[6月20日11:30.天候:曇 神奈川県相模原市緑区・十条家 敷島孝夫、初音ミク、十条達夫、リカルド・ブラウン]
「この地下室へ隠れるんじゃ!」
「はい!」
十条家には地下室があった。
地下室というよりは倉庫に近い。
元々はドクター・ウィリーが隠れ家に使っていたとされる建物だ。
色々な仕掛けがあるのかもしれない。
事実、
「ここから外に出られる。いざとなったら、これで脱出ぢゃ」
「うっわ!?」
コンクリートの壁には重厚な鉄扉があり、それを開けると地下水脈と繋がっていた。
そこにはボートが置いてある。
「もしかしてこれ、外の相模湖に通じているというオチでは?」
「ほっほっ!この辺りは相模湖に向かう相模川と上流の桂川などに通じておる。ケーサツからの追跡も完璧ぢゃ!」
「いや、あの、サツの追跡じゃなくて、マルチタイプの追尾から逃れる手法を考えてくださいよ」
敷島は呆れたように突っ込んだ。
(何かこの弟さんも、兄貴の爺さんに似てるわ……)
「まあそれは冗談として、外の様子を見てからじゃな」
地下室では、外に仕掛けられている監視カメラの映像を見ることができる。
「上手い事、あのシンディが勝ってくれるといいんじゃがな」
達夫は画面を立ち上げながら言った。
「シンディならやってくれると思いますが……」
「シンディさん、強いですから!」
因みに地上ではリカルドが張っている。
執事ロボットでは、せいぜい人間より強い馬力と右目のレーザービームくらいしか応戦するものがない。
やっと映像が映った時、3人が見たものは……。
「あ」
「あっ!?」
「!?」
[同日同時刻 同場所・屋根の上 マルチタイプ3号機のシンディ&同じく7号機のレイチェル]
後ろから羽交い絞めにされているシンディ。
「くっ……!は、放せ……!お、お前……!?」
シンディの背後で冷笑が聞こえた。
「お久しぶりですわ、お姉様?」
「レイチェル……!?み……ミノフス村で……こ、壊れたはずじゃ……!?」
「地獄の底から這い上がって来たわよ。アンタと同じようにね!」
久しぶりに会った姉機を力づくで壊そうとする妹機のレイチェル。
「!?」
地上でレーザービームが発射された。
「微力ですが、援護射撃致します!」
リカルドだった。
右目からレーザービームを放ったのだ。
「ばっ、バカ!アンタは避難してな!」
「執事ロボットの分際で小賢しい!」
レイチェルはシンディを放すと、リカルドに屋根から飛び降りて体当たり。
「リカルド!!」
リカルドはマルチタイプの直撃を受けて、ほぼ大破してしまった。
「レイチェル!アンタ、何てことするの!!」
「やっぱり姉さん、変わったね。私が知っている姉さんだったら、私より先にコイツを壊していたと思うけど?」
「……!」
シンディは反論不能に陥った。
「コイツを壊す感覚で、どれだけ多くの人間を殺してきたの?私の何倍も!それでノコノコ復活して、どういう了見なの?」
{「シンディ、惑わされるな!」}
敷島が通信機で言葉を送る。
{「こっちの情報じゃ、レイチェルだって似たようなもんだぞ!直近だと、アメリカ・イリノイ州の田舎町を壊滅させたって話じゃないか!」}
「なに?どうしたの?」
「アタシのユーザーから。顕正会も創価学会も、異流儀という点で同じだってさ」
「は?何言ってんの?」
シンディは不敵な笑みでレイチェルに体当たり。
「うっ!?」
「アンタの弱点もお見通しだよ!姉としてね!」
末妹機を抱え、ジェットエンジンで飛び上がる。
「そこで頭を冷やしなさい!」
そして、一緒に日連大橋(にちれんひづれおおはし)の近くから相模湖へ流れる川に飛び込んだ。
シンディは飛び込む直前、橋の欄干に左手を掛けている。
掛けたと同時に有線ロケットパンチで左手を切り離し、そのリーチで川に飛び込んだ。
そして、レイチェルを川に沈めると、自身は川から上がる為に左手で欄干を掴んだまま収納する。
こうすることで、体が橋の上まで引き上げられるという仕組みだ。
マルチタイプは自重が重い為、自力で泳ぐことができない。
いや、耐水性はあるのだが、足の裏のジェットエンジンは水中では使えない。
だから貨物船スター・オブ・イースタン号の捜索では、ジェットエンジンから小型スクリューに換装したのである。
[同日13:00.十条家 敷島孝夫、十条達夫、シンディ、初音ミク]
「ダメじゃ。リカルドの修理は不可能だ。廃棄するしかない」
達夫は溜め息を吐きながら言った。
「そうですか。残念です」
「ごめんなさい。アタシが……レイチェルに捕まったりしたから……」
シンディが俯いて言った。
「いや、いいんじゃよ。お前さんが無事でな。それより、衣装が濡れたままじゃと動きにくかろう。洗濯して乾燥させなさい」
「ありがとうございます」
シンディは礼を言って、洗濯機や乾燥機のあるバスルームへ向かった。
意外と床の上を歩いていても大丈夫のような……?
「こりゃ、早いとこアルエットを見つけてもらわんと」
「そうですね」
「孤独な老人が、更に孤独となって、どうにかなりそうじゃわい」
「それはいけませんね。それまでの間、ミクを預けておきたいところですが、彼女はそのようなボランティアをさせるには売れ過ぎてしまった。これからだって、八王子のショッピングセンターでゲリラライブを行うところです」
「そうか。それは残念じゃ」
「シンディみたいなマルチタイプの方がいいんじゃありませんか?」
「いやいや。ワシは力作のアルエットを使わせてもらうよ。本来、シンディみたいな旧型機は、個人が管理する想定にはなっていないからの」
ユーザー設定やオーナー設定の概念は、近年になってからである。
財団発足後、大幅にソフトウェアが更新された。
今は解散しているが、まだその名残がある。
「……エミリーは上手く南里所長に管理されていましたが?」
「それは南里先生が御自身で作ったものという自負と、エミリーの性格設定に無理が無かったからじゃろう」
「シンディはムリがあるんですか?」
「敷島君が管理している間は大丈夫だと思うがな。あと、オーナー設定の……」
「アリスですか。あいつがオーナーで大丈夫かなぁというアレはありますけどね。まあ、上手い事やってますよ」
「うむうむ」
「で、レイチェルが何の目的でここに来たのか聞けなかったなぁ……」
「あの戦いの様子では、とても聞ける状況では無かったの。シンディの戦法は、一先ず成功じゃ」
「川の中に沈めて大丈夫ですかね?」
「いずれは水面に浮上してくるじゃろう。その時、KR団が回収するかもしれんな」
「私がKR団の幹部なら、今夜にでも回収するつもりですがねぇ……」
「相模湖も深いから、そう簡単には湖底に沈んでいるマルチタイプの回収は難しいと思うぞ?大掛かりな機械を使えば可能じゃが、ナンボ夜間でも、それでは目立ってしまう」
「せめてアルエットの行方でも知っていたらなぁ……」
「多分、知らないと思う。ワシが志木の隠れ家にいたのも、レイチェルにアルエットを回収させる為じゃ。しかし、あいつのレーダーにも掛からんかった」
「えー……。意外と千葉にいたりして」
「いや、千葉から西方面に向かったことまでは知っておる。で、東京から出ておる」
「あらま」
「その後、GPSが切れたのか、全く行方が掴めん」
「うーん……」
その時、敷島のケータイが鳴った。
「何だよ、こんな時に」
敷島が右手で持って画面を見ると、アリスからだった。
「はい、もしもし?」
{「ちょっと!コール3回以内に出なさいよ!」}
「うるさいな。こっちだって忙しいんだよ。で、なに?」
{「こっち(埼玉の研究所)で入った情報なんだけど、秩父の方でバージョン4.0の目撃情報が入ったわよ。うちの研究員が見たって」}
「動かなくなった残骸とか?」
{「違う。車の中だったんだけど、何体かで隊列を組んで、その中央にはデカい機体……だから、バージョン400も1機歩いていたんだって」}
「マジかよ。てか、秩父にも研究所か何かあるのか、お前の会社は?」
{「ヘタすりゃ、今の研究所が移転するかもね」}
「通勤しにくい所に移転するなぁ!秘密の研究所にでもする気か!」
{「とにかく、あんたの調査よろしく〜」}
「秩父でライブの予定なんて無いぞ!」
敷島は電話を切った。
「ん?秩父?」
「どうしたね?」
「志木市の荒川……の、上流をずっと上って行くとどこに出ます?」
「ちょっと待っとくれ」
敷島の唐突な質問に、達夫が目の前のPCのネットで調べた。
「まあ、確かに秩父じゃの。秩父鉄道の沿線じゃわい」
「なるほどねぇ……。後で確認してみます」
「む?」
「ミクのライブが先」
「商売っ気たっぷりじゃのォ……」
達夫は半分感心し、半分呆れた。
「この地下室へ隠れるんじゃ!」
「はい!」
十条家には地下室があった。
地下室というよりは倉庫に近い。
元々はドクター・ウィリーが隠れ家に使っていたとされる建物だ。
色々な仕掛けがあるのかもしれない。
事実、
「ここから外に出られる。いざとなったら、これで脱出ぢゃ」
「うっわ!?」
コンクリートの壁には重厚な鉄扉があり、それを開けると地下水脈と繋がっていた。
そこにはボートが置いてある。
「もしかしてこれ、外の相模湖に通じているというオチでは?」
「ほっほっ!この辺りは相模湖に向かう相模川と上流の桂川などに通じておる。ケーサツからの追跡も完璧ぢゃ!」
「いや、あの、サツの追跡じゃなくて、マルチタイプの追尾から逃れる手法を考えてくださいよ」
敷島は呆れたように突っ込んだ。
(何かこの弟さんも、兄貴の爺さんに似てるわ……)
「まあそれは冗談として、外の様子を見てからじゃな」
地下室では、外に仕掛けられている監視カメラの映像を見ることができる。
「上手い事、あのシンディが勝ってくれるといいんじゃがな」
達夫は画面を立ち上げながら言った。
「シンディならやってくれると思いますが……」
「シンディさん、強いですから!」
因みに地上ではリカルドが張っている。
執事ロボットでは、せいぜい人間より強い馬力と右目のレーザービームくらいしか応戦するものがない。
やっと映像が映った時、3人が見たものは……。
「あ」
「あっ!?」
「!?」
[同日同時刻 同場所・屋根の上 マルチタイプ3号機のシンディ&同じく7号機のレイチェル]
後ろから羽交い絞めにされているシンディ。
「くっ……!は、放せ……!お、お前……!?」
シンディの背後で冷笑が聞こえた。
「お久しぶりですわ、お姉様?」
「レイチェル……!?み……ミノフス村で……こ、壊れたはずじゃ……!?」
「地獄の底から這い上がって来たわよ。アンタと同じようにね!」
久しぶりに会った姉機を力づくで壊そうとする妹機のレイチェル。
「!?」
地上でレーザービームが発射された。
「微力ですが、援護射撃致します!」
リカルドだった。
右目からレーザービームを放ったのだ。
「ばっ、バカ!アンタは避難してな!」
「執事ロボットの分際で小賢しい!」
レイチェルはシンディを放すと、リカルドに屋根から飛び降りて体当たり。
「リカルド!!」
リカルドはマルチタイプの直撃を受けて、ほぼ大破してしまった。
「レイチェル!アンタ、何てことするの!!」
「やっぱり姉さん、変わったね。私が知っている姉さんだったら、私より先にコイツを壊していたと思うけど?」
「……!」
シンディは反論不能に陥った。
「コイツを壊す感覚で、どれだけ多くの人間を殺してきたの?私の何倍も!それでノコノコ復活して、どういう了見なの?」
{「シンディ、惑わされるな!」}
敷島が通信機で言葉を送る。
{「こっちの情報じゃ、レイチェルだって似たようなもんだぞ!直近だと、アメリカ・イリノイ州の田舎町を壊滅させたって話じゃないか!」}
「なに?どうしたの?」
「アタシのユーザーから。顕正会も創価学会も、異流儀という点で同じだってさ」
「は?何言ってんの?」
シンディは不敵な笑みでレイチェルに体当たり。
「うっ!?」
「アンタの弱点もお見通しだよ!姉としてね!」
末妹機を抱え、ジェットエンジンで飛び上がる。
「そこで頭を冷やしなさい!」
そして、一緒に日連大橋(
シンディは飛び込む直前、橋の欄干に左手を掛けている。
掛けたと同時に有線ロケットパンチで左手を切り離し、そのリーチで川に飛び込んだ。
そして、レイチェルを川に沈めると、自身は川から上がる為に左手で欄干を掴んだまま収納する。
こうすることで、体が橋の上まで引き上げられるという仕組みだ。
マルチタイプは自重が重い為、自力で泳ぐことができない。
いや、耐水性はあるのだが、足の裏のジェットエンジンは水中では使えない。
だから貨物船スター・オブ・イースタン号の捜索では、ジェットエンジンから小型スクリューに換装したのである。
[同日13:00.十条家 敷島孝夫、十条達夫、シンディ、初音ミク]
「ダメじゃ。リカルドの修理は不可能だ。廃棄するしかない」
達夫は溜め息を吐きながら言った。
「そうですか。残念です」
「ごめんなさい。アタシが……レイチェルに捕まったりしたから……」
シンディが俯いて言った。
「いや、いいんじゃよ。お前さんが無事でな。それより、衣装が濡れたままじゃと動きにくかろう。洗濯して乾燥させなさい」
「ありがとうございます」
シンディは礼を言って、洗濯機や乾燥機のあるバスルームへ向かった。
意外と床の上を歩いていても大丈夫のような……?
「こりゃ、早いとこアルエットを見つけてもらわんと」
「そうですね」
「孤独な老人が、更に孤独となって、どうにかなりそうじゃわい」
「それはいけませんね。それまでの間、ミクを預けておきたいところですが、彼女はそのようなボランティアをさせるには売れ過ぎてしまった。これからだって、八王子のショッピングセンターでゲリラライブを行うところです」
「そうか。それは残念じゃ」
「シンディみたいなマルチタイプの方がいいんじゃありませんか?」
「いやいや。ワシは力作のアルエットを使わせてもらうよ。本来、シンディみたいな旧型機は、個人が管理する想定にはなっていないからの」
ユーザー設定やオーナー設定の概念は、近年になってからである。
財団発足後、大幅にソフトウェアが更新された。
今は解散しているが、まだその名残がある。
「……エミリーは上手く南里所長に管理されていましたが?」
「それは南里先生が御自身で作ったものという自負と、エミリーの性格設定に無理が無かったからじゃろう」
「シンディはムリがあるんですか?」
「敷島君が管理している間は大丈夫だと思うがな。あと、オーナー設定の……」
「アリスですか。あいつがオーナーで大丈夫かなぁというアレはありますけどね。まあ、上手い事やってますよ」
「うむうむ」
「で、レイチェルが何の目的でここに来たのか聞けなかったなぁ……」
「あの戦いの様子では、とても聞ける状況では無かったの。シンディの戦法は、一先ず成功じゃ」
「川の中に沈めて大丈夫ですかね?」
「いずれは水面に浮上してくるじゃろう。その時、KR団が回収するかもしれんな」
「私がKR団の幹部なら、今夜にでも回収するつもりですがねぇ……」
「相模湖も深いから、そう簡単には湖底に沈んでいるマルチタイプの回収は難しいと思うぞ?大掛かりな機械を使えば可能じゃが、ナンボ夜間でも、それでは目立ってしまう」
「せめてアルエットの行方でも知っていたらなぁ……」
「多分、知らないと思う。ワシが志木の隠れ家にいたのも、レイチェルにアルエットを回収させる為じゃ。しかし、あいつのレーダーにも掛からんかった」
「えー……。意外と千葉にいたりして」
「いや、千葉から西方面に向かったことまでは知っておる。で、東京から出ておる」
「あらま」
「その後、GPSが切れたのか、全く行方が掴めん」
「うーん……」
その時、敷島のケータイが鳴った。
「何だよ、こんな時に」
敷島が右手で持って画面を見ると、アリスからだった。
「はい、もしもし?」
{「ちょっと!コール3回以内に出なさいよ!」}
「うるさいな。こっちだって忙しいんだよ。で、なに?」
{「こっち(埼玉の研究所)で入った情報なんだけど、秩父の方でバージョン4.0の目撃情報が入ったわよ。うちの研究員が見たって」}
「動かなくなった残骸とか?」
{「違う。車の中だったんだけど、何体かで隊列を組んで、その中央にはデカい機体……だから、バージョン400も1機歩いていたんだって」}
「マジかよ。てか、秩父にも研究所か何かあるのか、お前の会社は?」
{「ヘタすりゃ、今の研究所が移転するかもね」}
「通勤しにくい所に移転するなぁ!秘密の研究所にでもする気か!」
{「とにかく、あんたの調査よろしく〜」}
「秩父でライブの予定なんて無いぞ!」
敷島は電話を切った。
「ん?秩父?」
「どうしたね?」
「志木市の荒川……の、上流をずっと上って行くとどこに出ます?」
「ちょっと待っとくれ」
敷島の唐突な質問に、達夫が目の前のPCのネットで調べた。
「まあ、確かに秩父じゃの。秩父鉄道の沿線じゃわい」
「なるほどねぇ……。後で確認してみます」
「む?」
「ミクのライブが先」
「商売っ気たっぷりじゃのォ……」
達夫は半分感心し、半分呆れた。
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