妻と二人、三十年ほど前に住んでいたデュッセルドルフの
ダウンタウン「ビルク地区」
今も昔も、学生や若い勤め人たちの暮らす街だ。
家族みんなで通っていたギリシャ料理店に、昨晩は息子達二人と
久し振りに足を運ぶ。
青空のように天井が高く、マルクトのように人々の声が響き合う。
赤ビーツの酢漬け、ナスのペースト、白大豆のマリネなどの前菜をつまんだ後、
小イカのロースト、鱸のレモンソース、仔羊のヒレステーキのサラダを、
各々の人生の四方山話をしながら、ワイワイガヤガヤ、三人で分かち合う。
「父さんの料理好きは分かるけど、本当にそれで母さんとの老後を
やっていけるのかい?」と長男の問いかけに
「誰でも、やってみなけりゃ分からない。人生は金銭だけじゃなし。」
と真顔で答える。
確かに和食のセミナーや料理の本を書くことで生活が成り立つのかは
僕もさっぱり分らない。
そんな話をしながらも、僕はもっぱら白ワインを傾け心地良く、
二人のこれからの長い将来の話にじっと聴きいる。