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続・持続可能的計画経済論(連載第10回)

2019-12-19 | 〆続・持続可能的計画経済論

第1部 持続可能的計画経済の諸原理

第2章 計画化の基準原理

(3)環境バランス②:数理モデル
 持続可能的計画経済において優先的な基準原理となる「環境バランス」における「制御」を数理的に実施するためのモデルの考案が、持続可能的計画経済を機能させるための鍵となることを前回述べたが、こうした数理モデルは、生産・流通・消費活動に伴う環境負荷を算出する方法と土地及び水域に着目した自然生態系に対する環境負荷を算出する方法とに大別できる。
 前者はさらに、生産部門ごとの環境負荷を算出する方法と、生産物の消費過程における環境負荷を算出する方法に分けることができるが、具体的な経済計画の策定において基軸となるのは、生産部門ごとの環境負荷の算出である。
 生産部門ごとと言っても、総合的な経済計画の策定に当たっては、各部門ごとの個別計算ではなく、個別生産部門の相互連関を考慮に入れた総合的な環境負荷計算が必要となる。その点では、産業連関表の利用が不可欠である。
 産業連関表は、ソ連出身の経済学者ワシリー・レオンチェフがマルクスの再生産表式をヒントに、各産業部門ごとの生産・流通過程における投入・産出構造を数量化された行列形式で表した相関図であり、資本主義市場経済おいては経済構造の把握、生産波及効果の計算などに利用されている。
 この産業連関表自体は、むしろ持続可能的計画経済における第二の基準原理である「物財バランス」を確定するうえで活用され得るものであるが、「環境バランス」を確定するうえでも、この表式を土台にしつつ、各部門ごとの環境負荷量を産出することができる。
 その点、日本の国立環境研究所が1990年代から開発してきた「産業連関表による環境負荷単位データ」は、400ほどの産業部門に分けた産業連関表をベースとしながら、各部門の単位生産活動(百万円相当)に伴い発生するエネルギー消費量やCO2などの温室効果ガス排出量等の環境負荷量を算出するというもので、環境バランス計算の基礎となり得る有力なモデルである。 
 一方、生産物の消費過程における環境負荷を算出する方法は、縦割り型の産業連関表ベースでは包括化されてとらえにくい生産物の消費・流通過程における横断的な環境負荷を算出するうえで有益である。
 その具体的な方法はさまざまあり得るが、これも日本の富士通研究所が提案する情報通信技術(ICT)を活用した環境負荷評価例として、①物の消費②人の移動③物の移動④オフィススペース⑤倉庫スペース⑥ICT・ネットワーク機器⑦ネットワークデータ通信の七つの環境影響要因に分けて、それぞれの環境負荷を算出する方法は一つの参考になるだろう。
 以上に対して、土地及び水域に着目した自然生態系に対する環境負荷を算出する方法は、人間が農業を含めた産業活動を継続するうえで不可欠な土地及び水域の利用を計画化するうえで必要とされるものである。
 この点に関しては、「ある特定の地域の経済活動、またはある特定の物質水準の生活を営む人々の消費活動を永続的に支えるために必要とされる生産可能な土地および水域面積の合計」と定義づけられた「エコロジカル・フットプリント(EF)」(生態足跡)が有力な手がかりとなり得る。
 EFは、如上の生産・流通・消費活動に伴う環境負荷を算出する方法と有機的に組み合わせる形で、EFが各土地及び水域ごとの生物学的生産量の限界内に収まるように計画化する際の指標数値となる。
 ちなみに、具体例として掲記した既存の算出モデルは、いずれも資本主義市場経済下での環境分析法として考案されたものであるから、現時点で、それらは資本主義市場経済を前提とした環境収支の分析用具にとどまっており、これらを計画経済に適用するに当たっては、さらなる応用が必要となるが、その詳細は第2部に回す。


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