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奴隷の世界歴史(連載第20回)

2017-10-02 | 〆奴隷の世界歴史

第三章 世界奴隷貿易の時代

世界奴隷貿易
 前回まで奴隷制廃止への長い歴史を見たが、その前史として、人類は国境を越えた奴隷売買が世界経済システムの基盤を成すという異常の時代を経験している。物の売買が圧倒的な中心を占める現代の貿易常識では想像し難い人身売買に支えられた貿易システムが確立されていたのであった。
 それは通常、西欧列強を主体とする「大西洋奴隷貿易」の名で知られている。しかし、実際のところ、大西洋奴隷貿易の周縁には日本人をも含むアジア人奴隷の売買も包含されていたし、イスラーム世界では西欧列強に先立って、アラブ人を主体とする奴隷貿易システムが形成されていたのであり、それら全体を包括して、「世界奴隷貿易」と名付けることができる。
 こうした「世界奴隷貿易」の始まりをいつと捉えるかは難しい問題であるが、先鞭をつけたのは上述のとおり、アラブ人である。それはイスラームの創唱後、イスラーム勢力の拡大とともに中世に始まる。そうした初期のイスラーム世界における奴隷制については改めて次章で見るが、アラブ奴隷貿易が本格化したのは、大西洋奴隷貿易より700年ほども遡る。
 アラブ奴隷貿易はやがてオスマン帝国の台頭によって、オスマン帝国主導に置き換わり、20世紀初頭まで継続されていく。その全体を「イスラーム奴隷貿易」と呼ぶことができる。そうした意味で、奴隷貿易の禁止が初めて国際条約化された19世紀末までの世界奴隷貿易の歴史は、その大半を「イスラーム奴隷貿易」が占めていると言ってよい。
 より有名な西欧列強による「大西洋奴隷貿易」は「イスラーム奴隷貿易」に遅れて、かつ存続期間も限られた事象ではあったが、その貿易範囲の地理的広大さと後世に残した負の遺産の大きさに鑑みて、世界奴隷貿易の歴史的な象徴となっているのである。とはいえ、本章では「大西洋奴隷貿易」に限局することなく、「イスラーム奴隷貿易」を含めた「世界奴隷貿易」の時代の全体像を把握することに努める。


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