日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

文科省での日本学術振興会と科学技術振興機構の共存が基礎科学の発展を邪魔する

2009-11-18 14:42:46 | 学問・教育・研究
行政刷新会議「事業仕分け」三日目(11月13日)、第三WG競争的資金(先端研究)の録音記録を3回も聞いてしまった。何遍聞いても何が問題の焦点なのか分かりにくいが「事業仕分け」の評決結果が次のように下された。

 競争的資金(先端研究) [予算] 科学技術振興調整費 予算は整理して縮減
             [制度] 一元化も含めてシンプル化

仕分け人の評決結果は[予算]については見送りが3、縮減(10~50%)が5、要求通りが5、[制度]は一元化が7に対してシンプル化は4をまとめたものである。[制度]ではなぜかまとめ役の蓮舫議員がシンプル化に軸足を置いた結論に持っていってしまった。私は科学者仕分け人が財務省主計官の手先のようなことはして欲しくないな、とその動きが気になっていたが、少なくともこの競争的資金の制度について、一元化・シンプル化に積極的な役割を果たしたように思うので、その点では胸をなで下ろした。私は現行の競争的資金制度こそ基礎科学の発展を妨げる諸悪の根源であると思うので、それにメスを入れることが焦眉の急であると思っていたからである。

「事業仕分け」の冒頭でまず競争的資金について文科省の局長から説明があった。それによると、国や法人などの研究資金の配分主体が広く研究課題を集めて、提案されたものを専門家を含めた複数の評価・審査委員が科学的・技術的観点を中心とした評価に基づいて審査をして、その中から実施すべき課題を採択して研究者等に配分する、と言うのである。ただ現実には競争的資金は文科省関係だけで24もあり、政府全体では47もあって、そのすべてが「広く研究課題を集めて」から出発するものではないことを銘記しておく必要がある。そこで24もある文科省の管轄下にある競争的資金制度のなかから必要な部分を抜粋してみる。


このなかで私に馴染みがあるのは一番上の科学研究費補助金である。私が大学院を修了して学位を取得した昭和38年の直後、昭和40年度に始まったと言うから、その恩恵を全研究生活を通じて受けてきたことになる。これを科研費と呼び習わしているが、平成21年度予算額は1970億円で文部科学省・日本学術振興会が所管している。科研費こそ「研究者の自由な発想に基づく研究を支援」するもので、いわゆるボトムアップで研究課題が決定される。個人の独創性を十二分に生かすには欠かすことの出来ない制度である。創設以来歴史的にも練り上げられてきた制度であり、文科省の競争的資金は科研費一つで十分であるのに、いつの間にか雨後の竹の子のようにいろんな制度が生まれて現在は24も出来上がっているのである。ただ抜粋を見ても分かることであるが制度名などはただの作文に過ぎず、科研費以外の23制度は特定の政策目的のために作られたものと言ってよい。そしてその担い手として科学技術振興機構という独立行政法人が顔を出していて、平成21年度では498億円もの競争的資金を扱っている。なぜ文科省内で研究費の出所を一つに絞らないのだろう、とは誰しも抱く疑問であるが、答えは簡単、かって科学技術行政全般を所掌していた科学技術庁が2001年に文科省に統合された時に、科学技術庁独自の補助金配布制度が文科省に持ち込まれ、日本学術振興会と共存し続けているのである。

11月13日の「事業仕分け」で配布された資料には、科学技術振興機構の役割が「特定の政策目的のため基礎から応用に至る研究を推進」と記されている。戦略的創造研究推進事業と名付けられた「国が示す研究開発目標のもと、新たな可能性を拓く技術の創出に資する研究」事業が、ひいては鉱工業、運輸・建設業、医業・医薬業、農林水産業、電気通信業、情報業と多岐にわたる領域で技術を創出していく、と訴えている。これこそトップダウンの政策目的に従うものであるから、技術の創出という目標がどの程度達成されたのかの評価は行いやす。この技術の創出と基礎科学研究が科学技術研究と一括りに文部科学省の活動として仕分け人の前に出されたことが、非科学者の一部の仕分け人をまごつかせて、昭和40年度に始まった科学研究費補助金からいったい何が得られてきたのか、というような質問をさせたように私は思った。居直るわけではないがつい最近、「役に立たない科学」で私は役に立たないことが基礎科学の本質であると強調したばかりである。研究費を注ぎ込んだ効果を役に立つとか立たないかで評価出来ないのが基礎科学であることが国民に理解していただけるようになると、基礎科学研究に関して「どのような効果が」なんて聞かれることはなくなるであろう。

私の結論としては競争的資金制度に24もいらない。科学研究費補助金だけでよい。これが一元化である。「グローバルCOEプログラム」も「世界トップレベル研究拠点(WPI)プログラム」など、トップダウンのプロジェクトは要らない。科学技術振興機構の498億円は科学研究費補助金に入れてしまえばよい。もちろん科学技術振興機構なんて独立行政法人も不要になってしまう。必要とあれば最小限の職員を日本学術振興会に移してもよいが理事長など役員は不要、行政改革のさきがけとすればよい。では技術の創出はどうなるのかと聞かれそうであるが、技術創出に活かせそうな情報を外に向かってどんどん発信すればよい。お金の流れを情報の流れに切り替えるのである。それを必要とする現場でこそ真に役立つ技術が生まれてくることであろう。