[12月16日12:00.天候:雪 長野県北部山中 マリアの屋敷]
稲生:「取りあえず、威吹への年賀状も書いたし……。魔界のお正月ってどんな感じなんだろうな?まあ、いいか。どうせ、南端村だと日本みたいな感じだろう」
チリリリリリン!(室内の内線電話の呼び出し音)
稲生:「はいはいっと」
稲生は電話に出た。
稲生:「はい、もしもし?」
ミカエラ:「昼食の時間です」
稲生:「了解。今行くよ」
稲生は電話を切った。
稲生:「見た目にはメイド服を着た初音ミクみたいなミカエラだけど、声も初音ミクみたいなんだよなぁ……」
稲生は首を傾げながら部屋を出た。
稲生:「廊下は寒いな……」
中央エントランスに向かう廊下を進み、まずはそこに向かう。
シャンデリアにはローソクが昼間でも灯っているが、蝋が融けることはない。
どういう仕組みかなんて、魔道師の住む屋敷で考えるのは野暮である。
屋敷そのものが魔法で建てられたようなものだからだ。
稲生:「よいしょっと」
中央エントランスの吹き抜け階段を下り、大食堂に入った。
稲生:「今日の昼食は……おっ、フィッシュ・アンド・チップスじゃん」
イギリス発祥のファストフードである。
稲生:「マリアさんはまだ具合が……」
すると、西側へ通じる廊下に出るドアが開いた。
そこからやってきたのはマリア。
稲生:「あっ、マリアさん。具合いいんですか?」
マリア:「まあ、何とか……。今回のは一気に来て、短期間で去って行くタイプらしい」
マリアの生理が始まったのは3日前。
ヒドい時には1週間続くので、3日目で収まったのは早い方であろう。
ただ、完全にというわけではないらしい。
稲生:「そうですか。いやー、本当に大変なんですねぇ……」
マリア:「そうだよ」
稲生:「ま、今日はフィッシュ・アンド・チップスですから、早いとこ頂きましょう」
持ち帰りタイプは新聞紙に包んで歩きながら食べるのが粋とされるが、イート・インの場合は皿に盛ってナイフとフォークで食べるのが粋とされているとのこと。
稲生:「先ほど水晶球からツイートが来たんですが、今度はエレーナが生理でダウンしているらしいです」
マリア:「ツイッターやるくらいの余裕はあるってことか。あのアホ」
稲生:「あ、アホ……」
もしくはリリアンヌにツイートを代打ちしてもらっているだけかもしれない。
もっとも、スマホを所持している魔女はとても少ないのだそうだ。
元々この世界に生きていてフェードインしてきた稲生と、業務上必要なエレーナは確実に持っている。
マリア:「それで、いつ出発だって?」
稲生:「年末休みに入った29日にしようかと。帰りは正月三が日の最終日です」
マリア:「日本人の休暇は短いなー」
稲生:「だからこそ、“魔の者”からブロックできるのです」
魔道師を食い物にするという“魔の者”。
狙った獲物は執拗に追及するというが、極東の日本までは力が及ばない。
イリーナに言わせれば、『日本海に阻まれて行けない』とのことだし、他の大魔道師の言葉だと、『ブラック労働の日本が怖くて行けない』とか、よく分からない理由を説明される。
そもそも、“魔の者”の正体すら説明されたことが無い。
それまでもそれらしきモノが攻めて来たことはあったが、結局はただの眷属だったり、ヒドい時には全く無関係のガセだったりした。
マリア:「電車?バス?」
稲生:「行きは電車です。“あずさ”にもE353系が導入されるようになって、そろそろE257系の運用が廃止になりそうなので、鉄ヲタで混む前に乗り納めです」
マリア:「……なるほど」
日本国内移動の手段はイリーナ組においては、全て稲生に一任されているので、マリアはそれ以上何も言えない。
稲生:「イリーナ先生の為にグリーン車を確保しておきました」
マリア:「師匠の場合、電車の屋根の上でもいいくらいだけどね」
トレインサーフィンは違法行為である。
今回はイリーナも同行するらしい。
稲生:「帰りは“ムーンライト信州”にしたかったのに、どうして年始は運転しないかなぁ……」
マリア:「師匠に一生懸命頼めば、違った意味の魔法で特別に運転させてくれるかもよ?」
稲生:「後が怖いから諦めます」
それよりも、違った意味の魔法とは何かが気になるところである。
マリア:「そういえば師匠は?またどこか行った?」
稲生:「先生は時々ふらっと出かけられる方ですからねぇ……」
マリア:「私達はここから出さないくせにねぇ……」
稲生:「マリアさんはもうマスターなんだから、自由じゃないですか?」
マリア:「日本のことはよく分からないから、1人でぷらっと行動なんかできないよ」
そもそも引き籠りの多いのが魔道師というものである。
エレーナのような行動派が珍しいのだ。
マリア:「年始はまたお寺に行くの?」
稲生:「ええ。元旦勤行は毎年行きます。また藤谷班長が大晦日から泊まり込んでいるでしょうね」
マリア:「今度はケンショーレンジャーなんかに出し抜かれるなよ?」
稲生:「正証寺でも対策は練っているみたいですね」
稲生の所属寺院は日蓮正宗東京第3布教区、大化山・正証寺。
架空の寺院である。
立地条件のモデルは法道院、佇まいは報恩坊がモデル。
稲生:「幸い都内で酒屋をやっている人が御受誡したらしく、その人に甘酒を出してもらうことにしたそうです」
マリア:「なにその御都合主義な設定?」
尚、日蓮正宗寺院で必ず甘酒が出るとは限らないので注意。
正証寺がオリジナルでやっているだけである。
もしかしたら、他にやっている寺院はあるかもしれない。
稲生:「酒屋さんという職業を嫌う宗派もありますからね」
救世軍では酒を取り扱う職業の者は入信を断られるという。
イスラム教では、そもそもそれがNGだ。
稲生:「日蓮正宗ではホームレスとヤックザさん以外、大歓迎です」
マリア:「仏教は私達のような魔女を捕まえて火あぶりにすることはないから、勇太の信仰は禁止されてないんだよ?そこは弁えて」
稲生:「分かりました」
キリスト教のことをマリアは言っているのだが、実はイスラム教からもマリア達のような魔女は迫害の対象のようである。
稲生:「取りあえず、威吹への年賀状も書いたし……。魔界のお正月ってどんな感じなんだろうな?まあ、いいか。どうせ、南端村だと日本みたいな感じだろう」
チリリリリリン!(室内の内線電話の呼び出し音)
稲生:「はいはいっと」
稲生は電話に出た。
稲生:「はい、もしもし?」
ミカエラ:「昼食の時間です」
稲生:「了解。今行くよ」
稲生は電話を切った。
稲生:「見た目にはメイド服を着た初音ミクみたいなミカエラだけど、声も初音ミクみたいなんだよなぁ……」
稲生は首を傾げながら部屋を出た。
稲生:「廊下は寒いな……」
中央エントランスに向かう廊下を進み、まずはそこに向かう。
シャンデリアにはローソクが昼間でも灯っているが、蝋が融けることはない。
どういう仕組みかなんて、魔道師の住む屋敷で考えるのは野暮である。
屋敷そのものが魔法で建てられたようなものだからだ。
稲生:「よいしょっと」
中央エントランスの吹き抜け階段を下り、大食堂に入った。
稲生:「今日の昼食は……おっ、フィッシュ・アンド・チップスじゃん」
イギリス発祥のファストフードである。
稲生:「マリアさんはまだ具合が……」
すると、西側へ通じる廊下に出るドアが開いた。
そこからやってきたのはマリア。
稲生:「あっ、マリアさん。具合いいんですか?」
マリア:「まあ、何とか……。今回のは一気に来て、短期間で去って行くタイプらしい」
マリアの生理が始まったのは3日前。
ヒドい時には1週間続くので、3日目で収まったのは早い方であろう。
ただ、完全にというわけではないらしい。
稲生:「そうですか。いやー、本当に大変なんですねぇ……」
マリア:「そうだよ」
稲生:「ま、今日はフィッシュ・アンド・チップスですから、早いとこ頂きましょう」
持ち帰りタイプは新聞紙に包んで歩きながら食べるのが粋とされるが、イート・インの場合は皿に盛ってナイフとフォークで食べるのが粋とされているとのこと。
稲生:「先ほど水晶球からツイートが来たんですが、今度はエレーナが生理でダウンしているらしいです」
マリア:「ツイッターやるくらいの余裕はあるってことか。あのアホ」
稲生:「あ、アホ……」
もしくはリリアンヌにツイートを代打ちしてもらっているだけかもしれない。
もっとも、スマホを所持している魔女はとても少ないのだそうだ。
元々この世界に生きていてフェードインしてきた稲生と、業務上必要なエレーナは確実に持っている。
マリア:「それで、いつ出発だって?」
稲生:「年末休みに入った29日にしようかと。帰りは正月三が日の最終日です」
マリア:「日本人の休暇は短いなー」
稲生:「だからこそ、“魔の者”からブロックできるのです」
魔道師を食い物にするという“魔の者”。
狙った獲物は執拗に追及するというが、極東の日本までは力が及ばない。
イリーナに言わせれば、『日本海に阻まれて行けない』とのことだし、他の大魔道師の言葉だと、『ブラック労働の日本が怖くて行けない』とか、よく分からない理由を説明される。
そもそも、“魔の者”の正体すら説明されたことが無い。
それまでもそれらしきモノが攻めて来たことはあったが、結局はただの眷属だったり、ヒドい時には全く無関係のガセだったりした。
マリア:「電車?バス?」
稲生:「行きは電車です。“あずさ”にもE353系が導入されるようになって、そろそろE257系の運用が廃止になりそうなので、鉄ヲタで混む前に乗り納めです」
マリア:「……なるほど」
日本国内移動の手段はイリーナ組においては、全て稲生に一任されているので、マリアはそれ以上何も言えない。
稲生:「イリーナ先生の為にグリーン車を確保しておきました」
マリア:「師匠の場合、電車の屋根の上でもいいくらいだけどね」
トレインサーフィンは違法行為である。
今回はイリーナも同行するらしい。
稲生:「帰りは“ムーンライト信州”にしたかったのに、どうして年始は運転しないかなぁ……」
マリア:「師匠に一生懸命頼めば、違った意味の魔法で特別に運転させてくれるかもよ?」
稲生:「後が怖いから諦めます」
それよりも、違った意味の魔法とは何かが気になるところである。
マリア:「そういえば師匠は?またどこか行った?」
稲生:「先生は時々ふらっと出かけられる方ですからねぇ……」
マリア:「私達はここから出さないくせにねぇ……」
稲生:「マリアさんはもうマスターなんだから、自由じゃないですか?」
マリア:「日本のことはよく分からないから、1人でぷらっと行動なんかできないよ」
そもそも引き籠りの多いのが魔道師というものである。
エレーナのような行動派が珍しいのだ。
マリア:「年始はまたお寺に行くの?」
稲生:「ええ。元旦勤行は毎年行きます。また藤谷班長が大晦日から泊まり込んでいるでしょうね」
マリア:「今度はケンショーレンジャーなんかに出し抜かれるなよ?」
稲生:「正証寺でも対策は練っているみたいですね」
稲生の所属寺院は日蓮正宗東京第3布教区、大化山・正証寺。
架空の寺院である。
立地条件のモデルは法道院、佇まいは報恩坊がモデル。
稲生:「幸い都内で酒屋をやっている人が御受誡したらしく、その人に甘酒を出してもらうことにしたそうです」
マリア:「なにその御都合主義な設定?」
尚、日蓮正宗寺院で必ず甘酒が出るとは限らないので注意。
正証寺がオリジナルでやっているだけである。
もしかしたら、他にやっている寺院はあるかもしれない。
稲生:「酒屋さんという職業を嫌う宗派もありますからね」
救世軍では酒を取り扱う職業の者は入信を断られるという。
イスラム教では、そもそもそれがNGだ。
稲生:「日蓮正宗ではホームレスとヤックザさん以外、大歓迎です」
マリア:「仏教は私達のような魔女を捕まえて火あぶりにすることはないから、勇太の信仰は禁止されてないんだよ?そこは弁えて」
稲生:「分かりました」
キリスト教のことをマリアは言っているのだが、実はイスラム教からもマリア達のような魔女は迫害の対象のようである。