報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“戦う社長の物語” 「雪に閉ざされて」

2018-02-18 19:28:53 | アンドロイドマスターシリーズ
[1月7日06:00.天候:曇 宮城県仙台市青葉区 東北工科大学・南里志郎記念館]

 エミリーはバージョン達が製作した玉座に座り、充電しながらスリープモードになっていた。
 機能美も造形美も最大に追求されて製作されたマルチタイプは、他のAI搭載ロボットやロイド達から見ても「女王様」なのである。

 B4.0-4:「エミリー様、大変デス!」

 そこへ記念館の警備ロボットとして稼働しているバージョン4.0が飛び込んで来た。
 右腕には4という数字がペイントされている。
 現在稼働している個体で、今や珍しい初期タイプであった。
 初期タイプの殆どがテロ用途として敷島達に敵対した為、破壊されたものだが、こちらの4号機は修理不能なほどの大破は免れ、修理された上、テロ用途としてのプログラムは解除されている。

 エミリー:「ん……」

 ブゥンとエミリーのモーターが再起動する。
 スリープモードが解除されたのだ。

 エミリー:「何事だ……?」
 B4.0-4:「外ガ大変ナ事ニナッテイマス!」
 エミリー:「外が……?」

 エミリーは玉座から立ち上がると、自分の体を繋いでいた充電用の電源ケーブルを外した。
 今現在、バッテリーは正・副・予備全て100%。
 バッテリーを3個も搭載しているのはマルチタイプのみ。
 メイドロイドや執事ロイドは通常2個であり、ボーカロイドにあっては軽量化の為に1個しか搭載していない。
 尚、アルエットやデイジーなどのフルモデルチェンジタイプにあっては燃料電池駆動の為、そもそもそういったバッテリーは搭載していない。
 9号機のデイジーのみ、非常用の予備バッテリーは搭載しているという。

 エミリー:「何があった?」
 B4.0-4:「トニカク来テクダサイ!」

 エミリーは訝し気にバージョン古参機についていった。
 尚、古参機も後期タイプの100番台も見た目は変わらない。

 エミリー:「……!」

 エントランスホールに行くと、エントランスの扉と格闘しているバージョン4.0が3機ほどいた。
 記念館は大学でも1、2を争う古い建物であるが、記念館として再生されるに辺り、大改築されている。
 それでも古い洋館風の建物の良さを遺す為と称して、外観に関しては補修作業くらいしか行われなかった。
 従って、扉も重厚な木製の観音扉がそのまま使われている。
 その扉に、バージョン達が苦労していた。
 エミリーほどではないが、馬力に関しては重機械並みの物を持つバージョン達だ。
 それが開けるのに苦労しているとは……。

 B4.0-108:「オオッ、エミリー様ガ来テクダサッタ!」
 B4.0-457:「我ラガ女王!」
 B4.0-286:「エミリー様、オ助ケクダサイ!」
 エミリー:「ドアが開かないのか?」
 B4.0-4:「サヨウデス!ドウヤラ、外側カラ物凄イ力デ押サエツケラレテイル模様デス!ドウカ、エミリー様ノ御力デ何卒ヒトツ……」
 エミリー:「……!」

 エミリーは眉を潜めた状態で、ドアノブに手を掛けた。

 エミリー:「……!?」

 最初はグッと押してみるが、殆ど動かない。
 試しに力を込めてグググッと押してみるが、それでも動かない。
 このままでは、ドアの方が壊れてしまう。

 B4.0-4:「え、エミリー様デモ開ケラレナイナンテッ!?」
 B4.0-457:「モウ駄目ダーッ!閉ジ込メラレタ!詰ンダーッ!」

 エミリーは窓に駆け寄った。
 窓に関しても外側に開く観音開きタイプの他、上に開けるタイプもある。

 エミリー:「窓を開けてみる!シャッターを開けろ!」
 B4.0-4:「ハハッ!」

 古参の4号機は窓の外のシャッターを開けようとした。
 こちらもシャッターというよりは鎧戸といった感じのもので、改築前は全て手動タイプであった。
 それが今や電動タイプとなり、しかも記念館専属警備のバージョン達が信号を送って開閉できるというものに変わった。
 だが……。

 エミリー:「!?」

 モーターの音はした。
 そして、シャッターが少しだけ開いたのだが、その後はなしのつぶてであった。

 B4.0-108:「ウワッ!?シャッターも開カナイ!?」
 エミリー:「……?」

 エミリーは上下に開閉するタイプの窓を開けた。
 そして数センチだけ開いたシャッターの隙間に手を入れた。
 センサーには、マイナスの温度が測定された。

 エミリー:「雪だ……!まさか……!?」

 エミリーは階段を上がって2階に向かった。
 そして今度は2階の窓を開けてみる。
 こちらのシャッターも数センチしか開かなかったが、頑張ればもっと開きそうだった。

 エミリー:「手動に切り替えろ!」
 B4.0-4:「ハハッ!」

 モーターの音が止まった。
 エミリーは僅かに開いたシャッターの隙間にに手を入れ、無理やりこじ開けた。
 すると!

 エミリー:「!!!」

 ドドドッと雪がなだれ込んで来た。
 2階の窓の半分ほどは雪に埋まっていたのだった。

 B4.0-4:「エミリー様!?」
 エミリー:「大丈夫だ」

 エミリーは雪山の中から出ると、パッパッとそれを払った。

 エミリー:「何て事だ……!雪に記念館が埋まってる……!」
 B4.0-4:「な、何デスト!?」

 尚も柔らかい雪が開いた窓から侵入しようとしていた。
 なのでエミリーは急いでシャッターを閉めた。

 エミリー:「3階なら大丈夫だ。3階に天窓があっただろう?そこから脱出できる」
 B4.0-457:「サスガハ、エミリー様!」

 エミリー達は3階に上がった。
 天窓と言っても天井に張り付いているものではなく、屋根裏の窓といった感じ。
 それでもバージョン4.0の体が何とか通り抜けられるほどであった。

 B4.0-108:「ヨーシ、脱出〜!」

 108号機が窓から飛び出した。

 エミリー:「待て!!」

 エミリーが大声で制したが、時既に遅かった。
 バージョン4.0の自重も相当ある。
 降り積もった柔らかい雪に、重い体をズブズブと沈みこませて行った。

 B4.0-108:「た、助ケテクダサーイ!!」
 エミリー:「ロケットアーム!」

 エミリーは左手の有線ロケットアームを飛ばして、108号機を掴んだ。
 そして、それを巻き上げて館内に引き込んだ。

 エミリー:「このバカ!こんな柔らかく降り積もった雪山に、そんな体を飛び込ませたら沈み込むに決まってるだろうが!」
 B4.0-108:「も、申シ訳ゴザイマセン!」

 108号機は全力で土下座した。

 エミリー:「シンディだったら、間違い無くお前なんか放置していたぞ」
 B4.0-108:「ヒィ〜……!」
 B4.0-4:「デハ、ドウナサイマスカ?」
 エミリー:「お前達はここで待っていろ。私は敷島社長と平賀博士の様子を見て来る。この分だと、街中も雪に埋まっている恐れがある」
 B4.0-4:「か、カシコマリマシタ!」

 エミリーは自身が履いているブーツに搭載された超小型ジェットエンジンを起動させた。
 本来は、こういう孤立した場所に閉じ込められた際に使用する緊急脱出用である。
 それで飛び上がると、見た目は鉄腕アトムだ。
 だがアトムが長時間、長距離を飛行できるのに対し、こちらはせいぜいもって30分ほどで切れてしまう。
 エミリーは記念館を飛び立つと、敷島達が宿泊しているホテルに向かった。

 エミリー:(役立たずどもがっ……!)

 そして不機嫌な顔をして、留守役をさせたバージョン達を訝しく思うのだった。

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