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不具者の世界歴史(連載第2回)

2017-02-21 | 〆不具者の世界歴史

Ⅰ 神秘化の時代

先史人類と障碍者
 先史時代の人類が不具者をどのように待遇していたのかについては文字史料に欠けるため、決定的な確証はおそらく永久に得られないだろうが、出土した古人骨にかすかな手がかりが残されている。
 例えば絶滅種であるネアンデルタール人の人骨から介助を受けなければ生活できないほど重症の身体障碍を持ったものが発見されているが、かれらには死者を埋葬し、供花する慣習も認められ、ごく初歩的な宗教的意識が芽生えていたと考えられる。宗教的意識は人道主義の有力な発生源でもあるから、ネアンデルタール人は障碍を負った同胞を介護するような習慣を持っていたのではないかと推測することも可能である。
 現生人類についても、同種の事例がアメリカ大陸から中東、欧州、日本と世界の広い範囲で散見されている。想定される症例も、下半身麻痺から脊椎障碍、小人症まで多様である。またポリオ(急性灰白髄炎)が広く見られたようで、中東や日本の縄文時代前期の人骨の中からもポリオが疑われる事例が発見されているという。ポリオはウイルス性の脊髄・延髄疾患であり、後遺症として重篤な運動障碍を引き起こすことから、後天的に身体障碍者となり得る。
 全般に医療行為が存在しないか、存在しても呪術の域を出なかった先史時代には、病気の後遺症としての障碍は少なくなかったはずで、先史時代には障碍者は普通に存在していたとも推測できるところである。
 もちろん、そこから介護のような行為慣習の存在を直ちに想定できるわけではないが、多くの人骨が障碍を抱えたまま相当年数生きていたことが証明できることを考えると、何らかの介助を親族や同胞から受けていたと推測することは必ずしも飛躍的ではないだろう。
 少なくとも、障碍者に対する思いやりのような素朴な感情の芽生えは、歴史が始まる以前の相当早い段階から現生人類に生じていたと見られる。それは、歴史の黎明期には神話の中に形象化されていっただろう。


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