Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
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スポーツ王国?ブータン

2013-10-27 19:45:53 | アジア
これまでずっと行ってみたい国のひとつだったブータンを訪れることができた。いくつかのテーマで撮影してきたが、予想外だったのがスポーツの取材。アーチェリーとバスケットボールの試合を撮る機会があった。

アーチェリーのトーナメント決勝戦で、選手として参加していたブータンの王子ひとり、ジグイェル・グエン・ワンチュクと出会った。まだ29歳のこの若く聡明な王子と、昼食休憩のときに少し話すことができたが、ブータンの国技であるアーチェリーについて、彼の語ったことがなかなか興味深かった。

「心を無にすることが仏教の真理なら、アーチェリーも同じこと。いったん弓をひけば、すべてのことは頭から消えうせて、無の境地に達するんです」

強者の揃った彼のチームが優勝を飾ったが、王子が嗜むのはアーチェリーだけではない。バスケットボール、マウンテンバイキング、射撃など、実に多岐にわたる。彼は、2010年に始まった1日で268キロの山道を走破するマウンテンバイクのレース「ツアー・オブ・ドラゴン」の創始者のひとりでもある。端正な容姿で日本にもブームを巻き起こした国王と王妃をはじめ、この国の王族はみなスポーツには熱心で、ほぼ毎日のようにバスケットボールやサッカーなどに精をだしているという。

どうしてこれほどスポーツ熱が高いのだろうか?

「スポーツは、人間が作り出した最高のものでしょう」

王子は言った。スポーツの興進をとおして、

「ブータンの国民達に、『やってやれないことはない』ということを知ってもらいたいんです」

彼の言葉には感心するし、スポーツを健全な社会形成に役立てたいという気持ちもよくわかる。しかし現実は言葉でいうほど単純ではない。まだこの国は、選手がプロとして生活できるほどの環境が整ってはいないのだ。政府がもっと補助金などを使ってスポーツ社会のシステムをつくっていかない限り、王子の理想も実現は難しいだろう。

「やる気があって、才能のある選手も少なくないのに、彼らの親達はあまり子供達がスポーツに熱心になりすぎることをよく思わないんです」

バスケットボールのコーチがこんなことを言っていた。親達は子供がスポーツに熱をあげるよりも、進学することを望んでいるのだ。

「どんなにいい選手だって、バスケットだけではとても生活なんかできないんですよ」

ブータン滞在中、この国の魅力である美しい山々や、親切な人びととの交流を堪能することができたが、同時に「スポーツ王国」であるというあらたな一面も発見することができた。1984年に初めてオリンピックに参加したブータンだが、メダルを獲得する日がくるのも、そう遠い未来ではないかもしれない。

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(この記事はヤフーニュースブログにも掲載してあります)

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