報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「北関東トンボ返り」 4

2024-06-21 20:52:27 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月12日18時50分 天候:晴 栃木県那須塩原市大原間 JR那須塩原駅→東北新幹線282B列車1号車内]

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、那須塩原駅西口です。お忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください」〕

 私達を乗せた路線バスは、無事に那須塩原駅に到着した。
 降りる時は、前扉から。
 ICカードで払う。
 これだと領収証が出ないから請求できないのではと思うかもしれないが、利用履歴を印字すれば出て来るので、証拠はある。

 愛原「少し急ごう。19時3分発の“なすの”に乗れそうだ」
 高橋「うぇっ?一服無しっスか?」
 愛原「急げば1本くらいは吸えるかもしれないぞ?」
 高橋「急ぎましょう」

 ということで、駅構内に急ぎ足で入る。
 因みに今、家に善場係長がやってきて、膝詰めでリサを説得しているところだそうだ。
 まさか係長自ら足労されるとは意外だったが、これで安心というものだ。
 残念ながら、夕食は駅弁になりそうだがな。

 愛原「夕食は弁当でも買って行こう」

 キップ売り場で新幹線のキップを買う。
 もちろん、領収証を発行するのは忘れない。

 愛原「って、あれ!?」

 専用の駅弁売り場は無いようだが、NewDaysはある。
 そこに行こうとすると、音声通話の着信があった。
 着信音的に、善場係長からだろう。

 愛原「あっ、はい!もしもし!?」
 善場「愛原所長、お疲れさまです」
 愛原「係長、お疲れ様です!今、那須塩原駅です。これから、新幹線で帰京します!」
 善場「お疲れさまでした。何とか、リサの説得には成功しましたので、安心して帰って来てください。ただまあ、寄り道しないでくださいね」
 愛原「分かってます。もう、新幹線に乗りますから!“なすの”282号です!」
 善場「“なすの”282号ですね。……すると、もうそろそろ発車のようですが……」
 愛原「そうなんです!」
 善場「それでは乗り遅れては大変ですね。後で、メールさせて頂きますので、乗り遅れないことに専念してください」
 愛原「分かりました。それでは失れ……」
 リサ「先生のバカーッ!!」

 善場係長が電話を切る直前、リサの怒声が聞こえて来た。

 愛原「うあー……」
 高橋「リサのヤツ、先生に罵声を浴びせるとは、いい度胸だ……!」
 愛原「って、それより早く弁当買ってホームに行くぞ!」
 高橋「は、はい!」

 弁当や飲み物を手にホームへと急ぐ。

 

〔「1番線に停車中の電車は、19時3分発、“なすの”282号、東京行きです。終点の東京まで、各駅に止まります。自由席は前寄り6両、1号車から6号車です。まもなくの発車となります。ご利用のお客様は、ご乗車になりまして、お待ちください」〕

 そして私達は、始発ホームに停車している10両編成の列車に乗り込んだ。
 編成そのものは、往路と同じだ。
 東京駅に着いてから高橋が一服できるよう、なるべく前の車両の方に移動する。
 始発駅の夜の上り列車ということもあり、車内はそんなに混んでいなかった。
 それこそ、2人席じゃなく、3人席を2人で占有しても迷惑にならないのではと思うくらい。
 先頭車の空いている席に座ると、私は弁当をテーブルの上に置いて、荷物を網棚に置いた。
 荷物には鞄とホテルで買った仮面の他、駅で買ったお土産もある。
 リサの機嫌を取る為、お菓子を購入した。

〔「ご案内致します。この電車は19時3分発、“なすの”282号、東京行きです。那須塩原を出ますと、宇都宮、小山、大宮、上野、終点東京の順に止まります。まもなくの発車となります。ご乗車になりまして、お待ちください」〕

 高橋「さすがにビールは無しっスか?」
 愛原「善場係長が動いて下さった上に、仕事なんだから飲めるわけねーだろ」
 高橋「それもそうっスね」

[同日19時03分 天候:晴 JR東北新幹線282B列車1号車内]

 発車の時刻になり、ホームから発車ベルが聞こえて来る。

〔1番線から、“なすの”282号、東京行きが発車致します。次は、宇都宮に、止まります。黄色い線まで、お下がりください〕

 私は駅弁を食べ始めていた。
 因みに飲み物はビールではなく、ただのペットボトルのお茶。
 発車ベルが鳴り終わると、甲高い客扱い終了合図のブザーが鳴り響いて、車両のドアが閉まる。
 那須塩原駅にはホームドアが無い為、車両のドアが閉まると、ゆっくりと走り出した。
 待避線ホームに停車している為、本線に出る際にいくつかのポイントを渡らないといけなく、それで速度制限が掛かる為だろう。
 面白いのは、上り線ホームに出るまでの間、一瞬でも下り線を逆走する形になること。
 趣味的には面白くても、JRにとっては、遅い列車が一瞬でも本線を支障することはダイヤ上のネックになる為、気持ちモヤモヤするところだろう。
 元々は東海道本線の駅だった来宮駅がそこから切り離され、伊東線の駅になったのはそれが理由だからである。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は、東北新幹線“なすの”号、東京行きです。次は、宇都宮に止まります。……〕

 弁当を食べている間、善場係長からメールが送信されてくる。
 リサには言い付けておいたので、私からもリサには謝罪するようにとのことだ。
 あとは最低限の機嫌を取るだけで、リサからの質問に答える以外、余計なことは言わないようにとのことだ。
 まあ、確かにそうだろう。

 善場「上野利恵から、何か情報は得られましたか?」

 と、最後に質問されたので、私は一応、秋田から『なまはげ御一行様』が、京都からは『大江山御一行様』が泊まりに来たらしいという話をした。
 突拍子も無い話なので、証拠写真の集合写真を添付しておいた。
 案の定、しばらく係長からは返信が無かったばかりか、あっても、大した情報ではないと切り捨てられた。
 写真の見た目は秋田のナマハゲや、京都の酒呑童子などを観光ネタにしている観光業界関係者の慰安旅行にしか見えないからだ。
 あくまでこちらは、バイオハザード対策関係。
 ウィルスや特異菌の影響で、人間が鬼化してしまうことに今は対応しているだけなので、そうでない場合は管轄外なのだ。
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“私立探偵 愛原学” 「北関東トンボ返り」 3

2024-06-21 16:02:07 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月12日17時00分 天候:曇 栃木県那須塩原市某所 ホテル天長園・大浴場]

 高橋「破~っ!この不肖の弟子~あ!高橋正義がぁ~あ!無二の師匠~お~おっ!?愛原先生のォ~……あ!?お背中ぅをををををっ!お流し奉り~候~也~っ!!」
 愛原「う、うん……。よろしく頼む」
 天長会信者「あ、あの……これも何かの儀式で?」
 愛原「え、ええ。ちょっと……日蓮正宗の儀式なんです(ウソ!)」
 天長会信者「ほお……。日蓮正宗さんでは、お風呂の時、そのような儀式を……」

 何故私達が呑気に温泉に浸かっているのかというと、帰りのバスまでの時間があるのと、せめて日帰り入浴代でも払っておこうと思ったからである。
 上野利恵のヤツ、お土産用の仮面などタダでやるなんて言ってきたものだから、本当にタダで帰るのも申し訳ないと思ったからだ。

 愛原「それにしても、マジでどうしよう……?」

 高橋に背中を流してもらい、それ以外の体は自分で洗った後、露天風呂に移動した。

 高橋「何がですか?」
 愛原「リサのことだよ。俺達がここに来たこと、かなり怒ってるんだろう?ラムちゃんなら、電撃モノだぞ?」
 高橋「あいつも、電撃使えるようになったんですよね?」

 手持ちの金属製品や電子機器が壊れるので、電撃はなるべく使わず、静電気攻撃や火炎の息を飛び道具にしている。

 愛原「……俺、ステーキにされる?」
 高橋「そ、そういや最近、あいつ、『肉は生より、レアに焼いた方が美味しいよね』とか言ってましたから、ウェルダンにされる心配は無いと思いますが……」
 愛原「やっぱ泊まって行くか、ここ?」
 高橋「火に油を注ぐ結果になると思うので、やめといた方がいいと思います」
 愛原「そ、そうか?」
 高橋「泊まるなら、どっか別のビジホとかにするしか無いですよ」
 愛原「そ、それもそうだな……」
 高橋「善場のねーちゃんからは何て?」
 愛原「いや、まだ連絡は来ていない」

 帰りは路線バスにするが、少し時間があるので、その間は天長園で情報取集を続けるという報告はしている。

[同日17時30分 天候:曇 同ホテル1階ロビー]

 風呂から上がると、私達はロビーに移動した。
 ラウンジはランチ営業しかしていないので閉まっているが、ロビーの延長でフリースペースとしては利用できる。
 また、自販機もあるので、そこで飲み物でも買い、あとは帰りのバスの時間まで待機していることにした。

 愛原「鬼の出没の方は心配無いのか?」

 私は何故かそこにいる上野利恵に聞いた。
 私に向ける視線が、リサが私に向ける視線にそっくりなんだよな……。
 うん、そりゃリサとしては気が気でないだろう。
 私は改めて、自分の迂闊さにウンザリした。

 利恵「はい。BSAAの皆様も出動して下さいましたし、栗原一派の鬼達は私共の方で掃討させて頂きましたわ」

 どちらも“半鬼”のはずなんだが……。

 利恵「愛原先生、今度の慰安旅行先には、是非ともまた当ホテルを宜しくお願い致します」
 愛原「あ、ああ……そうだな……」
 利恵「関連企業としてコンパニオン業も始めました。“半鬼”のかわいい女の子達が、先生方のお越しをお待ち申し上げております」
 愛原「……帰る頃には、血液が半分くらい無くなってそうだから遠慮しておくわ」

 他に得た情報といえば……。

 愛原「他に鬼の気配は無いのか?」
 利恵「私共、元は人間の、新興の鬼の勢力でございます。しかしながら、中には生粋の鬼の皆様もおられまして……」
 愛原「なにっ?」
 利恵「秋田のナマハゲの皆様ですとか……」
 愛原「はあ?」
 利恵「京都の大江山の皆様が視察に来られたこともございます」
 愛原「……もう、エイプリルフールから10日以上過ぎてるんだが?それとも何だ?鬼族は毎日がエイプリルフールなのか?」
 利恵「いえいえ、本当の事でございますよ。証拠がございます」
 愛原「証拠あんの?」

 すると利恵、パンパンと手を叩いた。

 ベルボーイ「お呼びでしょうか?」
 利恵「秋田の『なまはげ御一行様』の集合写真と、京都の『大江山御一行様』の集合写真を持ってきて」
 ベルボーイ「かしこまりました」

 あのベルボーイは半鬼なのだろうか?
 それとも、普通の人間か。
 ベルボーイらしく、ケピ帽を被っている為、角があるかどうかは分からない。
 半鬼は、長く角が伸びない為、伸ばした髪や帽子の中に隠すことが可能である。
 しばらくして、ベルボーイが額縁に入った写真を2枚持って来た。

 愛原「あっ!?」
 高橋「これがガチの鬼達っスか?」
 愛原「上手い事、人間に化けているようだな」
 利恵「ええ。私共、新興の半端者でございまして、こちらの皆様には到底かないません」

 写真だけ見ると、ナマハゲや大江山の鬼関係を観光にしている業者の慰安旅行って感じだ。

 愛原「この鬼達、人を食ったりはしていないんだろうな?」
 利恵「……申し訳ございませんが、そういった個人情報について守秘義務がございまして……」
 高橋「てことは、食ってるってことじゃねーかよ!先生、BSAAに通報を!」
 愛原「いやいや、何かのウィルスとかで鬼になったわけじゃないから、BSAAの出番じゃないよ」
 利恵「さようでございますね」
 愛原「強いて言うなら、栗原家のような、ガチモンの鬼狩り家の出番だろう」
 高橋「なるほど」

 その鬼狩りの家から鬼を出してしまったのだから、面子丸潰れだろう。
 しばらくは、鬼狩りの活動ができないものと思われる。

 愛原「鉢合わせにならなくて良かった」
 利恵「ホテル内では、当館の規則に従い、他のお客様の御迷惑になるような行為は慎んで頂くことになっておりますので、そうなったとしてもご安心ください」

 一応、私は彼らの集合写真をデジカメに収めた。
 バイオハサードに関する情報ではないから、あまり善場係長も興味は無いかな?

[同日18時05分 天候:曇 同市内 ホテル天長園前→関東自動車N3系統車内]

 ホテルをあとにした私達は、ホテル前の県道に出てバスを待った。
 この辺りはフリー乗降区間である為、バス停でなくても乗り降りできる。

 愛原「あのバスだな」

 もう日が傾いている上、曇っている為、だいぶ外は薄暗い。
 運転手から視認してもらえるよう、なるべく街灯の下など、明るい所でバスを待つ。
 行先表示も今はLED式が多いので、外からでも見やすい。
 私が大きく手を上げると、バスはハザードランプを点灯させて停車した。
 左ウィンカーではないのは、バス停に停まるわけではないからか。
 中扉から乗り込むと、車内には数えるほどの乗客しか乗っていない。
 今は、市街地から郊外に向かう便の方が賑わっていて、逆方向は空いているのだろう。
 バスに乗り込んで、後ろの席に座った。
 バスは私達を乗せると、引き戸を閉めて再び走り出した。
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