報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔道師の修行は意外と地味」

2018-12-21 19:02:56 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月21日10:00.天候:雪 長野県北部山中 マリアの屋敷2F東側・稲生の部屋]

 鈴木:「……というわけで、俺の活躍でエレーナは無事だったんですよー」

 稲生は鈴木から武勇伝を聞かされていた。
 もちろん電話である。

 稲生:「へえ。キミにしてはいい活躍をしたじゃないか。(いくら未遂とはいえ、裸に剝かれたリリィがちょっと心配だけど……)」
 鈴木:「俺の消火器バスターがヒットしていなかったら、エレーナの後輩も危ないところでしたよー。危うく処女喪失するところでしたね」
 稲生:「そ、そうだね。(リリィは既に性的虐待のせいで処女喪失してるって話だけど……)」
 鈴木:「これってアレですか?先輩の団体から、何か表彰案件になるって話ですか?」
 稲生:「エレーナがどういう報告をしているかだね。少なくともキミがこうやって僕に連絡しているわけだから、この時点でイリーナ組にも事件が伝わったってわけだ。金一封もらえるんじゃない?」
 鈴木:「金一封ですか。そんなものより、俺はエレーナとの婚姻届が……ぎゃん!」

 向こうで鈴木の頭が叩かれた音がした。

 稲生:「あっ?」
 エレーナ:「オ掛ケニナッタ電話番号ハ、電波ガ届カナクナッタノデ、切リマス」

 直後、電話が切れた。

 稲生:「……何だかんだ言って、鈴木君とエレーナ、仲良くなったのかなぁ?……おっと!そろそろ資料整理の時間だ」

 稲生はまだ見習。
 魔法を覚えるよりも、この屋敷では雑用が多い。
 これでもマリアのメイド人形達が動いているので、稲生のやる事は少なくなっている。
 稲生は自室を出た。
 屋敷2Fの西側に向かう。
 図書室のようになっている部屋がある。
 2Fと3F部分が吹き抜けになっている2層構造だ。

 稲生:「おっと!」

 そのまま行くのではなく、途中で談話室に寄る。
 暖炉もあり、ロッキングチェアもあるこの部屋をイリーナは気に入っているのか、昼間何も無い時はここにいることが多い。
 図書室に行く時にここを通るので、作業に入る前にイリーナに言っておこうと思った。

 稲生:「失礼します。先生」
 イリーナ:「んー……?」

 イリーナはロッキングチェアではなく、ソファに寝そべっていた。

 稲生:「これから図書室の整理に行って来ます」
 イリーナ:「おー、悪いね。ダンテ先生の本もあるし、トラップブックも気をつけてね」
 稲生:「はい」

 トラップブックとは、本のミミックのことである。
 ミミックとは某有名RPGのおかげで宝箱の形をしたモンスターというイメージがあるが、本来のミミックは宝箱に限らず、ありとあらゆる物に擬態して獲物を待ち構えるモンスターのことを指す。
 某RPGでは壺の形をしたモンスターを『ツボック』と呼んでいるが、厳密にはあれもミミックと呼んで良いのである。
 従って、図書室に蔵書された本に擬態するミミックもいるということだ。
 ただ、全部が全部ミミックと呼ぶと、どれに擬態したミミックのことを指すのか分からなくなる為、本に擬態した者をイリーナは『トラップブック』と呼んだのだろう。
 この屋敷にも侵入者に備え、防犯装置のつもりであちこちに仕掛けられている。
 頭の悪いミミックだと、明らかに不自然な位置に擬態しているので、慣れれば大体分かる(例:何故か2個置いてある消火器、必要性を感じない場所に設置されている椅子、邪魔な場所に置いてある宝箱など)。

 イリーナ:「じゃ、先生は具合が悪いのでランチタイムまで寝てるねー」
 稲生:「具合悪いんですか!?」
 イリーナ:「うんにゃ。私もちょっと生理痛なんだなー」
 稲生:「そうですか。これはお邪魔しました。すぐに退散しますので」
 イリーナ:「マリアにも頼んであるから、サボらないように見張っててねー」
 稲生:「は、はい。(僕が監視されるんじゃなくて、する役!?)」

 稲生は図書室に向かった。

 マリア:「勇太、遅いぞ」
 稲生:「すいません。先に先生に報告してからと思いまして」
 イリーナ:「どうせ師匠はランチまで寝てるからどうでもいいよ。で、何か言ってた?」
 稲生:「あ、はい。マリアさんがサボらないように、僕に見張り役をやれと……」
 マリア:「ちっ……」

 マリアは手伝い用に作った人形に魔法を付与するところであった。
 要は人形にやらせて自分は見てるだけ、というスタンスを取ろうとしていたということである。

 稲生:「あと先生も生理中だから寝てると……」
 マリア:「あの婆さん、1000年以上生きてて生理があるわけないだろ」
 稲生:「あっ……!見た目が若かったので、つい……」
 マリア:「師匠のウソを見抜けるようにならないと、一人前に認定されないよ?」
 稲生:「それは困ります!」
 マリア:「しょうがない。さっさとやろう。勇太は向こうやってて」
 稲生:「分かりました」

 稲生は図書室の奥に向かった。

 稲生:「ん?これだと先生の言い付けが守れないなぁ……」

 そう思った稲生は、元の場所に戻った。

 マリア:「クカー……」
 稲生:「やっぱり」

 机に突っ伏して寝入る体勢に入ろうとしたマリアがいた。

 稲生:「マリアさん、ダメですよ。後で先生に怒られます」
 マリア:「それが大丈夫なんだって」
 稲生:「どういうことですか?」

 マリアは椅子から立ち上がると、A1サイズの紙に魔法陣を描いた。

 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。蔵書に紛れしシェイプシフターよ。与えられし位置に直ちに戻れ。指示に従わざる者、イフリートの餌食になるものと思え」

 シェイプシフターとは擬態妖怪のことである。
 この中にミミックと呼ばれるモンスターも含まれている。
 魔法陣の中からオレンジ色の光が浮かび上がり、それは炎となった。
 更にその炎の中から火の玉が出て来る。
 一つ目の付いた不気味な火の玉だ。
 日本では鬼火と呼ばれるものの一種だろう。
 それが本棚の周りを徘徊する。

 稲生:「マリアさん、そんなことしたら本に燃え移りますよ!?」
 マリア:「大丈夫。心配無い」

 すると炎の熱さに耐えられなくなったミミックが、「こりゃかなわん!」とばかりに、慌てて飛び出してくる。
 本に手足が生え、開いた本からは2つ目がギョロリと覗き、その周りに鋭い牙が生えている。

 マリア:「元の位置に戻れ!」

 マリアの恫喝に驚いたミミック本達は右往左往した。
 鬼火にも煽られている為、慌てた様子でバタバタとあちこちの本棚に入って行く。

 マリア:「こんなものかな。……戻れ!」

 マリアが命じると鬼火達は魔法陣の中に戻った。
 最後は魔法陣を描いた魔法陣そのものが燃え上がるが、予め水を張ったバケツを掛けて火を消した。

 稲生:「凄いですね」
 マリア:「まあな。ただ、魔法陣の陣形が細かいから書くのが大変だ」
 稲生:「なるほど」
 マリア:「とにかく、これで師匠の言い付けは終了だ。あとは適当に……」

 すると、図書室内の内線電話が鳴った。

 稲生:「あ、はいはい」

 稲生は電話を取る。

 稲生:「あ、先生。ちょうど今、整理が終わったところです。ちゃんとマリアさん、魔法で片付けましたよ。サボってないからOKですよね?」
 イリーナ:「そうね。でも、2階は終わったけど、3階がまだのようね。3階も頑張ってねー」
 稲生:「あ……はい」

 稲生は電話の受話器を持ちながら上を見上げた。
 吹き抜け3階にも、ズラリと本棚が並んでいた。
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“魔女エレーナの日常” 「上は大水、下は大火事、なーんだ?」

2018-12-21 10:13:23 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月18日02:30.天候:不明 東京都江東区森下 ワンスターホテルB1F・エレーナの居室]

 エレーナ:「う……ん……。トイレ……」

 エレーナは2段ベッドの上段に寝ている。
 下段は後輩のリリアンヌが寝ていた。
 リリアンヌは魔界の学校に通っており、基本的には向こうの寮に入っているのだが、たまにこうして戻って来ることがある。
 入門する前、ロクな教育を受けていなかった者は、入門後学校に通うことになる。
 人間界の学校に通える者はそうするのだが、実のところとしてそれは皆無に等しい。
 人間界では死亡扱いになっていて、戸籍の無い者が殆どだからだ(パスポートなどの身分証はどのようにしているかは不明)。
 元はウクライナでストリートチルドレンだったエレーナもまた、そんな魔界で教育を受けた者の1人であった。
 『新卒採用』の稲生は論外、マリアはギリギリでイギリスのハイスクールを卒業(正式にはしていないが、カリキュラム的には卒業扱い)しているので対象外である。
 イリーナが元々の性格も去ることながら、入門前の一般教養の教育をせずに済むことから、ユルい指導をしているのかもしれない。

 エレーナ:(起きる時にさぁ……血がドバッて出るのは勘弁だ……。こういう時、先生達が羨ましい)

 生理中の時は使い魔の黒猫と一緒に寝るのも億劫になるので、黒猫はリリアンヌと一緒に寝ていた。
 魔女が使い魔を必要とする所以は、悪魔から付与される魔力の中継器の役割ではないかとされる。
 中継器が必要なのは、契約悪魔が近くにいない場合、送られてくる魔力が弱くなる為、それを増幅させる為なのではないかと。
 トイレに行って用を足す。
 ついでにナプキンも交換したりしていると、何か違和感を覚えた。

 エレーナ:(トイレの外……)

 トイレは部屋備え付け(後付け)である。
 トイレから外に出ると、室内には特に異常は無い。
 違和感は部屋の外からである。

 エレーナ:「……!」
 クロ:「……ニャア」

 黒猫のクロも気づいたのか、リリアンヌのベッドの中から出て来た。
 因みにリリアンヌはまだ寝ている。

 エレーナ:「クロも気づいた?」
 クロ:「一応。何か邪悪なモノがこの部屋に向かって来てるニャ」
 エレーナ:「こんな夜中に……」

 元々はボイラー技士室だった部屋を勝手に改造大幅に改築した部屋である。
 今はボイラーも自動式になって常駐のボイラー技士を必要としなくなり、長らくの間空室となっていた。
 そこをエレーナが住み込みで働く為に改築したのである。
 その名残か、部屋のドアは殺風景な鉄扉になっていて、ガラス製の小窓がある。
 そこから外を覗くと、何やら非常階段からそれはやって来るようだった。
 非常階段側からこの地下室への扉は、地下室側から施錠されていて、階段側からは開けられないようになっているはずだ。
 酔っ払った宿泊客が間違ってここまで下りて来てしまうことはたまにある。
 それでもドアが施錠されている為、ここまで来ることは無いのだ。
 ところが、だ。

 エレーナ:「!?」

 ドアの方からガチャガチャやる音が聞こえた。
 それもドアノブを回しているのではなく、鍵を何かやっている。

 エレーナ:「おい、これは……?」
 クロ:「ピッキングしてるニャ」
 エレーナ:「ガチの侵入者か……」

 エレーナは魔法の杖を持って来ると、部屋を出る準備をした。

 エレーナ:「こんなことするのって……」

 エレーナの頭の中に鈴木の顔が浮かんだ。

 エレーナ:「うっぷ……」

 元々生理中で体の具合が悪いのに、今は会いたくない男の顔を浮かべてエレーナは吐き気を覚えた。

 クロ:「エレーナ?」
 エレーナ:「うううっ!」

 エレーナは再びトイレに駆け込むと、戻してしまった。

 リリアンヌ:「エレーナ先輩……?」

 このせいでリリアンヌが起きてしまう。
 エレーナはTシャツにショートパンツ姿だったが、リリアンヌはパジャマである。

 エレーナ:「リリィは寝てて」
 リリアンヌ:「で、でも先輩……。顔色が……」
 エレーナ:「大丈夫……。ここに侵入者が来る……。リリィは隠れてて……」
 リリアンヌ:「フヒッ!?侵入者!?」
 エレーナ:「うっ……!」

 エレーナ、今度は貧血に見舞われた。

 エレーナ:「くそっ……!」
 リリアンヌ:「あ、あの……あ、あのあの……わ、わ、私が見て来ます」
 エレーナ:「やめろ……危険……」

 エレーナは床に倒れた。
 リリアンヌは自分の杖を持つ。
 エレーナのようなマスターが持つのは本格的な長い杖だが、リリアンヌのような見習が持つのは魔女っ娘が持つような短いものである。
 それに装飾を施すのだが、調子に乗って本当に魔女っ娘のようにしてしまうと、後で怒られる。
 稲生のような男の魔道師見習が持つ物に至っては、まるで警備員の警戒棒(警察官の警棒)のような伸縮式である。

 リリアンヌ:(たまには私が活躍して……)

 リリアンヌが部屋の外に出るのと、非常階段のドアが開けられるのは同時だった。

 不審者:「!!!」
 リリアンヌ:「!!!」

 階段室から出て来たのは鈴木ではなかった。
 もっと別の男……。
 見た目はガチムチである。

 リリアンヌ:「キャアアアア!!」
 不審者:「ハァ……ハァ……!」

 リリアンヌが逃げるより先に、男の下半身の衝動の方が早かった。
 リリアンヌを押し倒して、パジャマの上を剥ぎ取った。

 リリアンヌ:「……!!……!」

 恐怖のあまり声にならない叫び声を上げるリリアンヌ。

 クロ:「ニャア!」

 クロが男に飛び掛かるが、すぐに弾き飛ばされてしまう。

 鈴木:「だーっ!!」

 そこへ鈴木、手にしていた消火器を男に投げつける。
 だが、運動神経に関しては稲生とどっこいどっこいの鈴木、殆ど男に当たることはなかった。

 オーナー:「何をしてるんだ!警察を呼んだぞ!離れろ!!」
 鈴木:「オーナー、こいつです!非常階段下りて行ったの!」

 リリアンヌはパジャマの下まで脱がされていたが、それ以上犯されることはなかった。
 幸いこのホテルのすぐ近くには交番がある為、駆け付けた警察官達によりガチムチの男は連行されて行ったのである。

 鈴木:「エレーナに手を出そうとして、リリィちゃんに手を出したんですよ、きっと!とんでもないヤツだ!」

 と、鈴木は警察官の事情聴取に答えていたが……。

 ガチムチ:「お、俺好みのロリータ!お、俺のこ、子種注ぐ!!」

 パトカーに乗せられる直前、そんなことを叫んでいた。

 鈴木:「え、なに?最初からリリィが目的……?幼女先輩は大事にしないとダメだろ!!」
 エレーナ:「勝手にうちのリリィを幼女扱いするなよ……!こいつ、もう15歳だぞ。確かに小さい体だけど……」
 鈴木:「欧米人は体がデカいというイメージなのにねぇ……」
 エレーナ:「違うから迫害されるんだよ……。まあいいや。助けて来てくれてありがとう」
 鈴木:「いやいや。これも大聖人様の御仏智。(エレーナの所に夜這いに行こうとしたら、先を越されてたなんて言えねーぜ……)」

 鈴木のズボンのポケットには、キーピックが入っていたという。
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