報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「稲生家の食卓」

2018-06-17 21:47:32 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月13日17:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家1F]

 佳子:「すぐに御夕飯の支度しますね」
 イリーナ:「どうもすいません。マリアが元気でしたら、彼女に手伝わせるところですが……」
 佳子:「いえ、いいんですよ。先生方はお客様ですから、どうぞゆっくりしてらしてください」
 イリーナ:「ありがとうございます。それと、勇太君のお父様」
 宗一郎:「何でしょう?」
 イリーナ:「お世話になったお礼に、無料で占いをして差し上げますわ」
 宗一郎:「本当ですか!身に余る光栄です!すぐに応接間を御用意しますので……」
 イリーナ:「そういうわけだから、勇太君はマリアを看ててね」
 稲生:「は、はい」

 イリーナが意味深な笑みを浮かべたことは偏に、敢えて稲生とマリアを2人きりにさせる為だとすぐに分かった。

 稲生:「マリアさん……」

 マリアの首筋には河合有紗に首を絞められたことによる手形の痣があったのだが、イリーナの回復魔法のおかげで、それは殆ど消えていた。
 首を強く締められると失禁することがあるが、マリアは耐えたらしい。
 それとも、もう普通の人間ではないからだろうか。
 威吹は、『イリーナはもう骨と皮の匂いしかしないが、マリアはちゃんと女の匂いがする』と言っていたし、生理もあるわけだから、逆にもう人間ではないことが信じられない。
 それは稲生も同じことなのだが、稲生とて老化が止まったことが信じられないでいる。
 既に契約が内定している悪魔が、他の悪魔に手を付けられないように手を回しているらしいのだが。

 マリアは仰向けになっていた。
 意識が回復するまで、あとどのくらいだろう。
 イリーナは時折、何の脈絡も無しに予言することがある。
 先ほど、『お腹が空いたら目を覚ます』と言っていた。
 なので、マリアは夕食時に目を覚ますということを言っていたのだろう。

 稲生:「…………」

 今のマリアは穏やかな顔で眠っていた。
 昔はよく人間時代のトラウマより、毎晩のように悪夢にうなされ、あまり睡眠を取れていなかったという。
 その為、初めて会った時のマリアは顔色が悪く、目に隈を浮かべていた。
 金色の髪に触ってみる。
 さらさらとしたショートボブは、手に触れるとそれが心地良かった。
 チラッとマリアの唇を見る。

 稲生:「……!」

 グググと顔を近づけた。
 マリアはまだ目を覚まさない。
 これは正にあれだ。
 マジでキスする5秒前
 だが!

 プチュッ!

 稲生:「!!!」

 稲生とマリアの間に、ミク人形が割って入った。
 つまり、稲生はミク人形とキスするハメになった。

 ミク人形:「ペッ!ペッ!」(←さもキモそうに稲生の唇から付いた唾を吐き出す) 
 稲生:( ;∀;)

 ↑稲生、完全に涙目。

 稲生:「はいはい、分かりましたよ!あとはよろしく、ミカエラ!」

 稲生は悔しそうに客間を出て行った。

 ミク人形:「アッカンベー!」😝
 ハク人形:「アッカンベー!」😜

 その様子をバカにしたように反応する人形2体。
 だが、その人形を両手で掴むマリアの姿があった。

 マリア:「ダメじゃないの。余計なことしちゃ」
 ミク人形:「?」
 ハク人形:「?」

 人形達にしてみれば、主人の唇を不遜にも奪おうとしてきた男から守ってあげたつもりでいたのだが……。

[同日18:30.天候:晴 稲生家1Fダイニング]

 宗一郎:「ささ、先生方、どうぞ遠慮なさらず食べて飲んでください」
 イリーナ:「どうもすいません」
 マリア:「イタダキマス……」

 マリアは極力平静を装いながら箸を手にした。
 テーブルの上には鍋が置かれ、それですき焼きができるようになっていた。
 他には寿司屋で購入したと思われる寿司。
 飲み物はビールが中心だったが、イリーナ向けにウォッカがあった。

 宗一郎:「先生、占いありがとうございました。これでまた……あ、いや、その……」
 イリーナ:「いいんですのよ。こちらこそ、勇太君という優秀な弟子を頂戴できて、筆舌に尽くせぬ大恩です」
 宗一郎:「そんなに勇太は優秀ですか」
 イリーナ:「優秀ですとも。このまま順調に修行が進めば、マリアを超えることができるかもしれません。将来は私の後継者に相応しいものと見ております」
 宗一郎:「親として光栄です。さ、先生、どうぞ」

 宗一郎はウォッカをイリーナに勧めた。
 マリアは人間時代、悪魔と契約をしたというだけで、実は霊力そのものは普通の人間並みにしか無かった。
 それに対して稲生は、過去世が天台宗の某高僧(南光坊天海僧正?)である可能性が高いということで、その予想に見合う霊力を持っていた。
 修行の状態にもよるのだが、やはり魔道師の世界は素質がモノを言う。

 イリーナ:「ありがとうございます」
 宗一郎:「勇太もマリアさんも遠慮なさらずどうぞ」
 マリア:「アリガトゴザイマス……」
 稲生:「う、うん。頂くよ。(もしかしてマリアさん、気づいてる?)」

 ややもすると、ミク人形達がチクッたのではとヤキモキする稲生だった。

 イリーナ:「マリア、すき焼きはこうして、溶いた玉子に付けて食べると美味しいわよ」
 マリア:「は、はい」
 宗一郎:「どちらかというと、熱い肉を食べる為、玉子に付けて冷ますという意味があったようですね」
 イリーナ:「なるほど」
 稲生:「ま、マリアさん、ビールで良かったらどうぞ」
 マリア:「う、うん。Thanks.」

 ワインは数杯平らげても平気なマリアだが、それより低いアルコール度数であるはずのビールではすぐに酔う。
 だがマリア的には、むしろ酔い潰れたい気になっていた。

 イリーナ:「美味しい肉ですね。これは一体どこの?」
 佳子:「それは北海道の大沼牛ですね」
 イリーナ:「日本のスーパーマーケットでは、肉は完全にスライスされて売られているようですね。だけど、ヨーロッパでは肉は塊(ブロック)のまま売られていることが殆どなんですのよ」
 宗一郎:「らしいですな。その為、店内ではスライサーも色んな種類のものが売られているんだそうで」
 イリーナ:「そうなんですの。私がまだロシアにいた頃は……」

 イリーナと両親の会話も、稲生とマリアの耳にはあまり入って来なかった。

 稲生:(ううっ……!どうしよう……?これ絶対、マリアさんにバレてるパティーン……!き、嫌われちゃたらどうしよう……?)
 マリア:(気づいたことがバレてるかも……!気づかないフリしなきゃいけないのに……っ!)

 マリアと稲生は、とにかく飲み食いすることで、この気まずさを解消しようとした。
 結果!

 稲生:「うー……飲み過ぎた……」
 マリア:「…………」
 イリーナ:「あらあら。とても美味しかったものね。てかマリア、片付けくらい手伝いなさい」
 マリア:「……し、師匠、体揺すられないでください……。吐いちゃうんで……」
 イリーナ:「んもう、情けない。すいませんね、不肖の弟子で」
 佳子:「いえいえ、構いませんよ」
 マリア:「私……チョット、休ンデマス……。ゴチソーサマデシタ」
 稲生:「僕もちょっと胃薬を……」

 マリアは客間に、稲生は自室へと向かった。

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