報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「代替修学旅行2日目の夜」

2022-03-06 16:05:34 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月24日20:00.天候:雪 福島県会津若松市白虎町 会津若松ワシントンホテル1Fロビー]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日はクライアントから仕事の依頼で、東京中央学園の代替修学旅行にPTA会長代理として来ている。
 コロナ禍で中等部の修学旅行が中止となった為、高等部1年生の今のうちに、代替修学旅行を決行した次第。
 あくまでも代替である為、当初の予定とは行き先も内容も全く違う。
 また、高校の修学旅行では行われている自由行動も、感染対策の為に行われていない(仮に感染者が出た場合、それが自由行動中だったとなると、どこで感染したか把握しにくくなる為。また、感染対策がしっかりされていない場所に入るのを防止する為)。
 私はここまでの状況を、向かい側の椅子に座るスーツを着たポーカーフェイスの善場主任に話した。

 善場:「……なるほど。では、梅田美樹の事件以降、特に事件には巻き込まれていないということですね」
 愛原:「そうです」
 善場:「まあ、栗原家の御隠居とは遭遇してしまったようですが」
 愛原:「時間切れになって助かりましたよ」
 善場:「それもあるのですが、あの後、孫の蓮華に確認したところ、『人を食った鬼の臭いがしなかったので、祖父もすぐには手を出せなかったのでしょう』とのことです」
 愛原:「なるほど」
 善場:「人間でも、普段から肉食をする人は体臭が強くなると言いますでしょう?BOWも同じです。ましてや、それが人間の肉となると、甚だ臭うことになります」
 愛原:「だから『最も危険な12人の巫女』のうち、リサと善場主任以外の者達は色々な物で誤魔化していたわけですね」
 善場:「そうです」

 中には体臭もステータスと思っている個体もあったが、多くは香水や消臭剤で体臭を誤魔化していた。
 リサもどちらかというと、私に対しては前者である。
 本人が気にしていたので、私が褒めてあげたら勘違いしてしまったようだ。
 リサは確かに人食いをしていないので、他のリサ・トレヴァーのような独特の体臭はしない。
 だが、やはりBOWならではの体臭はある。
 リサ本人も、それを気にしているのでフォローしてあげたのだが……。

 愛原:「それにしても、どうしてリサは人喰いをせずに済んでいるのでしょう?もちろん、たまに食人衝動に駆られることはありますが……」
 善場:「それは、普通の食事で代替できているからです。BOWが食人をするのには、2つ理由があります。1つはBOWに成り立ての時は、とても強い飢餓感に襲われる上、理性もはっきりしていない事が多いです。それで、食人をしてしまうというものです。もう1つは食人に慣れてしまう、または変化したことで味覚がおかしくなり、普通の食事を受け付けなくなるからです。つまり、体が人間の血肉しか受け付けなくなるからということですね」
 愛原:「リサは普通の食事ができるから、食人行動を抑えることができると……」
 善場:「そういうことです。ただ、どうして『2番』のリサだけそれが可能なのかは不明です。比較的『1番』も、ある程度普通の食事ができていたようですが、愛原所長と本格的に相まみえることになった時点で、やはり人肉しか食べれなくなっていたようです」
 愛原:「すると、うちのリサも、そうなる恐れがあると……?」
 善場:「可能性は捨て切れません。なので所長は、リサの食事にも気を付けて頂きたいのです」
 愛原:「ある程度、悪食の部分は目を瞑ってもいいですか?」
 善場:「それは結構です。……あれでしょ?虫とか甲殻類とかを、そのまま生で食べてしまうことでしょう?」
 愛原:「そうです」

 例えば外を歩いていて、蝶々が飛んでいたりすると、捕まえてそのままパクッと食べたり。
 目の前に蜘蛛がぶら下がっていたとしても、捕まえてそのままパクッと食べたり。
 でも、腹を壊したりはしない。

 愛原:「善場主任も御存知なんですね?」
 善場:「ええ。私も人間に戻った後は後遺症で、食べて良い物とそうでない物の区別が付かなかった時がありましたから」
 愛原:「グール病ですか」
 善場:「そうです」

 TウィルスやGウィルス感染者の後遺症の1つ。
 ワクチンが効いて人間に戻れても、しばらくは悪食を繰り返す後遺症のこと。
 グールという、アラブの人喰い鬼の名前に因んで付けられた名前だ。
 但し、グールは生きている人間を殺して食うのではなく、死体を貪り食うので、『死食鬼』と日本語で呼ばれることもある。
 尚、こちらにも女の鬼はいて、それはグーラという。
 鬼の世界でも、既に死んだ人間の肉を貪り食うのは悪食とされているので、この病気の名前の元になったとも言われる。

 善場:「もちろん今は、私は克服していますよ」
 愛原:「はは、それはもう……」
 善場:「修学旅行は明日までですね」
 愛原:「そうです。明日はまた貸切バスに乗って、今度は猪苗代湖畔を観光した後、郡山駅に行って、そこから新幹線で帰京します」
 善場:「分かりました」
 愛原:「何か注意点はありますか?」
 善場:「そうですね……。梅田美樹には、妹がいます。彼女も同じ聖クラリス学院に通っていました」
 愛原:「過去形ですか?」
 善場:「はい、過去形です。何故なら、今は行方不明になっているからです」
 愛原:「えっ?」
 善場:「『1番』によるバイオハザード事件が起きた後、収容された病院で何者かに連れ去られました。もっとも、今はそれは白井伝三郎ではないかと思われています」
 愛原:「すっごい何か嫌な予感がしますね」
 善場:「今はBSAAも動いていますし、南会津郡からだいぶ移動しましたから、今日明日のタイミングで襲撃してくるとは思えませんけどね」
 愛原:「そうですねぇ……。他には?」
 善場:「これは少々先の話になるのですが、BSAA所属の研修生が、留学生として東京中央学園に編入するという話があります。これはもちろん、BSAA側によるBOW監視の為です」
 愛原:「ま、待ってください!BSAAに10代の研修生なんているんですか!?」
 善場:「バイオテロに巻き込まれて、家族を失った子供のうち、有志を集めてエリート養成するという方針がBSAA本部にはあるようです。もっとも、本当に実現するかどうかは不明です。私も半信半疑です。なので、こうして愛原所長にお話ししているのですよ」
 愛原:「確かに今、コロナ禍で、新規の留学生の受け入れとかはストップ状態ですからね」
 善場:「それと……ちょっと今、BSAA内部には内紛がありまして……。これは機密事項なので、あまり大きな声で詳細はお話しできないのですが……」
 愛原:「内紛ですか」
 善場:「リサみたいなBOWを戦力として活用しようという考え派と、それを否定する派ですね」
 愛原:「そんなのがあるんですか」
 善場:「それと今、東欧関係はとても緊迫した状況になっています。BSAAの本部は『西側』にありますが、比較的『東側』に近い場所に位置している為、『東側』の状況如何によっては白紙になるかもしれないのです」
 愛原:「なるほど。旧ソ連に近い場所とのことでしたね?」
 善場:「そうです。アメリカのルイジアナ州で起きたバイオハザード事件の生還者、ウィンターズ夫妻をルーマニアに移住させたのは、BSAA本部が直接監視しやすいようにする為とのことです」
 愛原:「北米支部じゃなくて?」
 善場:「はい」
 愛原:「ふーん……。外国では外国で、色んな事が起きてるんですな」
 善場:「そうですね」
 愛原:「申し訳ないですが、私は国内だけで手一杯なので……」
 善場:「もちろん、今のはあくまでもただの情報です。愛原所長におきましては、リサのことと、その周囲のことだけお願いします」
 愛原:「分かりました」

 善場主任は席を立った。

 愛原:「このままお帰りになるのですか?」
 善場:「はい。今なら、最終列車で帰京できますので」
 愛原:「とんぼ返りですか。大変ですね」
 善場:「これも仕事ですので。失礼します」
 愛原:「お疲れさまです。失礼します」

 善場主任はホテルを出ていった。
 さてさて、私もPTAの仕事に戻らないと。
 再び、就寝前の見回りの仕事がある。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« “私立探偵 愛原学” 「代替... | トップ | “愛原リサの日常” 「代替修... »

コメントを投稿

私立探偵 愛原学シリーズ」カテゴリの最新記事