報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「特急“あずさ”26号」

2018-12-30 20:06:59 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月29日14:37.天候:雪 長野県北安曇郡白馬村 JR白馬駅]

 駅前のロータリーに1台の高級車が止まる。
 それは黒塗りのメルセデス・ベンツSクラスに酷似していた。

 稲生:「先生が御一緒ですと心強いです」
 イリーナ:「ありがとね」

 イリーナが関わっているらしい。
 お抱え運転手がトランクを開けて、イリーナ組の面々が持つ荷物を降ろしている。
 稲生が魔法を使うと、魔力の関係で日本のタクシーのような車(トヨタ・クラウンコンフォートまたは日産・セドリックのいずれか。トヨタ・ジャパンタクシーや日産・バネットNVは未経験の為、不可)が迎えに来るし、マリアに至ってはロンドンタクシーである。

 稲生:「早く中に入りましょうよ」
 イリーナ:「そうね。こんな大雪で電車は走ってる?」
 稲生:「運行情報には何も出てないので大丈夫だと思います」
 イリーナ:「それは最高ね」
 マリア:「誰かが魔法でも使いました?この降り方は少し違いますね」
 イリーナ:「そうかもしれないわね。ちょっと修羅道の臭いがするわ」

 そんなことを話しながら駅構内に入る。
 駅構内は暖房が効いて暖かい上、スキー客で賑わっていた。

〔「まもなく1番線に14時37分発、特急“あずさ”26号、新宿行きが参ります。ご利用のお客様は、改札口へお越しください」〕

 稲生:「キップは1人ずつ持ちましょう」
 イリーナ:「ありがとう」
 稲生:「先生はグリーン車で、僕達は普通車に乗りますから」
 イリーナ:「あら?別に皆で同じ車室で良かったのよ?」
 稲生:「車両は同じですけどね」
 イリーナ:「ん?」

 南小谷方向から雪煙を上げて、特急“あずさ”が接近してきた。

 稲生:「あのE257系がもうすぐで撤退するので、今のうちに乗り納めです」

 稲生の鉄ヲタ根性丸出しの行程なのであった。

〔「1番線に到着の列車は14時37分発、特急“あずさ”26号、新宿行きです。自由席は3号車から5号車、グリーン車は8号車の後ろ半分です。停車時間僅かとなっております。……」〕

 稲生:「8号車です。先生の席はこちらです」

 グリーン車はガラガラだったが、それでも予約は一杯で満席扱いになっている。
 8号車だけは乗降ドアが中央にあり、そこを境に普通席とグリーン席に分けられている。
 稲生とマリアはデッキを挟んで普通席の方に向かった。
 そこは指定席である。

 稲生:「僕達の席はここですね」
 マリア:「分かった」

 マリアはキャリーケースを上げようとした。

 稲生:「僕が上げますよ」
 マリア:「Thanks.」

 本当はキャリーケースなど無くても旅ができるのが魔道師なのであるが、年始の初売りで爆買いしたものを入れて帰る用とのこと。
 エレーナに輸送を頼むと吹っ掛けられるので。
 座席の質は東北新幹線E2系の普通車とほぼ同じ。
 違うのはシートピッチがそれよりは狭くなっていることくらい。
 もっとも、新幹線と在来線を比べるのもどうかとは思うが。
 そんなことをしているうちに、電車が発車した。

〔「白馬からご乗車のお客様、お待たせ致しました。本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は中央本線に参ります特急“あずさ”26号、新宿行きでございます。次の停車駅は、信濃大町です。信濃大町、穂高、豊科、松本、塩尻、岡谷、下諏訪、上諏訪、茅野、小淵沢、韮崎、甲府、八王子、立川、終点新宿の順に止まります。電車は只今、9両編成で運転致しております。1番前が3号車、1番後ろが11号車です。途中の松本で前に2両、1号車と2号車を連結致します。……」〕

 マリア:「この電車、車内販売はある?」
 稲生:「あるはずですよ。どうしてですか?……ハッ!」
 マリア:「お察しの通り、あのコ達が物凄く気にしてる」

 マリア手作りのメイド人形、ハク人形とミク人形である。
 今は人形形態になっていて、マリアの荷物の中に入っているのだが、時折勝手に出て来ることがある。
 そして飛行機内ではハットラックの中、電車やバスの中では網棚の上で寛ぐのである。
 この2体の人形、飛行機では機内販売、電車では車内販売に熱を上げている。
 彼女らの目当てはアイスクリーム。

 稲生:「全区間、乗車しているのかなぁ?」

〔「……尚、この電車には車内販売員が乗車しております。お食事とお飲み物を御用意致しまして、皆様のお席までお伺い致します。お近くを通りの際、是非ご利用ください。……」〕

 稲生:「……この分ですと全区間っぽいですね」
 マリア:「やってるってさ」

 マリアは網棚の上に向かって言った。

 ミク人形:「♪」
 ハク人形:「♪」
 稲生:「意外だったな。こういう場合、大糸線内では乗っていなくて、中央本線に入ってからだと思ってたのに……」

 恐らく今はスキーシーズンで乗客も多く、大糸線内で営業しても採算が取れると見込んだのかもしれない。
 なので、いつも全区間営業しているとは限らないと思われる。

 マリア:「新宿駅の1つ手前は何駅?」
 稲生:「この電車でですか?立川ですね」
 マリア:「立川から新宿まで何分くらい?」
 稲生:「だいたい20分強だと思います。どうしてですか?」
 マリア:「どうせまた師匠が爆睡しているだろうから、起こすのに時間を掛ける必要があると思って」
 稲生:「立川駅を出たら、ちょっと様子を見に行きますよ」
 マリア:「そうしてくれると助かる」
 稲生:「はい」

 と、そこへ……。

 車販嬢:「車内販売でございます。お弁当にお飲み物、お土産品……」
 稲生:「あ、すいません。こっちにアイスクリーム2つ……と、コーヒーと……」
 マリア:「紅茶」
 稲生:「……紅茶ください」
 車販嬢:「ありがとうございます」

 稲生がSuicaで払うと……。

 稲生:(このコ達の機嫌を損ねると、電車のダイヤが乱れるからなぁ……。これで一応、大丈夫だ。うん)

 心底ホッとした顔で商品を受け取った。

 稲生:「先生にも何か購入した方がいいですかね?」
 イリーナ:「いいよ。どうせもう寝てるだろうし、欲しけりゃ自分で買うさ」
 稲生:「はあ……」

 辛辣な弟子のマリアである。
 電車は雪煙を上げながら、単線のローカル線の上を突き進んだ。
コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする