[12月21日10:00.天候:雪 長野県北部山中 マリアの屋敷2F東側・稲生の部屋]
鈴木:「……というわけで、俺の活躍でエレーナは無事だったんですよー」
稲生は鈴木から武勇伝を聞かされていた。
もちろん電話である。
稲生:「へえ。キミにしてはいい活躍をしたじゃないか。(いくら未遂とはいえ、裸に剝かれたリリィがちょっと心配だけど……)」
鈴木:「俺の消火器バスターがヒットしていなかったら、エレーナの後輩も危ないところでしたよー。危うく処女喪失するところでしたね」
稲生:「そ、そうだね。(リリィは既に性的虐待のせいで処女喪失してるって話だけど……)」
鈴木:「これってアレですか?先輩の団体から、何か表彰案件になるって話ですか?」
稲生:「エレーナがどういう報告をしているかだね。少なくともキミがこうやって僕に連絡しているわけだから、この時点でイリーナ組にも事件が伝わったってわけだ。金一封もらえるんじゃない?」
鈴木:「金一封ですか。そんなものより、俺はエレーナとの婚姻届が……ぎゃん!」
向こうで鈴木の頭が叩かれた音がした。
稲生:「あっ?」
エレーナ:「オ掛ケニナッタ電話番号ハ、電波ガ届カナクナッタノデ、切リマス」
直後、電話が切れた。
稲生:「……何だかんだ言って、鈴木君とエレーナ、仲良くなったのかなぁ?……おっと!そろそろ資料整理の時間だ」
稲生はまだ見習。
魔法を覚えるよりも、この屋敷では雑用が多い。
これでもマリアのメイド人形達が動いているので、稲生のやる事は少なくなっている。
稲生は自室を出た。
屋敷2Fの西側に向かう。
図書室のようになっている部屋がある。
2Fと3F部分が吹き抜けになっている2層構造だ。
稲生:「おっと!」
そのまま行くのではなく、途中で談話室に寄る。
暖炉もあり、ロッキングチェアもあるこの部屋をイリーナは気に入っているのか、昼間何も無い時はここにいることが多い。
図書室に行く時にここを通るので、作業に入る前にイリーナに言っておこうと思った。
稲生:「失礼します。先生」
イリーナ:「んー……?」
イリーナはロッキングチェアではなく、ソファに寝そべっていた。
稲生:「これから図書室の整理に行って来ます」
イリーナ:「おー、悪いね。ダンテ先生の本もあるし、トラップブックも気をつけてね」
稲生:「はい」
トラップブックとは、本のミミックのことである。
ミミックとは某有名RPGのおかげで宝箱の形をしたモンスターというイメージがあるが、本来のミミックは宝箱に限らず、ありとあらゆる物に擬態して獲物を待ち構えるモンスターのことを指す。
某RPGでは壺の形をしたモンスターを『ツボック』と呼んでいるが、厳密にはあれもミミックと呼んで良いのである。
従って、図書室に蔵書された本に擬態するミミックもいるということだ。
ただ、全部が全部ミミックと呼ぶと、どれに擬態したミミックのことを指すのか分からなくなる為、本に擬態した者をイリーナは『トラップブック』と呼んだのだろう。
この屋敷にも侵入者に備え、防犯装置のつもりであちこちに仕掛けられている。
頭の悪いミミックだと、明らかに不自然な位置に擬態しているので、慣れれば大体分かる(例:何故か2個置いてある消火器、必要性を感じない場所に設置されている椅子、邪魔な場所に置いてある宝箱など)。
イリーナ:「じゃ、先生は具合が悪いのでランチタイムまで寝てるねー」
稲生:「具合悪いんですか!?」
イリーナ:「うんにゃ。私もちょっと生理痛なんだなー」
稲生:「そうですか。これはお邪魔しました。すぐに退散しますので」
イリーナ:「マリアにも頼んであるから、サボらないように見張っててねー」
稲生:「は、はい。(僕が監視されるんじゃなくて、する役!?)」
稲生は図書室に向かった。
マリア:「勇太、遅いぞ」
稲生:「すいません。先に先生に報告してからと思いまして」
イリーナ:「どうせ師匠はランチまで寝てるからどうでもいいよ。で、何か言ってた?」
稲生:「あ、はい。マリアさんがサボらないように、僕に見張り役をやれと……」
マリア:「ちっ……」
マリアは手伝い用に作った人形に魔法を付与するところであった。
要は人形にやらせて自分は見てるだけ、というスタンスを取ろうとしていたということである。
稲生:「あと先生も生理中だから寝てると……」
マリア:「あの婆さん、1000年以上生きてて生理があるわけないだろ」
稲生:「あっ……!見た目が若かったので、つい……」
マリア:「師匠のウソを見抜けるようにならないと、一人前に認定されないよ?」
稲生:「それは困ります!」
マリア:「しょうがない。さっさとやろう。勇太は向こうやってて」
稲生:「分かりました」
稲生は図書室の奥に向かった。
稲生:「ん?これだと先生の言い付けが守れないなぁ……」
そう思った稲生は、元の場所に戻った。
マリア:「クカー……」
稲生:「やっぱり」
机に突っ伏して寝入る体勢に入ろうとしたマリアがいた。
稲生:「マリアさん、ダメですよ。後で先生に怒られます」
マリア:「それが大丈夫なんだって」
稲生:「どういうことですか?」
マリアは椅子から立ち上がると、A1サイズの紙に魔法陣を描いた。
マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。蔵書に紛れしシェイプシフターよ。与えられし位置に直ちに戻れ。指示に従わざる者、イフリートの餌食になるものと思え」
シェイプシフターとは擬態妖怪のことである。
この中にミミックと呼ばれるモンスターも含まれている。
魔法陣の中からオレンジ色の光が浮かび上がり、それは炎となった。
更にその炎の中から火の玉が出て来る。
一つ目の付いた不気味な火の玉だ。
日本では鬼火と呼ばれるものの一種だろう。
それが本棚の周りを徘徊する。
稲生:「マリアさん、そんなことしたら本に燃え移りますよ!?」
マリア:「大丈夫。心配無い」
すると炎の熱さに耐えられなくなったミミックが、「こりゃかなわん!」とばかりに、慌てて飛び出してくる。
本に手足が生え、開いた本からは2つ目がギョロリと覗き、その周りに鋭い牙が生えている。
マリア:「元の位置に戻れ!」
マリアの恫喝に驚いたミミック本達は右往左往した。
鬼火にも煽られている為、慌てた様子でバタバタとあちこちの本棚に入って行く。
マリア:「こんなものかな。……戻れ!」
マリアが命じると鬼火達は魔法陣の中に戻った。
最後は魔法陣を描いた魔法陣そのものが燃え上がるが、予め水を張ったバケツを掛けて火を消した。
稲生:「凄いですね」
マリア:「まあな。ただ、魔法陣の陣形が細かいから書くのが大変だ」
稲生:「なるほど」
マリア:「とにかく、これで師匠の言い付けは終了だ。あとは適当に……」
すると、図書室内の内線電話が鳴った。
稲生:「あ、はいはい」
稲生は電話を取る。
稲生:「あ、先生。ちょうど今、整理が終わったところです。ちゃんとマリアさん、魔法で片付けましたよ。サボってないからOKですよね?」
イリーナ:「そうね。でも、2階は終わったけど、3階がまだのようね。3階も頑張ってねー」
稲生:「あ……はい」
稲生は電話の受話器を持ちながら上を見上げた。
吹き抜け3階にも、ズラリと本棚が並んでいた。
鈴木:「……というわけで、俺の活躍でエレーナは無事だったんですよー」
稲生は鈴木から武勇伝を聞かされていた。
もちろん電話である。
稲生:「へえ。キミにしてはいい活躍をしたじゃないか。(いくら未遂とはいえ、裸に剝かれたリリィがちょっと心配だけど……)」
鈴木:「俺の消火器バスターがヒットしていなかったら、エレーナの後輩も危ないところでしたよー。危うく処女喪失するところでしたね」
稲生:「そ、そうだね。(リリィは既に性的虐待のせいで処女喪失してるって話だけど……)」
鈴木:「これってアレですか?先輩の団体から、何か表彰案件になるって話ですか?」
稲生:「エレーナがどういう報告をしているかだね。少なくともキミがこうやって僕に連絡しているわけだから、この時点でイリーナ組にも事件が伝わったってわけだ。金一封もらえるんじゃない?」
鈴木:「金一封ですか。そんなものより、俺はエレーナとの婚姻届が……ぎゃん!」
向こうで鈴木の頭が叩かれた音がした。
稲生:「あっ?」
エレーナ:「オ掛ケニナッタ電話番号ハ、電波ガ届カナクナッタノデ、切リマス」
直後、電話が切れた。
稲生:「……何だかんだ言って、鈴木君とエレーナ、仲良くなったのかなぁ?……おっと!そろそろ資料整理の時間だ」
稲生はまだ見習。
魔法を覚えるよりも、この屋敷では雑用が多い。
これでもマリアのメイド人形達が動いているので、稲生のやる事は少なくなっている。
稲生は自室を出た。
屋敷2Fの西側に向かう。
図書室のようになっている部屋がある。
2Fと3F部分が吹き抜けになっている2層構造だ。
稲生:「おっと!」
そのまま行くのではなく、途中で談話室に寄る。
暖炉もあり、ロッキングチェアもあるこの部屋をイリーナは気に入っているのか、昼間何も無い時はここにいることが多い。
図書室に行く時にここを通るので、作業に入る前にイリーナに言っておこうと思った。
稲生:「失礼します。先生」
イリーナ:「んー……?」
イリーナはロッキングチェアではなく、ソファに寝そべっていた。
稲生:「これから図書室の整理に行って来ます」
イリーナ:「おー、悪いね。ダンテ先生の本もあるし、トラップブックも気をつけてね」
稲生:「はい」
トラップブックとは、本のミミックのことである。
ミミックとは某有名RPGのおかげで宝箱の形をしたモンスターというイメージがあるが、本来のミミックは宝箱に限らず、ありとあらゆる物に擬態して獲物を待ち構えるモンスターのことを指す。
某RPGでは壺の形をしたモンスターを『ツボック』と呼んでいるが、厳密にはあれもミミックと呼んで良いのである。
従って、図書室に蔵書された本に擬態するミミックもいるということだ。
ただ、全部が全部ミミックと呼ぶと、どれに擬態したミミックのことを指すのか分からなくなる為、本に擬態した者をイリーナは『トラップブック』と呼んだのだろう。
この屋敷にも侵入者に備え、防犯装置のつもりであちこちに仕掛けられている。
頭の悪いミミックだと、明らかに不自然な位置に擬態しているので、慣れれば大体分かる(例:何故か2個置いてある消火器、必要性を感じない場所に設置されている椅子、邪魔な場所に置いてある宝箱など)。
イリーナ:「じゃ、先生は具合が悪いのでランチタイムまで寝てるねー」
稲生:「具合悪いんですか!?」
イリーナ:「うんにゃ。私もちょっと生理痛なんだなー」
稲生:「そうですか。これはお邪魔しました。すぐに退散しますので」
イリーナ:「マリアにも頼んであるから、サボらないように見張っててねー」
稲生:「は、はい。(僕が監視されるんじゃなくて、する役!?)」
稲生は図書室に向かった。
マリア:「勇太、遅いぞ」
稲生:「すいません。先に先生に報告してからと思いまして」
イリーナ:「どうせ師匠はランチまで寝てるからどうでもいいよ。で、何か言ってた?」
稲生:「あ、はい。マリアさんがサボらないように、僕に見張り役をやれと……」
マリア:「ちっ……」
マリアは手伝い用に作った人形に魔法を付与するところであった。
要は人形にやらせて自分は見てるだけ、というスタンスを取ろうとしていたということである。
稲生:「あと先生も生理中だから寝てると……」
マリア:「あの婆さん、1000年以上生きてて生理があるわけないだろ」
稲生:「あっ……!見た目が若かったので、つい……」
マリア:「師匠のウソを見抜けるようにならないと、一人前に認定されないよ?」
稲生:「それは困ります!」
マリア:「しょうがない。さっさとやろう。勇太は向こうやってて」
稲生:「分かりました」
稲生は図書室の奥に向かった。
稲生:「ん?これだと先生の言い付けが守れないなぁ……」
そう思った稲生は、元の場所に戻った。
マリア:「クカー……」
稲生:「やっぱり」
机に突っ伏して寝入る体勢に入ろうとしたマリアがいた。
稲生:「マリアさん、ダメですよ。後で先生に怒られます」
マリア:「それが大丈夫なんだって」
稲生:「どういうことですか?」
マリアは椅子から立ち上がると、A1サイズの紙に魔法陣を描いた。
マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。蔵書に紛れしシェイプシフターよ。与えられし位置に直ちに戻れ。指示に従わざる者、イフリートの餌食になるものと思え」
シェイプシフターとは擬態妖怪のことである。
この中にミミックと呼ばれるモンスターも含まれている。
魔法陣の中からオレンジ色の光が浮かび上がり、それは炎となった。
更にその炎の中から火の玉が出て来る。
一つ目の付いた不気味な火の玉だ。
日本では鬼火と呼ばれるものの一種だろう。
それが本棚の周りを徘徊する。
稲生:「マリアさん、そんなことしたら本に燃え移りますよ!?」
マリア:「大丈夫。心配無い」
すると炎の熱さに耐えられなくなったミミックが、「こりゃかなわん!」とばかりに、慌てて飛び出してくる。
本に手足が生え、開いた本からは2つ目がギョロリと覗き、その周りに鋭い牙が生えている。
マリア:「元の位置に戻れ!」
マリアの恫喝に驚いたミミック本達は右往左往した。
鬼火にも煽られている為、慌てた様子でバタバタとあちこちの本棚に入って行く。
マリア:「こんなものかな。……戻れ!」
マリアが命じると鬼火達は魔法陣の中に戻った。
最後は魔法陣を描いた魔法陣そのものが燃え上がるが、予め水を張ったバケツを掛けて火を消した。
稲生:「凄いですね」
マリア:「まあな。ただ、魔法陣の陣形が細かいから書くのが大変だ」
稲生:「なるほど」
マリア:「とにかく、これで師匠の言い付けは終了だ。あとは適当に……」
すると、図書室内の内線電話が鳴った。
稲生:「あ、はいはい」
稲生は電話を取る。
稲生:「あ、先生。ちょうど今、整理が終わったところです。ちゃんとマリアさん、魔法で片付けましたよ。サボってないからOKですよね?」
イリーナ:「そうね。でも、2階は終わったけど、3階がまだのようね。3階も頑張ってねー」
稲生:「あ……はい」
稲生は電話の受話器を持ちながら上を見上げた。
吹き抜け3階にも、ズラリと本棚が並んでいた。