日々是好日

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次世代スーパーコンピュータはそれでも必要?

2009-11-27 22:21:54 | 学問・教育・研究
「事業仕分け」で次世代スーパーコンピュータが「来年度の予算計上の見送りに限りなく近い縮減」と結論された(11月13日)が、20日には菅副総理の復活を示唆する言葉が報じられた。

 菅直人副総理・国家戦略担当相は20日の衆院内閣委員会で、行政刷新会議のワーキンググループ(WG)による事業仕分けで「凍結」と判定された次世代スーパーコンピューター開発について「スパコンは極めて重要であり、もう一度考えなければならない」と述べた。WGの判定を覆し、平成22年度予算の概算要求額(約267億円)に沿った予算措置を前向きに検討する考えを表明したものとみられる。
(産経新聞 11月20日18時23分配信)

また仙谷由人行政刷新担当相の似たような発言も報じられた。

 仙谷由人行政刷新担当相は23日、政府の行政刷新会議による「事業仕分け」で「予算縮減」と判定された次世代スーパーコンピューター(スパコン)の開発予算について「そうなるかどうかはこれからの検討次第だ」と述べ、政治的判断による復活があり得るとの見方を示した。視察先の島根県隠岐の島町で記者団に語った。
(毎日新聞 2009年11月24日 東京朝刊)

私はスーパーコンピュータについては門外漢であるが、「事業仕分け」での論議で浮かび上がった問題点を自分なりに整理して、行政刷新会議「事業仕分け」雑感 「次世代スーパーコンピューティング技術の推進」の場合では、

科学者仕分け人が主計官の手先と言われたくないのであれば、この仕分け会議において予算の削減に手を貸すのではなく、立ち止まり考えるための時間を与えるべくまずは凍結の意思表示をすべきなのではなかろうか。結果的には、来年度の予算計上の見送りに限りなく近い縮減となった。

と意見を述べた。そして専門家から数々の疑問に答える説明を期待したが、計算基礎科学コンソーシアムが出した緊急声明なるものにまったく失望したものだから、「次世代スーパーコンピュータ開発に関する緊急声明」に目を通して問題点(私)のいくつかを指摘した。ところが疑問に答えるようなご意見(by 能澤 徹氏)計算基礎科学コンソーシアムの声明はお門違いで見出したので、それを紹介する。少々煩雑かも知れないが、お目通しいただけると幸甚である。引用は能澤 徹氏の論旨展開の順に行った。

なぜ当初このプロジェクトに参加していた日本の三大コンピュータメーカーのNEC、日立、富士通のうち,NECと日立の2社が今年の5月になって逃げ出したのだろう。

 国家基幹科学技術に指定された次世代スパコンのヴェクタ・スカラ両輪論が民間企業の撤退で片輪になってしまっても、「影響は無い」などといってプロジェクトを継続しているほど、メロメロな日本のスパコン戦略である。このいい加減な戦略に基づいて作られる次世代スパコンの完成が1年遅れたからといって、日本の科学技術にインパクトがあるなどということはありえないことである。

ここで当初の計画からNECと日立の2社が逃げ出したことの軽い対応が糾弾されている。さらに具体的な指摘が続く。

財務省の論点は、文科省が国家基幹科学技術に指定した次世代スパコンのグランドデザインであるヴェクタ・スララ両輪論の、片方の車輪であるヴェクタ部が途中で脱落・消滅してしまったにも関わらず、影響はほとんど無いと主張し、ヴェクタ部を無視して、スカラ片輪でプランを強行するといった「いい加減な点」にあるのである。

この「いい加減な点」に包括される具体的な内訳は、

第1に、無くなっても影響が無いようなヴェクタ部の設計に何故大金を支払わねばならなかったのかという「グランドデザインのいい加減さ」に対する技術的なクレデビィリティの問題、

第2に、そのいい加減な設計のために数百億円もの多額な税金が浪費されてしまったのに、何のペナルティも責任追及もなされないと言う無責任体制の問題、

第3に、その無責任体制による杜撰な片肺の計画のまま、来年以降も総額約700億円という巨額な税金が要求され、完成後も年間80億円超といわれている巨額な維持経費が要求されるといった、費用対効果無視のバブル・プロジェクト運営に対するクレディビリティの問題
などである。

なるほど、 私もまったく同感する。次世代スーパーコンピュータ問題の本質をこのような形で明らかにした上で、次のような話が続く。

声明の始めの部分に、今回の事業仕分けの結論が「我が国の科学技術の進歩を著しく阻害し、国益を大きく損なうものである」との主張があるが、「無くなっても影響が無いようなヴェクタ部を国家基幹科学技術などに指定し、その意味の無いヴェクタ部の設計に巨額な税金を投入した事が」が「我が国の科学技術の<進歩を著しく推進し>、<国益を大きく増進した>」などとは到底思えないし、事実は全くその逆で、NECの撤退で、結局、税金投入が無駄になってしまったわけで、「国民に多大な損害を与えた」事は明白であろう。

これは私が次のように「なるほど」としか反応できなかったことを、問題の本質を突く形で真正面から論破したのである。

『今回の事業仕分け作業における唐突な結論は、我が国の科学技術の進歩を著しく阻害し国益を大きく損なうものであり、不適切であると言わざるを得ない。我々、計算基礎科学コンソーシアムは、次世代スーパーコンピュータプロジェクトの遅延無き継続を強く求める』とアピールしている。しかしこの強調部分(私、以下同じ)にしても具体的な指摘が無いものだから、「なるほど」としか反応できない。

そしてスーパーコンピュータ発の最先端技術が数年後に広く社会に応用されるという「緊急声明」の説明に関連して、私は次のような問題点を指摘した。

世界最高性能を目指すことは、新たな革新的技術を開拓する原動力も確かにそうなんだろうが、それよりもインテルを凌駕する一大ITメーカーが生まれること疑いなし、と言って方がパソコンに馴染んだ国民には遙かに説得力がある。スーパーコンピュータどころかパソコンも無い時代に昔の人は東大寺大仏殿や姫路城を築造してきた。この歴史的事実を一つ取り上げるだけでも、スーパーコンピュータが世界最高性能を目指すことは、新たな革新的技術を開拓する原動力とはなんと烏滸がましい決めつけなのだろうと思ってしまう。

この点でも半導体のテクノロジーの流れは「スパコンから民生」ではなく、「民生からスパコンへ」であることをきわめて具体的な例で示している。

その後、この高額なCrayのVector方式の後継に対し、廉価な民生で対抗したのが、今日のスカラ・クラスタ型スパコンで、1994年頃にNASAの研究員が作ったBeowulfが始まりである。UNIXの走るパソコンをTCP/IPのLANで結合し、並列計算を可能にしたものである。つまり、スカラ型スパコンは、廉価な既存の民生テクノロジを使って組み立てるという哲学で始まったものであり、その思想は今日でも連綿と受け継がれている。

OpteronやXeonはパソコン用のCPUからのものであり、PowerXcellもゲーム機用のCellからのものである。計算科学に関係の深いBlue Geneの源流は、コロンビア大学のQCDSPで、この機械は廉価な民生用のDSPを演算器として並列に並べて作ったスパコンであり、次のQCDOCとBG/LはIBMの産業組み込み用CPUであるPPC440を用いたものである。どれをとっても、「民生からスパコンへ」の流れである。

そして

 従って、声明文中の「その基盤にあるのがスーパーコンピュータなどで用いられる最先端の技術であり、それは数年後に広く社会で応用される」などというのは認識不足もはなはだしく、この声明のいい加減さを全国民に示す明確な証明なのである。

と述べている。これで私のモヤモヤは雲散霧消である。そしてこの能澤 徹氏のご意見を裏付けるビッグニュースが実にタイミングよく飛び込んできた。

<スパコン>長崎大の浜田助教、3800万円で日本一の速度達成 安くても作れ、事業仕分けにも一石?

 東京・秋葉原でも売っている安価な材料を使ってスーパーコンピューター(スパコン)を製作、演算速度日本一を達成した長崎大学の浜田剛(つよし)助教(35)らが、米国電気電子学会の「ゴードン・ベル賞」を受賞した。政府の「事業仕分け」で次世代スパコンの事実上凍結方針が物議を醸しているが、受賞は安い予算でもスパコンを作れることを示した形で、議論に一石を投じそうだ。

【関連記事】事業仕分け:スパコン「事実上凍結」…世界一でなくていい

 同賞は、コンピューターについて世界で最も優れた性能を記録した研究者に与えられ「スパコンのノーベル賞」とも呼ばれる。浜田助教は、横田理央・英ブリストル大研究員、似鳥(にたどり)啓吾・理化学研究所特別研究員との共同研究で受賞。日本の研究機関の受賞は06年の理化学研究所以来3年ぶりという快挙だ。

 浜田助教らは「スパコンは高額をかけて構築するのが主流。全く逆の発想で挑戦しよう」と、ゲーム機などに使われ、秋葉原の電気街でも売られている、コンピューターグラフィックス向け中央演算処理装置(GPU)を組み合わせたスパコン製作に挑戦した。

 「何度もあきらめかけた」というが、3年かけてGPU380基を並列に作動させることに成功。メーカーからの購入分だけでは足りず、実際に秋葉原でGPUを調達した。開発費は約3800万円。一般的には10億~100億円ほどかかるというから、破格の安さだ。そしてこのスパコンで、毎秒158兆回の計算ができる「演算速度日本一」を達成した。

 26日の記者会見で事業仕分けについて問われた浜田助教は「計算機資源は科学技術の生命線。スパコンをたくさん持っているかどうかは国力にもつながる」と指摘。一方「高額をかける現在のやり方がいいとは言えない。このスパコンなら、同じ金額で10~100倍の計算機資源を得られる」と胸を張った。【錦織祐一】
(11月27日10時50分配信 毎日新聞)

菅副総理、仙谷行政刷新担当相が次世代スーパーコンピュータ問題に政治的介入を云々されるのもよいが、それよりもこのプロジェクト推進者からの国民も納得させる本質に立ち入った説明があるべきだと思う。

追加 次のような記事に気付いた。
■元麻布春男の週刊PCホットライン■NECがスパコンでIntelを選んだ理由