[7月10日07:20.天候:雨 長野県北安曇郡小谷村 JR南小谷駅→大糸線423D列車内]
2両編成の電車を降りた魔道士2人は、雨が降り出した駅構内を歩いた。
乗り換え先の列車が隣のホームに到着する為、再び跨線橋を渡るのである。
まだ、列車は到着していなかった。
山の中ということもあってか、そんなに暑くはなかったが、しかし湿気は凄かった。
ローブを着ていると、確かに雨は防いでくれるが、湿気までは防いでくれなかった。
日本では流行らなかった理由は、そこにあるのかもしれない。
ホームの有効長は比較的長いが、そこにたったの2両編成の電車が真ん中に止まっているのは、とてもシュールである。
少ししてから、下り方向よりディーゼルエンジンの音が響いて来た。
糸魚川方面からやってきた、JR西日本のキハ120系である。
この南小谷駅はJR東日本とJR西日本の境界線であり、ここから北へはJR西日本の管轄となる。
何気に勇太にとっては魔道士になってから初めて、マリアに至っては来日してから初めてのJR西日本だった(東海道新幹線乗車時、JR西日本の車両に乗ったことはある)。
勇太:「たったの1両か……」
先ほどまでのJR東日本区間が2両編成の電車、ここから先のJR西日本区間が1両だけの気動車であった。
恐らくそれでも、平日は通勤通学客で満席くらいにはなるのだろうが、日曜日ということもあって、ここまで乗って来た乗客は少なかった。
JR東日本にも似たような気動車は存在するが、乗降扉が引き戸であるのに対し、こちらは折り戸である。
乗客のいなくなった車両に乗り込むと、空いているボックスシートに向かい合って座った。
電車の方もそうだが、気動車の方もボックスシートよりはロングシートの方がメインといった構造である。
勇太:「この列車で、終点まで乗ります。終点の糸魚川が、本当に大糸線の終点です」
大糸線の糸とは、糸魚川の糸である。
マリア:「海沿いの町か」
マリアは自分の水晶玉で、糸魚川市の概要を見た。
勇太:「ここから先は更にトンネルが多くなり、要は山をいくつも通って、それからようやく海に出るといった感じかな」
マリア:「なるほど。この鉄道、実は海に繋がっていたとは……」
勇太:「どうしても、南小谷駅で乗り換えさせられるからね」
JRが違うし、そもそもここから先は電化すらされていない。
勇太:「ちょっと、飲み物買って来る」
マリア:「売っている所、あるの?」
勇太:「駅の中に自販機くらいあるはずだよ。何しろ、有人駅なんだからね」
駅によっては、無人駅でも自販機くらい置いてあるくらいだ。
ましてや南小谷駅は有人駅であるからして……。
勇太:「いや、お茶でも買ってこようかと思ってね」
マリア:「私のもお願い。私は水でいいや」
勇太:「水ね。了解」
勇太はローブを羽織ると、再びホームに降り立った。
[同日07:38.天候:雨 JR大糸線423D列車内]
〔「本日もJR西日本をご利用頂き、ありがとうございます。7時38分発、大糸線、平岩方面、普通列車の糸魚川行きです。終点まで、各駅に止まります。お待たせ致しました。まもなく発車致します」〕
勇太がペットボトル2つを買って、再び車内に戻ると、マリアはローブを脱いでいた。
防暑着の役割も果たすローブではあるが、強い日差しには抵抗できても、やはり湿気には弱いらしい。
ローブを脱ぐと、高校3年生のようである。
それもそのはず。
マリアが魔道士になったのは18歳の時。
契約した悪魔の力が及んだせいで、そこから体の成長は極端に遅くなっているのだから(それでも出会った頃より身長は少し伸びているのと、胸も【お察しください】)。
発車の時刻になり、JR東日本のとは明らかに違うデザインの制服を着たJR西日本の運転士が肉声放送を行う。
ワンマン運転の列車ならではだ。
運転士はミラーと時計をにらめっこしている。
発車の時刻になり、他に乗客が乗ってこないのを確認すると、運転席のドアスイッチを操作してドアを閉めた。
折り戸の方が、引き戸よりも開閉が速いような気がする。
それからハンドルを操作する音が聞こえて、単行の気動車はディーゼルエンジンの唸り声を上げて発車した。
〔ピンポーン♪ 次は中土、中土です。お降りの際、運賃、キップは整理券と一緒に、運転士後ろの運賃箱にお入れください。両替機は、運賃箱に付いています。定期券は運転士に、分かりやすくお見せ願います〕
マリア:「確かに、こんな方向で行くのなら、“魔の者”は誤魔化せそうだな」
勇太:「でしょ?いつもなら白馬駅から上りに乗るのに、初めての下り列車だからね」
勇太はマスク越しにニッと笑った。
[同日08:35.天候:曇 新潟県糸魚川市 JR糸魚川駅]
〔ピンポーン♪ 今日もJR西日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。まもなく終点、糸魚川、糸魚川です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。……〕
列車はいくつものトンネルを抜け、ついに日本海側へと到達した。
雨は止んでいたが、しかしこの町にもどんよりとした雲が空を覆い尽くしている。
しかも、しとしとと雨が降っていた山間部よりも黒い雲である。
何だか不気味に感じた。
もうとっく朝日が車内に差し込んでいても良い時間なのに、まるで早朝のような明るさである。
因みに、マリアは向かいの席には座っていない。
急いでトイレに向かった所を見ると、下半身に何かあったと勇太は見ている。
が、そこは指摘しておかないでおく。
上記の写真を見てもらえれば分かるかもしれないが、キハ120系車両は、実は元々トイレは付いていなかった。
乗客の要望等を受けて、後から取り付けられたものである。
最初から付いていたならば、こんな後付け感は無いだろうし、位置的にももう少し自然な所にあるはずである。
幸い後付けということもあり、トイレは洋式である。
マリア:「ふぅ……」
なのでイギリス人のマリアも、安心して使えるというわけだ。
勇太:「大丈夫だった?」
マリア:「何とかね」
列車は速度を落として、糸魚川駅に入線した。
北陸新幹線も停車する駅ではあるが、在来線としては第3セクターのえちごトキメキ鉄道(愛称、トキ鉄)の乗り場となっており、JR西日本としてはこの大糸線だけである。
どうもJR西日本としては、この大糸線も切り離したいようだが……。
勇太:「じゃ、降りようか」
列車は切り欠きホームの4番線に到着した。
南小谷駅発車時よりは乗客は増えていて、勇太達はそんな乗客達と一緒にホームに降りた。
マリア:「ここから新幹線に乗り換えて、東京へ?」
勇太:「違う」
マリア:「違う!?」
勇太:「これだけだと、まだ“魔の者”は誤魔化せないと思う。更に遠回りしようと思ってるんだ。マリアに渡したキップが、白馬駅からの近距離キップなのが証拠だよ。このキップは、この駅までだよ」
マリア:「じゃあ、ここから先はどうするの?」
勇太:「僕に任せてついてきて」
勇太は手招きして、マリアを先導した。
勇太は、ここからどのようなルートを行くつもりなのだろうか?
2両編成の電車を降りた魔道士2人は、雨が降り出した駅構内を歩いた。
乗り換え先の列車が隣のホームに到着する為、再び跨線橋を渡るのである。
まだ、列車は到着していなかった。
山の中ということもあってか、そんなに暑くはなかったが、しかし湿気は凄かった。
ローブを着ていると、確かに雨は防いでくれるが、湿気までは防いでくれなかった。
日本では流行らなかった理由は、そこにあるのかもしれない。
ホームの有効長は比較的長いが、そこにたったの2両編成の電車が真ん中に止まっているのは、とてもシュールである。
少ししてから、下り方向よりディーゼルエンジンの音が響いて来た。
糸魚川方面からやってきた、JR西日本のキハ120系である。
この南小谷駅はJR東日本とJR西日本の境界線であり、ここから北へはJR西日本の管轄となる。
何気に勇太にとっては魔道士になってから初めて、マリアに至っては来日してから初めてのJR西日本だった(東海道新幹線乗車時、JR西日本の車両に乗ったことはある)。
勇太:「たったの1両か……」
先ほどまでのJR東日本区間が2両編成の電車、ここから先のJR西日本区間が1両だけの気動車であった。
恐らくそれでも、平日は通勤通学客で満席くらいにはなるのだろうが、日曜日ということもあって、ここまで乗って来た乗客は少なかった。
JR東日本にも似たような気動車は存在するが、乗降扉が引き戸であるのに対し、こちらは折り戸である。
乗客のいなくなった車両に乗り込むと、空いているボックスシートに向かい合って座った。
電車の方もそうだが、気動車の方もボックスシートよりはロングシートの方がメインといった構造である。
勇太:「この列車で、終点まで乗ります。終点の糸魚川が、本当に大糸線の終点です」
大糸線の糸とは、糸魚川の糸である。
マリア:「海沿いの町か」
マリアは自分の水晶玉で、糸魚川市の概要を見た。
勇太:「ここから先は更にトンネルが多くなり、要は山をいくつも通って、それからようやく海に出るといった感じかな」
マリア:「なるほど。この鉄道、実は海に繋がっていたとは……」
勇太:「どうしても、南小谷駅で乗り換えさせられるからね」
JRが違うし、そもそもここから先は電化すらされていない。
勇太:「ちょっと、飲み物買って来る」
マリア:「売っている所、あるの?」
勇太:「駅の中に自販機くらいあるはずだよ。何しろ、有人駅なんだからね」
駅によっては、無人駅でも自販機くらい置いてあるくらいだ。
ましてや南小谷駅は有人駅であるからして……。
勇太:「いや、お茶でも買ってこようかと思ってね」
マリア:「私のもお願い。私は水でいいや」
勇太:「水ね。了解」
勇太はローブを羽織ると、再びホームに降り立った。
[同日07:38.天候:雨 JR大糸線423D列車内]
〔「本日もJR西日本をご利用頂き、ありがとうございます。7時38分発、大糸線、平岩方面、普通列車の糸魚川行きです。終点まで、各駅に止まります。お待たせ致しました。まもなく発車致します」〕
勇太がペットボトル2つを買って、再び車内に戻ると、マリアはローブを脱いでいた。
防暑着の役割も果たすローブではあるが、強い日差しには抵抗できても、やはり湿気には弱いらしい。
ローブを脱ぐと、高校3年生のようである。
それもそのはず。
マリアが魔道士になったのは18歳の時。
契約した悪魔の力が及んだせいで、そこから体の成長は極端に遅くなっているのだから(それでも出会った頃より身長は少し伸びているのと、胸も【お察しください】)。
発車の時刻になり、JR東日本のとは明らかに違うデザインの制服を着たJR西日本の運転士が肉声放送を行う。
ワンマン運転の列車ならではだ。
運転士はミラーと時計をにらめっこしている。
発車の時刻になり、他に乗客が乗ってこないのを確認すると、運転席のドアスイッチを操作してドアを閉めた。
折り戸の方が、引き戸よりも開閉が速いような気がする。
それからハンドルを操作する音が聞こえて、単行の気動車はディーゼルエンジンの唸り声を上げて発車した。
〔ピンポーン♪ 次は中土、中土です。お降りの際、運賃、キップは整理券と一緒に、運転士後ろの運賃箱にお入れください。両替機は、運賃箱に付いています。定期券は運転士に、分かりやすくお見せ願います〕
マリア:「確かに、こんな方向で行くのなら、“魔の者”は誤魔化せそうだな」
勇太:「でしょ?いつもなら白馬駅から上りに乗るのに、初めての下り列車だからね」
勇太はマスク越しにニッと笑った。
[同日08:35.天候:曇 新潟県糸魚川市 JR糸魚川駅]
〔ピンポーン♪ 今日もJR西日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。まもなく終点、糸魚川、糸魚川です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。……〕
列車はいくつものトンネルを抜け、ついに日本海側へと到達した。
雨は止んでいたが、しかしこの町にもどんよりとした雲が空を覆い尽くしている。
しかも、しとしとと雨が降っていた山間部よりも黒い雲である。
何だか不気味に感じた。
もうとっく朝日が車内に差し込んでいても良い時間なのに、まるで早朝のような明るさである。
因みに、マリアは向かいの席には座っていない。
急いでトイレに向かった所を見ると、下半身に何かあったと勇太は見ている。
が、そこは指摘しておかないでおく。
上記の写真を見てもらえれば分かるかもしれないが、キハ120系車両は、実は元々トイレは付いていなかった。
乗客の要望等を受けて、後から取り付けられたものである。
最初から付いていたならば、こんな後付け感は無いだろうし、位置的にももう少し自然な所にあるはずである。
幸い後付けということもあり、トイレは洋式である。
マリア:「ふぅ……」
なのでイギリス人のマリアも、安心して使えるというわけだ。
勇太:「大丈夫だった?」
マリア:「何とかね」
列車は速度を落として、糸魚川駅に入線した。
北陸新幹線も停車する駅ではあるが、在来線としては第3セクターのえちごトキメキ鉄道(愛称、トキ鉄)の乗り場となっており、JR西日本としてはこの大糸線だけである。
どうもJR西日本としては、この大糸線も切り離したいようだが……。
勇太:「じゃ、降りようか」
列車は切り欠きホームの4番線に到着した。
南小谷駅発車時よりは乗客は増えていて、勇太達はそんな乗客達と一緒にホームに降りた。
マリア:「ここから新幹線に乗り換えて、東京へ?」
勇太:「違う」
マリア:「違う!?」
勇太:「これだけだと、まだ“魔の者”は誤魔化せないと思う。更に遠回りしようと思ってるんだ。マリアに渡したキップが、白馬駅からの近距離キップなのが証拠だよ。このキップは、この駅までだよ」
マリア:「じゃあ、ここから先はどうするの?」
勇太:「僕に任せてついてきて」
勇太は手招きして、マリアを先導した。
勇太は、ここからどのようなルートを行くつもりなのだろうか?
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