い』というものだから、研究を任せてみたのだが……」

 妖狐にとって狐火の妖術は基本中の基本である。
 南光坊天海僧正の伝説にもある。
 駿府において病気に倒れた天海僧正を江戸から名医が向かったが、箱根の峠で夜を迎え、遭難しかけた。
 そこへ大勢の妖狐達が現れ、それぞれが狐火を出して道を照らし、医者を無事に峠の向こうまで誘導したのだという。

 稲生:「とんだ『高射砲』が出来上がったわけだ」
 坂吹:「昨夜は巨竜が上空を飛んでいました。きっと威吹先生に仇なさんとした輩の偵察ではないかと思い……」
 マリア:「それ、私達なんだけど?」
 稲生:「敵が朧車に乗って現れるなんて、逆にお笑いだよ」
 威吹:「だよなぁ。いや、ゴメンゴメン。ボクはついてっきり、坂吹が狐火の練習をしていると思っていたんだ」
 稲生:「いや、もういいよ。……はい、これが新年の挨拶」

 稲生は魔道師のローブの中から日本酒の一升瓶を取り出した。

 威吹:「おおっ、かたじけない!……歳暮に牛の肉までもらっておきながら、何の返しもできず、申し訳ない」
 マリア:「狐火のお返しはもらったけどな」
 稲生:「マリアさん!」
 マリア:「それより、勇太がこれだけ足を運んだんだ。勇太と使い魔の契約をする気は無いか?」
 稲生:「あ、そういえばそんな話もありましたね」
 マリア:「忘れてたの?」
 稲生:「あ、いや、ハハハ……」
 坂吹:「ただの人間が相手なら、先生ほどの御方がと反対するところですが、稲生さんだったらいいと思いますよ」
 威吹:「ふーむ……。もうしばらく、考えさせてくれ」
 稲生:「よろしく頼むよ。使い魔といっても、難しいことをしてもらおうなんて話じゃない。昔みたいな関係でいいんだ」
 威吹:「つまり、キミを敵から守る為の護衛か」
 稲生:「そんなところ」

 稲生は大きく頷いた。

[同日11:00.天候:晴 環状線内回り電車(モハ40系)内→1番街駅→魔王城]

〔「まもなく1番街、1番街です。お出口は、右側です。中央線、地下鉄線、軌道線はお乗り換えです。この電車は、デビル・ピーターズ・バーグまで急行運転を行います」〕

 焦げ茶色に塗装された電車がホームに入線する。

 マリア:「積もる話もあっただろうに、もう帰るの?」
 稲生:「威吹も家族持ちですからね。あんまりお邪魔はできませんよ」
 マリア:「なるほど」

 鉄道博物館における静態保存でしか見られないモハ40系が、魔界では現役。
 かつては急行電車用にモハ80系などもいたのだが、環状線のダイヤはいい加減(ダイヤが乱れると回復運転の為に各駅停車が急行に変わる、ニューヨーク地下鉄方式)なので、使い勝手が悪いのだろう。

〔1番街〜、1番街〜。中央線は3番線と4番線、地下鉄線は地下ホーム、軌道線は駅の外です。5番線は環状線内回り、急行電車です。デビル・ピーターズ・バーグまで急行です」〕

 山手線で言えば東京駅から池袋駅まで快速運転しようというもの。
 停車駅は京浜東北線よりも少なく、上野東京ライン並みである。
 沿線の利権によって停車駅がころころ変わるJRとは違うのだ(特に御徒町駅)。

 稲生達は電車を降りた。
 因みに1番線と2番線は、貨物ホームである。
 冥界鉄道公社からやってくる貨物列車がアルカディアシティへの物資を運搬にやってくるのだが、中には人間界では『幽霊電車』と呼ばれる列車もやってくることがある。
 稲生が乗った埼京線の最終電車も、そのうちの1つだ。
 冥界鉄道公社からの片乗り入れの為、魔界高速電鉄が乗り入れすることはないが、多くは当駅折り返し回送となる為、誤乗客は元の世界に帰ることができず、めでたくこの国の住民となるわけである。
 稲生達のような魔道師のように、魔法で行き来ができない限りは無理である。
 或いはイリーナみたいな大魔道師がその地位(これも利権かな)を発揮して、回送列車に特別に乗せてもらうということも可能。

 マリア:「急ごう。そろそろ師匠が起きちゃうよ」
 稲生:「分かるんですか?」
 マリア:「長いことあの人の弟子やってるから、何となくね」
 稲生:「予知能力じゃないのかな?」

 2人は駅の外に出た。
 駅の放送で軌道線は駅の外と言っていたが、要は路面電車のターミナルがそこだということ。
 先述したように、魔界では自動車交通が全く無い。
 その為、人間界では駅の外がバスターミナルになっているのがセオリーだが、ここでは路面電車のターミナルになっている。
 もちろん辻馬車(タクシー)の乗り場は別にある。

 魔王城に戻る。
 ここでの入場はとても厳格なものであるが、魔道師(特に宮廷魔導師を輩出しているダンテ一門)はほぼフリーパス。
 但し、見習はマスターと共に入退場しなければならない。
 その為、稲生はマリアを伴っていたわけである。

 イリーナ:「おや、戻って来たのかい?」
 稲生:「はい。ただいま戻りました」
 イリーナ:「威吹君、使い魔の契約してくれるといいねぇ」
 稲生:「は、はい!」
 マリア:(見てたのか?)
 イリーナ:「皆、続々と人間界に引き上げているわ。私達も帰りましょう」
 稲生:「はい」

 荷物をまとめ、出発の準備をする。

 イリーナ:「それじゃ帰りましょうか」
 稲生:「先生。総理に挨拶とかしなくていいんですか?」
 イリーナ:「ああ見えて、あの人も忙しい人だからね」
 横田:「クフフフフフ……。横田です。先日の新年会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります」
 稲生:「うわっ、出たっ!」
 イリーナ:「お忙しい幹事長さんには挨拶は無理だから、それよりはヒマな理事さんに挨拶しておくわね」
 横田:「はい、この不肖横田。しかと御挨拶賜りましてございます。クフフフフフ……」
 イリーナ:「じゃ、帰りましょうか」

 マリアは相変わらず不快な顔をしていた。

 横田:「あ、マリアンナさん。そろそろ私のパンティーコレクションに、あなたの使用済みパンティーも……」
 マリア:「キモ!
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“大魔道師の弟子” 「(個人)朧車タクシー」

2019-01-13 20:31:17 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月2日10:00.天候:晴 魔界王国アルカディア 王都アルカディアシティ南部・南端村]

 稲生達を乗せた旧型国電モハ72系は、無事に魔界高速電鉄環状線のサウスエンド駅に到着した。
 村の正式名称はサウスエンドである為、駅名もその名が付いている。
 だが、この村を作り上げた日本人移住者達(死後ここに来た者や神隠しに遭った者など)によって『南端村』の愛称を付けられた。
 もっとも、そのネーミングはただ単にサウスエンドを和訳しただけである。
 ここで電車を降りた稲生とマリアは、駅前で客待ちしていた辻馬車に乗……。

 朧車:「タクシー利用ですか?どちらまで?」
 稲生:「!!!」
 マリア:「!!!」

 タクシー乗り場の先頭には妖怪・朧車がいた。
 垂れ目ではあるが、それでも大きくて禍々しい顔を稲生達に向けて来る。

 稲生:「すいません。タクシー乗り場、移転したんですね。ここは一般車駐車場かな?」

 尚、魔界には自動車交通は無い。
 自動車の代わりになるものは馬車であり、バイクの代わりになるのは早馬、自転車はポニーである。
 従って魔界でタクシーと言うと、それはイコール辻馬車ということになる。
 ご丁寧にも、ちゃんと幌の上に『TAXI』という行灯が乗っかっている。
 尚、南端村は日本人村であるが、江戸時代の駕籠や明治時代の人力車なるものは存在しない。
 全て馬車になる……はずなのだが!

 朧車:「お、お客さん!?乗り場は昔からここですよ!?」
 マリア:「白タクか!?」

 マリアは魔法の杖を構えた。
 マリアの頭の中では、きっと敵キャラとエンカウントした時の戦闘BGMが流れているはずだ。

 朧車:「アッシら車の妖怪も、ようやくタクシー営業が認められたんです」

 朧車の頭の上には、『TAXI』と書かれた白い帽子が被せられていた。

 朧車:「さすがは女王陛下様ですよ」
 稲生:「そ、そうなの?」
 朧車:「従来の辻馬車と違って、このようにちゃんと明朗会計のメーター制です」

 辻馬車は基本的に料金交渉制である。
 だが、せめて環状線の内側だけでもメーター制にできないかとの声が市民達の間から上がっている。
 その為、辻馬車事業者の中にはかつて東京で行われていた『円タク』のような料金定額制を設ける所も出て来た。

 稲生:「あの、メーターが信用できる理由は、本当にそれが明朗会計であることを保証する役所があるからであって……」

 日本の場合は地元の陸運局。
 その為、外国では例え先進国であったとしても、主要都市以外では未だに料金交渉制のタクシーが営業している。
 これはその料金メーターが本当に明朗会計なものであるかを保証する機関が無いからである。

 マリア:「初乗りいくら?」
 朧車:「25ゴッズです」

 1ゴッズが約10円であるから、だいたい初乗り料金は250円か。
 アルカディア王国の物価は安いが、確かにタクシー料金も安い。

 マリア:「で、上がり幅は?」
 朧車:「320メートル毎に4ゴッズです」
 マリア:「よし、乗ろう」
 朧車:「ありがとうございます」

 320メートル毎に40円の上がり幅は安い。
 稲生達は朧車に乗り込んだ。
 この朧車、平安時代の牛車が化けた妖怪だとされる。

 朧車:「どちらまで行きます?」
 稲生:「稲荷神社まで。あの妖狐の威吹が住んでる所」
 朧車:「おお。威吹様のお知り合いでしたか。これは光栄です」

 朧車はゆっくりと走り出した。

 マリア:「まさか魔界で、こういう日本のトラディショナルなタクシーに乗るとは思わなかったよ」

 辻馬車の料金交渉はマリアの役目である。
 こういう時、エレーナでなくても魔女の方が料金交渉が上手い。
 エレーナの場合は、むしろタダ乗りしそうだ。

 稲生:「日本の観光地で駕籠や人力車に乗ることはできますが、さすがに牛車は聞きませんねぇ……」
 マリア:「へえ、乗れるの?」
 稲生:「そういう所がありますよ。どちらも主に京都辺りじゃないかな。東日本だと……日光辺りで乗れるかなぁ……?」
 朧車:「しかしお客さん達は、アッシに乗れて運がいいですよ」
 稲生:「どうして?」
 朧車:「威吹様に御用ということは、神社の境内に入られるでしょう?」
 稲生:「もちろん」
 朧車:「あの鳥居までの長い階段、登るの大変じゃないですか?」
 稲生:「そうだねぇ。まっ、気長に登るか、魔法でも使って……」
 朧車:「ところが、アッシの場合、その必要はございやせん」
 稲生:「えっ?というと?」
 朧車:「アッシは他の辻馬車と違って、こんなことができるんです」

 すると朧車、フワッと飛び上がった。

 稲生:「おおーっ!?そうか!朧車は空を飛べるんだ!」
 朧車:「このまま一気に境内まで行きやすよ」
 稲生:「なるほど!」

 だが、朧車が神社の境内上空まで行くと……。

 稲生:「何だ!?」

 朧車を火の玉が掠めて飛んで行った。

 マリア:「下から攻撃されてる!」
 稲生:「何ですって!?」

 稲生は下を覗き込んだ。
 すると境内から、1人の男が左手から青白い火の玉を出していた。
 狐火である。
 それをボウッと浮かび上げると、今度は手持ちの妖刀で、野球のノックをするかのように火の玉を打ち放った。

 稲生:「あれは坂吹君!?」

 緑色の着物に焦げ茶色の袴を穿いている。
 髪の色は威吹の銀髪に対し、狐らしく茶髪である。

 マリア:「やめさせろ!このままじゃ着陸できないどころか、撃墜される!」
 稲生:「ちょ、ちょっと待って!」

 稲生はスマホを出した。
 それでどこかに電話を掛ける。

 稲生:「あ、もしもし!さくらさんですか!?僕、稲生勇太です!……あ、どうもどうも!あ、いや、今それどころじゃないんです!実は僕達、朧車タクシーに乗っていて、今、神社の上空にいるんです!そしたら、坂吹君から『高射砲』で攻撃されてるんですよ!何とか中止させてもらえませんか!?……はい!……はい!そうなんです!すいませんけど、なるべく早くお願いします!!」
 マリア:「電話が繋がるのか!?」
 稲生:「実はそうなんです!」

 威吹の家に黒電話が引かれているのを思い出した稲生だった。
 江戸時代の妖怪である威吹が固定電話を使うのはもちろん、公衆電話を使えるようになるまで相当な時間を費やしたものだ。
 しかし、最後には何とかガラケーの使い方が分かった時点で稲生と別れて暮らしている。
 そしてそれは、江戸時代の人間であるさくらもそうだった。
 しかし、黒電話くらいは使えるようになったらしい。

 しばらくすると、建物の中から威吹が出て来て、坂吹にゲンコツを食らわし、強制中止にしたところを確認して、ようやく稲生達は着陸することができたのである。
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“大魔道師の弟子” 「魔界高速電鉄環状線」

2019-01-12 19:45:47 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月2日07:00.天候:晴 魔界王国アルカディア 魔王城ゲストルーム]

 魔王城内にあるゲストルームは、まるで高級ホテルのスイートルームのような造りである。
 尚、女王ルーシー・ブラッドプール1世は吸血鬼の出自であるが、寝る時は似たような造りの部屋に設置されたベッドに寝るものであり、けして十字架のマークが付いた棺の中に寝るわけではない。
 スイートルームは更に2部屋に分かれており、男女混合のイリーナ組にとっては都合が良かった。

 稲生:「ん……」

 稲生はダブルサイズのベッドに寝ている。
 もちろん、1人である。
 枕元のスマホが発車メロディーを流した。

 稲生:「うーん……」

 稲生は手を伸ばしてアラームを止めた。
 そして、大きな欠伸をして起き上がる。

 稲生:「もう朝か……」

 朝日が室内に差し込んではいるものの、やはり何かフィルターを掛けたかのように薄暗い。
 もちろん太陽を直接覗き込んではいけないが、ここから見る限り、大きさは人間界の太陽と同じようではあるが……。
 稲生はベッドから出ると、スイートルーム内にある洗面所に向かった。
 そこで顔を洗っていると……。

 マリア:「おはよう……」
 稲生:「あ、おはようございます」
 マリア:「頭痛ェ……。飲み過ぎた……」
 稲生:「ワインやカクテルなら大丈夫なのでは?」
 マリア:「それでもモノには限度ってものがある。後でエレーナから二日酔いの薬でももらうか……」
 稲生:「それがいいですよ。でも、エレーナはホテルに帰ったんじゃないですか?」
 マリア:「いや、勇太が参加するようになってから、あいつも魔王城に泊まるようになった」
 稲生:「そうなんですか」
 マリア:「全く。下心見え見えだ。あの黄色いゴリラ」
 稲生:「プッ!」( ´,_ゝ`)

 『黄色い猿』と言ってしまうと、それは白人から見た黄色人種(特に日本人)のことを侮蔑的に指すものであるが、『黄色いゴリラ』とはエレーナのことを指す。
 所以はエレーナの金髪がマリアのそれよりも濃い黄色であり、また体付きもマリアより良い(マリアより身長が高く、スリーサイズも大きい為、必然的に体重も上である)ことから、いつの間にかマリアがそういう渾名を付けた。
 もちろん、本人は嫌がっている。当たり前だ。

 稲生:「じゃあ、後で僕がもらってきますよ」
 マリア:「いいよ。私がもらってくる」
 稲生:「マリアさんが行くとケンカになりそうですが、僕が行くとすんなり貰えると思います」
 マリア:「……確かにな。……って、勇太も何気に女の扱い上手くなってない?」
 稲生:「女性に囲まれて修行してたら、そりゃ扱いもそうなりますって」
 マリア:「……確かに」

 ダンテ一門の男女比、男性1人に対し、女性は9人である。
 この男女比の大きな偏りは、他門からも批判の対象となっている。
 と、その時だった。

 メイド:「失礼します」

 メイドが数人ワゴンを押してやってきた。
 そこには豪華な朝食が載っていた。

 メイド:「朝食をお持ち致しました」
 稲生:「あっ、ああ、どうも」

 メイドは浅黒い肌をしていた。
 そして耳は長く尖っている。
 ダークエルフのようにも見えるが、もっと別の種族かもしれない。
 いずれにせよ、人間ではないことは確かである。
 メイド達はテキパキとテーブルをセッティングして、朝食をきれいに並べ立てた。

 メイド:「何かご要望がございましたら、何なりとお申し付けください」

 そこで稲生はピーンと来た。

 稲生:「ポーリン組の泊まっている部屋があるでしょう?そこに行って、二日酔いの薬を譲ってもらうよう、言って来てもらえませんか?」
 メイド:「かしこまりました」

 魔族メイドは恭しくお辞儀をすると、部屋を出て行った。

 稲生:「これでいいでしょう、マリアさん?言われてみれば、エレーナ達の泊まっている部屋って、他の組の部屋の前を通らないと行けないんですよね。それはまるで、『女性専用車』の中を通るようなもの。だったら、メイドさんにお願いすれば廉も立たないということですね」
 マリア:「……勇太、あなた、魔女達の扱いが上手くなって来てるねぇ……」

 マリアは驚いた顔をしていた。

 稲生:「どうせ僕は『男性』というだけで【お察しください】ですから」
 マリア:「申し訳ないと思う反面、私も昔はそっち側の魔女だったから、あいつらの気持ちも分かってとてもフクザツ」
 稲生:「さてと、朝食の前に勤行をやらなければ……。あ、マリアさんは先に食べてていいですからね」
 マリア:「私は師匠を起こして来るよ。どうせ、『あと5分』を1時間は繰り返すだろうから」
 稲生:「僕の勤行が終わる前に起きて下さるといいですねぇ……」

 稲生は再び自分が寝泊まりしていたベッドルームに入った。

 稲生:「えーと、太陽の向きはあっちだから、初座は向こうだな」

 そこで稲生、ふと気づく。

 稲生:「大石寺の方向……どこ?」

 どうしても大石寺の方向が分からぬ場合は、東に向かって勤行でも良いと思うのだが、如何だろうか?

[同日09:00.天候:晴 魔界高速電鉄(アルカディアメトロ)1番街駅]

 朝食を終えた稲生はマリアを伴って、威吹の所へ新年の挨拶に行こうと思った。
 イリーナに頼めば瞬間移動魔法を掛けてくれるわけだが、ここはあえて電車で行くことにした。
 1番街駅は魔王城への最寄り駅であり、人間界で言えば東京駅のようなものである。
 地下鉄も通っており、こちらは大手町駅といったところ。
 但し、人間界のそれよりはコンパクトな造りになっている。

〔まもなく6番線に、環状線外回り、各駅停車が6両編成4ドアで到着致します。白線の内側で、お待ちください。この電車は、サウスエンドより先、急行となります〕

 ホームにある発車票は反転フラッグ式(所謂、パタパタ)。
 パタパタと音を立てて、発車時刻と種別が表示される。

 稲生:「おっ、モハ72系だ」

 JR山手線のようなウグイス色に塗装された旧型の通勤電車がやってきた。
 大きなエアー音を立てて、片開きのドアが開く。

〔「1番街、1番街です。中央線、地下鉄線、軌道線はお乗り換えです。6番線の電車は環状線外回り、各駅停車です。サウスエンドより先、急行となります」〕

 地下鉄線は魔族の乗客と乗務員が多いが、高架線は人間の乗務員と乗客が多い。
 日本の鉄道ほどではないが、一応の安全確認はやっている。
 1番後ろの車両に稲生達は乗ったが、黒人の乗務員が『停止位置よーし!』『レピーター点灯』の指差確認をやっているのが分かった。
 電車に乗り込んだ稲生とマリアは、ブルーの座席に腰掛けた。

〔「環状線外回り各駅停車、発車します」〕

 車掌:「レピーター点灯。乗降、終了。閉扉(※)」

 ※JR東日本では『発車』

 車掌:「側灯、滅」

 魔界高速電鉄では閉扉後、ブザーを鳴らさずとも発車するようである。
 日本の鉄道ならそこで乗務員室の窓から顔を出して前方確認するわけであるが、魔界高速電鉄ではやらないらしく、車掌はさっさと運転席に座ってしまう。

 稲生:「外国に譲渡された日本の電車に乗っている気分」
 マリア:「いや、それでいいんだよ。当たってるよ」

 『霧の都』とも称されるアルカディアシティを、日本の旧型国電は往く。
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“大魔道師の弟子” 「魔王城新年会」 3

2019-01-11 19:00:36 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月1日20:00.天候:晴 魔界王国アルカディア 魔王城コンベンションホール]

 魔王城大ホールにある大時計が鐘を8回鳴らす。
 高さ30メートルもある大時計、その頂上にある鐘を鳴らすのは2つの彫像。
 1つはまるでトランプのジョーカーに描かれているかのような悪魔の姿。
 もう1つは、ドラクエシリーズ辺りに出て来そうな勇者の姿。
 これらが交互に扉の向こうから出て来ては、悪魔は大鎌、勇者は大剣を振り上げて鐘を鳴らす。
 これの謂われについては、実は誰も知らない。
 安倍春明は、『勇者の彫像は正しく勇者で良い。しかし悪魔の彫像はイコール魔王とは言い難い。恐らく、黒幕としての悪魔ではないか。真の勇者とは魔王を倒す者ではない。その後ろ盾となっている真の黒幕を倒してこその勇者である』としている。

 横田:「今般の新年会における大感動は、年末まで冷めやらぬことでありましょう。大変盛り上がりのところ恐縮ではございますが、20時を持ちまして一次会終了とさせて頂きます。引き続きお楽しみの方は、これより二次会としてお続けください」

 稲生はスーツのポケットから懐中時計を出した。
 父親からもらった威吹とお揃いのものである。

 稲生:「あ、もうこんな時間だ」
 イリーナ:「日本と時差が無くて良かったわね」
 稲生:「ビザ無し渡航できるからいいですね」
 マリア:「どうします?部屋に引き上げますか?」
 イリーナ:「いいえ。せっかくの新年なんだし」

 イリーナは笑みを浮かべた。

[同日20:30.天候:晴 同国王都アルカディアシティ上空]

 イリーナ:「うひょーっ!絶景ーっ!」

 イリーナの使い魔はドラゴンである。
 緑色の鱗に覆われ、背中には大きなコウモリの翼を生やしたスタンダードなドラゴンだ。
 名前をリシーツァという。

 リシーツァ:「寒くないですか、イリーナさん?」
 イリーナ:「平気平気!アルカディア王国は常春の国だからねぃ!」

 それでも空は涼しい方だし、如何に常春の国とは言えど、心なしか寒く感じる。

 稲生:「それにしても先生、まさか空の散歩って言うからどうするのかと思いましたが、この手を使うとは!」
 イリーナ:「リシーちゃんに乗るの、久しぶりでしょう?」
 マリア:「確か、勇太の学校から脱出する時に便乗したような……?」
 イリーナ:「ああ、そんなこともあったわね」

 リシーツァは魔王城の近くを旋回している。
 この城は時計台が別にあり、城内に時を告げる大時計と連動している。
 この時計台が城下の人々に時を告げているのである。

 稲生:「おおっ!真下にはモハ40系が!」

 魔界高速電鉄(アルカディアメトロ)の環状線を走る電車に狂喜する稲生。

 イリーナ:「東京ほどじゃないけど、なかなか夜景もきれいでしょ?」
 稲生:「そうですね!剣と魔法のファンタジーじゃないみたい」
 マリア:「都市化が進んでいるので、エルフや妖精達も余程のことが無い限り、王都には近づかないらしいです」
 イリーナ:「しょうがない。これも時代の流れよ」
 リシーツァ:「どこか行きたい所ありますか?」
 イリーナ:「どこでもいいわ」
 稲生:「南端村なんてどうでしょう?」
 イリーナ:「おお〜!威吹君の所か。ちょっと上空からお邪魔してみましょうか。リシーちゃん、南の方に行ってくれる」
 リシーツァ:「はい。分かりました」

 イリーナがこのリシーツァを使い魔にしたのは紆余曲折ある。
 それだけで1話分作れそうなものだ。
 要は“鶴の恩返し”のドラゴン版だと思えば良い。
 とある理由で大ケガしていたリシーツァを、まだマスターに成り立てのイリーナが助けてあげたことが理由。
 修行のやり方を巡ってダンテと大ゲンカして飛び出し、酒に溺れていたところをリシーツァと出会ったというもの。

 リシーツァ:「着きましたぁ!」
 稲生:「速っ!」
 イリーナ:「ヘリコプターよりも速いもの」

 神社の境内にはまだ明かりが灯っている。

 マリア:「このまま着陸したら、イブキのヤツ、びっくりするぞ」

 マリアは笑いを堪えながら言った。

 稲生:「だったらいいですよ。明日また、改めて新年の挨拶に行きますから」
 イリーナ:「それに、ドラゴンが着陸するにはちょっと狭いかもね」
 稲生:「えっ、滑走路が必要なんですか?」
 イリーナ:「戦闘機のハリアーが着陸するものだと思ってくれていいわ」
 稲生:「は、ハリアーですか!?」

 航空母艦にも搭載されている為、長い滑走路を必要としないハリアーではあるが……。

 イリーナ:「あ、因みに戦闘力はリシーちゃんとどっこいどっこいよ」
 稲生:「ですよねぇ……」
 リシーツァ:「何ですって!?人間界にはドラゴンに対抗しよう等という愚か者がいるんですか!?」
 イリーナ:「リシーちゃんと互角に戦える兵器は持っているけど、そんなバカなことを考えている人間はいないから安心して」
 稲生:(そもそも本物のドラゴンが人間界にはいないしな)
 マリア:「魔法を使われたら、ハリアーの方が撃墜されると思います」
 イリーナ:「おお〜!それもそうか!」

 ドラゴンは魔法を使うこともある。
 中にはそれで人間に化けることもあるという。

 イリーナ:「さぁさ、そろそろ帰りましょうか。酔いも覚めて来たしね。部屋に入って飲み直しましょうか」
 リシーツァ:「じゃあ、魔王城に戻りまーす」

 よく見ると、上空には月が2つ。

 稲生:「先生、思ったんですけど……」
 イリーナ:「あら、なぁに?」
 稲生:「もしかして、ここは異世界というより別の惑星なのでは?」
 イリーナ:「そうかもしれないわね。太陽系の外にある、また別の太陽系に似た星なのかもね」

 月のような衛星、1つは地球のように青く、もう1つは火星のように赤い。
 そう言えば昼は昼で、太陽(のような恒星)は確かに昇っている。
 だがその太陽は、確かに比較的暗い。
 まるで日食が常に起こっているくらいの暗さだ。
 恐らく、こちらの世界の太陽よりは小さい(弱い)か、あるいは遠いのかもしれない。

 稲生:「なるほど……」
 イリーナ:「アレフガルドよりは明るいわよ。ちゃんと昼夜の区別もあるし」
 稲生:「アレフガルドって、某有名RPGじゃあるまいし……」
 イリーナ:「ああ。実はその名前、この王国名の候補に挙がってたのよ」
 稲生:「そうなんですか!?」
 イリーナ:「結局はバァルの爺さんが、魔族にとっての理想郷たるアルカディアにしようなんて言い出したからね」

 大魔王バァルによる帝政(絶対王制)が終了し、ルーシー女王や魔界共和党による立憲君主制となっても国名が変更されることはなかった。

 こうして部屋に戻った稲生達であったが、手紙が届いていた。
 どうやら宴会の始まりの時に言っていた安倍の言葉は冗談ではなく、東京に戻る前にルーシーに献血して行けというものであった。
 横田の最後のセリフが、『非協力的な場合は出国許可を出しかねます』とまで。
 これでは協力依頼ではなく強制である。
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“大魔道師の弟子” 「魔王城新年会」 2

2019-01-11 10:16:35 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月1日18:00.天候:晴 魔界王国アルカディア 魔王城コンベンションホール]

 横田:「クフフフフ……。それではお時間になりましたので、開始させて頂きたいと存じます。先般の総幹部会……もとい、魔界共和党納会における大感動は今だ冷めやらぬものであります。今年は人間界において、波乱万丈となる予知が皆様から出ておりますが、今宵は平和となったこの魔界において……」

 司会は魔界共和党理事の横田のようだ。

 稲生:「ダメだ。顕正会の幹部会に参加している気分になる」
 イリーナ:「仏法の話は全くしていないのだからいいじゃない」

 横田:「申し遅れました。私、司会の横田でございます。それでは次に、魔界共和党幹事長にしてアルカディア王国の人間代表、安倍春明総理より新年の御挨拶がございます。総理、よろしくお願い致します」

 モーニングスタイルの安倍春明が登壇する。

 イリーナ:「段々、日本の安倍総理に似てきたわねぇ……」
 稲生:「遠い親戚ということですが、やはり血が通っていると似るものですね」

 安倍:「えー、皆さん、明けましておめでとうございます。本年も何卒よろしくお願い致します。昨年を振り返ってみますと、人間界では波乱な1年となったようでございますが、この魔界王国アルカディアにおきましては、幸いにも大きな災害並びに紛争等の発生は無く、また……」

 安倍の挨拶を聞いていて、稲生は思った。

 稲生:(あー……日本の安倍総理の喋り方と似て来てるなぁ……)

 安倍:「……遠い親戚が同じ総理大臣を務める日本国におきましては、金上天皇陛下の退位が行われ、また皇太子殿下の即位が行われると伺っております。しかしながら我が国においては、ルーシー・ブラッドプール陛下がまだまだ若く、お元気でいらっしゃいますので……」

 マリア:「よほどのクーデターが無い限り、ずっとブラッドプール王朝だと思いますよ」
 イリーナ:「しかも出自がヴァンパイアじゃ、『崩御』も無いだろうしね」

 三権分立な所は日本をモデルにしたというのは頷けるが、王室の運営方法は日本の皇族ではなく、イギリス王室を参考にしたとのこと。
 やはり象徴天皇制では、何か問題があると判断したか。

 安倍:「……長々とご清聴ありがとうございました。それでは今宵は皆で盛り上がりましょう。もしも私が酔い潰れましたなら、適当な部屋に放り込んでおいて頂ければ結構です」
 横田:「ありがとうございました。それでは総理が酔い潰れました暁には、私のパンティーコレクションルームに……」
 安倍:「それは却下だ!」
 横田:「それは残念です。それでは皆様、グラスを拝借」

 一同、ワイングラスを手にする。

 横田:「それでは安倍総理より、乾杯の音頭を取らせて頂きます。総理、お願いします」
 安倍:「それでは今年も1年、王国の平和と繁栄を願って、乾杯!」
 一同:「乾杯!」

 こうして、新年会が始まった。
 新年会は立食形式である。
 魔界の食べ物というと、おどろおどろしいものをイメージするが、今回は人間界を主に活動拠点とする魔道師達の新年会ということもあり、見た目は普通の料理が並んでいた。

 マリア:「おっ、このローストビーフはいける!」
 稲生:「本当ですか。ローストビーフはイギリス料理ですもんね」
 イリーナ:「これも美味しいわよ」
 安倍:「はっはっは!稲生君、沢山食べて栄養つけてくださいよ」
 稲生:「安倍総理!」
 安倍:「特にこれなんか、血や肉になる牛魔の肉です」
 イリーナ:「よく見たら、鉄分の多い料理が並んでますわね。鉄分には造血作用がありましてぇ……」
 マリア:「うっ!ま、まさか……」
 安倍:「稲生君!ルーシーに血のお歳暮を!」
 稲生:「総理!もう新年明けてますよ!?」
 イリーナ:「要は献血のお願いね」

 イリーナは溜め息をついた。

 安倍:「ルーシーはキミの血が気に入ったんだ!ついでにヴァンパイアにならないかとのお誘いだ!」
 稲生:「ぼ、僕は魔道師ですよ!?」
 イリーナ:「総理、もう酔っ払ったんですか?ただの献血はともかく、さすがにそれは私も反対します」
 マリア:「そうですよ!」

 吸血鬼に噛まれると、噛まれた側も強制的に吸血鬼となる。
 それを避ける為、『献血』という形を取っているのである。
 何のことはない。
 本当に人間界の献血ルームみたいなところで、血液パックに献血者の血液を注入するだけである。
 その血液パックは、すぐさまルーシーの所へ送られる仕組みだ。

 稲生:「栄養をつけたらよろしく頼む!」

 と、その時、仮設ステージからロックな音が響いて来た。

 リリアンヌ:「ヒャーッハッハッハッハッハーッ!正月からロックに行くにぜぇぇぇぇぇっ!」

 リリアンヌが趣味のロックを披露するようである。
 いっそのこと、人間界でもロッカーになればいいのにと思う。

 稲生:「それにしても、今年は日本も大変なことになるんですか?」
 イリーナ:「残念だけどね。アタシはまだしてないけど、ポーリン姉さんなんかは『東京オリンピックが中止になる』くらいの大災厄が起きるなんて予言もしているくらいよ」
 稲生:「そ、そんなに!?」
 マリア:「オリンピックはまた更に来年なのに、もうそこまで予知されているとは……」
 イリーナ:「ただ、あのお姉さんは魔法薬の開発・製造は門内イチだけど、占い関係は……ちょっとね」
 マリア:「宮廷魔導師がそれでいいんですか?」
 イリーナ:「まあ、王国の行く末を占うだけが仕事じゃないから。幸い今この王国は平和だから、そんなに占いに重点は置かれていないし、それよりも魔法薬を国内に流通させて病気を治してあげる方が、ここの政府の国民からの支持も右肩上がりになっていいわけよ」
 稲生:「こういう所にも政治的思惑が……」
 イリーナ:「ま、どこの国にもあるわよ。それよりまあ、献血のことは別にして、タダ飯・タダ酒なんだから、ありがたく頂戴しましょう」
 マリア:「タダより高い物は無いはずですけどね」

 BGMはリリアンヌのロック。
 エレーナに言わせると、アルカディア国内にあるリリアンヌの学生寮には、ロックのCDが沢山置いてあるのだという。
コメント
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