最近のTV東京のWBSの番組の中でも、中国の理財商品(シャドーバンキング)融資を受けた石炭企業が、過度の投資の失敗で、操業停止状態になり、建設途中で作業が中止になった設備の無残な映像が放送されていたが、ここにきて中国経済の減速が、理財商品のデフォルトの危険性を表面化する事態が発生しそうだ。
理財商品ではないが、ブルームバーグが中国の上海超日、本土社債で初のデフォルト状態-利払い不能 と報じている。
『3月7日(ブルームバーグ): 中国の太陽光発電関連メーカー、上海超日太陽能科技 は7日に予定していた社債の利払いを全額は履行できなかった。中国本土の債券市場で初のデフォルト(債務不履行)状態が発生した。
上海超日の劉鉄竜副社長はこの日、上海本社でインタビューに応じ、債務返済に向けた資金を調達するため、海外にある太陽光関連プラントの一部売却を目指していると述べた。同社は7日に社債利息8980万元(約15億円)の支払いが必要だったが、4日の時点で400万元しか用意できないと説明していた。
国泰君安証券によれば、利払いが一部不能となったことで、上海超日債は中国本土で発行された債券で初めてデフォルトに陥ったことになる。米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスのデータに基づくと、中国人民銀行(中央銀行)が1997年に規制監督を開始して以降、本土の公募債市場でデフォルトとなったのはこれが初めて。
2017年償還の上海超日債は、昨年7月8日に取引停止となっていた。停止される前の利回りは22%だった。ブルームバーグのデータによると、上海超日は12年3月に5年債、10億元相当を発行。利率は変動型で、初回は8.98%だった。野村ホールディングスの今月5日のリポートによると、格付け会社の鵬元征信は同社債の格付けを「BBB+」から「CCC」に昨年5月に引き下げている。
中国市場の発展
リーガル・アンド・ゼネラル・インベストメント・マネジメントのグローバル新興市場ストラテジスト、ブライアン・コールトン氏は「今回の案件は今後見込まれる数多くのデフォルトの第1号となるだろう。しかし、これが債券市場で連鎖反応を引き起こすことはないと考える」と指摘。「短期的には債券利回りが上昇する可能性が高いが、長期的には信用リスクの評価にとって、より良い市場をつくることになるだろう」と述べた。
上海超日の社債目論見書によると、同社が一時的に資金不足に陥った場合は、広発銀行の上海支店と中信銀行 (CITIC銀行)の蘇州支店が8億元を融資することになっている。12年のこの目論見書では、同社には債務返済に一部充てるため、売掛債権の保険1億ドル(約103億円)があるとしている。
同目論見書によれば同社債の保有者は、社債管理者の中信建投証券に対して上海超日に返済を迫るよう求めることが可能なほか、再編または破綻手続きへの参加を要求できる。上海超日は利払い不能に陥った際やデフォルト状態が30日を超えて続く場合は、中信建投証券に状況を文書で報告しなければならない。
「注意喚起」
中信銀の蘇州支店の担当者に7日に連絡したが応答はない。広発銀の上海支店に6日の業務時間後に連絡を取ったが、同じく応答がなかった。上海超日の劉副社長は、流動性支援について両行と話し合っていると述べた。
ムーディーズは電子メールで7日に配布したリポートで、デフォルトが「注意喚起」となり、中国債券市場の発展を促すと指摘。「金融市場改革を進める中で社債デフォルトへの許容度を高めている当局の姿勢を示唆している。また、より市場志向の政策を導入するという中国当局の政策シフトにも合致している」と分析した。
原題:Chaori Can’t Make Full Payment in China’s First OnshoreDefault 』
中国全人代でも、中国経済の今年の成長率は昨年の設定と変わらず、7.4%としているようだが、最近の経済指標は決して楽観できるような数値を示していない。
高橋洋一氏がダイヤモンドオンラインに、シャドーバンキング問題を出稿しておられるが、この金融商品の発行額は日本円で500兆円弱になると言う。
最も全てが不良債権化する訳ではないだろうが、これから向こう3年間に渡り、中国企業への輸出や投資を行っている日本企業も、充分にシャドーバンキングの成り行きに注意を払う必要がありそうだ。
中国は国家の威信をかけても、恐らくシャドーバンキングが次々とデフォルト状態になるような状態には放置しないであろうが、中国が処理資金の確保から、保有する米国債を売却する等の手段を講じるようになると、再び世界の金融界は大きな激震に襲われる事になる。
日本も、尖閣諸島問題などで中国と角突き合わせることなどしていられなくなる可能性もある。
今年も中国ウオッチャーは目が離せない状況だ。
(ダイヤモンドオンラインから貼り付け)
高橋洋一氏
中国版シャドーバンキングの規模は31兆元
政治リスクが崩壊後の処理を難しくする
近時、中国において、シャドーバンキングが行き詰まりをみせ、資金の借り手などにおいて返済不能(デフォルト)となる事態も発生しはじめ、連鎖的な金融・経済危機の発生が懸念されている。リーマンショックの再来を世界はおそれている。
○不良債権の実態は闇の中
シャドーバンキングそのものは、珍しいことではなく、世界のどこの国でも見られる現象で、規制の隙間で出てくる。中国は共産党一党独裁の社会主義国なので、業者規制はお手の物と考えるのが自然だ。だから、自由な経済活動を前提として、規制が難しい資本主義国より、シャドーバンキングへの対応が簡単だろうと思いがちである。しかし、中国独特の政治環境を考えると、これがなかなか大変なのだ。
人口13億人の中国を中央集権で統制することはできないので、地方政府は建前は別としても事実上かなりの自由度を持っている。それを建前としての一党独裁の中央集権体制で覆っている。金融では、金利規制の厳しい国営銀行の間隙を縫い、規制の緩いシャドーバンキングが発展している。
中国のシャドーバンキングは2種類ある。銀行がある企業に資金を貸し付け、銀行は資金需要者にその企業を紹介し、資金需要者はその企業から高い金利で資金を直接借り入れる「委託融資」と、貸出債権を小口化した「理財商品」だ。
どちらも、資金需要者には地方政府が傘下に抱える投資会社「融資平台」が多い。融資平台は、調達した資金を地方政府の指示に沿って道路建設やダム工事などのインフラ開発に使っている。そこに、地方の「隠れ借金」があり、それが不良債権化しているようだ。ところが、その統計はほとんどわからず、不良債権の実態は闇の中だ。
○シャドーバンキングの規模は対GDP比では6割
その状況の中で、中国関係者からいろいろと聞くと、おぼろげながらの実態もわかってくる。以下は、そうした話を通じての概数である。
銀行の理財商品は、2010年末に3兆元だったものが2013年6月末において9兆元まで急拡大している。その他のものも含めて、中国版シャドーバンキングの規模を合計すると、2010年末に11兆元だったものが、2013年6月末では31兆元(496兆円)と約3倍に拡大し、対GDP比では6割になっている。
この数字は、JPモルガンの推計であるGDPの7割よりは少なめだが、上海証券研究所、IMF(国際通貨基金)のGDPの5~6割とかなり似通っている。JBIC(国際協力銀行)の推計であるGDPの1割は、銀行の理財商品だけに対応したものだろう。
理財商品などの問題は、短期の資金調達であることと、米国のサブプライムローン証券化商品と違って、証券が海外に幅広くばら撒かれているものではなく国内での資金移動であること、法律上、全額保護されるものではないが、投資家は全額保護されると思い込んでいること、などである。特に、投資家が暗黙の保証がついていると誤解していることが最大の問題である。
これには、日本のバブル時が参考になる。筆者は、当時大蔵省証券局にいたが、いわゆる「営業特金」問題に取り組んでいた。「営業特金」とは、証券会社が事実上の利回り保証(“にぎり”)をして運用委託される商品だが、巧みに法規制をかいくぐり、財テクブームの源だった。後日法規制するが当面の措置として、営業特金の自粛通達を1989年末に大蔵省は発出した。それはちょうど株価がピークの3万8915円のころだった。
たしかに、営業特金について、当時の投資家が利回り保証されているものと誤解させるような証券会社の行為、しかもこれは法の抜け穴を利用していたことに対し、規制した。それとほぼ同時期に、土地融資に対しても、融資規制が行われ、これらがバブルの崩壊のきっかけであった。
バブル崩壊後の日本の経験
(高橋氏の主張は、日本のバブル崩壊後の過度の金融引き締めが、景気回復を遅らせた。と記述。コラムが長すぎるため、筆者の独断で一部削除します。)
その後のリーマンショックからの経験をみると、ミクロ分野の規制によってバブルをつぶしても、その後はマクロ分野での金融緩和を行い、いち早くショックから脱出するのが正しい。しかし、日本では事後策として金融引き締めを行ったので、ショックから20年間も立ち上がれなかったということだ。要するに、金融緩和で経済成長が確保できれば、バブル崩壊のショックは最小限度にとどめられるが、経済成長がないとショックは増幅されるということだ。
○中国は「ルイス転換点」に直面か
ここで中国のシャドーバンキングに話を戻すと、これまでも中国の不良債権問題はうまく対処できたので、今回も大丈夫という楽観論がある。しかし、これまでは経済成長していたので、大きな問題が隠されてきたというべきだろう。
ここで、問題は、中国が「ルイス転換点」にぶつかっているということだ。ルイスの転換点は、ノーベル賞経済学者経済学者のアーサー・ルイスの二重経済モデルで有名だ。発展途上国を農村部と都市部との2つの部門に分け、労働力の農村から都市への移動によって経済成長を説明する開発経済学のモデルである。
これによれば、経済発展の初期の段階にある国々は小さな近代的セクターと、大規模な農民を持つ大きな伝統的セクターからなっていて、この農民という「余剰労働力」が近代的セクターに移行し、経済発展する。ところが、余剰の農民がいなくなる。ここまでくると、人口要因による経済成長は限界に突き当たる。これが「ルイス転換点」だ。それを突き破るには、経済構造の変革などの、「余剰労働力」ではない別の要素が必要になる。ここで待ち受けるのは経済停滞である。
中国が「ルイス転換点」にぶつかっているかどうかは、いろいろな議論があるが、ノーベル賞経済学者のクルーグマン・プリンストン大教授はそうなりつつあるという意見だ。1人当たりGDPを見ると、中国は6091ドルで世界79位(2012年)、これはそろそろ経済成長が難しくなりそうなところだ。
となると、シャドーバンキングの崩壊をこれまでのように経済成長で乗り切ることは難しくなっている。
もっともシャドーバンキングの約500兆円の全額が焦げつくわけではないが、近年、急拡大し、地方政府に流れている資金などが相当程度焦げつくことが懸念されている。
現地の関係者の間では、中国の中央政府に資金的な余裕があり、理財商品に少々のデフォルトが生じたとしても、十分、中国政府や国有銀行が救済できる体力の範囲内という楽観的な見方もある。
しかしながら、中国特有の政治リスクがあり、中国政府は、仮に、理財商品のデフォルトをさせ、富裕層などの投資家が全額保護をしてもらえなかった場合において、共産党一党独裁体制への不満が高まることを過度に警戒している。
また、中国では、シャドーバンキングのうち融資平台の案件では、中央政治家の関係者や地方政治家が日本以上に絡んでいると聞いた。現政権の人も関係しているようなので、ここは政治的には触れられない分野のようだ。
こうした政治的な中国の固有の要因は、シャドーバンキング問題を事後的にうまく処理できるかどうかにも、大いに関わってくる。
○習体制のアキレス腱
上に述べたように、リーマンショックや日本のバブルの教訓は、崩壊後に金融緩和して経済成長してショックを和らげるということだ。金融政策の自由度を確保するには、先進国の常識である変動相場制が前提になっている。
習近平主席は中国共産党の高級幹部の子弟である太子党出だが、沿海部の福建省や浙江省の党要職を務め頭角を現してきた。その地域は国内大手輸出企業が集まり人民元は安くしておくことが既得権を守ることになる。このため、為替コントロールをしておかないと、国内基盤が揺らぐおそれがある。このため、人民元の変動相場制への移行には消極的だ。
ここに習体制のアキレス腱がある。変動相場制に移行して金融緩和すれば、シャドーバンキング崩壊もおそれることはないのだが、変動相場制への移行という第一歩が踏み出せない可能性が高いのだ。となると、財政支出を猛烈に行って、不良債権問題を解決するしかなくなる。それも、中国を市場経済化から遠ざける方策であり、長期的には問題含みである。
日本は、年ベースにおいて国別比較をすると2009年より中国向け輸出が一番多く、中国からの輸入も一番多い。こうした実態経済の側面一つとってみても、中国経済が混乱に陥れば、日本にのみならず世界経済への深刻な影響を及ぼす可能性が高い。ここ3年間は、中国のシャドーバンキング問題がどうなるか注視し、その準備を怠れない。
(貼り付け終わり)
理財商品ではないが、ブルームバーグが中国の上海超日、本土社債で初のデフォルト状態-利払い不能 と報じている。
『3月7日(ブルームバーグ): 中国の太陽光発電関連メーカー、上海超日太陽能科技 は7日に予定していた社債の利払いを全額は履行できなかった。中国本土の債券市場で初のデフォルト(債務不履行)状態が発生した。
上海超日の劉鉄竜副社長はこの日、上海本社でインタビューに応じ、債務返済に向けた資金を調達するため、海外にある太陽光関連プラントの一部売却を目指していると述べた。同社は7日に社債利息8980万元(約15億円)の支払いが必要だったが、4日の時点で400万元しか用意できないと説明していた。
国泰君安証券によれば、利払いが一部不能となったことで、上海超日債は中国本土で発行された債券で初めてデフォルトに陥ったことになる。米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスのデータに基づくと、中国人民銀行(中央銀行)が1997年に規制監督を開始して以降、本土の公募債市場でデフォルトとなったのはこれが初めて。
2017年償還の上海超日債は、昨年7月8日に取引停止となっていた。停止される前の利回りは22%だった。ブルームバーグのデータによると、上海超日は12年3月に5年債、10億元相当を発行。利率は変動型で、初回は8.98%だった。野村ホールディングスの今月5日のリポートによると、格付け会社の鵬元征信は同社債の格付けを「BBB+」から「CCC」に昨年5月に引き下げている。
中国市場の発展
リーガル・アンド・ゼネラル・インベストメント・マネジメントのグローバル新興市場ストラテジスト、ブライアン・コールトン氏は「今回の案件は今後見込まれる数多くのデフォルトの第1号となるだろう。しかし、これが債券市場で連鎖反応を引き起こすことはないと考える」と指摘。「短期的には債券利回りが上昇する可能性が高いが、長期的には信用リスクの評価にとって、より良い市場をつくることになるだろう」と述べた。
上海超日の社債目論見書によると、同社が一時的に資金不足に陥った場合は、広発銀行の上海支店と中信銀行 (CITIC銀行)の蘇州支店が8億元を融資することになっている。12年のこの目論見書では、同社には債務返済に一部充てるため、売掛債権の保険1億ドル(約103億円)があるとしている。
同目論見書によれば同社債の保有者は、社債管理者の中信建投証券に対して上海超日に返済を迫るよう求めることが可能なほか、再編または破綻手続きへの参加を要求できる。上海超日は利払い不能に陥った際やデフォルト状態が30日を超えて続く場合は、中信建投証券に状況を文書で報告しなければならない。
「注意喚起」
中信銀の蘇州支店の担当者に7日に連絡したが応答はない。広発銀の上海支店に6日の業務時間後に連絡を取ったが、同じく応答がなかった。上海超日の劉副社長は、流動性支援について両行と話し合っていると述べた。
ムーディーズは電子メールで7日に配布したリポートで、デフォルトが「注意喚起」となり、中国債券市場の発展を促すと指摘。「金融市場改革を進める中で社債デフォルトへの許容度を高めている当局の姿勢を示唆している。また、より市場志向の政策を導入するという中国当局の政策シフトにも合致している」と分析した。
原題:Chaori Can’t Make Full Payment in China’s First OnshoreDefault 』
中国全人代でも、中国経済の今年の成長率は昨年の設定と変わらず、7.4%としているようだが、最近の経済指標は決して楽観できるような数値を示していない。
高橋洋一氏がダイヤモンドオンラインに、シャドーバンキング問題を出稿しておられるが、この金融商品の発行額は日本円で500兆円弱になると言う。
最も全てが不良債権化する訳ではないだろうが、これから向こう3年間に渡り、中国企業への輸出や投資を行っている日本企業も、充分にシャドーバンキングの成り行きに注意を払う必要がありそうだ。
中国は国家の威信をかけても、恐らくシャドーバンキングが次々とデフォルト状態になるような状態には放置しないであろうが、中国が処理資金の確保から、保有する米国債を売却する等の手段を講じるようになると、再び世界の金融界は大きな激震に襲われる事になる。
日本も、尖閣諸島問題などで中国と角突き合わせることなどしていられなくなる可能性もある。
今年も中国ウオッチャーは目が離せない状況だ。
(ダイヤモンドオンラインから貼り付け)
高橋洋一氏
中国版シャドーバンキングの規模は31兆元
政治リスクが崩壊後の処理を難しくする
近時、中国において、シャドーバンキングが行き詰まりをみせ、資金の借り手などにおいて返済不能(デフォルト)となる事態も発生しはじめ、連鎖的な金融・経済危機の発生が懸念されている。リーマンショックの再来を世界はおそれている。
○不良債権の実態は闇の中
シャドーバンキングそのものは、珍しいことではなく、世界のどこの国でも見られる現象で、規制の隙間で出てくる。中国は共産党一党独裁の社会主義国なので、業者規制はお手の物と考えるのが自然だ。だから、自由な経済活動を前提として、規制が難しい資本主義国より、シャドーバンキングへの対応が簡単だろうと思いがちである。しかし、中国独特の政治環境を考えると、これがなかなか大変なのだ。
人口13億人の中国を中央集権で統制することはできないので、地方政府は建前は別としても事実上かなりの自由度を持っている。それを建前としての一党独裁の中央集権体制で覆っている。金融では、金利規制の厳しい国営銀行の間隙を縫い、規制の緩いシャドーバンキングが発展している。
中国のシャドーバンキングは2種類ある。銀行がある企業に資金を貸し付け、銀行は資金需要者にその企業を紹介し、資金需要者はその企業から高い金利で資金を直接借り入れる「委託融資」と、貸出債権を小口化した「理財商品」だ。
どちらも、資金需要者には地方政府が傘下に抱える投資会社「融資平台」が多い。融資平台は、調達した資金を地方政府の指示に沿って道路建設やダム工事などのインフラ開発に使っている。そこに、地方の「隠れ借金」があり、それが不良債権化しているようだ。ところが、その統計はほとんどわからず、不良債権の実態は闇の中だ。
○シャドーバンキングの規模は対GDP比では6割
その状況の中で、中国関係者からいろいろと聞くと、おぼろげながらの実態もわかってくる。以下は、そうした話を通じての概数である。
銀行の理財商品は、2010年末に3兆元だったものが2013年6月末において9兆元まで急拡大している。その他のものも含めて、中国版シャドーバンキングの規模を合計すると、2010年末に11兆元だったものが、2013年6月末では31兆元(496兆円)と約3倍に拡大し、対GDP比では6割になっている。
この数字は、JPモルガンの推計であるGDPの7割よりは少なめだが、上海証券研究所、IMF(国際通貨基金)のGDPの5~6割とかなり似通っている。JBIC(国際協力銀行)の推計であるGDPの1割は、銀行の理財商品だけに対応したものだろう。
理財商品などの問題は、短期の資金調達であることと、米国のサブプライムローン証券化商品と違って、証券が海外に幅広くばら撒かれているものではなく国内での資金移動であること、法律上、全額保護されるものではないが、投資家は全額保護されると思い込んでいること、などである。特に、投資家が暗黙の保証がついていると誤解していることが最大の問題である。
これには、日本のバブル時が参考になる。筆者は、当時大蔵省証券局にいたが、いわゆる「営業特金」問題に取り組んでいた。「営業特金」とは、証券会社が事実上の利回り保証(“にぎり”)をして運用委託される商品だが、巧みに法規制をかいくぐり、財テクブームの源だった。後日法規制するが当面の措置として、営業特金の自粛通達を1989年末に大蔵省は発出した。それはちょうど株価がピークの3万8915円のころだった。
たしかに、営業特金について、当時の投資家が利回り保証されているものと誤解させるような証券会社の行為、しかもこれは法の抜け穴を利用していたことに対し、規制した。それとほぼ同時期に、土地融資に対しても、融資規制が行われ、これらがバブルの崩壊のきっかけであった。
バブル崩壊後の日本の経験
(高橋氏の主張は、日本のバブル崩壊後の過度の金融引き締めが、景気回復を遅らせた。と記述。コラムが長すぎるため、筆者の独断で一部削除します。)
その後のリーマンショックからの経験をみると、ミクロ分野の規制によってバブルをつぶしても、その後はマクロ分野での金融緩和を行い、いち早くショックから脱出するのが正しい。しかし、日本では事後策として金融引き締めを行ったので、ショックから20年間も立ち上がれなかったということだ。要するに、金融緩和で経済成長が確保できれば、バブル崩壊のショックは最小限度にとどめられるが、経済成長がないとショックは増幅されるということだ。
○中国は「ルイス転換点」に直面か
ここで中国のシャドーバンキングに話を戻すと、これまでも中国の不良債権問題はうまく対処できたので、今回も大丈夫という楽観論がある。しかし、これまでは経済成長していたので、大きな問題が隠されてきたというべきだろう。
ここで、問題は、中国が「ルイス転換点」にぶつかっているということだ。ルイスの転換点は、ノーベル賞経済学者経済学者のアーサー・ルイスの二重経済モデルで有名だ。発展途上国を農村部と都市部との2つの部門に分け、労働力の農村から都市への移動によって経済成長を説明する開発経済学のモデルである。
これによれば、経済発展の初期の段階にある国々は小さな近代的セクターと、大規模な農民を持つ大きな伝統的セクターからなっていて、この農民という「余剰労働力」が近代的セクターに移行し、経済発展する。ところが、余剰の農民がいなくなる。ここまでくると、人口要因による経済成長は限界に突き当たる。これが「ルイス転換点」だ。それを突き破るには、経済構造の変革などの、「余剰労働力」ではない別の要素が必要になる。ここで待ち受けるのは経済停滞である。
中国が「ルイス転換点」にぶつかっているかどうかは、いろいろな議論があるが、ノーベル賞経済学者のクルーグマン・プリンストン大教授はそうなりつつあるという意見だ。1人当たりGDPを見ると、中国は6091ドルで世界79位(2012年)、これはそろそろ経済成長が難しくなりそうなところだ。
となると、シャドーバンキングの崩壊をこれまでのように経済成長で乗り切ることは難しくなっている。
もっともシャドーバンキングの約500兆円の全額が焦げつくわけではないが、近年、急拡大し、地方政府に流れている資金などが相当程度焦げつくことが懸念されている。
現地の関係者の間では、中国の中央政府に資金的な余裕があり、理財商品に少々のデフォルトが生じたとしても、十分、中国政府や国有銀行が救済できる体力の範囲内という楽観的な見方もある。
しかしながら、中国特有の政治リスクがあり、中国政府は、仮に、理財商品のデフォルトをさせ、富裕層などの投資家が全額保護をしてもらえなかった場合において、共産党一党独裁体制への不満が高まることを過度に警戒している。
また、中国では、シャドーバンキングのうち融資平台の案件では、中央政治家の関係者や地方政治家が日本以上に絡んでいると聞いた。現政権の人も関係しているようなので、ここは政治的には触れられない分野のようだ。
こうした政治的な中国の固有の要因は、シャドーバンキング問題を事後的にうまく処理できるかどうかにも、大いに関わってくる。
○習体制のアキレス腱
上に述べたように、リーマンショックや日本のバブルの教訓は、崩壊後に金融緩和して経済成長してショックを和らげるということだ。金融政策の自由度を確保するには、先進国の常識である変動相場制が前提になっている。
習近平主席は中国共産党の高級幹部の子弟である太子党出だが、沿海部の福建省や浙江省の党要職を務め頭角を現してきた。その地域は国内大手輸出企業が集まり人民元は安くしておくことが既得権を守ることになる。このため、為替コントロールをしておかないと、国内基盤が揺らぐおそれがある。このため、人民元の変動相場制への移行には消極的だ。
ここに習体制のアキレス腱がある。変動相場制に移行して金融緩和すれば、シャドーバンキング崩壊もおそれることはないのだが、変動相場制への移行という第一歩が踏み出せない可能性が高いのだ。となると、財政支出を猛烈に行って、不良債権問題を解決するしかなくなる。それも、中国を市場経済化から遠ざける方策であり、長期的には問題含みである。
日本は、年ベースにおいて国別比較をすると2009年より中国向け輸出が一番多く、中国からの輸入も一番多い。こうした実態経済の側面一つとってみても、中国経済が混乱に陥れば、日本にのみならず世界経済への深刻な影響を及ぼす可能性が高い。ここ3年間は、中国のシャドーバンキング問題がどうなるか注視し、その準備を怠れない。
(貼り付け終わり)
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