[6月11日10:00.仙台市青葉区 テレビ仙台 敷島孝夫&初音ミク]
「はい、OKです!」
「お疲れさまでしたー!」
ミクは自分が出演するドラマの番宣に出た。
それが終わって楽屋に戻って来る。
「おう、ミク。お疲れさん!」
プロデューサーとして同行していた敷島が合流する。
「お疲れさまです」
「この後の予定なんだけど、俺はちょっと財団に行かないとダメになったんだ。だから、一緒には行けない」
「いいんですよ。ところでたかおさん、本当に病院に行かなくていいんですか?」
「ああ。脳に異常が無いって分かればいいよ。どうせそのうち思い出すさ」
敷島はあっけらかんとしていた。
[同日同時刻 仙台市泉区 アリスの研究所(旧・南里研究所) アリス&MEIKO]
只今、整備中のMEIKO。
アリス研究所所属のボーカロイドの中では最年長であり、実際に姉御肌でもある。
「あの……博士」
「なに?」
「何か……荒れてません?」
「……余計な解析しないように、頭も調整する必要がありそうね!」
「い、いえ、何でもありません」
MEIKOは慌てて自分の発言を打ち消した後、
(あのヘボプロデューサー!さっさと仲直りしなさいよ!)
と、この場にいない敷島に文句を言った。
「はい、終わり!今度はKAITO呼んできて」
「はーい……」
MEIKOは赤い服を着た後、試作機の2号機の方を呼びに行った。
「KAITOぉ〜……アンタの番だよー」
しかし、アリスの何気ない独り言を、耳に内蔵された集音マイクで聞いてしまう。
「KAITOはタカオの病気がうつらないように、性転換改造しようかしら……」
「KAITO、逃げて!」
[同日11:00.仙台市青葉区 日本アンドロイド研究開発財団仙台支部 敷島孝夫]
久しぶりに財団事務所を訪れた敷島は、古巣の総務室に顔を出した。
当時、参事として座っていた席には、かつての部下が座っていた。
「よう、伊藤君」
「あっ、敷島……先輩」
「ははは。今じゃ、しがないボカロPだから、『敷島P』でいいよ」
「いやいや。そのプロデューサー業務は、先輩しかできませんから。それより体の具合、大丈夫なんですか?」
「何が?」
「何か、記憶喪失になったって聞いて、それで支部長が心配して呼び出したんですよ」
「そうだったのか。もう少し報告を早くするべきだったなぁ……。アリスがうるさくて」
「そのシキシマ所長ですが……」
「だから俺はプロデューサーだって」
「ですから、先輩の奥様のアリス・シキシマ所長ですが……」
「……それ、マジで言ってるの?」
「はあ……。結婚式の時、ボーカロイド達が皆で『Go My Way』とか歌って、盛り上がったじゃないですか」
「全然覚えてない……。とにかく、支部長の所に行ってくる。支部長室?」
「そうです」
敷島は支部長室に行って、そこで支部長と面談した。
「診断書はもらったよ。脳に何の異常も無かったそうだね?」
「そうです」
「精神的なものが原因だということだけども、心療内科には?」
「いいえ。別に私は、精神的に何かというわけではありませんので」
「そういう安易な判断が、ややもすれば命に関わるものだ。できる手立ては全部使って、早いとこ記憶を取り戻さないと」
「何だか、気が進みませんなぁ……」
「そういう問題じゃないよ。アリス君が泣いて電話掛けてきたんだよ」
「えっ、アリスが?」
「何かね……。アリス君と結婚してからの記憶が見事に欠落したように見受けられるが、何か心当たりはあるかい?」
「いやあ……。そもそも未だにアリスと結婚したこと自体が、全く信じられなくて……。テレビのドッキリじゃないのかと思うくらいです。すいませんね、アリスが何か変な電話したみたいで……」
「いや、私はいいんだけどね、でも結婚したのは本当なんだよ?」
「はあ……。エミリーから記録画像を見せてもらいましたが、全くピンと来ないんです」
敷島は頭をかきながら答えた。
「仕事は続けますよ。まあそのうち、思い出すでしょう」
「相変わらず楽観的だねぇ……」
[同日13:00.仙台市泉区 アリスの研究所 敷島、アリス、MEIKO、巡音ルカ]
「ただいまぁ……。いやあ、支部長と面談してきたよ」
「ちょっとプロデューサー!」
研究所に帰るなり、MEIKOがやってきた。
「早いとこアリス博士と仲直りしてよ!」
「何がだ?」
「もうずっと博士の機嫌が悪くて大変なんだから!」
「しょうがねぇな……」
敷島は面倒臭そうな顔で、奥へ向かった。
「お前は、人間というものがまだよく分かってないみたいだな」
「はあ?」
トイレに行って、小物入れをガチャと開ける。
「何だ、まだあるじゃないの。ナプキン」
「それのせいで機嫌悪いんじゃないの!」
「というかプロデューサー、アリス博士の生理用ナプキンの保管場所は覚えているんですね?」
ルカが不思議そうな顔をした。
「いや、だって、マンション住まいだった頃も、あいつ、ここに入れてたし」
「もう分かりあってるんだから、記憶無くてもいい加減諦めたら?」
MEIKOは両手を腰にやって要った。
「私もそう思います。プロデューサーはお忘れになったかもですが、アリス博士と一緒になられたのは本当ですよ?」
ルカも神妙な顔をした。
「うーん……。自分が信じらない以上はねぇ……」
敷島は頭をかいた。
そして、事務室に戻っていった。
「こりゃマジで、エミリーに電気ショックさせた方がいいかな?」
先輩ボーカロイドに振られたルカは、
「命に関わるので、それはやめた方がいいかと」
と、エミリー並みの無表情で答えた。
もともと彼女は、クールなキャラという設定である。
[6月12日01:00.アリスの研究所 居住区 敷島孝夫]
敷島は自分の寝室で眠っていた。
結婚したという割にはアリスと部屋が別だが、それもまた敷島が結婚したと周囲から言われても信じられない理由の1つである。
だが、何だか寝苦しさで目が覚めた。
胸が重い。
胸をぐっと押されている感じがする。
金縛り……?いや、違う。
誰かが、胸の上に乗っている。
闇の中でよく見えなかった目が、少しずつ暗さに慣れていく。
浮かび上がったのは……。
「あ、アリス!?何やってんだ、お前!?」
アリスは顔を近づけ、耳元で言った。
「いい加減、忘れたフリをするのはやめなさい」
「な、何のことだ!?」
「昨日、プロフェッサー平賀太一が言ってたの。タカオがアタシと勢いで結婚しちゃったことに、物凄い不安を抱えていたって。そうやって記憶が無くなったことにして、アタシとの結婚を無かったことにするつもりなんでしょう?」
「記憶が無いのは本当だ!俺も何が何だか分からんよ。とにかく、降りろ!」
敷島は振り解こうとしたが、アリスは頑として退かなかった。
しかも、布団の下から取り出したのは、
「スタンガン!?」
闇の中に火花が飛び散る。
「エミリーのヤツ、いくら命令しても聞かないから、しょうがない。アタシが自分でやる。電気ショックを与えれば思い出すでしょ!」
「んなワケねーだろ!おい、アメリカン・ジョークはやめろ!」
敷島の部屋に絶叫が響き渡った。
その後、室内では【わぁお❤】で、アリスによる【ぴー】が行われ、そして最後には【うふふ❤】だという。
「はい、OKです!」
「お疲れさまでしたー!」
ミクは自分が出演するドラマの番宣に出た。
それが終わって楽屋に戻って来る。
「おう、ミク。お疲れさん!」
プロデューサーとして同行していた敷島が合流する。
「お疲れさまです」
「この後の予定なんだけど、俺はちょっと財団に行かないとダメになったんだ。だから、一緒には行けない」
「いいんですよ。ところでたかおさん、本当に病院に行かなくていいんですか?」
「ああ。脳に異常が無いって分かればいいよ。どうせそのうち思い出すさ」
敷島はあっけらかんとしていた。
[同日同時刻 仙台市泉区 アリスの研究所(旧・南里研究所) アリス&MEIKO]
只今、整備中のMEIKO。
アリス研究所所属のボーカロイドの中では最年長であり、実際に姉御肌でもある。
「あの……博士」
「なに?」
「何か……荒れてません?」
「……余計な解析しないように、頭も調整する必要がありそうね!」
「い、いえ、何でもありません」
MEIKOは慌てて自分の発言を打ち消した後、
(あのヘボプロデューサー!さっさと仲直りしなさいよ!)
と、この場にいない敷島に文句を言った。
「はい、終わり!今度はKAITO呼んできて」
「はーい……」
MEIKOは赤い服を着た後、試作機の2号機の方を呼びに行った。
「KAITOぉ〜……アンタの番だよー」
しかし、アリスの何気ない独り言を、耳に内蔵された集音マイクで聞いてしまう。
「KAITOはタカオの病気がうつらないように、性転換改造しようかしら……」
「KAITO、逃げて!」
[同日11:00.仙台市青葉区 日本アンドロイド研究開発財団仙台支部 敷島孝夫]
久しぶりに財団事務所を訪れた敷島は、古巣の総務室に顔を出した。
当時、参事として座っていた席には、かつての部下が座っていた。
「よう、伊藤君」
「あっ、敷島……先輩」
「ははは。今じゃ、しがないボカロPだから、『敷島P』でいいよ」
「いやいや。そのプロデューサー業務は、先輩しかできませんから。それより体の具合、大丈夫なんですか?」
「何が?」
「何か、記憶喪失になったって聞いて、それで支部長が心配して呼び出したんですよ」
「そうだったのか。もう少し報告を早くするべきだったなぁ……。アリスがうるさくて」
「そのシキシマ所長ですが……」
「だから俺はプロデューサーだって」
「ですから、先輩の奥様のアリス・シキシマ所長ですが……」
「……それ、マジで言ってるの?」
「はあ……。結婚式の時、ボーカロイド達が皆で『Go My Way』とか歌って、盛り上がったじゃないですか」
「全然覚えてない……。とにかく、支部長の所に行ってくる。支部長室?」
「そうです」
敷島は支部長室に行って、そこで支部長と面談した。
「診断書はもらったよ。脳に何の異常も無かったそうだね?」
「そうです」
「精神的なものが原因だということだけども、心療内科には?」
「いいえ。別に私は、精神的に何かというわけではありませんので」
「そういう安易な判断が、ややもすれば命に関わるものだ。できる手立ては全部使って、早いとこ記憶を取り戻さないと」
「何だか、気が進みませんなぁ……」
「そういう問題じゃないよ。アリス君が泣いて電話掛けてきたんだよ」
「えっ、アリスが?」
「何かね……。アリス君と結婚してからの記憶が見事に欠落したように見受けられるが、何か心当たりはあるかい?」
「いやあ……。そもそも未だにアリスと結婚したこと自体が、全く信じられなくて……。テレビのドッキリじゃないのかと思うくらいです。すいませんね、アリスが何か変な電話したみたいで……」
「いや、私はいいんだけどね、でも結婚したのは本当なんだよ?」
「はあ……。エミリーから記録画像を見せてもらいましたが、全くピンと来ないんです」
敷島は頭をかきながら答えた。
「仕事は続けますよ。まあそのうち、思い出すでしょう」
「相変わらず楽観的だねぇ……」
[同日13:00.仙台市泉区 アリスの研究所 敷島、アリス、MEIKO、巡音ルカ]
「ただいまぁ……。いやあ、支部長と面談してきたよ」
「ちょっとプロデューサー!」
研究所に帰るなり、MEIKOがやってきた。
「早いとこアリス博士と仲直りしてよ!」
「何がだ?」
「もうずっと博士の機嫌が悪くて大変なんだから!」
「しょうがねぇな……」
敷島は面倒臭そうな顔で、奥へ向かった。
「お前は、人間というものがまだよく分かってないみたいだな」
「はあ?」
トイレに行って、小物入れをガチャと開ける。
「何だ、まだあるじゃないの。ナプキン」
「それのせいで機嫌悪いんじゃないの!」
「というかプロデューサー、アリス博士の生理用ナプキンの保管場所は覚えているんですね?」
ルカが不思議そうな顔をした。
「いや、だって、マンション住まいだった頃も、あいつ、ここに入れてたし」
「もう分かりあってるんだから、記憶無くてもいい加減諦めたら?」
MEIKOは両手を腰にやって要った。
「私もそう思います。プロデューサーはお忘れになったかもですが、アリス博士と一緒になられたのは本当ですよ?」
ルカも神妙な顔をした。
「うーん……。自分が信じらない以上はねぇ……」
敷島は頭をかいた。
そして、事務室に戻っていった。
「こりゃマジで、エミリーに電気ショックさせた方がいいかな?」
先輩ボーカロイドに振られたルカは、
「命に関わるので、それはやめた方がいいかと」
と、エミリー並みの無表情で答えた。
もともと彼女は、クールなキャラという設定である。
[6月12日01:00.アリスの研究所 居住区 敷島孝夫]
敷島は自分の寝室で眠っていた。
結婚したという割にはアリスと部屋が別だが、それもまた敷島が結婚したと周囲から言われても信じられない理由の1つである。
だが、何だか寝苦しさで目が覚めた。
胸が重い。
胸をぐっと押されている感じがする。
金縛り……?いや、違う。
誰かが、胸の上に乗っている。
闇の中でよく見えなかった目が、少しずつ暗さに慣れていく。
浮かび上がったのは……。
「あ、アリス!?何やってんだ、お前!?」
アリスは顔を近づけ、耳元で言った。
「いい加減、忘れたフリをするのはやめなさい」
「な、何のことだ!?」
「昨日、プロフェッサー平賀太一が言ってたの。タカオがアタシと勢いで結婚しちゃったことに、物凄い不安を抱えていたって。そうやって記憶が無くなったことにして、アタシとの結婚を無かったことにするつもりなんでしょう?」
「記憶が無いのは本当だ!俺も何が何だか分からんよ。とにかく、降りろ!」
敷島は振り解こうとしたが、アリスは頑として退かなかった。
しかも、布団の下から取り出したのは、
「スタンガン!?」
闇の中に火花が飛び散る。
「エミリーのヤツ、いくら命令しても聞かないから、しょうがない。アタシが自分でやる。電気ショックを与えれば思い出すでしょ!」
「んなワケねーだろ!おい、アメリカン・ジョークはやめろ!」
敷島の部屋に絶叫が響き渡った。
その後、室内では【わぁお❤】で、アリスによる【ぴー】が行われ、そして最後には【うふふ❤】だという。
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