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続・持続可能的計画経済論(連載第43回)

2023-01-06 | 〆続・持続可能的計画経済論

第3部 持続可能的計画経済への移行過程

第8章 経済移行計画Ⅱ:初動期間

(3)貨幣制度廃止②:一元的貿易機構と外貨決済店舗
 前回も記したように、貨幣制度廃止は条約に基づき一斉に実施するほうが徹底し、混乱も最小限に抑制できるが、実際上はそうした一斉の適用が至難とすれば、貨幣制度廃止が世界に波及するには時間差が避けられない。
 そうした場合、まだ貨幣制度を廃止していない外国との間の貿易関係に支障が出る。このことは、とりわけ輸入依存率が高い領域圏にとっては大きな問題となる。ただ、前回も見たとおり、さしあたり廃止されるのは自(国)通貨であり、外貨は廃止されない。
 そこで、貨幣制度廃止を担う中央銀行は貿易決済に必要な外貨準備を保有したうえ、当面継続される対外貿易に投入できるようにする必要がある。その場合、輸出入に関わる貿易会社を統合し、あるいはより緩やかに合同したうえで、一元的な貿易窓口となる暫定的な貿易機構を設け、対外貿易を継続することになる。
 なお、本来の「貿易」には当たらないが、個人が海外から物品を外貨で購入する場合も、この一元的貿易機関が仲介する仕組みを備えることが考えられてもよいであろう。
 この件とは別に、貨幣制度の廃止がタイムラグを伴う場合に発生し得る現実的な問題として、まだ貨幣制度が廃止されていない海外から無償で物品を取得しようとする外国人のツアー客が殺到しかねないということがある。 
 このような海外からの「爆買いツアー」現象は市場経済下にあっても見られ、需給関係を攪乱する要因となっているが、貨幣制度が廃止されて物品が無償供給されるようになれば、情報を聞きつけた海外からのツアー客が押し寄せることは充分に予測できる。
 これにより初動期間の計画経済が攪乱される事態を防止するためには、さしあたり永住者や所定期間の長期滞在者は別として、一時滞在外国人に対しては原則として無償供給を禁じたうえ、一部の外貨決済店舗でのみ物品の購買を認める特例をもって規制的に対応することになるだろう。
 こうして、貨幣経済が廃止された初動期間にあっても、貿易の継続と合わせて、対外的な関係ではなお貨幣交換を伴う商品形態が一部残存することになるので、この期間は持続可能的計画経済の完成にはいまだ至らない。


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