報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「さいたまへ」

2014-08-08 19:31:30 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月10日18:59.JR南浦和駅武蔵野線ホーム→京浜東北線ホーム ユタと愉快な仲間たち]

 キキィ………キキィ………。
 プシュー、ガラガラ……。

〔みなみうらわ〜、南浦和〜。ご乗車、ありがとうございます〕

「やっと着いた〜」
 ユタは間延びした様子で、電車を降りた。
 これで東武鉄道や地方の一部の駅みたいに、駅名票に駅の所在地が書かれていれば、尚一層帰って来た感もあるのだろうが、ここには無い。
 あくまで、南浦和駅の看板があるだけである。
「おいおい。あと乗り換えあんだろ」
 キノが苦笑いした。
 キノ達においては、あと2回乗り換えがある。
 京浜東北線と東武野田線だ。
 それに比べてユタ達は、電車は次の京浜東北線だけでいい。

「夕食は途中で食べて帰ります?」
「お、いいねぇ。じゃあ、私が奢ろうか。バイト代も入ったしなぁ……」
 京浜東北線ホームに移動し、ユタが提案した。
 それに乗るイリーナ。そしてマリア、威吹、カンジ。
「オレ達は先に帰らせてもらうぜ」
「あらま」
「江蓮の手料理が食いてーからよ」
「そいつは残念だ。今日は両親が帰ってる」
 江蓮はニヤッと笑った。
「マジかよ」
「つーか、あんなに駅弁食ってたのに、まだ食うのかよ」
「当たり前だぜ。なあ、イブキ?」
「う、うむ……」
「アタシらは昼以降何も食べてないからだけど、本当に貪食だねぇ……」
 イリーナは呆れて言った。
「あー?だったら、テメーら襲って食ってもいいんだぜ?」
「魔道師が妖怪に食われるわけないじゃないの。黒コゲになるか、バラバラになるかだよ。ねぇ、マリア?」
「その通りです。……私の人形のフォーメーションに対抗してみるか?」
 今やサッカーチーム並みの陣営を誇るマリアの人形。
 マリア自身に戦闘力は無いが、マリアをサッカーのゴールポストに例えると、そこまでたどり着く為には、強力なミッドフィルダーをまず倒さなければならない。
 大抵はフランス人形のクラリスがそれ(センターフォワード)を務め、ゴールキーパーの役割をミク人形(初音ミクによく似ているだけの、分類上はフランス人形)であるミカエラが務める。
 さしもの威吹もミク人形にはてこずることが多く、ミクを後衛にした。
「やめなよ。威吹も」
「ボクは何もしてないよ」
 パッと威吹は両手を挙げた。

〔まもなく4番線に、各駅停車、大宮行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕

「ほら、もうすぐ電車来るよ」
 イリーナが手を叩いた。
 この時、ユタはマリアのバッグの中からミク人形が怖い顔して覗いていたのを見たという。
 無論、マリアの会話に呼応して、いつでも戦闘態勢に入れるようにする為だろう。

[同日19:20.JRさいたま新都心駅京浜東北線ホーム→西口けやきひろば]

 さいたま市というのは平仮名が好きなようだ。
 市名からしてまずそうだし、『けやきひろば』も、何故か広場を漢字で書かない。
 なので恐らく、さいたま市民に欅という字を書かせると、平仮名で書きそうだ。
 仙台市民だと、大抵カタカナで書くと思う。理由は【お察しください】。いや、定禅寺通りの並木の名前がね……。

〔さいたましんとしん〜、さいたま新都心〜。ご乗車、ありがとうございます〕

「それじゃ、今日はどうもでした」
「ああ。今度は別の海に行こう」
 江蓮の声に、ユタは、
「そうだね」
 とだけ答えた。
 すぐに電車は発車し、この駅で降りたユタ達はキノ、江蓮、魔鬼の3人に手を振った。
「何食べます?」
「そうだねぇ……。ここ最近、和食を食べてないからねぇ……」
 イリーナは右手を顎にやって考えた。
「取りあえず、現地に行って考えたらどうだ?」
 と、威吹。
「そうしよう」

[同日19:30.さいたま新都心駅西口けやきひろば2階→1階 ユタ、威吹、マリア、イリーナ、カンジ]

 2階部分は超高層ビルが建っていることもあるせいか、時折強い風が吹き下ろしてくる。
 何故か前にここを歩く度、キノが必ず江蓮を自分の前に歩かせていたが、その理由は【お察しください】。
 魔道師達はロングスカートなので、恐らくキノが期待するようなことは無いだろう。
 この場にいないからこそのアレである。

「あ、ここにしよう」
 1階に下りて、とある飲食店に入った。
「ゴハンとお味噌汁がお代わり自由だから、威吹君向きじゃない?」
「……まあ、いいだろう」

[同日20:30.けやきひろば1階飲食店 ユタ、威吹、マリア、イリーナ、カンジ]

 食事が進み、酒の入ったイリーナは上機嫌で昔の武勇伝を話した。
 昔は今よりも魔界〜人間界の相互直通がしやすく、その為に生み出された民話などもあるという。
 当時の魔道師達の仕事は、魔界からやってきた妖怪が人間界で悪さをしないように取り締まるのも任務であったという。
「大師匠様も入れて、たったの3人ですか?」
「そう。だから自由に修行したアタシも、そう簡単に首が切れなかったのね。あ、マリアやユウタ君はマネしちゃダメよ」
「そ、そうですね」
「今の魔界の女王……ルーシー・ブラッドプール1世なんだけどね、ヴァンパイアが出自なのは知ってるよね。今でも献上品リストの中に、血液パックが入ってるくらいだからね。ああ、大丈夫。それはちゃんと国民の中から募集した献血だから。魔王様がそうやって合法的に人間の血を飲んでるのに、下の魔物達が人間を襲って……というわけにはいかないからね。でも、中にはそれが分からないバカもいて、魔界内では魔王軍の治安維持部隊とかが取り締まるんだけど、更にその中に人間界にやってきて、人間を襲うのもいるわけね」
「それは今でも?」
「……そう、今でも。まあ、何年かに1度あるだけよ。威吹君達が対応に当たってるし」
「威吹が?」
「ちっ。黙ってろって言っただろうが」
「いいじゃない。いいことしてるんだから」
「威吹、時々夜中出て行ったりするけど……」
「ユタみたいな特種級の霊力を狙って、ボクの“獲物”を横取りしようとするヤツは未だいるということさ。心配無い。ボクのことが分からない下等な連中ばっかりだし、今はカンジに任せてる」
「お任せください。魑魅魍魎の類など、オレの手に掛かれば、威吹先生のお手を煩わせることはありません」
「あなた達なら、魔界正規軍に簡単に入隊できるのにねぇ……。幹部候補生として」
「そうなんですか!?」
 ユタは驚いて、威吹達を見た。
「ボクは興味無いよ。カンジが多少興味があるようだが……」
「オレもまだ修行中の身。興味が無いと言えばウソになりますが、ここではまだ勉強になることが沢山あります。それを得てからです」
「それもいいかもね」
「何か面白い話は無いですか?」
 ユタが振ると、
「私は主に欧米を担当してたね。で、ポーリンが主にアジア辺りを担当してた。東欧のとある辺境な場所に建ってた古城に乗り込んだ際、そこはもう既に化け物の巣窟になってて、そこのボスを倒したら、魔界の入口が開きっぱになってて、要はそこから魔物がダダ漏れしていたってことね。もちろん塞いだけど」
「凄いなぁ……。全部それをお1人でやったんですか?」
「中には人間のパートナーと組んだこともあるよ。でも、生き残れたのは少なかったな。やっぱりちゃんとした魔道師がいいって思った。だからマリアには期待してるのよ」
「なるほど」
「頑張ります」
 マリアは頷いた。
「最近はどうなんですか?」
 ユタが更に聞く。
「今はザコばっかりね。今は魔界の方でも気にしていて、魔物が勝手に人間界に行かないようにはしてるみたい。だけど、それでも警戒網から漏れるヤツがいるのよ。今はそれを相手にしてるくらい」
「マリアさんの屋敷の地下にも、魔界の入口があるんですよね?」
「あれは緊急用に取ってあるだけ。そこから魔界の入口に行くには、鉄扉を5枚も潜り抜けないと行けないのよ」
「へえ……」
「もちろん、向こうから来れないようにしてるけど、保険のつもりでね。最初の1枚目のドアですら、ザコに突破することはできないよ」
「それなら安心ですね」
「うんうん。ポーリンも拠点となる魔界の入口を探してるんだけど、今はもうおいそれとはね……」
 イリーナはクイッとグラスのウィスキーを飲んだ。
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか」
「はい。ごちそうさまでした」

 店を出て、家の近くまで行くバス停に向かう。
「異形の者か……」
「はい?」
 マリアのつぶやきに横にいたユタが反応した。
「悪魔とて……ヒトの姿をしていた。そこにいる妖狐達も、ヒトの姿だ……。だけどアレは……」
「あれ?」
「あ、いや、何でも無い……」
 ヘタすれば快楽殺人も厭わないマリアが、何故か恐怖のような表情を浮かべたことにユタは驚いた。
 マリアも何か、魔物と戦ったことがあるのだろうか。
 しかしそれを聞くことは、今日のところは無かったのである。

                                    江ノ島海水浴編 終
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“ユタと愉快な仲間たち” 「やっぱりイケメンに限った」

2014-08-08 14:50:29 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月10日14:30.江ノ島海水浴場・移動交番 ユタと愉快な仲間たち]

「盗撮してないのに盗撮犯扱いされた!『キミが悪いんじゃない。イケメンに生まれなかったのが悪いんだ。手の届かない女性を、せめて写真に収めてみたかった。……だろ!?』って取り調べされた!何だこれ!」
「うむ。その通りだな」
 キノは大きく頷いた。
 彼も地獄界に戻れば亡者達を虐げる獄卒である。
「キノ!」
「どーも、すいません。身元引受人のイリーナ・レヴィア・ブリジッドと申します」
「や、こりゃどうも。こちらこそ、うちの若い者がとんだ早合点を……」
 移動交番の責任者と思しき40〜50代の男性巡査部長もまた恐縮していた。
 ユタを逆ナンしたのは、ビーチにおける盗撮や窃盗を現行犯で逮捕することを目的とした女性私服警察官で、ユタが浜辺に向かってスマホを操作していたのを確認し、顔がオタク風ということもあってか盗撮しているかもしれないと思い、職務質問したもの。
 その際、女性から見て生理的に受け付けないと思われる挙動不審な所があったということで、ユタを移動交番に(任意同行という名の)連行したという。
「いやー、大ごとにならなくて良かったよー、盗撮ちゃん」
 キノが笑いながらユタの肩を叩いた。
「盗撮じゃない!」
 ユタの容疑が晴れたのは、実際にスマホに盗撮した画像が1枚も無かったからだ。
 スマホ操作中に現行犯タイーホ職務質問したため、咄嗟に消去することはできない。
「じゃあ、このコは引き取りますね」
「こりゃ、とんだお手数を……」
 ユタ達は移動交番をあとにした。
「ま、ブサメンが小学校の近くを歩いてるだけで、すぐ不審者情報が飛び交う時代だ。諦めな。その辺は、あのおまわりの言う通りだよ」
 キノはズチューとストローを突き刺したプラスチックカップ入りのジュースを飲みながら言った。
「今生のモテ期は諦めて、来世ではイケメンに生まれるよう、今からホトケ様にワイロ送っとくんだな」
「うう……」
 泣き出しそうになるユタ。それを見て、
「おい、そんな言い方ないだろ!」
 威吹がキノに食ってかかる。
「ああっ!?本当のこと言ったまでだろうが!」
「言っていいことと悪いことがある!」
「現実から目を反らすなって、オメー、前に言ってただろうが!」
「2人とも、やめなよ。とにかくマリア、今度はユウタ君から目を離さないように」
「はい」
 イリーナが2人の人喰い妖怪男の間に割って入ると同時に、弟子に指示を出した。

[同日17:00.鎌倉駅江ノ電ホーム→横須賀線ホーム ユタと愉快な仲間たち]

 まるで路面電車のようにのんびりと走る江ノ島電鉄。
 多くの行楽客を乗せて、ゆっくりと終点鎌倉駅のホームに入る。
 片開きのドアが開くと、降車ホームに一斉に乗客が降り出した。
 その中に、ユタ達の姿もある。
「お土産買うヒマあるかねぇ……」
「帰りは17時18分発、“ホリデー快速鎌倉”号です」
 イリーナの質問に、ユタは力無く答えた。
「ほおほお。じゃあ、駅の売店くらいなら覗けるねぇ……」
「そうですね」
「もう夕方になるってのに、まだイジけてるの?」
「イジけてないですよ」
「マリアも一緒にいるんだから、これで機嫌直して」
「ええ……」

[同日17:15.JR鎌倉駅→ホリデー快速鎌倉号 ユタと愉快な仲間たち]

〔まもなく2番線に、当駅始発、“ホリデー快速鎌倉”、南越谷行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。この列車は、6両です〕

「おっ、間に合った」
 ユタとマリアが先にホームで待っていると、何やら買い込んできた威吹達もやってきた。
「何を買ってきたんだ?」
「弁当売ってたから買ってきた」
 と、威吹。
「えっ、もう?大宮に着いてから何か食べようと思ってたのに……」
「それはそれ。これはこれ」
「ええ〜……。相変わらずだな……」
 ユタが呆れていると、往路と同じ電車、形式番号で言えば185系がやってきた。
 幅1メートルほどある片開きのドアが開くと、すぐに乗り込んだ。

〔♪♪♪♪。「ご乗車ありがとうございます。この電車は17時18分発、横須賀線、武蔵野線直通、“ホリデー快速鎌倉”号、南越谷行きです。停車駅は北鎌倉、大船、横浜、北府中、西国分寺、新秋津、東所沢、新座、北朝霞、武蔵浦和、南浦和、終点南越谷の順に止まります。……」〕

「やっと帰れるよー」
 ユタは座席にもたれかかって言った。
「おいおい。まだ京浜東北線乗り換えがあるでしょー」
 イリーナが呆れて言った。
「武蔵野線に入ってしまえば、こっちものです」
「そうかい?」
「あとは警視庁、埼玉県警の管轄になります」
「後で神奈川県警にクレーム入れときな。『オタク顔だからっていちいち職質するな』ってさ。まあ、確かにあっちのイケメンの方が悪質だよねー」
 通路を挟んで隣の席では、キノがふざけて江蓮の尻や胸を触っていた。
「少し黙らせてこよう」
 威吹は弁当を置いた。
「いいから、ほっときなよ、威吹」
 ユタが言った。
「しかし、ユタの気に障るようなら……」
「楽しんでるならいいさ」
「ユタがそう言うのなら……」

 17時18分。臨時快速は明るい発車メロディの後、だいたい定刻通りに発車した。

〔♪♪(JR東日本チャイム)♪♪。「お待たせ致しました。本日もJR東日本をご利用威頂きまして、ありがとうございます。17時18分発、横須賀線、武蔵野線直通、“ホリデー快速鎌倉”号、南越谷行きです。【中略】次は北鎌倉、北鎌倉です」〕

 次の停車駅である北鎌倉駅は、臨済宗円覚寺の境内を横切ることで有名で、駅もその位置関係上、駅舎が鎌倉駅寄りに偏った感じに設けられている。
 但し、他宗の境内や外道の敷地内を公共交通機関で通る場合は謗法に当たらないので、作者が博麗神社を訪れても謗法にはならない
 これは顕正会でも教えられているはずだ(作者がいた組織は比較的まともな所だったようで、当時の支隊長がちゃんと教えてくれた)。
「……だけど僕がいた組織では、“やきそばエクスプレス”に乗って大石寺境内に乗り付けた場合は謗法だと言われました」
「じゃあ、バスの営業所を出発したら、ハリウッドの映画スターみたいに、『主人公、火だるまになってバスから飛び降りる』シーンでもやれってかしら?」
「……寺の近くの家に用事があって、信仰とは何の関係も無く乗っても規則違反か。面倒な宗教だ」
 マリアも言った。
「そんなことを顕正会員に言うと、『重箱の隅をつつくな!』と逆ギレしてきます」
「いいじゃないか。重箱の隅をつついて叩くのが法論というものだろう?」
 マリアがそう言い放つと、
「あっ、バカ!」
 威吹が慌てた。
 実は顕正会時代のトラウマ。
 威吹が顕正会員だった頃のユタに同じことを言って、キレられ、顔面を殴られたのだった。
「まあ……第三者から見れば、そうかもしれませんね」
 ユタは苦笑した。
「……あれ?」
 威吹は目が点になる。
「顕正会には御書がありませんから、あまり難しい御金言を引っ張り出して、『御書にはこう書いてある』と言っても、向こうは知らないから、なしのつぶてなんです。しょうがないから、向こうの活動内容や会長の指導について間違っている所を叩くしかない。結果的に、『重箱の隅をつつく』ような感じになっちゃうんですね。まあ、元妙信講員とか、比較的教学を学んでいる人に対しては御書を使いますけど」
「そうなのか」
 すると、イリーナはうんうんと頷いた。
「良かった。ユウタ君、元気になったね」
「えっ?」
「お前ら、ユタを元気づける為にわざと北鎌倉駅から円覚寺の話を振ったのか……」
 威吹はこれまた驚いた。
「ばれた?」
「参ったなぁ……」
 ユタは頭をかいた。

 電車はまだ高い空の上にある夏の日差しを浴びながら、進路を北に向けていた。
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