[3月17日06:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル501号室]
鈴木のベッドの枕元に置かれたスマホから、目覚ましアラームが流れる。
“東方Project”作品の1つ、“東方永夜抄”より八意永琳のテーマ“千年幻想郷”である。
鈴木:「う……」
鈴木はピッとアラームを止めた。
鈴木:「うーむ……」
枕が変わると抵抗無く起きられるものと聞いてはいたが、それにしても正証寺の支部登山で泊まり掛けで行った時よりも清々しい目覚めだった。
鈴木:(昨日の食事のおかげか……?まあいい。早いとこ着替えて、朝の勤行を……)
[同日07:00.天候:晴 同ホテル1階ロビー→レストラン“マジックスター”]
魔女:「……つまりヨーロッパじゃ足が付くから、日本でやってみようと思うわけよ」
エレーナ:「既にマリアンナ達が似たようなことやってるけどな」
魔女:「だってあいつら、自分達の家にしちゃってるでしょ?せっかくエレーナがこうやってホテルで働いてることだし、そのノウハウを生かさない手は無いと思うな」
エレーナ:「面白い試みだと思うが……」
その時、エレベーターが1階に下りて来る。
エレーナ:「おっと!お客が来たから、また後で」
魔女:「それじゃあ……」
スーッとドアが開く。
エレーナ:「おはようさん。よく眠れたでしょ?」
鈴木:「ああ……。って!」
鈴木はエントランスの外に魔女の姿を見た。
鈴木:「あれはっ!」
エレーナ:「!?」
鈴木はホテルの外に飛び出した。
が、既に魔女の姿は無くなっていた。
エレーナ:「どうかしたの?」
鈴木:「今、アンタの仲間がいたぞ!?」
エレーナ:「気のせいでしょ?私はずっと1人だったよ?」
鈴木:「ウソを付くな!現に俺はこの目で……!」
エレーナ:「寝ぼけたんでしょ?あのハーブ料理、よく眠れたのはいいけど、目覚めは良くなかったみたいだね。後でキャシーに言っとく」
鈴木:「客で実験すんな!」
エレーナ:「それより、朝食でしょ?レストランでバイキングだから、ゆっくり食べてって。もっとも、朝食は普通の食材だけどね」
鈴木:「ちっ……」
鈴木が渋々とレストランに向かって行く。
エレーナ:「ちょっとフィオナ!消えるタイミング遅い!あやうくバレる所だったじゃない!」
エレーナは水晶球に向かって怒鳴り付けた。
鈴木:「やっぱり仲間がいたのか」
柱の陰からぬっと鈴木が現れた。
エレーナ:「って、うおっ!?」
鈴木:「この程度の駆け引きで簡単に尻尾を出すとな。マーズ・ランキング……じゃなかった。ウィッチ・ランキング低いんじゃないのか」
鈴木はそう吐き捨ててレストランに向かった。
エレーナ:(ムカつく客だな……!ってか、勝手にランキング作るなーっ!)
レストランに行くと、確かにディナータイムとは打って変わって、比較的普通な感じだった。
カラスはおらず、普通に人間のパート従業員がいるだけだった。
従業員:「宿泊客の方ですね。朝食券をお預かりします」
鈴木:「あ、はい。……あの、キャサリン……さんはいますか?」
従業員:「店長はモーニングタイムの時はおりません」
鈴木:「そうですか……」
食べ物に関しては普通であったが、やはりここは魔女が経営するレストランなだけある所があった。
鈴木:「ハーブティーがパねぇ……」
聞いたこともないような名前のハーブティーが並んでいた。
鈴木:「『ブルーハーブを2つ調合することで、体中の毒素を全て排出させるブルーティー』って、本当に青いし!」
他には、『グリーンハーブにキノコを調合して……』といったお茶もあった。
鈴木:「何のキノコだか聞かない方が良さそうだな……」
もちろん飲み物には他にコーヒーとかジュースなどもあるわけだが、あえて鈴木はハーブティーに手を付けることにした。
その様子をホテルの防犯カメラで見ていたエレーナ。
エレーナ:「ねぇ、キャシー。あいつの記憶を抹消する魔法とか無い?」
キャサリン:「あるけど、ハイマスター(High Master 弟子を取ってもOKなベテラン)くらいにならないと修得できないよ」
エレーナ:「キャシーもハイマスター……」
キャサリン:「眠いから寝ておくねー」
キャサリンは奥の従業員休憩室に向かって行った。
エレーナ:「くそ……!」
宿泊客:「あのー、チェックアウト……」
エレーナ:「あ、はい!ご利用ありがとうございます!」
[同日10:00.天候:晴 同ホテル1階ロビー]
エレーナ:「どうだった?うちのホテルは」
鈴木:「宿泊に関しては、割かし普通のビジネスホテルだ。取り立てて、褒める所も貶す所も無い。だが、それ以外の……特に料飲部門が……」
鈴木は“マジックスター”の方へ視線を送った。
エレーナ:「とある見習い魔女はパン屋で住み込みの修行をやっていたけど、本当はこういうホテルの方がいいのよ。バックパッカーなんかも多いから、世界中の情報が集まるしね。ネットだけでは分からない、コアな情報だよ」
鈴木:「そりゃだって、キキは世界の情報を必要としてなかっただろ」
鈴木はルームキーをエレーナに返した。
エレーナ:「はい、それじゃ領収書」
鈴木:「チェックアウトの時に領収書を出す所なんかは普通のホテルだな」
だが、その領収書を見た時、鈴木がニヤッと笑う所があった。
A4サイズの領収書の右下には、五芒星の中を右下から左上へと上昇するホウキに跨った魔女のシルエットが描かれていたからだ。
鈴木:「細かい所が普通じゃねぇ……」
エレーナ:「どうも」
こうして鈴木はホテルをチェックアウトしていった。
オーナー:「ご苦労さん。朝だけでも手伝ってくれて助かるよ」
エレーナ:「いいえ、どうも」
オーナー:「今度はチェックインの業務から入ってもらうから、一旦上がっていいよ」
エレーナ:「分かりました。それじゃ、失礼します」
エレーナはエレベーターを地下1階まで行けるようにスイッチを操作すると、それで自分の部屋がある地下1階へと下りた。
エレーナ:「ん?水晶球が……」
水晶球が鈍く点滅した。
クロ:「誰かからの通信ニャ?」
エレーナ:「そうだね」
自分の部屋に入ると、エレーナは水晶球を机の上に置いた。
リリアンヌ:「え、エレーナ先輩……。お、おは、おはようございます……」
エレーナ:「リリィか。どうしたの?」
エレーナの後輩で、普段は魔界で修行をしているリリアンヌからだった。
人間時代は幼児虐待を受けたこともあって、やや言語障害が出てしまっている。
リリアンヌ:「フヒヒ……。こ、ここ、こっちで得た情報なんですけど……」
エレーナ:「なに?」
その情報とは鈴木に関することだった。
エレーナ:「ははは、運命って残酷なものだねぇ……!」
エレーナは哀れむような笑いを浮かべると、後輩との通信を切った。
そして、さっさと仮眠の準備を始めたのだった。
鈴木のベッドの枕元に置かれたスマホから、目覚ましアラームが流れる。
“東方Project”作品の1つ、“東方永夜抄”より八意永琳のテーマ“千年幻想郷”である。
鈴木:「う……」
鈴木はピッとアラームを止めた。
鈴木:「うーむ……」
枕が変わると抵抗無く起きられるものと聞いてはいたが、それにしても正証寺の支部登山で泊まり掛けで行った時よりも清々しい目覚めだった。
鈴木:(昨日の食事のおかげか……?まあいい。早いとこ着替えて、朝の勤行を……)
[同日07:00.天候:晴 同ホテル1階ロビー→レストラン“マジックスター”]
魔女:「……つまりヨーロッパじゃ足が付くから、日本でやってみようと思うわけよ」
エレーナ:「既にマリアンナ達が似たようなことやってるけどな」
魔女:「だってあいつら、自分達の家にしちゃってるでしょ?せっかくエレーナがこうやってホテルで働いてることだし、そのノウハウを生かさない手は無いと思うな」
エレーナ:「面白い試みだと思うが……」
その時、エレベーターが1階に下りて来る。
エレーナ:「おっと!お客が来たから、また後で」
魔女:「それじゃあ……」
スーッとドアが開く。
エレーナ:「おはようさん。よく眠れたでしょ?」
鈴木:「ああ……。って!」
鈴木はエントランスの外に魔女の姿を見た。
鈴木:「あれはっ!」
エレーナ:「!?」
鈴木はホテルの外に飛び出した。
が、既に魔女の姿は無くなっていた。
エレーナ:「どうかしたの?」
鈴木:「今、アンタの仲間がいたぞ!?」
エレーナ:「気のせいでしょ?私はずっと1人だったよ?」
鈴木:「ウソを付くな!現に俺はこの目で……!」
エレーナ:「寝ぼけたんでしょ?あのハーブ料理、よく眠れたのはいいけど、目覚めは良くなかったみたいだね。後でキャシーに言っとく」
鈴木:「客で実験すんな!」
エレーナ:「それより、朝食でしょ?レストランでバイキングだから、ゆっくり食べてって。もっとも、朝食は普通の食材だけどね」
鈴木:「ちっ……」
鈴木が渋々とレストランに向かって行く。
エレーナ:「ちょっとフィオナ!消えるタイミング遅い!あやうくバレる所だったじゃない!」
エレーナは水晶球に向かって怒鳴り付けた。
鈴木:「やっぱり仲間がいたのか」
柱の陰からぬっと鈴木が現れた。
エレーナ:「って、うおっ!?」
鈴木:「この程度の駆け引きで簡単に尻尾を出すとな。マーズ・ランキング……じゃなかった。ウィッチ・ランキング低いんじゃないのか」
鈴木はそう吐き捨ててレストランに向かった。
エレーナ:(ムカつく客だな……!ってか、勝手にランキング作るなーっ!)
レストランに行くと、確かにディナータイムとは打って変わって、比較的普通な感じだった。
カラスはおらず、普通に人間のパート従業員がいるだけだった。
従業員:「宿泊客の方ですね。朝食券をお預かりします」
鈴木:「あ、はい。……あの、キャサリン……さんはいますか?」
従業員:「店長はモーニングタイムの時はおりません」
鈴木:「そうですか……」
食べ物に関しては普通であったが、やはりここは魔女が経営するレストランなだけある所があった。
鈴木:「ハーブティーがパねぇ……」
聞いたこともないような名前のハーブティーが並んでいた。
鈴木:「『ブルーハーブを2つ調合することで、体中の毒素を全て排出させるブルーティー』って、本当に青いし!」
他には、『グリーンハーブにキノコを調合して……』といったお茶もあった。
鈴木:「何のキノコだか聞かない方が良さそうだな……」
もちろん飲み物には他にコーヒーとかジュースなどもあるわけだが、あえて鈴木はハーブティーに手を付けることにした。
その様子をホテルの防犯カメラで見ていたエレーナ。
エレーナ:「ねぇ、キャシー。あいつの記憶を抹消する魔法とか無い?」
キャサリン:「あるけど、ハイマスター(High Master 弟子を取ってもOKなベテラン)くらいにならないと修得できないよ」
エレーナ:「キャシーもハイマスター……」
キャサリン:「眠いから寝ておくねー」
キャサリンは奥の従業員休憩室に向かって行った。
エレーナ:「くそ……!」
宿泊客:「あのー、チェックアウト……」
エレーナ:「あ、はい!ご利用ありがとうございます!」
[同日10:00.天候:晴 同ホテル1階ロビー]
エレーナ:「どうだった?うちのホテルは」
鈴木:「宿泊に関しては、割かし普通のビジネスホテルだ。取り立てて、褒める所も貶す所も無い。だが、それ以外の……特に料飲部門が……」
鈴木は“マジックスター”の方へ視線を送った。
エレーナ:「とある見習い魔女はパン屋で住み込みの修行をやっていたけど、本当はこういうホテルの方がいいのよ。バックパッカーなんかも多いから、世界中の情報が集まるしね。ネットだけでは分からない、コアな情報だよ」
鈴木:「そりゃだって、キキは世界の情報を必要としてなかっただろ」
鈴木はルームキーをエレーナに返した。
エレーナ:「はい、それじゃ領収書」
鈴木:「チェックアウトの時に領収書を出す所なんかは普通のホテルだな」
だが、その領収書を見た時、鈴木がニヤッと笑う所があった。
A4サイズの領収書の右下には、五芒星の中を右下から左上へと上昇するホウキに跨った魔女のシルエットが描かれていたからだ。
鈴木:「細かい所が普通じゃねぇ……」
エレーナ:「どうも」
こうして鈴木はホテルをチェックアウトしていった。
オーナー:「ご苦労さん。朝だけでも手伝ってくれて助かるよ」
エレーナ:「いいえ、どうも」
オーナー:「今度はチェックインの業務から入ってもらうから、一旦上がっていいよ」
エレーナ:「分かりました。それじゃ、失礼します」
エレーナはエレベーターを地下1階まで行けるようにスイッチを操作すると、それで自分の部屋がある地下1階へと下りた。
エレーナ:「ん?水晶球が……」
水晶球が鈍く点滅した。
クロ:「誰かからの通信ニャ?」
エレーナ:「そうだね」
自分の部屋に入ると、エレーナは水晶球を机の上に置いた。
リリアンヌ:「え、エレーナ先輩……。お、おは、おはようございます……」
エレーナ:「リリィか。どうしたの?」
エレーナの後輩で、普段は魔界で修行をしているリリアンヌからだった。
人間時代は幼児虐待を受けたこともあって、やや言語障害が出てしまっている。
リリアンヌ:「フヒヒ……。こ、ここ、こっちで得た情報なんですけど……」
エレーナ:「なに?」
その情報とは鈴木に関することだった。
エレーナ:「ははは、運命って残酷なものだねぇ……!」
エレーナは哀れむような笑いを浮かべると、後輩との通信を切った。
そして、さっさと仮眠の準備を始めたのだった。
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