日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

遺骨DNA鑑定の怪の続き 須藤信彦議員の発言を評価

2005-03-21 14:20:24 | 社会・政治
衆議院のホームページから会議録を選び、常任委員会の一つである外務委員会をクリックすると外務委員会の会議録議事詳報一覧が現れて、平成17年2月23日の第1号にその日の午前9時に始まった委員会での質疑記録を見ることが出来る。

その中に民主党の須藤信彦議員が町村外務大臣に《遺骨と称されるものの問題》について問いかけている部分がある。冗長にわたるがその一部分を以下に引用する。①、②と強調文字は後の説明のために私が付け加えたものである。

《そして、最後に残った大きなテーマは、遺骨と称されるものの問題なんですね。
 これに関しては、三カ所に調査を依頼した。A、Bは結果が出ない、要するにわからない。それからCで、これは帝京大学の吉井富夫、帝京大学講師の方ですか、この方が、ミトコンドリアの分析から、これは要するに全然他人のですよということを言われて、それ見たことかと日本国じゅうがわっとみんな怒っているわけですよね。
 しかし、それに対して、何と、①二月二十三日のネイチャー、ウエブで見ると二十二日に出ていますけれども、世界の中で最も権威のある科学雑誌の一つのネイチャーが、これは御存じのとおり、大臣も御存じのとおり、これはもう本当に権威がある雑誌で、アメリカのサイエンティフィックアメリカンとかイギリスのネイチャーというのは世界を代表するようなもので、特にDNA関係に関しては物すごくしつこくやっていて、御存じのとおり、すべての人類がアフリカから来たとか、そういうようなものはみんなこういうところへ載っているわけです。
 日本でも、我が国の南方熊楠なんという人は、無名の研究者がネイチャーに論文が一つ載ったということで世界から認められるようになって、やがて粘菌の研究者として大成していくわけです。
 そのネイチャーが、科学的に言うと、これは②そんなこと全然言えないよという論文を、二月二十二日のウエブサイト、そして二十三日に論文を中に出しました。
 これは大変なことで、世界では事実上日本の言ったこと、外務省が言ったことを否定したわけですよ。私も全く専門家でないのでよくわからないんですが、何の根拠があって外務省は、これは遺骨が本人のものでない、しかも刑事的にでもない、裁判的にでもない、外交的に、この不透明な、不明確な、科学的に立証されていないものを、逆に言えば国際的には拒否されたものをぶつけてきたのか、そういうことなんですよ。

《中略》

《常にやはりこのDNA鑑定に関しては、コンタミネーションという、要するにどこかで間違った形で遺伝子が入ってくるという可能性はあるわけですけれども、では果たして、A、B、Cであって、Cしか確証できなかった、要するに三分の一しかなかったものを、そして国際的にもチェックせずに、そのサンプルを国際的な機関、例えばイギリスの有名な機関とかあるいはアメリカの機関とか、あるいは学会に調査を依頼するとか、そういうクロスチェックをせずに、それを北朝鮮が不誠実なことの証拠として突きつけるのは、外交としてはいかがなものですか。
 私は、北朝鮮の外交というのは本当にひどくて、でたらめで、本当にテロの事件でも腹立たしい思いを何度もしていますが、しかしそれだからといって、我が国の外交が同じレベルにいてはいけないんではないですか。
 北朝鮮の外交は瀬戸際外交と言われますよ。しかし、こんな不確実なことで北朝鮮に対してぽんと突き返して、そして国際的には二月にネイチャーで否定されるようなことがあって、それに対して、例えば日本でサイエンティフィックアメリカンに論文を寄稿するとか、そういうことをすることもない。そんなのだったら、これは日本の方が瀬戸際外交じゃないですか。どうしてこのような外交を日本の外交として、外務大臣、展開されているのか。日本の外交の信頼性をまさに国際社会で危うくさせているんではないでしょうか。いかがですか。


ここで私の注釈を加える。
 ①二月二十三日のネイチャー、ウエブで見ると二十二日に出ています
の部分で、二十三日とあるのは三日、二十二日とあるのは二日ではないだろうか。
Yoshii氏をインタビューした記事が掲載されたのはネイチャー誌の二月三日号であるからだ。この委員会の開催日が二十三日であるので、時間的にも記録通りだと無理がある。

 ②そんなこと全然言えないよという論文
『遺骨は横田めぐみさんのものではない』とは全然言えない、との意であるが、《論文》は間違いで、この記事はニュース記事である。論文であれば内容に関して査読者の精査を受けることになるが、ニュースであればそこまでの厳しさはない。現にこの記事のいくつかに問題のあることは私が指摘している。

須藤氏の発言内容にはこのような思い違い以外に、科学的にも問題のある引用がある。またその記事を掲載しているネイチャー誌の権威付けを仰々しく行っているのも、あまり格好良いものではない。しかしそれはさておき、『ネイチャー記事』を是とする立場での私が緑色で強調した発言は、これこそまさに私が既に主張していることであり、わが意を得た思いがする。

野人の私の言葉遣いでは《北朝鮮側が日本の報告を「捏造」と決めつけるにたりる材料を与えたのは日本側である。そういう「口実」を与えうる杜撰な内容を含んだ公文書をほんとうに日本国政府が北朝鮮に手渡したのであろうか。もしそうだとしたら政治的にも大失態、手厳しく云えば国辱的行為である》となる。

ところが依然として残念なことに、町村外相の答弁の骨子はこのようである。

《警察が最も信頼するものとしての依頼をした帝京大学の結果ということなものですから、まあそれは正しいんであろうな、こう思いまして、直ちに先方に対する反論をしたということでございます》

すなわち、これまでの姿勢をそのまま貫いているに過ぎない。

須藤議員は続ける。

《(北朝鮮が)不誠実だったという根拠を私たちは見せなきゃいけない、示さなきゃいけないんですよ。(中略)私たちが外交できちっと突きつけるには、やはり我々は確証を持たなきゃいけないのに、それでは余りにも私たちの足元が弱いんではないですか》

この常識的な意見が今須藤議員からの国会発言として飛び出たことを私は大いに評価したい。

ところがここで町村外相は、次のような発言をしている。

《横田めぐみさんの遺骨とされるものの一部から別人のDNAが検出されたとする鑑定結果について、本件のネイチャー誌から取材を受けた関係者にも事実関係を確認したところ、取材においては、焼かれた骨によるDNA鑑定の困難性について一般論を述べたものであって、鑑定結果が確定的でない旨や、あるいは汚染された可能性がある旨応答した事実はなかったという返事を受けているということだけちょっと申し添えさせていただきます》

すなわち須藤議員の主張の前提となっている、そして私も論拠にしている、ネーチャー記事を完全否定しているのである。

となると、まずは帝京大の吉井富夫講師に自ら進んで事情の説明をしていただかねばならない。科学者としての社会的責任である。もちろんネイチャー誌からも事情説明があるべきである。そこから『鑑定書』が何処でどうなったかを尋ねる道がはじめて開かれるのである。