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EU脱退―英国民衆の反乱

2016-06-24 | 時評

欧州連合(EU)を脱退するという過半数英国民の意思表明は、世界経済に打撃を与え、自国の将来をも危うくする軽挙妄動だ、という非難も可能である。しかし、むしろ、これは英国民衆のEUに対する反乱であった。

最大の焦点は、移住労働者問題にある。その意味では、EU脱退を問う国民投票とは、移民問題を問う国民投票とほとんどイコールであった。その内実は、先住労働者対移住労働者の利害対立である。

そもそもEUという構制は、欧州がまだ戦乱状態だった19世紀、ユゴーやガリバルディ、バクーニンなど多彩な欧州知識人が結成した「平和自由同盟」が提唱した自由主義的な「ヨーロッパ合衆国」構想を部分的に継承している。

これに対し、このような知識人主導の平和統合構想に批判的だったマルクスは、「様々な国の労働者階級の団結が、究極的に国際間の戦争を不可能にする」と論じ、「支配階級やかれらの政府に対する共同の闘争における労働者階級の国際的なきょうだい愛」を対置した。

これとは逆に、知識人と資本家の団結の結晶であるEUの現実は経済格差の著しい加盟諸国の東西で労働者階級を分断し、豊かな西側労働者階級が労働市場で敵となる貧しい東側労働者階級の移民を排斥する状況を作り出した。元来、EU消極派であった英国で「脱退」という最初の大きなリアクションが起きたことは、自然の成り行きだったとも言える。

こうした反EU‐民衆反乱の動きが他の加盟国に拡大する可能性も指摘されている。ただし、これを影で煽動しているのはもはや労働者階級政党ではなく、国家主義的な衝動を隠さない反動的諸政党である。これら諸政党はしばしば「極右」とも総称されるが、国家主義をイデオロギー的軸に、反移民を主要政策とするその正体は、ネオ・ファシズムである。

一方、西側への移民送出国となっている東欧諸国でも、中東・北アフリカ方面からの難民/移民の歴史的大量到来に対し、これを排斥する動きが活発化しており、この面から反動的なネオ・ファシスト政党が躍進し、反EUの動きが拡大する可能性がある。

労働者階級がファシズムに煽動、誘引されていく現象は、二つの大戦の戦間期とそっくりである。ただ、反移民で共通する欧州ネオ・ファシズムの高揚が、直ちに世界大戦の再現につながる可能性は低いと思われるが、少なくともEUの弱体化を促進し、欧州を再び相互に利害対立するばらばらの主権国家の群生状況に引き戻す可能性は十分ある。

しかし、知識人と資本家の連合であるEUに対置すべきは、ネオ・ファシズムの競演ではなく、労働者を主体とした民衆の連合‐民衆会議以外にない。いささか我田引水ながら、英国のサプライズは、改めてその確信を深めた出来事であった。


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