報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「夜のさいたまを往く」

2018-04-26 14:08:30 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月8日20:14.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 JR北与野駅]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の2番線の電車は、20時14分発、各駅停車、大宮行きです〕

 稲生とマリアはホームで電車を待っていた。
 夕食は稲生の家で取り、それから出発という形である。
 これから中東から来日するイリーナを迎えに、羽田空港まで行くところだ。
 中東のドバイに何とか逃げ込んだイリーナは、そこから羽田行きのカタール航空に乗ることができたらしい。

〔まもなく2番線に、各駅停車、大宮行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕

 時々強い風が吹く中、電車がやってくる。
 JRの車両ではなく、りんかい線の車両だった。

〔きたよの、北与野。ご乗車、ありがとうございます〕

 1番後ろの車両に乗り込んだ。
 日曜日の夜の電車ということもあって、車内はとても空いている。
 JRのは緑色のモケットだが、りんかい線のはブルー。
 そこに座った。
 シートはJRのものよりも硬め。

〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 発車メロディもそこそこに、電車は2点チャイムを3回鳴らしてドアを閉めた。
 駆け込み乗車による再開閉は無かった。

 『発車します。ご注意ください』

 電車が走り出す。

〔「次は終点、大宮、大宮です。東北、上越、山形、秋田、北陸新幹線、宇都宮線、高崎線、京浜東北線、川越線、東武アーバンパークラインと埼玉新都市交通ニューシャトルはお乗り換えです」〕

 稲生:「有紗は……何もしてきませんでしたね」
 マリア:「……そうだな。でも、どこかで見張ってる」
 稲生:「分かりますか?」

 稲生は恐る恐る周囲の窓ガラスを見た。
 外が暗いだけに、ガラスはまるで鏡のように車内を映し出している。
 マリアは普段のブレザーの上からローブを羽織り、魔法の杖を手にしていた。
 いつでも臨戦態勢のつもりだが、窓ガラスには有紗の姿は映っていない。

 マリア:「分かる。私にも霊感はあるから」
 稲生:「……ですよね」

 そもそも、そうでないと魔道師にはなれない。

[同日20:18.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅→大宮駅西口バス乗り場]

〔「まもなく終点、大宮、大宮です。地下ホーム19番線到着、お出口は左側に変わります。大宮より先、日進、西大宮、指扇、南古屋、川越方面ご利用のお客様、今度の川越行きは、21番線から20時28分の発車です。ホーム進入の際、電車が大きく揺れる場合がございます。お立ちのお客様は、お近くの吊り革、手すりにお掴まりください。今日もJR埼京線をご利用頂きまして、ありがとうございました」〕

 電車の窓から見えたさいたまスーパーアリーナの人だかりを見ると、顕正会の大会を思い出す。
 稲生が河合有紗と知り合ったのは、そこであった。
 京浜東北線が人身事故でストップし、帰りの足を奪われた顕正会員達でごったがえしていた中、稲生は地元の知識を駆使して、有紗と共にバスで脱出したのだった。

 マリア:「……勇太?勇太!」
 稲生:「あっ、はい!」
 マリア:「もうすぐ着くよ?」
 稲生:「そ、そうですね。お、降りましょう」

 稲生はバネ仕掛けの人形のようにいきなり立ち上がった。
 と、同時に電車がポイント通過で大きく揺れる。

 稲生:「わったたっ!!」

 稲生はバランスを崩し、ドアの前に立っていたマリアに壁ドンならぬ、ドアドン。

 マリア:「だ、大丈夫……?」
 稲生:「す、すいません……」

 互いに顔を赤めていると……。

 稲生:「わっ!?」

 マリアの背後のドアの窓。
 そこに、恨めしそうな顔をした有紗の顔が浮かび上がった。
 稲生が慌てて離れる。
 と、電車がホームに停車してドアが開いた。

〔おおみや、大宮。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 マリア:「またいたの?」
 稲生:「……はい」
 マリア:「ちっ!嫉妬深いヤツめ!」

 そこ!マリアがブーメラン投げたとか言わない!

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。19番線に停車中の電車は……〕

 マリア:「とにかく降りよう」
 稲生:「……はい」

 すぐ近くの階段には階段しか無い。
 そこをトントンと上がって行くのだが……。

 マリア:「このっ!」

 普通の人間には、マリアが階段を足でドンドン踏み鳴らしたようにしか見えなかっただろう。
 だが、稲生には見えていた。
 階段から青白い手が伸びてきて、マリアの足を掴もうとしたことを。
 そして、その手が誰のものなのかも……。

 稲生:「マリアさん……」

 最後には魔法の杖で、ドンと叩いた。

 マリア:「私の足を引っ張って、階段から落とそうとしたんだろうけど、そうはいかないから」
 稲生:「さすがですね。(きっと普通の人間だった頃のマリアさんも、似たようなことをしたんだろうなぁ……)」

 途中からはエスカレーターに乗ったということもあって、青白い手に引っ張られるということはなかった。

 稲生:「羽田空港行きのバスは西口から出ます。行きましょう」
 マリア:「そうだな。階段を下りる時も気をつけて。突き落とされる恐れがある」
 稲生:「は、はい」

 とはいえ、大宮駅は人が多い。
 さすがの幽霊も、そういう所では悪さはしにくいようだ。
 何とか2人は、羽田空港行きのバス乗り場に行くことができた。

 稲生:「これがバスの乗車券です」
 マリア:「ありがとう」

 いつの間にかコンビニで購入していた稲生。
 そこは抜かりない。

 稲生:「まさか、バスが襲われるなんてことは……?」
 マリア:「その心配は無い」
 稲生:「何か秘策でも?」
 マリア:「大したことはしないけど、そもそも師匠が何も言ってこない所を見ると、多分大丈夫なんだと思う。それに……」
 稲生:「?」
 マリア:「あいつらも乗るみたいだから、大丈夫だろう」

 羽田空港行きのバスを待つ乗客達は列を作っている。
 稲生達もその列に並んでいるのだが、その後ろに並んだ者達がいた。
 マリアの契約悪魔ベルフェゴールと、稲生と契約することがほぼ内定している悪魔アスモデウスである。
 キリスト教の七つの大罪の大悪魔が2柱も乗り込んでくれば、さすがに幽霊と言えども何もできないだろう。
 尚、ベルフェゴールにあっては相変わらずの英国紳士スタイルだし、アスモデウスにあってはAVにおけるJKモノの女優みたいな感じになっていた。明らかに稲生との契約を重視した姿である。

 稲生:「最強ですね……」
 マリア:「……勇太の方が最強じゃないかな」
 稲生:「は?」

 強大な悪魔が、契約相手の好みに合わせて自分から姿を変えるのは珍しいとのこと。

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