報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔女の料理」 2

2019-01-22 10:17:12 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月3日15:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 上落合公園]

 稲生:「そ、それで……?一体、どういうことなんだ?」
 エレーナ:「実は昔……まだマリアンナが見習だった頃、あの屋敷で集会が行われたことがある。もちろん、今建っている場所とは別の場所だったかな」

 今は長野県北部の山中だが、稲生が初めてマリアの屋敷を訪れた時は南部にあった。
 今はJR大糸線で向かうが、当時は飯田線で向かったと記憶している。
 どちらもヘタしたら遭難フラグが簡単に立つような場所だ。

 エレーナ:「まだその時はポーリン先生とイリーナ先生のケンカもそれほどでも無かったから、私も代表でお呼ばれしたんだが……」

 その時、マリアが全員分の料理を用意したのだという。
 当時はまだ人形を操る魔法が完璧ではなかった為。

 エレーナ:「稲生氏、例えばカレーを作るとしよう」
 稲生:「う、うん」
 エレーナ:「カレーは作ったことがあるか?」
 稲生:「いや、無いな。自分で作ろうとすると、どうしてもボンカレーになる」
 エレーナ:「まあ、それは置いといてだ。作り方は分かる?」
 稲生:「一応ね。肉と野菜を炒めて鍋に水を入れ、ある程度煮込んだらカレールーを入れるんだろ?で、そのルーが融け切るまでまた煮込むんだ」
 エレーナ:「うん、まあ、だいたいそんなところだろうな。恐らく稲生氏が作る方が、まだフツーに食えるカレーができるだろう」
 稲生:「マリアさんはそうして作らなかったの?」
 エレーナ:「それが不思議なんだ。あいつも作り方は分かっていて、その通りに作り、材料もこっちの世界にある物だけを使ったはずなのに……」
 稲生:「なのに?」
 エレーナ:「いざ完成してみたら、この世の物とは思えない物が出来上がっていたんだ」
 稲生:「ええっ!?」
 エレーナ:「稲生氏、これはウソじゃないぜ?本当の話だ。後でポーリン先生が試食してみたら、『誰だ!?私が研究中の秘薬を完成させたのは!?』って驚いてたよ」
 稲生:「カレーを作ってて、魔法の秘薬ができたぁ!?」
 エレーナ:「だから本当なんだって!これは悪魔に誓って言えるからな?」

 いつの間にかエレーナの背後にいる強欲の悪魔、マモンが大きく頷いた。
 彼はキリスト教“7つの大罪の悪魔”の1人であり、エレーナの契約悪魔である。

 エレーナ:「その魔法薬は体にいい物なんかじゃない。むしろ、サブウェポンとして使えそうなものだった。そんなもの口にしたら、【お察しください】」
 稲生:「ほ、本当に?」
 エレーナ:「だから即刻中止させろ。オマエとオマエの両親の無事を確保したければ!」
 稲生:「わ、分かった!」

 稲生は急いで家に向かった。

 リリアンヌ:「え、エレーナ先輩……」
 エレーナ:「イリーナ先生は先に出発したとか言ってたな。……逃げたな。弟子、ほっぽり出して」
 リリアンヌ:「フヒヒ……」

[同日15:15.天候:晴 同地区 稲生家]

 稲生は急いで近所の公園から家に舞い戻った。
 すると!

 稲生:「うっ!」

 玄関から既に、異様な臭いが漂っていた。

 稲生:「こ、この世のものとは思えない……」

 稲生は口にハンカチを当てながらキッチンを目指した。
 まるで火災の時、煙の中を避難するかのようだ。
 で、ようやくキッチンに出るドアの前に辿り着く。
 するとドアの向こうから……。

 マリア:「Fuck!全然、柔らかくならないじゃない!」

 とか、

 マリア:「Shit!水の量が足りない!追加追加!」

 とか、終いには……。

 マリア:「Oh、no!何か変だと思ってたら、(料理本)1ページ飛ばしてたんだわ!」

 とか聞こえて来た。

 稲生:「だーっ!」

 さすがに最後のセリフが聞こえて来た時、稲生はズッコケた。

 稲生:(さ、最初は、どうせエレーナが『女子会の噂』を僕にタレ込んだだけだと思ってたけど……。どうやら、噂は本当だったっぽいぞ……。どうする?あの一生懸命なマリアさんをヘタに止めたら、僕が殺される。どうしたら、マリアさんの機嫌を損ねず中止させることができる……?と、取りあえず……)

 稲生はキッチンの中に入った。
 猛烈な臭いの源となっている場所にいるにも関わらず、マリアは全く気にする様子が無い。

 マリア:「うーむ……。ここからどうしよう……」
 稲生:「あ、あの、マリアさん……。もし良かったら、僕も手伝いますよ?悪戦苦闘されているようですし……ハハハハ……」

 するとマリア、稲生をキッと睨みつける。

 マリア:「『男子、厨房に入るべからず』でしょ!いいから、勇太は部屋でネットサーフィンでもやってて!!」

 そして、凄い剣幕で稲生をキッチンから追い出した。

 稲生:「は、はいーっ!(こあいよぉぉ……)」

 というかマリア、よくそんな格言を知っているな。
 ここは素直に従わなければ、死亡フラグが立ってしまう。
 稲生は急いで2Fの自室に避難した。
 臭いは2Fまで漂っていたが、稲生はエアコンと空気清浄機をフル稼働させて対応した。

 稲生:「しょ、しょうがない。ネットで動画でも観るか……。えーと……何がいいかな?そ、そうだ。“アンドロイドマスター”でも……」

〔狂科学者:「ふははははは!ついに完成したぞ!あのマルチタイプに勝てる新型兵器が!これを稼働させれば、あの人型殺人兵器もスクラップ同然よ!山田君、早速このスーパーロックマンの電源を入れるのだ!」
 山田:「はい、博士!」〕

 稲生:「魔法と仏法漬けの生活だったからなぁ。たまには、こういうSFものでも観ておかないと……」

〔山田:「博士!準備ができました!」
 狂科学者:「よろしい!それではスーパーロックマン、稼働!」〕

 狂科学者がガチャンとレバースイッチをONにした。

〔ドカーン!〕

 稲生:「ん?」

〔山田:「は、博士!漏電です!」
 狂科学者:「このバカモノ!」〕

 稲生:「はははははは!」

 ドカーン!

 稲生:「んんっ!?」

 今度は部屋の外から爆発音が聞こえて来た。

 稲生:「何だ何だ!?」

 家の外からではない。
 家の中からだ!
 しかも下から!
 稲生は急いで部屋の外に出ると、階段を飛び下りるように駆け下りた。
 そこで稲生が見た光景とは……!

 1:ガス爆発でキッチン全体が吹き飛んだ。
 2:鍋が爆発していた。
 3:マリアついにブチギレ、イオナズン発動!
 4:一発逆転のパルプンテでまさかの自爆!
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“大魔道師の弟子” 「魔女の料理」

2019-01-20 18:50:41 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月3日13:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 稲生勇太:「えっ、先生、本当に今日ご出立ですか?」

 昼食を終えた稲生は、イリーナからそのような話を聞いた。
 イリーナは急用があって、先に休暇を切り上げるらしい。

 イリーナ:「アタシはね。あ、勇太君達はもっとゆっくりしてていいよー」
 勇太:「いえ、そういうわけには……。予定通り、今日の夜行バスで帰ります」
 イリーナ:「まあ、そこは勇太君に任せるけどね」
 勇太:「駅までお送りしましょう」
 イリーナ:「あー……うん。じゃあ、お願いしようかな」
 マリア:「あ、あの、師匠……私は……」
 イリーナ:「何かやることがあるんでしょ?それをやりなさい」
 マリア:「はい!」
 稲生宗一郎:「先生、私が車を出しますから、それにお乗りください」
 イリーナ:「それは助かりますわ」

 マリアを除く稲生家全員とイリーナが宗一郎の車に乗り込んだ。
 通勤は役員車であるが、マイカーは別にちゃんとある。

 勇太:「えっ、母さんも行くの?」
 稲生佳子:「あら?言わなかった?夕方までパパと一緒に出掛けて来るって」
 勇太:「あ、そうなんだ」
 イリーナ:「御夫婦水入らずの予定だったんですか?でしたら、私は……」
 宗一郎:「いえいえ、いいんですよ。あくまで、出掛けるついでですから。駅までのお送りで申し訳ありません。できれば、成田空港までお見送りに行きたかったんですが……」
 イリーナ:「今度の飛行機は羽田空港から出るようですので、別に構いませんわ」
 宗一郎:「おい、勇太。先生を羽田空港までお見送りしろ」
 勇太:「ええっ!?」
 イリーナ:「いいんですよ。勇太君は、これからマリアの修行に付き合わなければなりませんので」
 勇太:「えっ、修行?」 

 勇太は首を傾げた。
 車で家を出る稲生家と師匠を見送ったマリアは、早速近所のスーパーへと向かった。

 マリア:(今日は勇太とその御両親に料理の腕を振るって、高く評価を受けるのダ)

[同日13:50.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅西口]

 羽田空港行きのバスを待っていると、白と紺色の塗装が特徴の国際興業バスがやってきた。
 イリーナは稲生が近くのコンビニで買って来た乗車券を手にしている。

 稲生:「バスのチケットはこの通り確保しましたが、飛行機の方は大丈夫ですか?」
 イリーナ:「もちろんよ。魔法で移動するのも大変だからね、使える交通手段は使うものよ」
 稲生:「そういうもんですか……」

 そして、バスが停留所の前に到着する。

 イリーナ:「今日は温泉入れなかったわね」
 稲生:「今度行きましょう。日本は全国各地に温泉がある国ですから」
 イリーナ:「それもそうね」

 ぶっちゃけ遠出をしなくても、屋敷から出て来れば白馬駅周辺で温泉に入れる。

 イリーナ:「それじゃ、マリアの修行に付き合ってね」
 稲生:「はい。マリアさんの修行って、料理を作ることですよね?」
 イリーナ:「そしてそれは、あなたの修行でもあるわ」

 この時、稲生はマリアの料理を手伝えということだと理解していた。
 イリーナがバスに乗り込むと、白い帽子を被った運転手が降りて来て、トランクルームに乗客の大きな荷物を入れ始めた。
 案内係も兼ねた警備員も一緒になって積み込んでいる。
 このように、係員が別にいる場合は運転手の作業量も小さく済むのだが、さいたま新都心駅のように係員のいない所だと全部運転手が1人でやらないといけないので大変だ。
 係員が複数いて、ハッチの開閉状態を確認するだけで良い空港ターミナル側とは雲泥の差である。

 稲生:(国際線ターミナルは終点だから、寝ちゃっても起こしてもらえると思うけど……)

 早速寝入る体勢を取っているのを車外から見ていた稲生はそう思った。
 こうしてバスは、イリーナを乗せて出発して行った。

 稲生:「どれ、じゃ、僕も家に帰るとするか」

[同日14:30.天候:晴 稲生家→上落合公園]

 家に帰ると早速、夕食の準備に取り掛かっていたマリアが何やら悪戦苦闘していた。
 よく見ると、魔道書……ではなく、料理本を見ながら作っている。
 もっとも、その通りに作れば良いのだから、あまり苦労は無いかも。
 因みにマリアは日本語の本を英訳する為、赤い縁が特徴の眼鏡を掛けている。
 本にはフランス料理とあるので、上手くできればなかなか豪勢なものが出て来ると思われるが……。

 稲生:「どうですか、マリアさん?僕も何か手伝いましょうか?」
 マリア:「あー、いいからいいから。ここは全部私に任せて」
 稲生:「で、でも……」
 マリア:「いいから!あなたは外で散歩でもしてて!」

 と、稲生はマリアに家から追い出されてしまった。

 稲生:「先生を送りがてら、ちょっと散歩して来ちゃったのになぁ……」

 しょうがないので稲生、近所の公園に行って時間を潰すことにした。

 稲生:(それにしても、どんなものが出来上がるのかなぁ……?あの様子だと不慣れみたいだから、怖いような楽しみなような……)

 稲生がベンチに座ってそんなことを考えていると……。

 エレーナ:「よっス!」
 リリアンヌ:「フヒヒ……。こんにちは……」

 エレーナとリリアンヌがやってきた。

 稲生:「おー、2人とも。ホウキで下りて来なかったの?」
 エレーナ:「こんな所にホウキで下りて来たら、大騒ぎになっちゃうよ。人目に付かない所で下りて、そこから歩いて来た」
 稲生:「なるほど……」
 エレーナ:「それよりどうした?さっきからニヤニヤして。何かいいことあった?……あ、もしかして、ついにマリアンナとヤれたのか!?」
 リリアンヌ:「フヒーッ!?」
 エレーナ:「童貞卒業おめでとう!」
 稲生:「違うよ!そんなんじゃないよ!」
 エレーナ:「何だ、違うのか。マリアンナもマリアンナだよな〜。とっくのとうに非処女なんだから、いい加減に稲生氏の筆下ろしを……」
 稲生:「何言ってんだ!違うんだって!マリアさん、料理を作ってるんだよ」
 エレーナ:「は!?」
 リリアンヌ:「!?」
 エレーナ:「それ、誰が食うんだ!?」
 稲生:「もちろん、僕達だよ。あ、先生は先に出発しちゃったから、僕と僕の両親だね」
 エレーナ:「稲生氏、悪いこと言わないから即刻中止させろ」
 稲生:「な、何で!?」

 エレーナは恐るべしマリアの料理の腕前について語った。
 それは一体、どういうものだったと思う?

 1:普通の材料を使っていたのに何故か爆発した。
 2:食べた者全員が死んだ。
 3:料理ではなく魔法薬ができた。
 4:無間地獄の如く、どんなものか想像できない。
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“大魔道師の弟子” 「稲生家の新年会」

2019-01-16 19:07:46 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月2日13:56.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]

 稲生達を乗せた高崎線普通列車は、定刻通りにさいたま新都心駅を発車した。

〔まもなく大宮、大宮。お出口は、左側です。新幹線、宇都宮線、埼京線、川越線、京浜東北線、東武野田線とニューシャトルはお乗り換えです〕

 自動放送が車内に響き渡ると同時に稲生が席を立つ。
 尚、クリーン車内は上野始発だからか、さほど混んでいない。
 イリーナの隣に座る者は誰もいなかった。
 だが、そんな稲生をマリアが制した。

 マリア:「私が起こすから、勇太は座ってて」
 稲生:「えっ、でも……」
 マリア:「いいから!」
 稲生:「は、はい」

 マリアに気圧され、稲生は立ち上がるのを断念した。

 マリア:「師匠、次で降りますよ」

 マリアが席を立って、すぐ前の席に座るイリーナを上から覗き込んだ。
 イリーナはローブは羽織っていても胸元は開けており、その下のエキゾチックな衣装からは胸の谷間が覗いていた。

 マリア:(だから勇太には目の毒なんだよな……)
 イリーナ:「あと5分……」
 マリア:「5分も経ったら、寝過ごしますよ」
 イリーナ:「しょうがない。起きるか」

 イリーナは大きな欠伸をした。

 稲生:「本当にどこでも寝られるんですねぇ」
 イリーナ:「そうだよ。これはアタシの特技だね。魔法以外で」
 マリア:(ショボいんだか凄いんだか……)

 大宮駅高崎線ホームは上下共に本線であり、ポイント通過による速度制限は恐らく無いものと思われる。
 それでも減速して入線するのは、ダイヤに余裕があるからなのか。
 とはいえポイントの上を通過することに変わりは無いので、ガタガタと揺れはする。
 それでもって宇都宮線ホームのような副線に入るわけではないので、体が持って行かれるような揺れは無かった。

 稲生:「それでは降りましょう」
 イリーナ:「あいよ」

 階段を下りると、電車がホームに止まる。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ、大宮です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。8番線は高崎線下り、普通列車の高崎行きです。……」〕

 稲生:「父さんからメールがあって、夕食は外で食べるそうです」
 イリーナ:「あら、そう」
 マリア:「師匠への接待ですよ」
 イリーナ:「気を使ってもらわなくても、契約をちゃんと履行してもらって、報酬さえくれればいいんだけどねぇ」

 この辺、魔道師はストイックか。

 稲生:「先生には色々お世話になっているので、その御礼だと思います」
 イリーナ:「私にとっては、勇太君という逸材を提供してもらった御礼のつもりなんだけどね」

 イリーナは目を細めたままで笑みを浮かべた。

 イリーナ:「また、いつものホテル?」
 稲生:「……じゃないかと思うんですが」
 イリーナ:「ふーん……。まあ、一旦戻ろうかね。まだ、ディナーには時間があるし」
 稲生:「そうですね」

 3人はタクシー乗り場へ向かった。

[同日14:20.天候:晴 さいたま市中央区 稲生家]

 稲生達を乗せたタクシーが稲生家の前に到着する。
 イリーナが手持ちのプラチナカードでタクシー料金を払っている間、マリアは与野中央通りの南方向を見た。

 稲生:「どうしました?」
 マリア:「あの先に、確かスーパーマーケットがあったな?」
 稲生:「ええ。何か買い物でも?」
 マリア:「うん。勇太、私が作る料理に興味があるようだから、明日作ってあげようか?」
 稲生:「えっ、本当ですか!?」
 マリア:「でも日本は明日まで正月休みなんだろう?開いてる?」
 稲生:「マルエツなら開いてると思いますよ?」
 マリア:「そうか。それなら……」
 イリーナ:「スパスィーバ」

 イリーナがロシア語で運転手に礼を言いながら降りて来た。

 イリーナ:「あー、びっくりした。いつものカード、別の場所に入れてたものだから、期限切れの別のカード渡しちゃってさぁ……。焦った焦った」
 稲生:「どうせ駅からここまで1000円前後ですから、僕が払いますよ?」
 イリーナ:「いいのいいの。弟子に金出させる先生なんて変でしょう?弟子なんて先生の脛齧るくらいの方がいいの。そうやってこの世界は、1000年以上も続いてるんだから」

 それでも世代交替がまだ3回程度という新陳代謝の無さ。
 因みに稲生は第四世代ではなく、マリアと同じ第三世代。
 何故なら、稲生は第二世代のイリーナに弟子入りをしたのであって、マリアに弟子入りしたわけではないからだ。

 イリーナ:「どーれ。ディナーの時間まで一眠りしようかねぃ」
 マリア:「また寝るんですか」
 稲生:「ハハハ……」

 家の中に入る。

 稲生:「ただいまぁ」
 宗一郎:「おー、お帰りなさい」
 稲生:「外食だって?また、パレスホテル?」
 宗一郎:「いや。今日は趣向を変えて、別の店に行こうと思ってるよ」
 稲生:「別の店?」
 宗一郎:「もう既に予約はしてある。17時50分に家を出るから、マリアさん達に伝えて来て」
 稲生:「随分遅いね」
 宗一郎:「そりゃあ、すぐそこだからな」
 稲生:「んん?」

 稲生は父親とそんな話をすると、客間に向かった。
 威吹が逗留していた頃は、威吹の部屋として使用されていた和室である。
 今は畳の上にカーペットを敷いて、来客用の折り畳みベッドやエアーベッドを用意している。

 稲生:「失礼します」

 稲生が客間に入ると、着替え中のイリーナがランジェリー姿でいた。

 イリーナ:「んー?どーしたの?」

 イリーナは悪戯っぽい笑みを浮かべ、細い目を右側だけ半開きにした。

 稲生:「ししし、失礼しました!!」
 マリア:「このバカ!」

 トイレから出て来たマリアが、稲生を後ろから羽交い絞めにして部屋から出した。

 イリーナ:「別に気にしなくていーよ。真っ裸になるわけじゃなしー」
 マリア:「師匠はもう少し気にしてください!」
 稲生:「高そうな下着でした……」
 マリア:「大師匠様に見せる為だよ。弟子に見せるなっての。それも男の!」

 2人は2階の稲生の部屋に移動した。

 稲生:「あー、びっくりした……」
 マリア:「師匠の場合は『未必の故意』だからね、勇太のせいじゃないよ。因みに他の組だと、師匠不敬罪で謹慎だよ」
 稲生:「厳しいんですね」
 マリア:「で、何か用だったの?」
 稲生:「ああ、そうでした。17時50分に出発するそうです。場所はホテルじゃなくて、この近くのレストランみたいですよ」
 マリア:「この近く?まあ、師匠への接待が目的なら、そこそこ良さそうな所へ行くと思うけど……」
 稲生:「まあ、そうですね」

 稲生はいくつか思い当たったが、実際どこなのかは両親のみぞ知るといったところだ。
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“大魔道師の弟子” 「上野から大宮」

2019-01-16 10:10:47 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月2日13:20.天候:晴 JR上野駅→高崎線839M電車5号車2階席]

 昼食を終えた稲生達は、店を出ると、そのままホームへと向かった。
 だが……。

 稲生:「おかしい。え?何で電車いないの?」

 低いホームに稲生が狙う電車がいなかった。

 稲生:「ダイヤ乱れの情報は……無いしなぁ。上野始発だから、13番線から15番線のどこからか出るはずなのに……」

 上野東京ライン開通後、上野止まりと上野始発は頭端式の低いホーム発着がセオリーとなっているが……。

 イリーナ:「さすが稲生君の店のチョイスも素晴らしいわよね」
 マリア:「鉄道施設内では勇太に任せた方がいいでしょう」

 という全幅の信頼が掛かっているのだが……。

〔「13時30分発、高崎線普通列車、高崎行きをご利用のお客様にお知らせ致します。本日、この電車は高いホームの5番線から発車致します。土休日ダイヤにおきましては、高いホームからの発車です。ご利用のお客様は、高いホームの5番線へお越しください」〕

 稲生:(;゚Д゚)
 イリーナ:「で、稲生君?私達はどの電車に乗るの?」
 稲生:「向こうです!」

 稲生はビシィッとエスカレーターの上を指さした。

 イリーナ:「そう。じゃあ、行きましょうか」
 マリア:「はい」

 平静を装うとする稲生の顔を見て、マリアはピーンと気づいた。

 マリア:(これは想定外のことが起きたパターン……)

 上野東京ライン開通前は、電車によって高いホームから出るのか低いホームから出るのかまちまちで不便なものであったが、今はセオリーが出来上がって楽になった……と思いきや、このような例外が発生する。

 で、5番線ホームに行くと、確かに電車がいた。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。5番線に停車中の列車は、13時30分発、普通、高崎行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 グリーン券を持っている稲生達は2階建てグリーン車の2階席に乗り込んだ。

〔この電車は高崎線、普通、高崎行きです。前5両は途中の籠原止まりです。……〕

 イリーナ:「じゃ、私は寝てるから着いたら起こして〜。(食後の昼寝)」
 稲生:「分かりました。(これは、さいたま新都心を発車したらすぐ起こしに掛かるパターン……)」

 イリーナはフードを目深に被って、ガクッとリクライニングを倒した。
 グリーン車といっても普通列車のそれはそんなに高級感のあるものではなく、在来線特急の普通車並みである。
 だからグリーン料金も、それの自由席特急料金並みである。
 特に今はホリデー料金と言って、平日ダイヤの時よりも割安になっている為、特急料金よりも安いかもしれない。
 尚、2階席と1階席には網棚が無いので、ミク人形とハク人形はマリアの膝の上に乗る形となる。

 稲生:(羨ましいなぁ……。あ、いやいや)

 時間になり、ホームから発車メロディが聞こえて来る。
 曲名は“線路の彼方”。
 実は発車メロディにはそれぞれ曲名が付いている。
 それは著作権があるということであり、つまりはカスラックの取り立て対象となるというわけである。
 この場合、録り鉄(撮り鉄とは別)が槍玉に挙げられる。
 即ち、発車メロディを録音してネットにアップしようものなら【お察しください】。

〔5番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の列車をご利用ください〕

 2打点ドアチャイムを3回鳴らしてドアが閉まる。
 再開閉が無かったので、駆け込み乗車は無かったようだ。
 少し古いE231系(中電タイプ)だとガチャンと閉まるのに対し、E233系はバンと比較的静かに閉まる。
 ドアロックの方式が違うのだろう。
 スーッと発車するE231系。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は高崎線、普通電車、高崎行きです。前5両は途中の籠原止まりです。グリーン車は4号車と5号車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください。次は、尾久です〕

 電車が発車すると、すぐにグリーンアテンダントがやってくる。
 稲生達はグリーン券で乗っている為、席上のランプが変わっていない。
 そんな時、アテンダントがやってくるのである。

 稲生:「すいません、この方のです」

 稲生は寝ているイリーナの所へやってきたアテンダントに、イリーナの分のグリーン券を見せた。

 アテンダント:「ありがとうございます」

 因みにこのグリーンアテンダント、乗客のグリーン券のチェックだけでなく、車内販売も行っている。
 新幹線や特急列車のそれと違い、内容はカジュアルなものであるが……。

 稲生:「デザートでも食べますか?」
 マリア:「いいの?」
 稲生:「ええ」

 稲生はフィナンシェ2個とお茶と紅茶を買った。
 人形達はアイスにしか興味を示さなかったが、ここでは売っていない。
 不貞腐れて、マリアのローブの中に入ってしまうのだった。

 稲生:「先生は……」
 マリア:「寝てるからいいよ」
 稲生:「それもそうですね」

 尚、支払いは現金である。

 アテンダント:「ありがとうございました」

 アテンダントが立ち去ってしばらくすると、席上のランプの色が変わる。

 稲生:「父さんからメールがあって、今日は外食するそうです」

 稲生はスマホを取り出して言った。

 マリア:「師匠への接待?」
 稲生:「……かもしれませんね」
 マリア:「そんなに気を使わなくてもいいのに」
 稲生:「父さんも、先生の占いに助けられている1人ということですよ」
 マリア:「なるほどね。藤谷さんの報酬取り立ては……」
 稲生:「その前に僕達、帰っちゃいますからねぇ……。後日、僕が集金に行くことになりそうです」
 マリア:「大変だけどよろしく」
 稲生:「いえいえ。これも見習の修行です」

 藤谷がどれだけ競馬で稼ぐのかは知らないが、せめて鞄の中に入るくらいの大きさでお願いしたい稲生だった。
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“大魔道師の弟子” 「帰京」

2019-01-14 19:25:40 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月2日12:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 魔法陣に飛び込んで、再びワンスターホテルに戻って来た。
 エレーナの部屋の脇を通るが、どうやらエレーナはいないようだ。
 エレベーターで地下1階から1階へと上がる。

 稲生:「おや?」

 ロビーにはまだ他の組の魔道師達がたむろしていた。
 で、窓の外を見るとアナスタシア組の面々が黒塗りの車3台に分乗して立ち去る所であった。

 稲生:「年末に外国に行ったと思ったら帰って来て、また出国ですかね?」
 イリーナ:「何だかんだ言って、この国が気に入ってるんだよね。ナスっち達は」
 稲生:「ふーん……。あ、そうだ。帰りの足を確保しないと……」

 稲生はスマホを取り出すと、アプリを起動してタクシーを呼んだ。
 機械を使ってはいるが、まあ、数百年前の人間が見たら、確かに魔法を使っているように見えるかもしれない。
 イリーナは他の組の指導者と思しき魔道師と話をしていたが、マリアは面識の無い他の組の魔女と積極的に話そうとしなかった。
 それは相手側もそうである。
 で、男一人の稲生はもっと蚊帳の外。
 いたたまれなくなって、エントランスの外に出る。
 すると、そこへ何台ものハイヤーが到着した。
 で、ロビーでたむろしていた魔道師達がぞろぞろ出て来る。
 組の指導者と思しき魔道師が、颯爽とリアシートに乗り込む。
 後から続いて乗る弟子達。
 その様子を見ていた稲生は、ハッとした。

 稲生:「しまった!」

 頭を抱える稲生を他所に発車して行くハイヤー達。
 入れ違うように、1台のタクシーがやってきた。

 運転手:「稲生様ですか?」
 稲生:「あ……はい」

 イリーナもまた大魔道師なのだから、ハイヤーを予約するべきであった。
 一応、黒塗りのハイグレードタクシーではある。

 イリーナ:「おっ、車来た?」
 稲生:「あ、はい」

 イリーナとマリアは何の疑いも無く、リアシートに乗り込んだ。
 稲生は冷や汗をかきながら助手席に乗り込む。

 稲生:「JR上野駅までお願いします」
 運転手:「はい、ありがとうございます」

 運転手はメーターを作動させると、車を発進させた。
 メーターは魔界で乗った朧車のそれと違って液晶表示である。

 イリーナ:「何だかお腹減ったねぇ」
 マリア:「もうランチの時間ですよ」
 イリーナ:「アルカディアと日本じゃ、時差が無いから楽でいいね」
 マリア:「それはあの魔法陣が完璧だからですよ。本来だったら、時差どころのレベルじゃないでしょ?」
 イリーナ:「まあ、そうなんだけどね。もっと楽して冥鉄の列車に便乗するという手もあるんだけど、日本のどこに着くか分かんないしね」
 マリア:「さっき勇太と1番街駅を歩いていたら、一応次の列車の行き先は案内してましたよ?」
 イリーナ:「どこ?」
 マリア:「西鉄福岡ですって」
 イリーナ:「……んっ?さんの所へ行かせるフラグかしら?」
 マリア:「分かりません」

 リアシートに座る魔女達が他愛もない話をしているのを聞いて、稲生はホッとした。
 タクシーかハイヤーか、そういうのを気にしない2人で良かったと。

 イリーナ:「勇太君」
 稲生:「な、何でしょう?」
 イリーナ:「上野駅に着いたら、電車に乗る前にランチをしたいわ」
 稲生:「りょ、了解しました。いい店を検索しておきます」
 イリーナ:「お願いね」
 マリア:「師匠の水晶球で一発検索できるんじゃないですか?」
 イリーナ:「魔力の無駄使いはダメよ。機械に頼れるなら、その方がいい。覚えておきなさい」
 マリア:「はあ……」

[同日12:30.天候:晴 JR上野駅]

 稲生達を乗せたタクシーは、JR上野駅に到着した。
 料金の支払いはイリーナ得意のプラチナカードである。
 その為、タクシーを予約する際は必ずクレカの使える会社を指定していた。

 イリーナ:「これだけの大きなターミナル駅なら、美味しいお店もありそうね」
 稲生:「はい。どうぞ、こちらです」

 駅構内に入る3人。

 稲生:「先生、先ほどは失礼しました」
 イリーナ:「えっ、何が?」
 稲生:「他の先生方が自前の車やハイヤーを用意している中、僕はタクシーを頼んでしまって……。本当はハイヤーでなければいけないのに……」
 イリーナ:「いいよ。東京のタクシーは、ハイヤーと変わらないし」
 稲生:「そうですかね……」
 イリーナ:「昔、本当におカネが無かった時は、ヒッチハイクや貨物列車に便乗して旅をしたものさ。それと比べれば、タクシーでも贅沢なものよ」
 マリア:「でも今度は、ちゃんとハイヤー呼んであげなよ」
 稲生:「はい、すいません」
 マリア:「後ろに棺が乗せられるヤツw」

 ボコッ!

 マリア:「It heart!(痛っ!)」

 マリアのおフザケにゲンコツを食らわせるイリーナ。
 因みに英文の綴りだけ読むと、『イット・ハート』であるが、実際は早口で言う為、本当に日本語で『痛っ!』と聞こえるという。

 イリーナ:「アタシゃまだ霊柩車に乗るのは早いよ?マリアにはもう少し指導が必要ね」
 マリア:「は、はい。そうしてください」
 イリーナ:「ん?」

 稲生はキップ売り場に行くと、そこから大宮までの乗車券とグリーン券を購入した。

 イリーナ:「あれ?電車に乗る前にランチって言わなかった?」
 ランチ:「電車に乗りながらランチ?そうか。Ekiben(駅弁)だな」
 稲生:「違いますよ。改札の中にその店があるんです」
 イリーナ:「あ、そういうこと」
 マリア:「Ekinakaか。さすがは勇太だな」
 イリーナ:「日本国内の移動は勇太君に任せて安心だものね」
 稲生:「ありがとうございます。その代わり、ロシア国内の移動とイギリス国内の移動はお願いします」
 イリーナ:「そうね。いずれはシベリア鉄道に乗せてあげるわ」
 マリア:「列車内で“魔の者”と格闘しそうで怖いです」

 改札内にあるイタリアンカフェに入った。

 稲生:「今日のお昼はパスタにしましょう」
 イリーナ:「なるほど。マリアの人形達の作るパスタも美味しいけど、たまには別の味を楽しむのもオツなものね」

 なるべくコンコースが見える席……というよりは電車が見える席を選んだ稲生だった。
コメント (7)
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