東京電力福島第一原子力発電所の事故への対応に当たるため、先月、内閣官房参与に任命された小佐古敏荘(こさことしそう)・東大教授が参与を辞任するとかで開いた記者会見の模様をテレビニュースでちらっと見た。どうして?と泣き顔に気を取られている間にニュースが終わってしまったので、何を言っていたのかとネットで調べてみたら、NHK「かぶん」ブログに記者会見資料が全文掲載されていた。辞意表明声明文の冒頭部分からこの「内閣官房参与」の役目が分かるのではないかと思い転載する。
しかしこの文章の紫で強調の部分と、橙色で強調の部分を読み比べると、前者では「総理に情報提供や助言」と言っておりながら、後者では原子力災害対策本部、原子力安全委員会、原子力安全・保安院、文部科学省他 に対して情報を提供し、さらに提言という形で助言を行って参りましたと整合性のないことを言っている。後者は明らかに「総理に情報提供や助言」とは異なるからである。揚げ足取りのようになってしまったが、小佐古氏ご本人も本当のところ何をやればよいのかお分かりになっていなかったような気がする。その意味では小佐古氏は菅内閣の東日本大震災を契機とした「組織乱立」の被害者なのかも知れない。
それはともかく小佐古氏の「政府の対策の内のいくつかのものについては、迅速な見直しおよび正しい対策の実施がなされるよう望む」ものが何なのかを「しんぶん赤旗」の記事(抜粋)が分かりやすくまとめていた。
(1)現段階ではお遊びに過ぎない「シミュレーションごっこ」はどうでもよいこと、と私は思っているので共感を覚えない。それよりも詳細な実測データの迅速な公表のほうが遙かに重要である。
(2)は小佐古氏も審議会委員を務める国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告第二次中間報告に係わることで、基本部会の提言として次のような項目がある。
そして3月14日に開かれた文科省放射線審議会(第113回)議事録に次のような記録がある。
甲斐委員とは小佐古氏も審議会委員である放射線審議会基本部会の部会長代理を務める甲斐倫明大分県立看護科学大学教授のことである。小佐古氏は先ほどの記者会見資料の中で
と憤懣やるかたない思いであるようだが、上の赤字強調部分がその答えになっている。この事情をご存じなかったのだろうか。元来は放射線審議会に抗議して審議会委員を辞職するのが筋であろうに、内閣府参与の辞職理由にするのはお門違いである。ただ小佐古氏が許容線量制限値の上限を何でもかんでも下げろと主張する方ではないことがこれで分かる。
したがって(3)の福島県内の小学校等での被曝量を、元来は上限が1ミリシーベルトであるべきなのに、文科省が「1~20ミリシーベルト」との基準を決定したことに対する小佐古氏の批判だけが私の考慮する対象となる。これに関して共同通信が次のようなニュースを伝えた。
用心するに越したことはない。しかし年間20ミリシーベルトという許容量がそれほど不当なものなのだろうか、とその実態を考えてみることにした。これも共同通信である。
ここで簡単な計算をしてみる。毎時3.8マイクロシーベルトを1日24時間、1年365日で積算すると3.8 x 24 x 365=33288(マイクロシーベルト)で、33.3ミリシーベルトにななり、20ミリシーベルトの約1.7倍になる。それも当然で24時間屋外に出ているわけではないからである。どの程度細かく一日の行動パターンを想定しているのか分からないが、ある生活行動のモデルにしたがって毎時3.8マイクロシーベルトの屋外基準値が年間20ミリシーベルトに結びつけられるのであろう。しかしかりに屋外で毎時3.8マイクロシーベルトであると想定しても、屋外のどの場所でもこの値ということは現実にはあり得ない。そんなまどろっこしい方法をとるよりは、実際に線量を実測すればそれまででないかとかっての実験科学者は考えてしまう。
福島県の13の小学校、幼稚園、保育所では文科省の新しい基準の安全レベルと超えるとのことである。以前にも福島第1原発:警戒区域に高齢者の残留を認めるべきでは?と提案したことがあるが、私のような高齢者から希望者を募って、学校中心の放射線曝露の人体実験を行えばよいではないか。いわゆる生物医学研究のボランティアである。20ミリシーベルト地域内で小学生になったつもりで一日行動して、その間に被曝する線量を実際に測定するだけのことである。数百人単位で1ヶ月もデータを集めると、20ミリシーベルトと計算で出てくる推定値と実測値の対比が明らかになり、安全値設定に新たな科学的根拠を与えることになることは間違いなかろう。調査研究の専門家にぜひ名乗りを挙げて欲しいものである。
平成23年4月29日
平成23年3月16日、私、小佐古敏荘は内閣官房参与に任ぜられ、原子力災害の収束に向けての活動を当日から開始いたしました。そして災害後、一ヶ月半以上が経過し、事態収束に向けての各種対策が講じられておりますので、4月30日付けで参与としての活動も一段落させて頂きたいと考え、本日、総理へ退任の報告を行ってきたところです。
なお、この間の内閣官房参与としての活動は、報告書「福島第一発電所事故に対する対策について」にまとめました。これらは総理他、関係の皆様方にお届け致しました。
私の任務は「総理に情報提供や助言」を行うことでありました。政府の行っている活動と重複することを避けるため、原子力災害対策本部、原子力安全委員会、原子力安全・保安院、文部科学省他の活動を逐次レビューし、それらの活動の足りざる部分、不適当と考えられる部分があれば、それに対して情報を提供し、さらに提言という形で助言を行って参りました。
平成23年3月16日、私、小佐古敏荘は内閣官房参与に任ぜられ、原子力災害の収束に向けての活動を当日から開始いたしました。そして災害後、一ヶ月半以上が経過し、事態収束に向けての各種対策が講じられておりますので、4月30日付けで参与としての活動も一段落させて頂きたいと考え、本日、総理へ退任の報告を行ってきたところです。
なお、この間の内閣官房参与としての活動は、報告書「福島第一発電所事故に対する対策について」にまとめました。これらは総理他、関係の皆様方にお届け致しました。
私の任務は「総理に情報提供や助言」を行うことでありました。政府の行っている活動と重複することを避けるため、原子力災害対策本部、原子力安全委員会、原子力安全・保安院、文部科学省他の活動を逐次レビューし、それらの活動の足りざる部分、不適当と考えられる部分があれば、それに対して情報を提供し、さらに提言という形で助言を行って参りました。
しかしこの文章の紫で強調の部分と、橙色で強調の部分を読み比べると、前者では「総理に情報提供や助言」と言っておりながら、後者では原子力災害対策本部、原子力安全委員会、原子力安全・保安院、文部科学省他 に対して情報を提供し、さらに提言という形で助言を行って参りましたと整合性のないことを言っている。後者は明らかに「総理に情報提供や助言」とは異なるからである。揚げ足取りのようになってしまったが、小佐古氏ご本人も本当のところ何をやればよいのかお分かりになっていなかったような気がする。その意味では小佐古氏は菅内閣の東日本大震災を契機とした「組織乱立」の被害者なのかも知れない。
それはともかく小佐古氏の「政府の対策の内のいくつかのものについては、迅速な見直しおよび正しい対策の実施がなされるよう望む」ものが何なのかを「しんぶん赤旗」の記事(抜粋)が分かりやすくまとめていた。
小佐古氏は29日の辞任会見で、原子力災害関連の法令順守を基本とする立場から、政府の対応を「その場限りで『臨機応変』な対応を行い、事故収束を遅らせている」と批判。その具体例としてあげているのは、次の3点です。
(1)福島第1原発からの放射能拡散を予想する「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」(SPEEDI)が手順通りに運用されず、公表が遅れた。
(2)放射線業務従事者の緊急時被曝(ひばく)限度について、今年1月の文部科学省放射線審議会で法令の100ミリから500ミリシーベルト~1シーベルトまで引き上げるよう提言したが採用せず、今回の事態を受けて急きょ、250ミリシーベルトに引き上げた。
(3)原子力安全委員会の委員は4月13日、福島県内の小学校等での被曝量について「年間10ミリシーベルト程度」と発言したが、文科省は19日に「1~20ミリシーベルト」との基準を決定した。
◇
とりわけ小佐古氏が強く批判しているのは(3)です。会見で「通常の放射線防護基準(1ミリシーベルト/年)で運用すべきだ。特別な措置を取れば数カ月は年10ミリシーベルトも不可能ではないが、通常は避けるべきだ」と指摘。原発労働者でも年間20ミリシーベルトの被曝はまれだとして、「私のヒューマニズムからして受け入れがたい」としています。公表されている各種の資料を見ると、国内の原発労働者の年間平均被曝量は数ミリシーベルト程度です。(中略)
放射線被曝の法定限度
職業被曝
男性:50ミリシーベルト/年
女性:5ミリシーベルト/3カ月
公衆被曝 1ミリシーベルト/年
緊急時 100ミリシーベルト/年
(今回の事故対応に限り250ミリシーベルト)
(1)福島第1原発からの放射能拡散を予想する「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」(SPEEDI)が手順通りに運用されず、公表が遅れた。
(2)放射線業務従事者の緊急時被曝(ひばく)限度について、今年1月の文部科学省放射線審議会で法令の100ミリから500ミリシーベルト~1シーベルトまで引き上げるよう提言したが採用せず、今回の事態を受けて急きょ、250ミリシーベルトに引き上げた。
(3)原子力安全委員会の委員は4月13日、福島県内の小学校等での被曝量について「年間10ミリシーベルト程度」と発言したが、文科省は19日に「1~20ミリシーベルト」との基準を決定した。
◇
とりわけ小佐古氏が強く批判しているのは(3)です。会見で「通常の放射線防護基準(1ミリシーベルト/年)で運用すべきだ。特別な措置を取れば数カ月は年10ミリシーベルトも不可能ではないが、通常は避けるべきだ」と指摘。原発労働者でも年間20ミリシーベルトの被曝はまれだとして、「私のヒューマニズムからして受け入れがたい」としています。公表されている各種の資料を見ると、国内の原発労働者の年間平均被曝量は数ミリシーベルト程度です。(中略)
放射線被曝の法定限度
職業被曝
男性:50ミリシーベルト/年
女性:5ミリシーベルト/3カ月
公衆被曝 1ミリシーベルト/年
緊急時 100ミリシーベルト/年
(今回の事故対応に限り250ミリシーベルト)
(2011年5月1日)
(1)現段階ではお遊びに過ぎない「シミュレーションごっこ」はどうでもよいこと、と私は思っているので共感を覚えない。それよりも詳細な実測データの迅速な公表のほうが遙かに重要である。
(2)は小佐古氏も審議会委員を務める国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告第二次中間報告に係わることで、基本部会の提言として次のような項目がある。
緊急作業に従事する者に許容する実効線量を100 mSvを上限値として設定する必要がないことが国際的にも正当化されている中で、その上限値を100 mSvとする我が国の現行の規制は、任命救助のような緊急性及び重要性の高い作業を行う上で妨げになる。このため、我が国における緊急作業に従事する者に許容する線量の制限値について、国際的に容認された推奨値との整合を図るべきである。
そして3月14日に開かれた文科省放射線審議会(第113回)議事録に次のような記録がある。
【甲斐委員】 放射線審議会基本部会では、「国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告(Pub.103)の国内制度等への取入れについて-第二次中間報告-」(平成23年1月)において、緊急時作業に従事する者に許容する線量の制限値は国際的な基準に整合させるという提言をとりまとめた。緊急救助活動の場合は500mSv、救命活動の場合は無制限というもの。因みに、250mSvという数字は、原子炉立地のときの重大事故時のめやす線量で、リンパ球の減少のしきい値(作成当時、現在のしきい値は500mGy)。しかし、基本部会の議論はまだ途上であるため、経済産業省の諮問に対しては、大規模事故を防ぐための緊急救助活動の制限値と理解し、賛成する。
甲斐委員とは小佐古氏も審議会委員である放射線審議会基本部会の部会長代理を務める甲斐倫明大分県立看護科学大学教授のことである。小佐古氏は先ほどの記者会見資料の中で
放射線審議会での決定事項をふまえないこの行政上の手続き無視は、根本からただす必要があります。500mSvより低いからいい等の理由から極めて短時間にメールで審議、強引にものを決めるやり方には大きな疑問を感じます。重ねて、この種の何年も議論になった重要事項をその決定事項とは違う趣旨で、「妥当」と判断するのもおかしいと思います。放射線審議会での決定事項をまったく無視したこの決定方法は、誰がそのような方法をとりそのように決定したのかを含めて、明らかにされるべきでありましょう。この点、強く進言いたします。
と憤懣やるかたない思いであるようだが、上の赤字強調部分がその答えになっている。この事情をご存じなかったのだろうか。元来は放射線審議会に抗議して審議会委員を辞職するのが筋であろうに、内閣府参与の辞職理由にするのはお門違いである。ただ小佐古氏が許容線量制限値の上限を何でもかんでも下げろと主張する方ではないことがこれで分かる。
したがって(3)の福島県内の小学校等での被曝量を、元来は上限が1ミリシーベルトであるべきなのに、文科省が「1~20ミリシーベルト」との基準を決定したことに対する小佐古氏の批判だけが私の考慮する対象となる。これに関して共同通信が次のようなニュースを伝えた。
学校放射線基準は「安全でない」 ノーベル賞受賞の米医師団
声明は、米科学アカデミーの研究報告書を基に「放射線に安全なレベルはなく、子供や胎児はさらに影響を受けやすい」と指摘。「年間20ミリシーベルトは、子供の発がんリスクを200人に1人増加させ、このレベルでの被ばくが2年間続く場合、子供へのリスクは100人に1人となる」として「子供への放射線許容量を年間20ミリシーベルトに引き上げたのは不当なことだ」と批判した。
声明は、米科学アカデミーの研究報告書を基に「放射線に安全なレベルはなく、子供や胎児はさらに影響を受けやすい」と指摘。「年間20ミリシーベルトは、子供の発がんリスクを200人に1人増加させ、このレベルでの被ばくが2年間続く場合、子供へのリスクは100人に1人となる」として「子供への放射線許容量を年間20ミリシーベルトに引き上げたのは不当なことだ」と批判した。
(2011/05/02 09:45)
用心するに越したことはない。しかし年間20ミリシーベルトという許容量がそれほど不当なものなのだろうか、とその実態を考えてみることにした。これも共同通信である。
審議2時間で「妥当」判断 原子力安全委、学校基準で
関係者によると、文科省などが「年間の積算放射線量が20ミリシーベルトに達するかどうかを目安とし、毎時3・8マイクロシーベルトを学校での屋外活動の基準とする」との原案への助言を安全委に求めたのは19日午後2時ごろ。安全委側は正式な委員会を開かず「委員会内部で検討し」(関係者)、午後4時ごろに「妥当だ」と回答した。だが、議事録が残っていないため、安全委内部でどのような議論が行われたかは明らかではないという。
関係者によると、文科省などが「年間の積算放射線量が20ミリシーベルトに達するかどうかを目安とし、毎時3・8マイクロシーベルトを学校での屋外活動の基準とする」との原案への助言を安全委に求めたのは19日午後2時ごろ。安全委側は正式な委員会を開かず「委員会内部で検討し」(関係者)、午後4時ごろに「妥当だ」と回答した。だが、議事録が残っていないため、安全委内部でどのような議論が行われたかは明らかではないという。
(2011/04/30 21:57)
ここで簡単な計算をしてみる。毎時3.8マイクロシーベルトを1日24時間、1年365日で積算すると3.8 x 24 x 365=33288(マイクロシーベルト)で、33.3ミリシーベルトにななり、20ミリシーベルトの約1.7倍になる。それも当然で24時間屋外に出ているわけではないからである。どの程度細かく一日の行動パターンを想定しているのか分からないが、ある生活行動のモデルにしたがって毎時3.8マイクロシーベルトの屋外基準値が年間20ミリシーベルトに結びつけられるのであろう。しかしかりに屋外で毎時3.8マイクロシーベルトであると想定しても、屋外のどの場所でもこの値ということは現実にはあり得ない。そんなまどろっこしい方法をとるよりは、実際に線量を実測すればそれまででないかとかっての実験科学者は考えてしまう。
福島県の13の小学校、幼稚園、保育所では文科省の新しい基準の安全レベルと超えるとのことである。以前にも福島第1原発:警戒区域に高齢者の残留を認めるべきでは?と提案したことがあるが、私のような高齢者から希望者を募って、学校中心の放射線曝露の人体実験を行えばよいではないか。いわゆる生物医学研究のボランティアである。20ミリシーベルト地域内で小学生になったつもりで一日行動して、その間に被曝する線量を実際に測定するだけのことである。数百人単位で1ヶ月もデータを集めると、20ミリシーベルトと計算で出てくる推定値と実測値の対比が明らかになり、安全値設定に新たな科学的根拠を与えることになることは間違いなかろう。調査研究の専門家にぜひ名乗りを挙げて欲しいものである。