報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「夜はまったりの魔道師達」

2015-12-31 15:23:32 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月27日20:45.天候:晴 東京都千代田区外神田(ドーミーイン秋葉原) 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 ホテルの前に1台のタクシーが止まる。
「先生、ホテルに着きましたよ。大丈夫ですか?」
「うう……すまないねぇ……」
「ユウタ。私が降ろすから、師匠のカードで払って」
「は、はい。アメリカン・エクスプレス、使えますか?」
 助手席に座る稲生は、イリーナのプラチナカードを出した。
「はい、大丈夫ですよ」
 稲生が最初から持っていたわけではなく、マリアが予め稲生に渡していたものである。
 ……ということは、マリアはこの事態を予測していたというわけか。
 思わずサインの際、自分の名前を書きそうになるが、ちゃんとイリーナの名前を書く。
 確かイリーナは、プラチナよりもっと上のブラックカードを持っていたような気がするが、今回の旅行ではそれを持ってこなかったのか。
「先生、大丈夫ですか?」
 稲生は後からタクシーを降りて、急いでホテルの中に入った。

 客室へ向かうエレベーターに乗り込む。
「さ、一息ついたら、もう1回お風呂に入るわよー」
「先生?」
 急に元気になるイリーナ。
 稲生が首を傾げていると、
「ポーリンの薬が効いてきたかねぇ……」
 とのこと。
 それでも、何だか急な話だが……。

[同日21:15.天候:晴 同場所・客室→大浴場 稲生&マリア]

 稲生は自分の部屋でPCのキーボードを叩いていた。
 セミダブルの部屋を1人で使っている。
 そういえば、マリアの屋敷に住まわせてもらっている部屋も、セミダブルくらいのベッドだったような気がする。
 実家のベッドが本当のシングルの幅だけに、帰省したらしたで、狭く感じるかもしれない。
 稲生は実家から持って来たノートPCを実家に持ち帰る為、自分のバッグに入れていた。
 それを今取り出して使用しているのだが、それでよくやっているのはSNS。
 大学時代はレポートを書いていた。
 今でもこれで、自分で魔道書を読んだり、イリーナから講義を受けた後、自分で分かりやすく解説する時などに使用したりするが……。
 その時、部屋がノックされた。
「はい?」
 ドアを開けると、そこにはマリアがいた。
「あ、マリアさん。どうしました?」
「師匠が寝てしまったので、一緒に行かないか?」
 マリアは館内着に着替えていた。
 このホテルではルームウェアはイコール館内着であるため、その格好で館内を自由に歩いて良いことになっている。
 マリアは上を指差した。
 大浴場に一緒に行こうというのだ。
「あ、はい。じゃ、僕も着替えてくるんで、ちょっと待っててください」
 稲生は一旦部屋に戻ると、同じ意匠の館内着に着替えた。
「お待たせしました」
「行こうか」

 大浴場の入口で、マリアと別れる。
 同じフロアに休憩コーナーがあるので、そこを待ち合わせ場所にした。
(何か複雑だ……)
 風景だけなら、地方の温泉旅館の大浴場みたいな造り。
 だが露天風呂に行くと、すぐ近くをJRが通り、首都高が通っているということもあってか、それらの電車の音や車の音など、いわゆる都会の喧騒が聞こえるのが不思議な感じがした。
(それにしても、マリアさんの方から誘ってくれるって珍しいな)
 旅行というのと、酒が入っていたというのもあるだろう。
 屋敷では夕食後、その日の温習が行われる為、そんなにゆっくりできるわけではない。
 イリーナがいない時はいない時で、稲生のPCにイリーナからの課題が送信されてくる為、やはり同じだ。
 いない時は自室にこもる事が多いのと、広い屋敷でマリアは西側、稲生は東側にいるため、あとは起床後の朝食時にしか会わないというのが実情だ。

[同日22:00.ホテル9F・休憩コーナー 稲生&マリア]

 休憩コーナーに行くと、まだマリアはいなかった。
 しょうがないので、無料のPCコーナーに行き、そこで明日の秋葉原散策について検索してみる。
 もっとも、稲生がどうしても検索するのは最新のPC機器についてだが……。
「ユウタはPCが水晶玉代わりかな?」
「あっ、マリアさん!」
 稲生は慌てて画面を消した。
「いや、これはもう習慣で……」
「サンモンド船長はボード型を使用していたから、そっちの方がいいかな?」
「分厚いタブレットみたいなヤツですか?何か、重そうですしね」
「いや、案外そうでもないよ」
「そうですか?」
 自販機で飲み物を買う。
 意外にも、マリアはビールの自販機で缶チューハイを買った。
 見た目は未成年だが、実際は稲生より年上なので、法律上は何も問題は無いのだが。
 稲生も同じものを買って、空いている椅子に座った。
「今日は盛り上がりましたね」
「誰のイベントだか、最後は分からなくなったな」
「ハハハ……」
「ユウタを珍獣みたいな目で見るのもいたから、不愉快だったでしょう?」
「いやー、でも確かに日本人が魔道師をやるってなかなか無いですから。気持ちは分かるような気がします」
「そうか?」
「ええ。それに、色々と勉強になりましたし」
「魔道師にも、色々いるからな。私以上に人間嫌いの者もいる」
「そうなんですか?」
「招待状は全員に送ったみたいだけど、本当に全員が来たわけではないから」
「なるほど。でも、忙しいからとか?年末ですし……」
「いや、ただ単に、ああいう所へ来るのが嫌いなだけだ」
「人間でも、そういう人っていますけどね」
「まあ……。ユウタが最初、私の噂をどこで聞いたかは知らないけど、私で良かったと思うよ」
「そうですね」
 稲生は笑みを浮かべて頷いた。
「エレーナだったら法外な金を要求してきただろうし、他の者だったら、それこそ2度と帰してもらえなくなっていただろう」
「そ、そんなに……?」
「童話とかに悪い魔女が登場する話があるでしょう?」
「ええ」
「あれにはモデルになった魔道師がいて、例えば毒リンゴを寄越す魔女が登場する話があったと思うけど……」
「確か、白雪姫ですね」
「あれ、ポーリン先生が大昔、作った薬の実験台になってもらった貴族の娘を毒殺してしまったのがモデルだったと思う」
「ええ~?……あ、あの、イリーナ先生が飲んだ薬は大丈夫なんでしょうね?」
「あ、今は大丈夫。魔道師仲間に回す時は、それこそ売るつもりで渡すから。それで失敗作なんか寄越したら、ポーリン先生の信用が仲間内で落ちるからね」
「確かに……」
 本当に魔道師の話については、冷やっとさせられることが多い。

「明日は少し町を散策した後、師匠がユウタの家に年末の挨拶に行きたいとか言ってたよ?」
「そうなんですか?」
「まあ、酔っ払って言ってたから、どこまで本当かは分からないけど」
「そうですか。じゃあ、両親に今のうちに言っておこうかな」
「その方がいいと思う。夜遅いけど、大丈夫か?」
「ええ。もう年末休みに入ってると思うので」
「そう、か。じゃあ、また明日」
「はい。お休みなさい」
 稲生は部屋の前で、マリアと別れた。
 風呂上りで火照った身体に、アルコールが入ったからか、いつもより饒舌になったマリア。
 そんなマリアもかわいいなと思った稲生だった。

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