報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“魔女エレーナの日常” 「エレーナと鈴木」

2018-12-23 19:53:43 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月23日18:00.天候:曇 東京都江東区森下 某居酒屋]

 鈴木:「よしよし。それじゃ、乾杯しよう」
 エレーナ:「お疲れー」

 鈴木は明け番のエレーナを誘い、同じ地区内にある居酒屋に入っていた。

 エレーナ:「タダ酒にタダ飯だって?」
 鈴木:「いいよいいよ。コミケ売り子のバイト代、後払いにすると、また後で怖いことになりそうだから、まずは現物で前払い」
 エレーナ:「いや、ダメだよ。ちゃんと円で払えよ、円で」
 鈴木:「ロシアのルーブルは?」
 エレーナ:「ロシア行かないから!ウクライナ人ナメんな!」
 鈴木:「ゴメンゴメン。エレーナ、日本語上手いね」
 エレーナ:「この体の持ち主がマルチリンガルで助かった。おかげで日本にいる間は、自動通訳魔法使わずに済んでる」
 鈴木:「便利な魔法があるもんだ」
 エレーナ:「今は科学がすぐに魔法を追い越す時代だからね。そのスマホも、世が世なら魔法具扱いだよ」
 鈴木:「それもそうだな」
 エレーナ:「魔道師の魔法も、いずれ科学に負ける時代が来る。それに備えて、アタシは金を稼いでいるんだ。いつの時代でも、カネさえあれば何とでもなるからな」
 鈴木:「確かに……。いや、“北斗の拳”みたいになったらカネがあっても意味無いよ?」
 エレーナ:「その時は魔法がモノを言う。てか、先生達の目の黒いうちは核兵器なんか使わせないよ?」
 鈴木:「へえ。1度会ってみたいものだな」
 エレーナ:「おあいにくさまね。せいぜい、私程度に会えるのが関の山だよ」
 鈴木:「ワンスターホテルに行けば、気軽に魔女に会えるってか。地下アイドルみたいだな」
 エレーナ:「そういうこと」
 鈴木:「せっかく向こうにレストランがあるから、そこで魔法のショーアップでもやったら?」
 エレーナ:「でもあまり目立つと、後で面倒なことになるからやらないわけよ」
 鈴木:「何だか難しいな。すいませーん、ビールお代わり」
 エレーナ:「あ、アタシはハイボール」
 店員:「はい、喜んでー!」

 鈴木とエレーナは座敷に上がり、テーブルに向かい合って座っている。

 鈴木:「とにかく、報酬は当日前払いにするよ」
 エレーナ:「それが正しい。後で契約書を作っておくから、サインしに来て」
 鈴木:「契約書!?軽い依頼なのに、随分重いんだな」
 エレーナ:「魔道師ナメちゃダメだよ?私らの世界は、何でもかんでも契約社会だからね。私は良心的だけど、一応契約書はちゃんと一字一句読み通すんだよ?」
 鈴木:「分かったよ。……日本語でぉk?」
 エレーナ:「分かってるって」
 鈴木:「悪いな。外国語はさっぱりダメなんだ」
 エレーナ:「日本人は中学、高校と英語を6年間も習うのにねぇ……」
 鈴木:「そうだよ。今の日本の教育システムは腐っている!俺はその腐敗堕落した宗門!……もとい、日本の教育システムの被害者なんだ!」
 エレーナ:「大丈夫?まだジョッキ一杯目だよ?もう酔い回って来た?」
 鈴木:「大丈夫大丈夫」
 店員:「失礼します!ビール中ジョッキとハイボールお待たせしましたー!あと、こちらが厚揚げと山盛りポテト、それとお刺身3種盛り合わせです!」
 鈴木:「うぃっス!」
 エレーナ:「あざっす!」
 鈴木:「日本語の使い方が、既に日本人並みだよ」
 エレーナ:「もう何年も日本語喋ってるからねぇ……」
 鈴木:「エレーナは……どうして魔道師になったの?」
 エレーナ:「お?何だ、急に重くなって?やっぱビール一杯だけでいっぱいいっぱい?無理しなくていいよ」
 鈴木:「稲生先輩よりは強いつもりだ……。まま、刺身でも食いなよ」
 エレーナ:「お刺身かぁ!久しぶりに食べるね!」
 鈴木:「そうか。エレーナ、和食が好きか」
 エレーナ:「なかなか食べる機会が無いのよ」
 鈴木:「分かった。今度のコミケの打ち上げは、またこういう店にしよう」
 エレーナ:「おお〜!」
 鈴木:「で、どうして魔道師になったの?」
 エレーナ:「どうしても聞きたいんだ。別に、志願したわけじゃないよ」
 鈴木:「え?」
 エレーナ:「アタシはウクライナでストリートチルドレンだったんだ。隣国のハンガリー動乱で家族全部亡くしてね……」
 鈴木:「え?え?え?ウクライナなのにハンガリー?」
 エレーナ:「私は元々ハンガリーの生まれなんだ。マリアンナとそこは同郷だな。だけど、動乱で家族を全部亡くしてウクライナに逃げ込んだ。そこでも地獄のような生活をしててさ、そしたらある日、ポーリン先生が私を見つけてくれたんだ」
 鈴木:「エレーナのお師匠さんだね?」
 エレーナ:「そう。何か、弟子候補を探していたみたいで、私の頭に魔法の杖の頭をコンと乗せて、こう仰ったんだ。『お前には素質がある。この生活を続けたいか?辞めたいのなら、私に付いて来なさい』ってね」
 鈴木:「付いて行ったんだ?」
 エレーナ:「好きでストリートチルドレンやってるヤツなんていないさ。新手の人身売買組織の勧誘かとは思ったんだけど、あんな汚い所に暮らすくらいなら、少しでもマシな所にって思って付いて行ったんだ。……ってか、こんな話聞きたいのか?」
 鈴木:「聞きたい!」
 エレーナ:「……つくづく日本人ってな平和ボケだねぇ。アタシは先生に逢えなかったら、今頃とっくにキエフの街角の隅っこで麻薬の密売でもやりながら、あの世に行ってたはずなんだ。だから時々、今でも夢じゃないかと思う」

 出国した覚えは無いから、恐らくそこはまだウクライナのキエフのどこかだったのだろう。
 それなりに立派な家の中に通されたエレーナは、まずは体をきれいにする為にシャワーを使わされた。
 久しぶりのベッドで寝ている間に、とても苦い薬を飲まされたという。

 エレーナ:「あれは多分、毒」
 鈴木:「毒!?」
 エレーナ:「そう。マリアンナの場合は『飛び降り自殺を図って地面に激突する寸前、瞬間移動魔法を使われる』ことで人間としての生を終える儀式をしたけれども、あれが多分私の『人間としての生を終える儀式』だったんだろうな。表向きには、私の体の中に入っていた麻薬を抜く為ということになっていたけど……」
 鈴木:「へえ……」
 エレーナ:「まあ、その後が色々と大変だったな。もちろん、ホウキで空を飛ぶなんて信じられなかったしな。それが今やフツーに飛んでるんだから、本当に人生って分かんないよ」

 さすがに師匠同士のケンカに巻き込まれたことについては、端折ったエレーナだった。
 自分が悪役だったことは、さすがに鈴木にも話しにくかった。

 エレーナ:「先生からは魔界に戻って来たらと言われてるんだけど、こっちの生活も面白いから、もうしばらくいるつもり」
 鈴木:「エレーナのお師匠さん、何をされてるの?」
 エレーナ:「魔王城の宮廷魔導師」
 鈴木:「えーと……それは日本で言う所の内閣官房長官的な?」
 エレーナ:「そうとも言うかな。宮内庁長官かもね」
 鈴木:「政府高官かぁ……凄いね」

 要は後輩のイリーナが先にその座に就いてしまったことで軋轢が発生し、『女のケンカ』に発展したわけである。
 イリーナ的には、『電車に乗ったら、たまたま空いている席があったのでそこに座っただけ』という反論をしていたらしい。
 ポーリン的には、『せっかく私が事前予約したグランクラスシートに、「たまたま空いてたから」と座るんじゃねー、ボケ!』ということなのだろう。

 鈴木:「俺は魔道師になれない?」
 エレーナ:「素質が無いからダメだね。あったら、先生達の誰かが声を掛けに行くはずだよ。私や稲生氏、そしてマリアンナみたいに」

 エレーナの言葉に、鈴木はショボーンとなったのである。
コメント (2)
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