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リベラリストとの対話―「自由な共産主義」をめぐって―(15)

2015-03-22 | 〆リベラリストとの対話

13:完全自由労働制について①

リベラリスト:今回から、労働の問題について話し合いたいと思うのですが、あなたの『共産論』で私が一番懐疑的なのは、無償の完全自由労働という構想ですね。要するに、複雑・単純を問わず、あらゆる労働をボランティアにしようというわけですが、それとある意味、究極のノルマ生産である計画経済とがどう結びつくのか、イメージが湧きません。

コミュニスト:計画経済と聞くと、過酷なノルマを課せられる強制労働をイメージされることが多いようですが、正しく理解された計画経済は強制労働とは無縁のものです。

リベラリスト:強制労働の禁止は、私もリベラリストとして十二分にわかっています。そして、自由市場経済下では労働の自由が保障されており、あえて労働しないことも選択肢としては認められているということも理解しています。

コミュニスト:そのことは、私も自由市場経済下での生活を強いられてきたコミュニストとして、承知しています。ですが、資本主義社会で労働しないことが可能なのは、労働で報酬を得ずとも、自己資産や他人資産による援助などの生活の支えがある場合に限られます。つまりは、有産有閑階級の贅沢なのです。

リベラリスト:有産階級も、自分の労働によって形成された資産に基づいて有閑生活を送るならそう非難する必要もないのでは?それより、私が知りたいのは、無償の完全自由労働で、どうやって労働を組織できるかです。ボランティアでカバーできる労働領域は限られています。

コミュニスト:一つの手がかりは、緻密な労働紹介システムです。資本主義では、労働するかどうか、するとしてどのような労働に就くかはそれこそ完全自由だという名目で放任されるため、ミスマッチやニートなどの問題が起きやすいのです。しかし、労働紹介が合理的にしっかりと行われれば、各人に適性に沿った労働を配分することが可能です。

リベラリスト:「労働配給システム」ですか。労働も労働生産物も配給制。統制経済の本性が出ましたね。

コミュニスト:それは、短絡的な批判です。少なくとも、私が構想する労働紹介システムは、画一的な労働分配ではなく、心理学も応用した科学的な適性評価に基づく労働紹介ですから、資本主義的な職業紹介よりも実質的なキャリアカウンセリングの意義を持っています。

リベラリスト:しかし、あなたが強調する計画経済というのは労働力の計画的動員なくしては成り立たないはずです。心理学的なキャリアカウンセリングだけでは甘いのでは?

コミュニスト:もちろん、経済計画には労働力計画も包含されますから、労働紹介は経済計画とも連動して、一定の計画性をもって実施されるでしょう。

リベラリスト:すると、やはり個人の職業選択の自由を制約する側面を生じ、リベラリストとしてはすんなり賛同というわけにいかなくなりますね。統制的と言って悪ければ、管理的になります。

コミュニスト:資本主義は職業選択の自由を高調しますが、それには裏があり、「自由」の触れ込みにもかかわらず、実際上各人の職業選択肢の数は決して多くないのだ・・・ということは、人生の半分くらいまで年を重ねた人なら実感できるはずですが。

リベラリスト:ええ、私もひしひしと実感していますよ。では、「科学的な労働紹介システム」が確立され、各人の適性に沿った職業選択肢がたくさん示されたとして、あなたの期待どおりに、人々は無報酬で嬉々として労働するようになるでしょうか。これは、人類という生き物の本質にも関わることなので、次回に回しましょう。

※本記事は、架空の対談によって構成されています。

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